新しい日常と不思議な感覚[1]
「莉々様、お茶でございます。」
「ねぇ、杏奈、あなたも一緒に…」
「仕方ないですねぇ、」
「ふふ、杏奈大好き」
強そうな縦ロールとは裏腹にふわっと私の名前を呼んで笑う少女…
「莉々様、上手くいくかしら…今度は…今度こそは…」
「君は莉々様のことを想いすぎだ。もう少し自分のことを…」
心配そうな眼差しで私を見る背が高く執事服を着た男性…
「貴方に、貴方に莉々様は渡せません!お引き取り下さい」
「えー。だって身分の高い俺がキミを手に入れるためには莉々と結婚するのが手っ取り早いだろう?」
私の顎を持ち上げ、目を細めて私を見つめる煌びやかな服を着た威圧感のある男性…
「きゃっ」
「ねぇ、ボクと一緒においでよ、ここは窮屈でしょう?」
私の腕を引っ張る、笑顔が眩しい華奢な男性…
「くっ…お前はお嬢様を…」
「…!ありがとう、莉々様は私が必ず守るから…!だから貴方も…!」
何かから私を守ってくれている、筋肉質な男性…
チンッ
「は…っ!?」
オーブンから時間を告げる音がして私は目を覚ました。オーブンからはクッキーの甘い香り。
…不思議な夢を見た。
昨日、カフェのオープンにワクワクして眠れなくてついつい久々に乙女ゲームをやり過ぎたからかな…。
私は焼けたクッキーをオーブンから取り出した
「よーし、Cafe Lily今から開店しまーす」
-この春、私は念願のカフェを開店させた。ずっとずっと夢だった、自分のカフェを開くことが。楽しくもない仕事をして、お金を貯めて、やっとここまできた。内装も食器も自分好み。焼き菓子と珈琲の香り…幸せ。私はこの幸せな場所を守るために今日から精一杯頑張ろうと思う。
お客様来て下さるのかな…不安ではある。私には家族もいないし、誰にも言わずこのカフェをオープンさせた。
カフェが上手くいくか分からなかったから、言えなかった…。今から連絡する…?いや…そんなことしたら来てって言っているみたいで何か嫌だなあ…。
せめて前の職場の人にぐらい言えばよかったかな…。辞めたあと何をするか色々な人に聞かれたけれど、笑って誤魔化してしまった。
仲が良かった同期や後輩だとか、凄い色々連れて行ってくださったシステム部の課長…葉鳥さんくらいには言えばよかったなあ…。