プロローグ
初投稿。投降後に文字修正をゆっくりしています。。
拝啓、お父様お母様。
俺、近衛小太郎は充実した日々を送っております。
最近は運動不足の解消から夜な夜な、飛んだり跳ねたりと動き回るようになりました。
今日の舞台は近所の公園です。本日は人通りがないので誰の目にも付かず、激しい運動しても目撃者がいないはずなので不審者には思われないでしょう。
良き夜、運動日和です。
その運動に付き合ってくれる良き仲間たちを紹介します。
《■■■■■ーー》
「コタ、後ろから接近中ニャ」
聞き取れない冒涜的な呻き声を出しているのが『ブラス』。色々な種類がいるようですが、大体がデフォルメしたふわふわのぬいぐるみのような姿です。
但し大きさは人間大。今回の種類はクマみたいな見た目で四足歩行しています。きっと彼は二足歩行もできそうですね。
あまり動きが早くないようなので頑張って逃げる為に走り回ります。
俺の肩に捕まっている黒猫はご存じの通り、愛猫のアル。俺の一人暮らしに着いて来てくれただけでなく、喋るようになってくれたお陰で寂しい思いもしなくなりました。
語尾がニャとありがちですが、可愛らしいですね。
……。
そろそろ現実逃避はやめよう。
化け物に追われる俺。その肩に愛猫のアル。
十六年の人生で昨日ぶり二回目の経験だ。
相手が足が遅いというのは訂正しよう。今の現状として、俺の方が速いがそれは僅差としてだ。そして、体力は向こうに分があり、時間が経つほど少しづつ追い付かれる。
《■■■、■■■■■ー》
「追いつかれそうニャよ! 早く変身してやっつけるニャ」
「ハハッ、俺が変身とかあり得ないことを言うね。そんなファンタジーじゃあるまいし、変身なんて出来る訳がないだろ」
首を竦めて否定すると、アルは冷たい視線を向けてくるがそんなこと関係ない。ちょっと肩に爪が食い込んでますよ、アルさん。
「出来る出来ないってよりもしたくないんだよ。理由は分かるだろ?」
「あたしには分からニャいわ。だってネコニャ。」
「…と言いながら遠く見つめるのやめろよ」
「ニャー」
このネコ、他人事だと思いやがって。
なんとかして逃げ切れないものか必死に逃げ回っていると向こうも煮え切らなくなってきたのか、ただ追い掛けるるだけでなく手段を変えてきた。
「ぐっ・・、お・・・」
全力で体当たりをしてきたのだ。背後から背中に強い衝撃から吹っ飛ばされて地面を転がされ、身体中が痛い。
『ブラス』は見た目とは裏腹にふわふわ感も可愛らしさも何もない。
怪物、異形、化物、形容し難き悪意。
「このままじゃ殺されちゃうニャ。『ブラス』は生きているものを弄び殺すだけ存在ニャ。どんなに嫌でも殺されちゃうなら同じニャ。今回だけでも変身して欲しいニャ」
変身するのはすごく嫌だ。嫌だけど、自分が死ぬのもアルが殺されるもの嫌だ。
擦り傷だらけの身体で起き上がると、それを待っていたかのようにこちらを見つめている化物。
もし、ニタニタと笑みを浮かべているようにも見える。
そんなもの知るか。やられるくらいなら、こっちだってやってやる。
覚悟は出来た。
《■■ーー!》
両腕を掲げて威嚇してくるが、それくらいじゃもう怯まないって決めたんだ。この場を乗り切ってやるって決めたんだ。
「いくぞ、アル」
変身の呪文は覚えている。右手を掲げ、反撃開始だ。
「「すばとっぶは、のもる=すまじゃ」」
声を揃え呪文を唱える。
そこから起きる現象は簡単にいうと女児向けアニメである例のあれ。
アルの背中から小さな翼が生え、光り出す。
その光は敵を問答無用で硬直させ、動きを止める。絶対に変身は邪魔させない仕様のようだ。
俺自身は髪の色がピンクに変身。更に服装は弾け、女の子用のふわふわレースがいっぱいの服、膝上丈のちょっと際どいスカートに。スカートからは猫しっぽ(かぎ状)、ツンッと三角のネコ耳が頭に付いて変身完了!
掲げた右手には、ネコ手のステッキが現れる。
さあ、笑えよ。だけどな、これで勝ち確定なんだ。もう(社会的以外に)負ける要素はない。
「アル、行くぞ」
「コタ、行くニャ」
アルが発していた光が弱まり拘束が解け、時間が流れ出す。
《■■ーー!》
唸り声を上げ、鋭い爪を振り下してくるが、ステッキで受け止める。
すまねえ、変身したらその程度の攻撃は止められるんだ。これお返しな。
ステッキで適当に払う。
だって、力任せに横なぎをするだけで転がせるくらい力の差があるんだから。
『ブラス』は砂埃を立てながら何度か転がり、地面に擦った跡を付ける。
その一撃で息も絶え絶え瀕死といった感じだ。
ゆっくりと歩いて近付き、腹の辺りにステッキを突き刺しとどめ。
これで、戦闘終了。あっけない。
『ブラス』は光の粒子となり、まるで雪虫のように天に昇っていく。ああ、化物でも最期には皮肉にも綺麗なものだな。
「ふ・・・」っと呟き、「アル、行くぞ」
戦いは終わった。さて、家に帰ろう。
ゆっくりと風呂に入り、アルには猫缶をあげよう。
そんな気持ちでいっぱいだ。
「何言ってるニャ。戦いの後片付けが残ってるニャ。」
「え・・?」
「あとその服装で外に出るとたぶん捕まるニャ?」
「あ・・はい」
後始末なんて簡単さ。
ステッキを持って祈るだけだから。
公園きれーになぁれ!俺の変身とけろーってね。
すると元通り。公園は元以上にきれいになり、俺の服装は下着のみになる。
変身が解けたのに俺の服が返ってこない件。
「ナンデ、アルさんナンデ!?」
「コタは服が戻ることを祈らなかったニャ。だからだニャ」
「融通効かない魔法だな!」
「魔法じゃないニャ、魔術だニャ」
なら、もう一回変身するのみ。敵を倒した今、命も羞恥心なんて知らんわ。
「すばとっぶは、のもる=すまじゃ」
ん?
「すばとっぶは、のもる=すまじゃ」
「コタは今日は変身できないニャ。魔力が足りにゃいニャ」
「じゃあ、俺全裸で帰るの?徒歩20分くらいあるけど」
「さっきよりましニャ。女児向けの服を着る変態の方が希少性があるニャ」
「最低でも職質で最悪逮捕なのは変わらねえよ!」
「ニャー」
このネコ。はぁ、今日も化物怪異と出会って生き残れただけ良かったと思って、あとはお巡りさんに出会わないことを祈りながら帰ろう。
「ネコロマンサーの術師として経験を積めば、もっと変身も魔術も上手く使えるようになるニャ」
翌日、『夜中に顔を服で覆い下着姿の男が全力で走る姿が目撃された。特に被害者はいない模様』とニュースが流れていたが関係ない。
少し涙が零れたが、心が強くなったような気がした。
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きっと神性にも負けないくらいに。捻くれた運命を捻じ曲げられるくらいに。
もっと一緒に生きていけるくらいに。コタと一緒にいたいのニャ。
「ニャー」
あたしがコタを守るのニャ。
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