終わりの始まり
暇な時に読んで頂けると幸いです。
「なに!?眩し!」
俺とスライミーが音の元へ走って向かっている時、その音の元から眩しすぎる光が俺たちの視界を奪う。
「あっちで何かあったんだな。急ぐぞ」
俺は異次元からアイテムを取り出し地面に置く。
するとその小さな豆粒程度のアイテムがぐんぐんと成長し、馬に似た動物へと成長する。
「はぁ!?何なのこのアイテム!私の知らない物がまだこの世界にあるなんて…世の中舐めてたわ。ていうかもっと早く出しなさい」
「モァ!」
「なんだこの腑抜けた鳴き声は」
俺はさっそくこの動物の背中に乗り、スライミーも後ろに乗せ、猛スピードで走らせた。
「あ………あ…」
「愚カ」
イシュマダルの右手で首根っこを掴まれ持ち上げられているミシュエラ。
イシュマダルの動きは決して瞬間的なものでなく、ごく普通の速さでミシュエラの首に手をかけた。
十分避けれるはずだったが、ミシュエラはもちろん、その他の者達も足がすくんで一歩も動けない状態だった。
ただ、一騎を除いて。
「イシュマダル!!」
ダリウルスは叫びながらイシュマダルに突進する。
が、イシュマダルは微動だにせずその場に立ち尽くす。
攻撃したはずなダリウルスがダメージを負っている。
「ガ…!」
「オ前デハ無理ダ。長イ月日ガ立チ自惚レタカ?」
「神槍!」
イシュマダルの背後からセイヤの神槍が放たれるが、イシュマダルにはかすり傷ひとつと付いていない。
続いてダリウルスの足止めができたシルの氷盾を発動させるが、凍りつきもせずに無効化される。
アリスも自身に強化魔法を使い、接近攻撃に挑もうとするが、近づいたら即死するのが目に見えているので隙を伺っている様子だ。無論、隙などないが。
「イーサンさん!やめてください!もう十分です!」
「!?おい!何してる!」
全員が距離を置き睨み合っている状況で、マリーがイシュマダルの元へ近づく。
セイヤは声をかけたが、マリーは無視した。
「…」
「もう止めましょう?本当はわかっているんですよね?こんなことしてもケレンさんは戻って来ないです」
「ソンナ事ハワカッテイル。我ガ今シテイル事ハ断罪ダ。我ヲ目醒メサセタ事ノナ」
「ケレンさんはこんな事望んでいません!何の為に自分が犠牲になって…ボロボロになって戦っていたのか忘れましたか!?あなたが本当にケレンさんの事を思っているのならそんなくだらない事よりももっとする事があるんじゃないですか!」
「…」
「クダラン。諸共死ネ!」
イシュマダルの気持ちが揺らぎ、隙ができた事をダリウルスは見逃しはしなかった。
ダリウルスはイシュマダルとマリーを狙い、全魔力を持って攻撃を行う。
「神髄」
ダリウルスの体が見えなくなるほど光り、そして突っ込んで来る。
自爆だ。
このままではマリーだけでなく、この国自体が共に跡形なく消え去ってしまう。
下手をすればそれ以上の被害が出てもおかしくはない。
だが、もう起動してしまっている為、イシュマダルをもってしても止めることは出来ない。
「マリー。瞬間移動ヲ使エ。オ前ダケナラマダ間二合ウ」
「!?嫌です!マリーだけで逃げるなんて出来ません!死ぬなら一緒です!」
「ワガママヲ言ッテイル場合カ!元ハ我々の問題ナノダ。他所者ガ関ワッテ良イ問題デハナイ!」
「いいえ!他所者じゃありません!マリー達はもう仲間です!仲間になった以上最後まで逃げませんし、一緒に戦います!」
ひょっとしたらマリーの瞬間移動でイーサンとマリーだけは逃げれたかも知れない。
が、お互い逃げるという選択肢は無かったし、死ぬ覚悟も出来ていた。
イーサンとマリーはお互いを見つめ、覚悟はできたと目で伝え、ケレンとダメージを負って気絶しているヘレーナを見る。
「自然と怖くないです」
マリーはぽつりと心の声を零す。
おそらく、いや絶対に今こちらに向かってきている自爆寸前のダリウルスがここまでくると死ぬだろう。
だが、何故だろう?
それはイシュマダルも感じた事だ。
何だろう?死ぬ気がしない。と。
もし、この誰も止められない死という絶望の中で。
真っ黒い暗闇の中で。
一つだけある光が見えた時。
それは明日に繋がる、これからに繋がる希望になるのだと。
マリーは感じる。イシュマダルも感じる。
''まだ、希望が残っている''
いるじゃないか。
そう、これまでずっと助けてくれたあの男が!
マリーは心の底からその名前を叫ぶ。
「ギンターーーーーーーーー!!!助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」
「すまん。待たせた」
ズドン!と。
馬に似た変な動物に乗り、上から降ってきた最後の、マリーが心の底から会いたかった男が現れる。
「ほんとに、いつも来るのが遅いですよ!ギンタ!!!」
「悪い。まぁあとは任せろ」
ギンタはそう言い、ダリウルスの方に向く。
右指でパチンッと。
指を鳴らし、こう告げる。
「終焉」
「何ダト!?貴様!グ……吸イ込マレル…!……クソォォォォォオオオオオオオオ!!!」
ギンタの前に物凄い大きなブラックホールの様な穴が出現し、ダリウルスを吸い込んで消滅する。
一瞬で、最悪の事態を免れた。いや、免れてしまった。
「……毎度、アンタニハ驚カサレルナ。ギンタ」
「ん?いや、俺はお前のその姿に驚いているんだが」
「ギンターーーーーーー!!!!怖かったよおおおおおおおおお」
「痛いわ離れろ」
俺達は再会の喜びを分かち合う。
そして、奥で倒れているケレンを見る。
「結局俺は...何も守れなかった」
聖騎神の体から元に戻り、イーサンが言う。
彼の目は失望と後悔の色が見える。
だが、
「本当にそう思うか?」
「...どういうことだ?」
「何故ケレンがただの人間なのに聖騎神と同等の力を、ましてやイシュマダル本人と思わせることができたのか?それはおそらくケレンのスキルだな。コピーといったところか。コピーした者と同等の力は出せないだろうが、半分くらいコピーはできているはずだ。ならば…」
俺は一呼吸置いて、いい知らせを教えてやる。
「イーサン。ケレンがコピーしたのはお前の力だ。ならば、お前が強ければ強いほど半分だが、お前と同じ力を得ることになる。戦っていてわかったが、聖騎神には修復機能があるな?なら、ケレンにもその機能があるはずだ」
俺の話を聞いた途端、イーサンはケレンの元に走り出す。
そして、ケレンの胸元を確認する。
「元に…戻ってる…」
「す、すごいです!!イーサンさんがケレンさんを救ったです!」
「俺が…?」
「そうだ。結果はどうであれ、お前の力がケレンを救った。その事に変わりはない」
「あぁ…よかった…ケレン…。ありがとう、ありがとう…」
イーサンはケレンを抱きしめ、涙を零す。
ケレンはイーサンが人間ではないことを知った上で唯一無二の親友として、仲間として今まで察してきたのだ。普通の人間ではあり得ない。
そして、親友の為に自らを犠牲にしてまで自分の持てる力を駆使したのだ。
「…何が、あったの…?あれ?イーサン…?」
「ヘレーナ!大丈夫か!?」
気絶していたヘレーナの目が覚め、状況が読み込めず困惑している。
だが、そんなこと御構い無しでイーサンはヘレーナも抱きしめる。
三人のその姿は暖かく、微笑ましかった。
羨ましい。俺はそう思った。
「仲間ごっこも大概にして。本当にムカつく」
「!?危ない!」
不意に後ろから女の声と共に鋭いムチが抱きしめ合っていたイーサン達を締める。
「ぐぁああ!」
「ひどい…。どうしてこんな事するんですか!?」
「はぁ?あなた頭おかしいんじゃないの?私達今そいつに殺されようとしてたのよ?それを『はい、めでたし』で終わらせようっての?あり得ないわ。弱ってる今がチャンスだし、私を辱めた罰としてぶっ殺してやるわ」
「それが人だったら僕も許してたけど、事情が事情だ。聖騎神はとてつもなく凶暴で恐ろしい存在だとわかった以上ここで倒させて貰うよ」
後ろを見るや、勇者御一行は準備万端ですと言わんばかりの体勢でいる。
イーサンが聖騎神にもう一度なれるのなら問題はないが、何十年もの間封印していた為に一度聖騎神になると膨大すぎる魔力を使う。
今のイーサンは普通の人と同じだ。
「え?ねぇ、そこまでしなくたっていいじゃない!見たところ何もして来なさそうだし、放っておいてあげてもいいんじゃーー」
「甘いですわよスライミー?危険分子がある以上、それを摘むのが今の我々にできる唯一の仕事なのですから」
「シル!強化魔法お願い!私が先陣きっていきます!せりゃーーーーー!」
アリスが猛スピードで俺の前まで走ってきて、俺の顔面に一発アッパーを食らわせる。
吹き飛びはしなかったが、代わりに俺の兜が宙に浮いて、地面に落ちる。
「!!!」
スライミーはそれに気づき、勇者達に警告する。
「ダメ!!早く逃げて!そいつには絶対勝てない!!もういいじゃない!そこまでこだわる必要ないわ!」
「いいや。今がチャンスだ!おい、黒騎士!この前は邪魔が入ったけど、今はそうはいかない。ここで倒させて貰う。神槍!」
「うわぁぁぁぁあああああああああ!」
俺は刺される。
「いきますわ!氷弾!」
「うわぁぁぁぁあああああああああ!」
俺は串刺しにされる。
「火炎!」
「うわぁぁぁぁあああああああああ!」
俺は焼ける。
「効いてる!皆んなもう一押しだ!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
勇者達は自分の出せる最大の得意魔法で追い討ちをかける。
だが、スライミーは感じる。
ここに来るまで嫌という程見てきたこの男の強さ。
仮面を外している時のこの男の本性。
きっとそう。
''この男は演技をしている''と。
本当は何一つ効いていないはずだ。
聖騎神の魔法をもろに食らってピンピンしていたのだ。
しかも、黒騎士は信じられない驚愕の事を言っていた。
''俺に魔法は通じない''と!
スライミーの体が勝手に震え始める。
必ず来る殺戮への恐怖のために。
セイヤ達はわかっていない。この男の本当の力を。
前に戦ったと言っていたが、おそらくそれは手加減されていたのだろう。
気がつくとセイヤ達は攻撃を止め、砂埃がもくもくと立ち上がる方を見ている。
やがて砂埃が無くなって行き、男が姿を現わす。
「あ….....え…?」
満面な笑顔の悪魔がそこにはいた。
そして、右手に何かをぶら下げている。
「はい。どーじょ」
はい、どーぞと。
セイヤの前にその物を投げ捨てる。
どちゃっと音がして、ゴロゴロとセイヤの足元まで転がる。
「おえええええええ…!」
セイヤが吐き出す。
無理もない。
それは、ミシュエラの生首だった。




