本性
暇な時に読んで頂けると幸いです。
ガインガインガインーーー
外から聞こえる大きな鐘の音で目が醒める。
俺はすぐに起き上がると、鎧を着て部屋の扉を開ける。
「ギンタ!」
「聖騎神か。行くぞ、マリー!」
タイミングよくマリーが俺の部屋に来ており、一緒に宿を出る。
空を見上げると、遠くから大量に何かが接近してくる。
聖騎神だ。
「街の者はあっちに避難しろ!我々が対処する!!」
振り向くとヴェッツァニア王国の兵士達やギルドの人達が来た方向を指差しながら避難を急がせている。
ドンッ!
と、門の上から大砲のようなものを撃つ音が聞こえる。だが、球は当たらず全く効果が無い。
聖騎神の群れはどんどんと近づいてくる。もう、すぐそこだ。
「く…!兵士達よ!陣形を取れ!ギルドの者は各々で任せる!」
指揮官らしき男が言うと、すぐさま陣形を取り、守りを固める。
すると聖騎神の群れの一帯が落ちてくる。
落ちてきた影響で、家などもろともせず破壊される。
聖騎神が長い一列を作る。
聖騎神と人間が向かい合う感じだ。
ただ立っているだけなのに、聖騎神達の圧力がびりびりと伝わってくる。
「いきますわよ!極氷弾!」
「鎖包囲!」
「火炎!」
「神槍!」
兵士達を飛び越え、上から各々の魔法を放つ。
「おぉ!!勇者だ!!今だ!全員続けー!」
勇者達の魔法を合図に、兵士達やギルドの人々も一斉に聖騎神の元へ走り出す。
「狩レ。一匹残ラズ」
聖騎神も、誰が言ったのか見分けれないが合図と共に動き出す。勇者達の魔法はあまり効果がなかったらしい。
「ギンタ!マリー達も行くです!」
とりゃー!と特攻隊長並みに切り込みそうになるマリーを抑える。
「な、なんですか!このままじゃ皆さんがやられてしまいます!」
「待て!お前が行った所で大差ない!今はイーサン達と合流するぞ」
「そんな!ギンタなら聖騎神がいっぱいきても倒せるです!」
ぷきー!と頬を膨らませて言いよるマリー。
「あほか!そんなことできたら今頃全滅させてるよ!イーサン達の無事が知りたい!つべこべ言わず付いて来い!」
俺たちはひとまず急に始まった前線から降りた。
俺たちは一旦下がり、イーサン達を探す。
もう前線から遠く離れたと言うのに、辺りは火で焼けている家や聖騎神に吹き飛ばされてきた兵士達で溢れている。
そして、まだ避難しきれていない人達を誘導するギルドの人達がいた。
「あ、ギンタさん…!マリーさん…!」
「ヘレーナちゃん!無事だったんですね!」
声がする方を向くと、その声の主はヘレーナで、こちらに走ってくる。
「無事で良かった。イーサンとケレンは?」
「みて、ない…です。一緒だと、思ってた」
どうやらイーサンとケレンは別行動のようだ。
「マリー。ヘレーナと一緒にいろ。最悪、瞬間移動して構わない」
俺はヘレーナが心配なので、マリーを同行させることにした。マリーはご存知の通りスキルでいざとなれば逃げれるし、安心だろう。
「わかりました。イーサンさん達を探しにいくんですね?気を付けてください!」
「あぁ。そっちもそっちでまかせた」
俺はイーサンとケレンが前線で戦っていると思い、前線に戻った。
「な……に…」
前線に戻ると酷いものだった。見る限り、聖騎神は一騎も倒されていない。
それはそうだ。相手は神だぞ。
だが、勇者達がいたはずだ。あいつらはどこに…?
聖騎神達は最初に見た時と変わらず、綺麗な一列を保ちながら前進してくる。
「やるしかないか…」
俺は右手に刀を装備する。
「おい!怪我してる奴もしてない奴も下がれ!ここに居てもどの道お前達は殺される!ならさっさと下がって避難を急がせろ!」
「何言ってるんだ!?俺たちは1秒でもあいつらを止めてみんなを逃すんだ!俺たちが逃げたら、誰がその役割を担うと言うんだ!」
「絶対監獄!」
俺が叫ぶと、俺と聖騎神を囲う透明だが、確かに強い魔力を感じる監獄が出来上がる。
「…だから俺がやるって言ってんだよ。さっさと行け!」
兵士達はどうしたらいいものかわからず立ちすくんでいる。
「ちっ!お前らがいたら邪魔だって言ってんだよ!早く行け!」
すると、兵士達はおずおずとその場から撤退していく。
「すまない。持ちこたえろよ!すぐに応援を呼んでくるからな!」
奥に走りながら1人の兵士が俺に叫ぶ。
「…来なくていいって」
俺は誰にも聞こえない程度で喋る。
「追撃セヨ」
奥から、複数の聖騎神が兵士達が走り去った奥の方へ飛んで行く。
俺の絶対監獄から間一髪で入らなかった奴らだろう。
このままではマリー達が危ない!
だが…せっかくだ。
俺は装備している兜を外し戦ってみることにした。
すると、これまで感情抑制されていた俺の感情がぐんっと戻ってくる感覚を覚えた。
「くっ…」
プルプルと俺の身体が震え始め、肩で呼吸をし始める。
「所詮ハ人間トイウ訳カ。中々ノ時間稼ギダナ」
誰が言ったのだろう。俺は震えるながら下を向いていた為、誰が喋ったのか把握できなかった。
だが、そんなことはどうでもいい。
「コレ以上時間ヲカケル事ハデキナイ。死ネ」
誰かが言うと、一騎が一瞬で俺の側に来て聖剣を振るう。
「う……う………うううううううううううううううううううううううれしぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
俺は聖騎神が振った聖剣を掴み、''割る''。
「えい」
そしてすぐさま心臓部に左手を思いっきりぶっ刺す。
「ガ…」
ガクンと倒れ、光っている目元の部分がどんどんと弱まる。
「えーーー!?まってー!!死なないで!死なないでったらー!」
俺は叫んだ。
出来るだけ、生き返るように祈り、何度も何度も突き刺している左腕を抜いては突き刺し、抜いては突き刺し、どんぶらこっこ。
気づくと、彼は死んでいた。
目元には光る気配すら無くなっていた。
「し…し……死んじゃった」
悲しかった。
何故、彼…ジョニーくんは死な無ければならなかったのか。
「貴様!ヨクモ我ガ同胞ヲーー」
「お前らのせいかーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
俺は怒った。
自分が持てるだけの、渾身の怒り声を轟かせた。
「殺セ!」
「うわぁぁぁぁぁぁああああああああ!」
聖騎神が一斉に飛びかかってくるのに対し、俺も負けじと精一杯走りながら両手で持っている刀をぐちゃぐちゃに振り回した。
ザク。ザク。ザク。ザク。
めちゃくちゃ切れます。ザク。
まるで、豆腐を切っているようです。ザク。
「バカナ…。タカガ人間ニコンナ事ガ出来ルハズ…」
皆さま、朗報です。
先程から喋っている聖騎神Aさんを発見致しました。
「チェストォォォオオオオオオオ!!!」
聖騎神Aさんの首元をスパンと切り、生首が転げ落ちる。
「うわグロたん。ひくわ」
俺は刀をやめ、斧を出す。
そしてゴルフをする態勢になり、生首をボールにして思いっきり斧をスイングする。
すると飛んでくる聖騎神に命中し、よろめく。
その瞬間に刀に切り替え、腕と足を切り、腕のあった部分に足を捻じ込み、足のあった部分に腕をねじ込む。
その聖騎神は地面に落ち、ピクピクと痙攣している。
「うわぁ…ゴキブリじゃあ…。あ、羽取っとこ」
天使の羽みたいな羽をもぎ取りじっくりと観察するが、別に興味がそそられなかった為、捨てる。
あぁ…。なんて楽しいのだろう。
「たぁぁぁああああのしいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
おそらく、君たちはこう思ったろう。
ただの平凡な一般人が。どこにでもいるただの人が。異世界に来てちょー強くて女からもモテて周りからも慕われる今までなかったカリスマ性を出し始める''普通の異世界系''だと。
俺もここに来る前に、学生の時にそういう小説を読んだ。
だが、違う。
教えよう。
ここに来る前、私はとある有名人だった。
よくニュースで流れたものだ。
''未だ捕まらない快楽殺人犯今どこへ''
異世界にいまーす♡
さてさて?
このままここで遊んでいればさっきマリー達の方に向かった聖騎神がみんなを殺すだろう。
「早くマリー達の元に行かないと死んじゃうよぉ…」
俺は心配になる。
聖騎神達にマリー達が殺されたら、俺は今後どうしていけばいいのか!!
俺は溢れ出る焦燥に苦戦する。
そして出した答えが、
「でも、それはそれ。(笑)」
俺は無邪気な子供の笑顔を歯が剥き出しになっていて、かつ死んだ目の顔で作った。
おそらく、こんなにも愛らしい笑顔をできる青年はこの世界には存在しないであろう。
その後の記憶は、無い。
ただ、快楽という感情に身を任せて好きなだけ遊んだ。
「皆さん!こっちです!早く中へ!」
マリーとヘレーナが前線から避難してくる兵士達を誘導している。
「君達!あとは我々に任せて行きなさい!」
一緒に避難を手伝っていたギルドのメンバーに声をかけられ、マリーとヘレーナも兵士たちに続き奥に向かう。
「…ギンタさん、大丈夫、かな…」
「ギンタならきっと大丈夫なのです!聖騎神なんてコテンパンにーー」
すると、マリーとヘレーナの前にボロボロになった聖騎神が落ちてくる。
ギンタに一撃でここまで吹っ飛んできたのだろうか。
「グ…ハ……」
聖騎神はマリーとヘレーナに気づき手を伸ばす。
「あ…あ……」
「ヘレーナちゃん危ない!」
恐怖で足がすくんだヘレーナの手を掴み、逃げる。
「少し遠くなるですが、こっちからは安全なはずです!」
裏道から避難場所へ逃げる。
「ヘレーナちゃん!もう少しですよ!」
裏道は細く薄暗いが、少し先は大通りなのだろう。光が通る裏道に差している。
「え…?」
「人間ヲ発見シタ。殲滅スル」
裏道を抜けると、そこには4騎程の聖騎神がいた。
「ヘレーナちゃん!戻りますよ!」
マリーとヘレーナはさっき来た裏道に戻る。
しかし、そこには家を破壊しながら裏道を通ってくるボロボロの聖騎神がいた。
「…マリーさん!左、です!」
今度はヘレーナがマリーを引っ張りながら走る。
本来ならばとっくに追いつかれ、殺される所だが、細道故、なかなか追いつかない聖騎神達。
マリーとヘレーナはくねくねと曲がりながら走る。もう避難所に近づいているのかさえわからない。
「大丈夫、です。このまま走っていれば、見失うはず…」
「見ツケタ」
家を突き破ってマリーとヘレーナの前に立ちはだかる聖騎神。
後ろに4騎。前に1騎。
もう瞬間移動する時間もない。
終わった。と2人は感じだ。
ただ迫り来る聖騎神にどうする事もできず、ただ死を待つ。
後ろの聖騎神がマリーとヘレーナの目の前まで来て、一斉に聖剣を振り下ろす。
こんな細道だ。誰も助けには来れないだろう。
「ギンタ…」
マリーは絶望的な局面で彼の名をこぼす。
が、彼が来ることは、ない。
死というのはいつ来るものかわからない。あっけないものだったーー
「伏セロ!」
「!?」
前にいるボロボロの聖騎神がマリーとヘレーナを庇う。
「ガァア…!!」
血のようなドロドロとしたものがポタポタとマリーとヘレーナの頭に落ちてくる。
「ナ!貴様マダ生キテー」
油断している聖騎神の腹を切り裂く。
4騎共、光を無くし倒れる。
「…あなたは……?」
「……コッチダ」
助けてくれた聖騎神は起き上がり、歩き出す。
マリーとヘレーナも後に続く。
「どうして助けてくれたのです?」
「…」
マリーの問いに答える気配がない。
すこし歩くと前から光が見えてくる。
「ココヲマッスグ行ケ。少シハ安全ダ」
そう言うと、聖騎神は来た道を物凄いスピードで引き返していった。
「…一体…何だったん、だろう…?」
細道を抜けると、そこには避難してきた兵士や住民が居た。
「ヘレーナ!マリー!!」
こちらに気づき、手を振りながら走ってくる男がいた。
「…イーサン…!」
ここにきて、やっとヘレーナの頬が緩む。
安心したと言うことなのだろう。
マリーも頬が緩む。
「イーサンさん!よかった!ご無事だったのですね!」
「ああ、なんとかな。それより、ヘレーナ。その道、知ってたのか?」
「…ううん。…信じられない、と思うけど、聖騎神…が、助けてくれたの」
事実を告げると、イーサンは何を言ってるんだと言わんばかりの顔をする。
「本当ですよ!どうしてかはわかりませんが、危ないところを助けてもらったです!」
「そ、そうなのか…?」
うんうんと頷く。
「まぁ、なんだ。お前達はここにいろ。俺はケレンや他の人達を探してくる」
「それなら3人で行きましょう!いざとなればスキルも使えますし」
「まぁ…それなら危険性が一気に下がるが…」
「というか、ケレンさんはどこに行ったです?」
「昨日別れてからまだ姿を見てないんだ。無事だといいが…」
「…早く、さがさないと、ね」
「そうだな。休憩しなくて大丈夫か?大丈夫なら行くぞ」
イーサンとヘレーナ、そしてマリーはケレン及び他の人達の救出に向かった。
一方。
あたりは激しい戦闘により、元は建物がいっぱいあった所が破壊され、酷い有様になっている。
そのど真ん中にポツンと立っている黒い人影。
「…………美しい」
彼は辺りを見渡し、一言。
よく見ると、彼の周りには白い花が咲いている。
いや、咲いてはいない。''造られている''
それは元は聖騎神だったのだが、綺麗に薔薇のような形に加工され、地面に置かれている。
辺りはお花畑である。
「お花見たぁいむ…」
そういうと、右手にグラスを持ち一口、二口とグラスに入っている赤い飲み物を飲む。
血だろうか…?
「覗き見は駄目だよ、チミ」
「!?!?!?」
え?
状況が飲み込めない。
さっきまで、真ん中で。まだ花に造り変えられていない聖騎神の死体の山の上でたそがれていた男が。
気がつけば私の後ろに立っている。
「いつから見ていた?」
「あ…えっ…」
私はあまりの驚きと恐怖で言葉が詰まった。
それもそのはず。
よく見ると、彼の口は裂けており、目が人殺しのそれと同じだ。
そして、彼は黒い、漆黒の鎧を着ている。
鎧…?
「あ…あなた、昨日の…」
「む。お前、勇者'sガールの1人だな」
「ゆ、ゆうしゃあず…え…?」
この男は昨日、私が声をかけた男に間違いはないだろう。
でも、昨日とは全然雰囲気が違う。
なんというか、ものすごく恐ろしいオーラ的なものを纏っている。
こいつは危ない。
「み、見なかった事にしてあげるわよ…?そ、そのかわり命だけはー」
「いやいや。いやいやいや。殺した方が早くね?」
「ひっ…」
男は鞘から刀をスラリと出す。
あ、私死ぬ。
「そ…そういえば、まだ取り逃がした聖騎神…いいの…?」
刀を両手に持ち振り下ろす直前で男の動きが止まる。
「あ。ほんまですやぁん」
彼は両手を上げたままくねくね体を揺らし、恥ずかしがっている。
その姿は異様としか言えない。
というか、本能的に言葉を発した私自身にすごく驚いている。
「が…っ!」
私は彼に首根っこを掴まれ、持ち上げられる。
「うむ。俺は聖騎神を殺しながらマリーを。おまはんは勇者を。利害一致」
「くる…し…」
「後々勇者'sガール殺したってバレたら面倒だよなぁ。本当に内緒にできる?」
私は頭をできる限りに降る。少しでも内緒にできるという誠意を見せなければこの男は平気で私を殺すと思ったからだ。
「約束だにゃん!」
「全…然……可愛く…な…い…」
すると手を離し私はドサっと落とされる。
私は首を軽く押さえ、咳き込む。
「You!名前は?」
「私は…」
私は答えようと立ち上がり前を向く。
すると、奥にある聖騎神の死体の山から光が見える。
あれは…。
「あ…」
「あ?ほほう。名前当てゲーム?まぁ無難なのがアリスとかじゃーー」
「危ない!」
すると、後ろからまだ生きていた聖騎神の魔法が飛んで来る。
放たれた魔法は一直線に彼の背中に当たる。
「ほわい?え?俺魔法効かないってわかってるよね?なんでぇ?」
消し炭になるどころか、この男は平然と何事もなかったように立っている。
「魔法が効かない…?何言ってるの?」
魔法が効かない人なんてこの世にいる訳がない。
でも、確かに全然ダメージを負ってる気配はないけど…。
この男、本当に何者なの?
「貴様…一体何者ダ」
どうやら聖騎神も私と同じ考えだったようだ
「勇者です」
え?
今、平然と嘘ついたわよね?
それでもって当たり前に聖騎神を切っちゃってるし。
人間ってカテゴリー無視してないかしらこいつ。
「じゃーそろそろいくかぁ。よいしょっと」
彼は体を伸ばし、一息つく。そしてどこから出てきたのであろう、黒くて怖い仮面を付ける。
「そういえばお前、勇者達とニバルレルンの館に来なかったな?何故だ?」
「え?あ、あぁ。私、戦えないの。魔法習ってないし。家系が武器商人だからその事しか学んで来なかったの。セイヤとは行き先が一緒だったから付いてきただけ。後お前じゃなくてスライミー=エメアム」
あまりにもさっきとは雰囲気が違いすぎて一瞬戸惑ったけど、今の方が話しやすく、萎縮せず話せた。
「なるほどな。俺の事は黒騎士でいい」
「黒騎士?全然騎士には見えないけど」
「はは。まぁ行くぞ、スライム」
「誰がスライムよ!」
彼は振り返り、殺し損ねた聖騎神の元へ歩を進める。
私の名前を間違えながら。




