異世界最強はエルフを助けるようです。【前】
暇な時に呼んでくだされば幸いでございます。
よろしくお願いいたします。
いつもの時間に起き、いつもの時間に会社は行き、いつものように会社で上司に文句ばかり言われ、いつものように疲れ果てて家に帰る。
これが俺の日課であり、これからもずっと覆されることのない日課だ。
(世の中なんてクソだ)
いつものように心の中で愚痴を垂れ、自分の部屋にあるパソコンの画面へと顔を合わせる。
電源をつけ[ファンタジー・オンライン]とある画面をクリックする。
ーようこそ、ファンタジー・オンラインへ。お待ちしていました。"黒騎士''様。ー
始まりと同時にパソコンから発せられる女性の声。ここでようやく俺は「ただいま」と告げるのであった。
俺の名前は峰形 吟太。ゲーム内の名前なら黒騎士だ。
いわゆるゲーマーというやつで本当は無職で一日中ゲームをしていたいんだが、課金するにはやはり無職ではできないと思い意義を見出せない会社で社畜をやっている。
リアルでは底辺地位の落ちこぼれだが、ゲームの中だったら俺の地位は最高位だ。
ゲーム内に入ると真っ先に行くのが''ギルド''というクエストを受ける集会所だ。今日はクソ上司に色々と文句を言われまくったからたくさんクエストで敵を倒すつもりだ。
ギルドに入ると先にいたプレイヤー達からの注目を浴びる。
「黒騎士のお出ましだぜかっこいいなぁおい!」
「どーしたらあんなにカッコいい防具や装備を揃えんだよ!」
「バーカ、世界ランカーだぞ?俺たちなんて近づくこともできねーよ」
と賞賛や妬みなどの声が後を絶たない。
俺は受付までいってNPCにクエスト内容を説明してもらう。
その中で俺が気になったものをいつも受注するのだが、今日気になったのは【異世界からの依頼】というクエストだ。
(なんだこれ?今までこんなクエストみたことないぞ?)
運営会社からの特別クエストと思い俺はこのクエストを受けることに決めた。
早速NPCにクエストを受注すると同時にパソコンの電源が切れた。
「え?嘘だろ?なんだよ故障か?」
俺は電源ボタンを何度も押すが電源がつかない。
一度諦めて風呂にでも入るかと思い立ち上がった瞬間パソコンからとてつもない程の光が放たれた。まるで部屋で閃光弾を使った感じだ。
俺は何が起こったかわからないまま気絶してしまった。
「んん…」
サァァと風が草を揺らす音が聞こえる。気温はちょうどよく心地よい。
「寝てたのか。今何時だ?」
目を瞑ったまま、右手だけ動かしケータイを探す。
ポヨヨンッ。
「ん?なんだこれ。柔らかいな」
俺は2回くらいその柔らかい物体を触ってみる。なんだ?俺こんなの部屋に置いてあったっけ?
「あ、あのぉ〜。そ、そのくらいにしてもらえませんです…?」
「!?」
俺は唐突な女性の声に驚きすぐ起き上がる。どうやら胸を触ってしまったようだ…正直なところもっと触りたくはあったがそれは内緒だ。
声が聞こえた位置を見渡すが頭に何か被っていて視界が遮られてよく見えない。
「そ、その萎縮してしまうほど怖い兜に漆黒のように黒い防具…マ、マリーはつつつついに召喚魔法が成功したのです!!!」
俺はちゃんと見えるようにその兜を正常に装着する。よく見るとそこには嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる耳が長く、金髪で巨乳の誰もが見とれてしまうほどの美女がいた。
「ここはどこだ…?」
辺りを見渡すと木ばかりが立っており一本一本が力強く立っている。ここはどうやら森のようだ。
「ここはエルフの森、''ファラリの森''なのです!!マリーがあなたを召喚したのですよ〜!!」
どうやらこのマリーなるエルフとやらは召喚魔法を使い俺が召喚されたのだと言う。
「俺は異世界に召喚されたってことか…?」
冗談かと思ったがありえない話でもない。死んだら輪廻転成できるっていうし、死ぬ前から異世界に召喚されてもまぁありえる話じゃね?とか俺は思いつつ状況をどんどんと把握していく。
「マリーはマリーっていうのです!あなたはなんていうのですか??」
マリーとやらは顔を至近距離まで近づけ、笑顔で俺に話しかける。すごく美人でかついい匂いがする彼女に見とれつつも俺は答える。
「…俺は峰形 吟太だ」
ゲーム名を名乗ろうかと迷ったが黒騎士なんて呼ばれたら恥ずかしいし名乗るのもきつい。
「ギンタですか!!えへへ、これからよろしくです!!」
あぁ…。と薄い返事をし、俺は召喚した理由をマリーに聞いたが、マリーは驚いたように俺の顔を見る。
「ふ、普通びっくりしてそれどころじゃないと思ってたです!ギンタは落ち着いているですね!?」
そうなのだ。普通は困惑するはずなんだが、何故かそういった感情が出てこない。理由としては多分今自分が付けている兜のせいだろう。
これはレアドロップ中のレアドロップである''罪の兜''だ。ゲーム通りの設定だったら【感情抑制効果】のある兜で抑制限界、簡単に言えばブチギレしたときに感情抑制効果がなくなり、罪の兜本来の力デーモンつまり魔王へと姿を変えてしまう優れ物。デーモンになったときの全パラメーターは通常の4倍というぶっ壊れ付き。すごいのは罪の兜だけではない。他の装備も全てぶっ壊れ効果満載の装備だ。でないと世界ランカーにはなれない。
「起こったことは仕方がないし、落ち着いて行動することが大切だろ?」
マリーに説明しても仕方ないので適当にそれっぽいことを言ってみる。だってマリー美人だけど馬鹿そうだし…。
「それより、なんで召喚したか説明してもらってもいいか?」
俺は本題に戻す。
「あ!マリーがギンタを召喚したのはですね…」
さっきまでニコニコしていたマリーがしゅんとなり今にも泣きそうで体をプルプルと震わせている。少しの沈黙の間にようやく決心した様子でマリーがこちらを真剣にみる。
「ギンタ…いえ、ギンタ様!ど、どうかマリーの…エルフの森をお救いください!」
「わかった。行くぞ」
即決断。
「そうですよね…やっぱり荷が重すぎましたよねぇぇぇぇええええ!?!?」
最初から断られると思って言ったのであろうマリーは思いもよらない回答に目が飛び出る程だ。
本当はもっと考えるべきなのだろうが、別にこの世界にきてすることなんて思いつかないし、それに俺がどれだけの強さか、それがこの世界で通用するのかというのも確認したい。
(そういえばアイテムとかはどーなるんだろうか?今俺、何ももってないし武器もないし…)
きて早々の問題発生だ。武器がない現時点ではエルフの国を助けるどころかマリー、ましてや俺自身すら守れない。
【問:''妖刀クロベエ''を装備しますか?】
不意に俺の頭の中からゲームを起動した時と同じ女性の声が聞こえる。
どうやら武器やアイテムはこの女性に言えば出してくれるようだ。もちろんさっきの答えはYESだ。
「あぁ。だしてくれ」
瞬時に何もなかった空間から俺が使っていた武器、妖刀クロベエが出てきた。
それを見たマリーはまたまた驚く。
「なななななんという魔法でしゅか!?!?なな、何もないところからぶ、武器がでてきたでしゅ!?」
あまりに驚きすぎて呂律が回っていない。
「いや、なんか勝手に…」
どう説明したらいいかわからず適当に凌ぐ。
「そんなことよりマリーの国がどうなってるか聞いてもいいか?」
脱線してしまった話を元に戻す。
「そんなことって…。あ、そーでしたのです!実は今この森が作られてる源、核である大樹が呪いにかけられて死にかけているのです…」
なるほど。つまり、この森があるのはその大樹のお陰で、今まさにその大樹がピンチだと。1つ気になるのは…
「呪いって誰かがその大樹にかけたってことか?誰か知ってるのか?」
そう、誰が何のためにそんなことをしたのかだ。
「かけた誰かというのは不明なのですが、恐らく人族だと思われるのです」
「人間か…」
同じ人間、人族だった俺がまさか敵対するかもしれないなんて思いもつかなかった。
「そーなのです。つい最近この森に人族の者たちが来て『王の命によりここは我ら''ヴェッツァニア王国"の領土とすることが決まった。エルフ族どもはここから立ち去れ!』なんて言ってきたのですから間違い無いのです」
ファラリの森の横にあるヴェッツァニア王国。人族には4つの大国がありそのうちの1つだという。
4つの大国のうち、最も栄えている国で主に商人などが多く、その部類でいえば奴隷商人などが多い。1番栄えてはいるのだが、領土が4つの大国に比べて小さい。おそらく大樹に呪いをかけこの森をエルフ族がすめない環境に陥れ、行く宛のなくなったエルフ族を奴隷商人が売り捌くという魂胆だろう。
「まずは大樹の呪いを解くことが最優先だな。俺が思っている通りなら呪いを解くことは容易いはずだ。」
「ほ、ほんとうなのです!?!?…これでマリー達は森から追い出されなくなるのです!!!」
「あぁ、確かにそうなんだが…。問題なのはその後だ」
「?どーいうことなのです??」
そう、問題はその後なのだ。仮に森の存続の危機を免れたとしてもその後のヴェッツァニア王国が黙っていないだろう。こちらから拒否の姿勢を示せば相手は無理矢理にでも領土を奪いにくる。つまりは…
「戦争かもな」
「!!」
やっと気づいたマリーはみるみると顔が青ざめていく。
「戦争になるにしてもエルフ族の力がどれ程か俺にはわからん。まずは1番偉い奴から聞くことにするか。マリー、案内してもらうぞ」
大樹の呪いを解くのは確実だが、勢力がどんなものかわからなければ今後どうするか話にもならない。
「エルフ族の中で1番偉いのはマリーの父上なのです!!案内は任せて欲しいのです!」
「え?お前の親父さん、1番偉いのか?」
「??そーなのですよ?」
やばい、なんか不安になってきたぞ。
「ま、会ってみないとわからないか。マリー、案内を頼む」
「なんか今すごくバカにされた気がしたのです…でもまぁ了解なのです!!!」
今いる地点はファラリの森の1番端っこで、誰もいないここはマリーの隠れ家的存在なのだと言う。中心地点までは1時間ほどくらいで着くと言うことで俺たちは話しながら2人でこの世界について話しながら歩いた。
ファラリの森中心部。
そこは葉と葉が重なりあい、太陽の光があまり差さず少し薄暗い。森の源である大樹が堂々と立っていて、見上げるには首を限界まで曲げなければ見えないほど。
俺とマリーは今大樹の''中''にいる。
エルフ族は大樹の中に家を作り生活をしている。それほど広く大きい大樹なのだ。
大樹の中の最上階。エルフ族の長の部屋で武闘派そうなエルフ達に槍を突きつけて身動きが取れない状態にある''俺''。そして半泣きで申し訳なさそうに見つめる''マリー''。
「…なんでこうなった?」
「魔物が喋るな!!妙な動きをしてみろ!すぐに我らの槍が貴様を貫くとしれ!」
「うぅ…ごめんなさいなのですぅ…。みんな信じてくれないのです…」
びぇーんと泣き始めるマリー。
「俺はこの大樹の呪いを解きに来ただけだぞ?あと魔物じゃないし、お前達に危害を加えるつもりなんてない」
「貴様!喋るなと!!」
俺を囲んでいるエルフの中でリーダー格の男が俺に向かって槍を振りかぶる。
「やめぬか」
振りかぶっていた手を止める。
「っ!しかし!」
「やめろと言っておるのだ」
威厳のある低い声で落ち着いた様子でリーダー格の男を止める。その声を聞いていた周りのエルフ達も萎縮してしまうほどだ。
「…承知しました」
俺を睨みつけ元の位置へ戻る。どうやら先ほどの声の主はここの長であり、マリーの親父のようだ。マリーの親父だから馬鹿っぽいと思ったがそんなことは全くなく、落ち着いていていかにも''長''って感じの人だ。
「黒き者よ、貴様は魔物ではないのか」
「父上!違うのです!ギンタはマリーが連れてきたです!悪い方じゃないのです!」
うむ…と考えるマリーの親父。
「…貴様はこの森の呪いを解きにきたと言ったな。」
「あぁ。解けるかどうかわからないがマリーに頼まれたからな。だが、解けたとしてもヴェッツァニア王国が黙ってないと思うがどうするんだ?」
「あの王国は何もしてこぬよ」
「何故だ?」
「ここを欲しがっているのは王国の貴族、''ヴァルダナ=ニバルレルン伯爵"という小者よ。奴はこの森の領土自分のものにして地位をあげる魂胆なのだ」
ヴァルダナ=ニバルレルン
貴族の中で最もタチの悪い性格の持ち主で気に入らないものは叩いて潰す独裁者。裏では人族を主に様々な異種族を奴隷にして売り捌き、成し上がってきたという。そんな男が目をつけたのがエルフ族。王の命と偽り、「断れば戦争するぞ」と脅しているのだ。
「本当に貴様が解くことができるのならば後はどうにでもなろう。ついてこい」
俺はやっと手枷を外してもらい自由になる。
「ギンター!ごめんなさいですぅ」
勢いよく抱きついてくるマリー。余程申し訳ないと思っていたのかずっと謝ってくる。
いいよいいよ離れてもらう。あのままずっと抱きつかれていたらいくら抑制効果があったとしても耐えられなかっただろう。
俺たちは最上階から呪いがかけられた場所、地下に向かう。木でできた階段を一段一段と降りるごとに胸の鼓動が高鳴る。この世界がどのようにできて、どんな魔法が使えて、どこまでの強さなのかわからない。いわば緊張しているのだ。
「いっちょやるか」
気を引き締める。
俺の力がどれだけのものか試させてもらうぞ、異世界。




