表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編(ドラマ、幻想、恋愛)

ベランダの鳩を追い出したい

作者: くまのき

 ベランダに鳩が住み着いた。


 ぼくが一人暮らししているマンション。

 三階の一室に住んでいる。

 若輩者のクセに生意気にも1DK。キッチンコンロはIH。

 風呂とトイレも別で。お風呂には湯沸かし機能まである。

 スイッチ一つでお湯張り、温め、保温。小さく安いマンションにしては珍しく便利な機能。

 まあ設備はどうでも良くて、問題はベランダ。


 ベランダは、両隣の部屋とちょっとした仕切りだけで繋がっている。

 またその隣の部屋のベランダも隣の部屋と繋がっており、またその隣の部屋も隣と繋がってて、またその隣も同様。

 つまり、横一列の部屋全部が、一つのベランダで繋がっているのだ。

 そのベランダ全体は、大家さんが用意してくれた大きな緑の鳩避けネットで覆われているのだけど、それがちゃんとお仕事してくれなかったみたい。

 鳩が二匹、ベランダの中をうろちょろするようになってしまった。

 どこかの部屋のネットを、突き破ってでもしてきたのかな。


 鳩は平和の象徴だ。でもそれは美しく真っ白な鳩の事。

 うちのマンションのベランダにいるのは、灰色と緑で構成された薄汚いドバト。


 よく都市部では「カラスは害鳥である」などと言われてるが、ぼくの立場で言うとカラスなんかよりも鳩の方が何倍も害を被る存在だ。

 カラスは、人様の生活域に過剰に干渉して来ない。

 朝早くからすぐそばで「ボーボー」と喉が潰れたような鳴き声で、目覚めの悪い目覚ましになってくれたりはしない。

 ベランダを糞だらけにしてくれたりもしない。

 落ち着いて洗濯物を干させてくれないってこともない。


 うるさい不潔な小鳩ちゃんが、ベランダをトコトコとかわいらしく歩いているだけで、ほんのりとした殺意がわいてしまう。

 そんな心が狭い自分に嫌気がさすも、すぐ目の前でプリプリとウンチされてしまうと、ほんのりとしたものが確固とした殺意に変わってしまう。

 だが捕まえてやろうとドアを開けた瞬間、鳩は急いでお隣さんのベランダへと逃げてゆく。

 それがなかなか素早いのだ、小癪なやつ。


 いったいどこから入ってきたのか。

 何気なく自分の部屋のベランダの鳩避けネットを見てみたら、一部分が切れて、指四本くらいが入る穴が開いていた。

 まさかここからではあるまい、そんな馬鹿な。

 それじゃあ、最近起きたご近所さんの鳩害は全てぼくのせいって事じゃないか。

 いやいやそんな。こんな小さな穴から鳩は入ってこないよ。多分。


 まあ、頑張れば鳩も通る事が出来る……かも。

 指四本入るって事はつまり、ねじ込めば手首まですり抜けちゃうって事なんだ。

 ボクのひょろひょろな腕と鳩。どっちの方が太いだろうか?

 鳩は見た目が中々むっちりしてるけど、それは羽毛があるからで、羽をむしり取ると意外とひょろひょろなのかもしれない。


 うーん、でもきっと違うよ。ぼくのトコじゃないよ。そう思っておきたい。

 別の部屋のベランダネットに大穴が開いているのだろう。違いあるまい。

 ぼくんトコの穴も、一応塞いでおいたけど。



 鳩の害は、マンションの同階住民全員の問題になっている。

 大家さんが付けてくれた鳩避けネットが役立っていない今、住民達自身で別の対策を立てないといけない。


 そもそも鳩はどこから入って来たのだろうか。

 皆も僕と同じように、各々ベランダを調べたらしい。

 でも、それらしい穴は見つからなかった。


 外に出て、三階のベランダ群を見上げてじっと眺めてみた。

 特に穴は見当たらない。ここからでは分からない死角にあるのだろうか。

 まさか、どこかの部屋の住民がベランダで飼育している……なんて事は無いだろうし。


 でもあの鳩、それこそ飼育やら餌付けやらされていない限り、ベランダに閉じこもっていては餌にあり付けないだろう。

 もう何日もいるんだ。ずっとベランダの中だったら今頃餓死している。しかし実際ぴんぴん生きている。

 って事は、どこかから出入りして、外でお食事やテイクアウトしてるはず。

 やっぱりどこかにネットの穴があると思うんだけどなあ。


 でも、穴は見つからない。

 でも、鳩はネットの内側に現れる。


 謎だ。



 ネットの穴が分からないのは仕方が無い。

 とりあえず、ぼくんちのベランダだけでも、やつが入ってこれないようには出来ない物かね。

 って事で色々と試してみた。


 まずは定番。ベランダ手すりにトゲトゲのマット。

 でもこれは効果が期待出来ないと思って、試す前からやめた。

 何故なら鳩は、手すりとか関係ない隣のベランダからやって来るのだから。


 次。

 キラキラ光る小物を吊るすと寄ってこないらしい。

 ってことで、アルミホイルを物干し竿に吊るしてみた。

 結果、意味無し。

 むしろ鳩の興味を引いてしまったようだ。つんつんとアルミホイルを突いていた。


 次。

 磁石を吊るす。

 どんな原理、理屈かは知らないけど、何故か効くらしい。

 まあ効かなかったのだけれども。

 なんだよこれ。


 次。

 猫を飼う。

 ペット禁止です。


 次。

 お薬に頼る。

 忌避きひ剤という、鳩を寄せ付けない匂いを発生させる薬。

 スプレー、固形剤、ジェルと三つのタイプがあるみたいだ。

 スプレータイプはシュッとお手軽だけど、効き目は数時間。今回の場合、それではあまり意味が無い。

 固形タイプとジェルタイプは長持ちするらしい。特にジェルタイプは一年は効果が持続するとか。

 という事でジェルタイプを、鳩がいつも歩く場所に塗り付ける。

 結果、意味無し。

 鳩は忌避剤を意にも介さずベランダにやってくる。なんて図太い奴なんだ。


 調べてみると、忌避剤が効かない鳩は神経が図太いわけでは無く、別の理由があるらしい。(ぼくはそれでもやっぱり、やつの性根は図太いと思うけど)

 その理由とは、この場所に強い執着心を持っているから。

 つまりズバリ言うと、巣を作っちゃってるから。って事だとか。


 大変だ。早く巣を排除しないといけない。

 でも住民皆ベランダを調べてみたけど、巣が見当たらない。どこにも無い。

 うーん、やっぱり謎だ。


 穴も無い。巣も無い。でもここにやってくる鳩。


 鳩君よ、君は本当に存在しているのかい。

 ぼくらマンションの住民にだけ見える、幻だったりはしないよね。

 いや幻では無いな。だって今日も君の糞を掃除しているのだし。


 幻で無い、きちんと生きている存在であるのならばだ。

 次。

 毒餌。

 これは絶対に効くはず。

 効くはず……だけれども、色々問題があるよなあ。

 倫理的にも、法律的にも。

 無し無し。これはさすがに無し。


 殺さず、ただ近づけさせないって方向性で一つ。

 

 動物を近づけさせないようにする方法か。

 懲りずにまた調べてみた。

 結局、「ここに来ると痛い目に合うぞ」と体に覚えさせるのが、原始的だが一番効果的のようだ。


 という事はだ。

 次。

 エアガンで脅してやれ。

 市販の玩具そのまま、威力はそう強く無いタイプのエアガンを友人から借りた。

 この程度なら当たっても別に怪我はしない。

 調教には丁度良いのではないかな。


 ターゲットがまんまとやってきた。

 窓をちょっと開け、隙間から狙撃する。

 パンッという銃声音……は別に聞こえない。

 チャチなエアガンだから、擬音を出すとしたら「ぱすすん」って所かな。

 まあとにかく弾は鳩に命中した。

 驚いたようで、慌てて隣のベランダに退避していった。


 これで奴も、ぼくんちのベランダを危険地帯だと学習してくれただろうか。

 結果、全く学習しなかった。

 エアガン撃ちをかれこれ十回は続けたけど、出来の悪い生徒である鳩君は懲りずに何度も何度もやって来た。

 エアガンが弱すぎたのか?

 いや多分、鳩がおバカさんなのだろう。



 そうやって色々と対策を実施しては、失敗を繰り返していた。



 そんなある日の事。

 あの小汚い小悪魔どもが、物干し竿に腰を落ち着かせているのを発見した。

 せっかく干している洗濯物の真上だ。

 空色のタオルが、やつからでた汚物のせいで、白だか茶だか緑だか分からない模様に染まっている。

 これは洗い直しか。っていうか衛生上捨てた方がいいかも。いや勿体ないし雑巾にするか。


 とにかくカッとなったぼくは部屋の中を見渡し、やつに対する武器を探す。

 エアガンのショボイ威力では物足りない。もっとガツンと教育的指導出来そうなものは無いか。

 丁度空になっていた一味唐辛子のビンが目についた。こりゃ投げて当たったら痛いぞ。

 手に取り、やつが逃げないようにそっとガラスのドアを開ける。

 いつものエアガン狙撃時よりも大きく窓を開いたせいか、警戒心豊かな鳩はさっと地面に降り立ち隣のベランダに逃げようと駆け出した。

 ぼくは急いで小瓶を投げつけた。動物愛護なんて知らないよ。

 でもやつはそれを見事に避け、というかぼく自身のノーコンのせいでビンは壁にあたりカポンと間抜けな音を立て割れたのだった。

 そしてあいつは、無事に逃げていった。


 ぼくは鳩の糞だけでなくよけいなオマケまで掃除しながら、


「ああ、やっぱりもう、毒を盛ってやろうか」


 などと、一度捨てたはずの物騒な手段を再考する。

 そういえばゴキブリ用のホウ酸団子は、はたして鳩にも利くのだろうか?


 そんな危険な思いが通じたのだろうか。

 ある時を境に、プッツリと鳩が現れなくなった。

 ぼくの功が奏し、居心地の悪くなったベランダから遂に出て行ってしまったのだろうか。

 それともぼくと同じくやつらの被害に苦しむ誰かが、本当に毒も盛ってしまったのだろうか。

 はたまたネットの穴を見つけて塞いだのか。巣の駆除に成功したのか。

 内緒で猫を飼い始めた人がいるのか。


 真相は分からない。

 


 いなくなったらいなくなったで、ちょっと寂しい気も、いや、けっして寂しいというわけではないのだけども、今まで散々気を使っていたのを急に考えないでよくなったからか、拍子抜けというか張り合いがないというか。

 だがしかし、もしまた現われやがったら、今度は分厚い辞典でも投げつけるかもしれないな。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 管理人化管理業者に相談して駆除業者を呼びましょう。自分でエアガン買ってきて仕留めてはいけません。駆除業者を読んだほうが結局一番早くて確実。
2018/04/16 14:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ