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アンヨの運がおかしい

 ゲームセンターからの帰り道、夏樹たち三人は商店街に来ていた。買い物をしないと、夕食なしになってしまうからだ。

 夏樹と初雪兄妹にまじって、アンヨちゃんも一緒だった。

 十八番くじで当てたでっかいフィギュアを持っている。

 夏樹のほうはさらにひどくて、大きな袋を両手にひとつずつ持たされていたが。

「言っとくが、これから買う食材はお前が持つんだぞ初雪」

 すでに二本しかない手が埋まっている夏樹は、当然のことを口にした。さすがの初雪も、この状態からさらに持たせようとはしないだろう━━指は十本あるんだから、十個までなら持てるでしょ、とか過去に言われたことを思い出した。

 漫画の格闘家とかじゃないんだから、指折れるだろと思った記憶がある。

「股間に三本目の腕があるじゃない」と、過去の言葉とは違かったが、やはりとんでもないことを言いやがった。

 仮にその「腕」に荷物をぶら下げていたら、夏樹は間違いなく通報されることだろう。


 おいしそうなコロッケを見ると、夏樹と初雪はつい立ち止まってしまう。いつも見慣れているわけだが、いくら見慣れても飽きることはなかった。その見た目にも、味にもすっかり虜になっていたのだ。

「よし、とりあえず買おう、お兄ちゃん」

「そうだな、とりあえず買うか、妹よ」

 兄も妹もその店の牛肉コロッケには目がなかったので、意見の相違などはあり得ない。

「アンヨちゃんの分も買ってね、お兄ちゃん」

「もちろんだとも、妹よ」

 夏樹はコロッケを3つ購入すると、ひとつをアンヨに渡した。

「ありがとうです」アンヨちゃんはさっそく一口。「おいしいです!」陽だまりのような笑顔がはじけて、辺りが幸せな空気に包まれる。肉屋のオヤジも微笑んでいた。微妙にこわい。


「でもアンヨちゃん、なんでこんな、中3の時期に転校なんてして来たんだ? よっぽどの家庭の事情でもあったのか?」夏樹は気になっていたことを尋ねた。

「こっちの世界のお勉強のために、パパさんと来たです。チューガッコーが終わったら、帰るです」

 と、やはり理解に苦しむ返答をいただく。

 異世界設定が徹底していて、なにがほんとかわからない。中学を卒業したら帰るってことは、進学はしないのか。あるいは故郷のハイスクールに決めてあるのか。さすがにそこまでは、夏樹は突っ込んで訊かなかった。アンヨちゃんにも様々理由はあるはずだ。


「フリキュアソーセージとフリキュアチョコスナックとフリキュア━━」

 夏樹は買い物カゴを初雪から遠ざけた。

「あ、まだ食材が━━」

「なんの食材だ。ソーセージとチョコとグミで、なに作れってんだよ。フリキュアは一個までだ。だいたいくじで大金使ってるんだから、今日くらい我慢しろよな」

「ちっ」

 舌打ちするという態度の悪い初雪ではあるが、さすがに反論もできないようで商品を棚に戻した。

 レジで精算した際に、夏樹は福引券をもらった。正月でもなんでもないが、この店が定期的に行っているイベントだった。

「せっかくだから、アンヨたんに任せてみたら?」

「そうだな、じゃアンヨちゃん、これあげる」夏樹は福引券を渡した。

「ありがとです」

 3人でイベントスペースへと向かう。


 福引のガラガラを回すやつで、アンヨちゃんがゆっくり回してコロリと出てきた玉は金色に輝いていた。

「一等です」アンヨちゃんがさらっと言う。

 店員さんが大声で当たりを叫び、衆目が集まる。おばちゃんたちから拍手と歓声が聞こえる。

 景品は、一万円分の商品券だった。

「はいです」アンヨちゃんがそれを、初雪に渡す。

「えっ、もらっていいの?」

「いや、ダメだろ。アンヨちゃんの物だよ」

 夏樹は制したが、アンヨちゃんが首をふった。

「アンヨはいらないです。お金を使うのは、おこづかいの分だけです。パパさんに言われたです」

 なんか、教育が徹底している家庭だ。そして、アンヨちゃんが立派すぎる。そしてかわいい。夏樹くんの母性が目覚めそうだった。

「ならこうしようよ、これでフリキュア商品買って、山分けしよう。いいよね、お兄ちゃん?」

 けっきょく初雪はほしい物を手に入れるわけか。世の中よくできている。というか、初雪に都合がよすぎる気がする。

「まあ、いいだろう。半分アンヨちゃんに行くなら、オレには否定する理由はないけど、できれば初雪の分で追加の食材を━━」

「よっしゃオッケー、フリキュアパラダイスだぜぇーっ!」

 最後まで話を聞くこともなく、初雪はロケットみたいに飛んで行った。


「お前……どうすんだよ、こんなに買って」

 商品券の額面分を使い果たした結果は、夏樹の予想を上回るものだった。

 しかも、夏樹は二本の腕で3つの袋を下げる結果となる。家を出て来る時には、こんな大荷物になるなんて少しも思っていなかった。

「毎朝フリキュアソーセージ食べればいいじゃん。オマケのカードはちゃんとわたしのところに持って来てよね」

 夏樹はすでにげんなりしていた。カルシウムに配慮した健康的な食べ物だとしても、毎日毎日そればかり食べていたら不健康になってしまう。初雪による長期的な兄殺害計画かもしれない。

「お菓子いっぱい、ありがとです! パパさんがお菓子大好きなので、きっと喜ぶです」

 アンヨちゃんも両手に大袋で、夏樹は申し訳なかった。「持てるので大丈夫です」とは言われたが、やはり申し訳ない。

 家まで送ろうかと言った夏樹たちに、アンヨちゃんはお礼を言ってから断った。

 夏樹たちの家とは逆の方向だし、それほど遠くではないという理由だったが、さして重量こそないとはいえ、デカイ袋を両手に下げた後ろ姿は心配にもなる。

「気をつけてね!」初雪が手をふる。

「はいです!」アンヨちゃんも、フィギュアの袋があるほうの手を上げて、それに答えた。

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