表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/127

朝になってもおかしい

「毘沙門ちゃん、意外と大きいんですね?」

 愛野梨理夢は同級生の胸をまじまじと観察する。

 見られている藤原毘沙門はというと、恥ずかしそうに胸を隠して、もじもじしている。

「あの、あんまり見ないで……」

「そんなに恥ずかしがる必要はありませんよ、わたしと同じくらいの大きさですから」

「そういう意味じゃ……」

 愛野梨理夢は止まらない。

「お背中流してあげますね」

 言って、毘沙門の全身を泡で包む。

 うしろから手をまわして抱きついたら、胸ばかりを洗いだす。

「いやあああ〜ん!」

 藤原毘沙門の切ない声が反響した━━


 風呂場から聞こえる悲鳴に、一同は耳を傾ける。

「なんか、りりちんとシャモちゃん、楽しそうだね〜」

 なぜその感想になるのか、夏樹は疑問に思う。毘沙門ちゃんの声は明らかな悲鳴に聞こえたが。

「お兄ちゃん、反応した?」

「は?」

 質問の意味も意図も理解しかねた夏樹だったが、初雪からはそれ以上の言葉も説明もなかった。

 すでに入浴を終えていた夏樹は部屋へ戻ってもよかったのだが、妹命令でいまだに拘束されていた。

 テーブルの上にはボードゲームが広げてある。

 是非とも自室で、女の子たちだけでやってほしかったのだが、夏樹も巻き込まれていた。

「そんでさ、けっきょくあたいのどの技が一番だと思う?」ヤバ子がボードゲームのルーレットを回しながら訊く。出目は1で、現金を没収されるマスだった。「くっそ」と、毒づく。

「そうじゃのぅ、けっきょくの話、もっともシンプルかつ効果的なのは顔面への突きかのぅ」キララちゃんが答えた。

「顔面陥没パンチな!」

 なんだそれは。やはりなにか物騒な女の子だな。

「あたい的には『脱腸おもらしキック』とか『アワビぱっくり固め』なんかも自信あんだけど、番長が言うなら、そーなんだろーな!」

 いろいろ問題がある名前ばかりだな。

 どんな技なのか気になることは気になるが。

 キララがルーレットを回して、自分の駒を進める。崖から落下して死亡からの異世界転生で、パラメータが最大になる。こうなるとすべてのマイナス要素を受け付けなくなるので、ひたすらお金が増えるばかりの無双モードに突入する。一位通過の最有力候補だ。

「わたしの会社が倒産しそうだから、残りの財産をすべて宝くじにつぎ込もう━━」

 春風ちゃんが宣言して、現金カードを場に並べる。宝くじ売り場から宝くじカードを引けるだけ引いて、裏返す。

 一等十億円の当たりを引き当てたようだ。

「よし、では会社を売却する」

 落ち目の会社を買わされたのは、最下位に沈む夏樹だった。

 なんなんだ、この酷すぎるボードゲームは━━思いながらも、終局までは付き合った。


「いいお湯でした〜。毘沙門ちゃんのエキスも最高でしたし」

 エキスって……男じゃなくてもいいんじゃないのか? 夏樹は渋面を作り、それを問い質そうとしたが━━

「安心してくださいお兄さん、女性のエキスは生命維持には役立たないので、おやつのようなものですから」と、先に言われてしまった。それにしても、おやつって。

 そして本当に、生命維持に男のエキスが必要な人なのか? いまだに謎である。

「うぅ……いろいろ、大変でした」

 毘沙門ちゃんが番長であるキララちゃんに報告していた。湯上がりでパジャマ姿の彼女たちに、さすがの夏樹も目を惹き付けられるものがあった。

 思わず見とれていると「シャモちゃん気をつけて、エロ兄がシャモちゃんの姿を腐ったどピンク色の脳細胞に焼き付けてるよ! 自家発電の燃料にするつもりだよ!」と初雪に言われてしまう。

 とんだ言いがかりであるが、どピンクかどうかは見たことないので知らないけれど、脳の保管庫のおそらくもっともセキュリティの高い場所に大切な記憶として残されたことは否定できない。

 役得と言えば、役得なのかな━━夏樹はこんな状況も悪くないなと思い始めていた。


 女子たちがまとめて初雪の部屋に入り、就寝までの時間をまだまだ楽しむようだった。

 当然ながら、6人も寝れるほどの大部屋ではなかったので、就寝時には半分が両親の部屋へ移ることになっていて、寝床の準備も整っていた。

 すでにベッドで横になっている夏樹であったが、どうにも壁一枚隔てただけの隣の部屋から声が届いて、すぐには眠れそうもなかった。

「お兄ちゃんが自家発電技師の資格を持ってるってわかったのが、小学校の時でぇ」

 わざとなのだろう、聞こえるような声量で話す初雪。ちなみに夏樹はそんな資格を取得した覚えがない。

「今、わたしの好きな男性はユキちゃんのお兄さんだけです!」こちらもわざとらしい大きな声で、梨理夢が言っている。たとえからかわれているのだとしても、夏樹はドキドキしてしまう。

「あたいには理解できねーな。言っちゃ悪いが、あの兄ちゃんじゃ熊も倒せねーぞ」

 いや、なに言ってるんだヤバ子ちゃんは。確かに夏樹に熊を倒す力はないが、それは他の人にも当てはまることだし、普通は誰も倒せないと思う。

 まるでヤバ子ちゃんならそれが可能みたいなセリフに聞こえる。

「いや、熊を倒せる必要はなかろう。少なくともわたしらの場合には、わたしたちが倒して差し上げればよい話じゃ」

「それもそーだな。だいたい世の中の男なんて、全員番長よりも弱いからな」

 キララちゃん、どんだけ強いんだよ。

 すべての男性を上回るとか、もはや兵器の域だろう。

「ところで愛野ってなんでしょっちゅう男子の縦笛舐めたりしてんだ?」ヤバ子が問う。

「以前にも説明したと思いますが、数日間しか男性エキスの効果がもちませんので、その前に補給する必要があるんですよ」

「なんか、めんどくせーんだな」

「母上のように性交渉ができれば直接高濃度のエキスを体内に取り込めますので、それが一番よろしいのですけれど━━」

「なんだよ、なら寿々木の兄ちゃんとでもヤっちまえばいいじゃねーか」

 ヤバ子、お前はほんとに子供なのか?

 夏樹はドキドキしながら耳に全神経を集中させた。

「それができればもうしています。ですけど、わたしにはエンジェルに転生するという大きな目標がありますので、それには貞操を守ることが必須となるんですよ」

「そうだよ、りりちんは18になったら処女転生して天使になるのが目標なんだ」

「もともとこのような体質の種族なので、歴史上でも2〜3人しか例がないのですけど━━わたし、どうしても天使になりたいんです。ぶっちゃけ、悪魔って嫌なんですよね」

「わたしとしてはどちらでもかまわないな。悪魔にしろ天使にしろ、人間ではないのだからな」春風が言う。「まあ、梨理夢がなりたいと言うのなら、わたしは応援する」

 どこからどこまで本気なのか、あるいは設定上の作り話なのか、夏樹には判断できない。

 その後も耳を傾けていたけれど、いつの間にか眠ってしまった。


 翌朝━━なんとなくエッチな夢を見た気がするけれど、どうにも思い出せない。

 夏樹はわずかに声を洩らしながら、目覚める。

 昨夜はいつの間に眠ったのか、それも覚えていなかった。

 上体を起こす━━と、目の前に誰かがいて、夏樹の布団の中に顔を突っ込んでいた。

 見ると、部屋の扉が開いていて、女の子たちが覗いている。

(なんだ、この状況……)ぼんやりとした頭は、まだ状況を理解していない。

 布団の中から顔を出したのは、妹の初雪だった。

「残念! モーニングエレクションなしです!」

 モーニング……エレクション……なんだ?

「うそだろ、朝に勃ってねーなんて、使い物になんねーじゃん!」

 なんだろう、なんかひどいことを言われている気がするけど、まだ寝ぼけているのでよくわからない。

「賭けはわたしと毘沙門の勝利だな」

 春風ちゃんが言い、ヤバ子ちゃんの肩を叩く。

「くっそ〜! ポテチ一袋はデカすぎんだろーっ!」

 頭を抱えて崩れ落ちるヤバ子。

 金銭感覚は年相応なのだから、できれば常識的にも人並みであってほしいものだ。

 ゆっくりと状況を理解していった夏樹は、そんなことを思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ