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妹のトモダチが全員なんかおかしい  作者: 虹ケ原光輝


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店舗大会でもおかしい

「あれっ、お前まだ寝てなかったのか?」

「うん、今からお風呂ー」

 アニメとゲームが世界中で支持されているような、いないような作品「ゲロキモモンスター」が誇る不人気キャラ、ビッチャ(じゅう)の着ぐるみパジャマを着た初雪が風呂場に向かうのを見て、声をかける。

「なにやってたんだよ」予想はついたが、訊いてみる。

「エイチシステムー。レベル71になったー」

「えっ⁉」

 こんな短期間で、そんなにレベルが上がるものなのか。自分用の本体もあるものの、いまだプレイしていない夏樹には、わからない。でも普通に考えて、プレイ時間の限られている初雪がそんなレベルまで上げられるとは思えない。それともなにか、裏技みたいなものがあるのだろうか?

 そして、なぜ夏樹がいまだにエイチシステムをプレイしていないのかといえば、その理由は翌日に控えたゲーム大会にあった。

 初雪がエイチシステムに移ったことにより空きのできたジンケンドーポチッチで、毎日毎晩、ひたすら練習させられていたからだ。

 夏樹としても、正直VRゲームのほうをプレイしたい気持ちが強かったが、半ば強制的にやらされていた。

『次の大会はお兄ちゃんも連れてくから、みんなの足を引っ張らない程度には強くなってもらわないと、生きてる価値がなくなるよ』

 ということで、いくらダイヤモンドのように硬いハートを持っている夏樹くんとはいえ、生きてる価値がなくなってしまうのはとてもツライので、がんばっているのだ。


 初雪も当然、明日の大会には出場するはずなのだが、ここ最近はVRゲームにハマっていて、ろくに練習もしていない。それに、こんな遅い時間になってから寝る準備をはじめるなんて、あまり翌日のことは考えていないようである。練習しなくていいくらい、ゲームの腕前によほどの自信があるのか、あるいはあまり本気ではないかの、どちらかだろう。

「わたし、ランクはカンストしてるから━━あとは仲間次第なんだよね」などということを、そういえば聞いたような気がするから、自信があるほうか。

 いずれにしろ、自分も明日は出かけなくちゃならない。夏樹もそろそろゲームを切り上げて、休むことにした。


 *****


 近隣ではもっとも家から近くて、もっとも大きい大手家電量販店のケースデンキ二階、ゲーム売り場前の特設コーナーには、早くも参加者や見物客が集まりはじめていた。

 寿々木兄妹が到着すると、夏樹の知らない男性が二人、こちらに近づいてきた。しかもそのうち一人は、高齢者に見える。というか、高齢者だ。

(えっ、なに?)と思い身構えると、初雪が挨拶して、向こうも挨拶を返す。どうやら顔見知りのようだった。

「紹介しよう、こちらは亀有(かめあり)カズミくんといって、お兄ちゃんのいっこ下の、高校生だよ」

「ちわっす、よろしくお願いします」

 夏樹がムムッと唸るくらいのイケメンで、同性から見ても魅力的な笑顔の少年が握手を求める。なんとなく渋りながらも握り返すと、頭を下げられた。礼儀正しいし、なんか、完璧すぎて嫌なタイプだ!

「カズミくんはスプレの予選でわたしたちと同じく一回戦負けしたチームのリーダーだったんだけど、わたしと同じくチームの中では一番うまくて、他のメンバー次第では間違いなく全国行ってるレベルの腕前だったから、引き抜いたんだよ」

「へぇ、そうなんだ……」

 あっさり「引き抜いた」なんて言うところが初雪らしいが、その裏では「春ちゃんとシャモちゃんとアンヨたんはクビにしたから」なんてことがあったりするので、やはりとんでもない女である。初雪は。

 我が妹ながら、末恐ろしい━━そんな夏樹に、もう一人の男性が紹介される。男性というか、どう見てもおじいちゃんなんだけど……。


「この人は、バブル景気の時に土地転がしでウン十億円の利益を出して、その利益で満足してバブル崩壊前にぜんぶ売り抜けて大成功してから三十年近くまったく働かないでゲームばっかりやってたら、誰にも知られていないプロゲーマーみたいになっちゃった仁科(にしな)金銀(きんぎん)三郎(さぶろう)次郎(じろう)おじいちゃんです」

 んー……あー、なんかいろいろ情報が多くてごちゃごちゃしてるぞなんだこの人━━とりあえず三郎なのか次郎なのかどっちなんだよその名前。

「ちなみに兄弟はいなくて、長男です」

「長男かよ!」三郎でも次郎でもない。一郎はどこへ行ったんだ。

 無茶苦茶だな、名づけた両親。両親がつけたかどうかはわからないし、わりと高確率でご存命ではないだろうけど。

 はるか歳上のかたに、思わずツッコミを入れてしまったじゃないか。

「こんにちわ、よろしくどうぞ。初雪ちゃんの頼みじゃ断れねえからよ。この歳んなって、こんな大会出るとは思わなかったべ」

 そう言った仁科金銀三郎次郎さんは、御歳(おんとし)71歳だというのだから、本当におじいちゃんだった。「わたしのレベルと同じだね」と初雪が言う。


 大会当日にはじめて顔を合わせた急造チームではあったが、それぞれの役割分担を、簡単にではあるが打ち合わせしておく。

 夏樹が言われたのは「お兄ちゃんはとにかく相手と戦わないように、逃げまくって。倒そうとしなくていいから、まずやられないよう注意して、あとはひたすら塗りまくってくれれば、あとは三人でなんとかなるから」

 要するに、戦力として考えていないから余計なことはするな、という話だった。逆に言えば、そんな夏樹がいても大丈夫なくらいに、他の三人がうまいということでもあるのだろう。


 開始時刻になり、スプレトゥーンのケースデンキ大会がスタートした。

 同時刻、東京の会場では全国大会も開催されていて、そちらもネット配信で見られるはずだったが、それよりもこちらの大会を見ようとやってきた奇特なギャラリーはかなりの数にのぼっていた。

 ゲームの人気もあっただろうが、店舗側も期待した以上の盛況ぶりに、驚いているようだった。


 予選は、異なるチームとぜんぶで3回対戦して、その勝利数により決勝トーナメントの出場チームが決まるようだった。

 勝利数が同じチームの場合、ゲーム中のポイントをより多く獲得したほうが上回る、というルールだった。

 さっそく、予選がはじまる。

 出場各チームが順番に、対戦をはじめていく。店舗大会のわりには台数が用意されていて、複数チームがいっぺんに試合を行うことができた。


 初雪チームも、くじ引きシステムによるマッチングで、最初の対戦相手が決まった。

 夏樹は緊張していたが、それよりも仁科のおじいちゃんが注目されていて、辺りがざわついている。紅一点の初雪も違う視点で注目されていて、男性たちが一斉に動画を撮りだした様子がうかがえた。

 どうやら誰も自分のことなど見ていない、ということに思い当たると、緊張もあまり感じなくなってくる。

 ちょっと悲しいけれど。


「チーム『寿々木塗装店』が圧倒的強さで全勝、決勝トーナメント一番乗りを決めました!」その時点でのポイント差で、決勝進出が確定する。

 お店の人のアナウンスに、歓声が上がった。


「そういや、チーム名変えたんだな」

 確か、前は少し違う名前だった気がする。

「うん、まあね。前のくそ弱━━おっと失言、以前のチームとは違うってことで、ちょっとだけ変えました」

「ほとんどそのままだけどな」


 初雪と亀有くんの連携プレイはすさまじく、相手に隙を見せなかった。どちらかが数敵不利になりそうだと見るや、すぐさまもう一方がカバーリングに入って、難を逃れる。理想的なプレイで、ポイントを荒稼ぎしていた。

 そして、最大のサプライズだったのが、仁科のおじいちゃんである。

 いったいどれほどの腕前かと期待していたら、期待をはるかに上回る活躍は、まさに一騎当千の無双状態そのものだった。

 初雪と亀有くんが二人がかりで切り抜けるような状況になっても、仁科のおじいちゃんは単独で迎撃、全員を返り討ちにしていた。

 敵わないと見たプレイヤーは仁科のおじいちゃんが操る<きんぎんパールくん>に近づかなくなったし、熱くなって何度もリベンジに向かったプレイヤーは、何度も何度もやられつづけた。

 ゲームに年齢は関係ないのかもしれないが、それにしても異常な腕前の持ち主である。


<ハツユキ>と<アリカメ>と<きんぎんパールくん>がフィールド全域で猛威をふるい、戦場の間隙(かんげき)()いつづけた<ナツキ>が効率的に陣地を拡大してゆく。

 実はたいしたことない実力の夏樹でも、他の三人がすごすぎることで、一人だけ違った、効果的な動きをしているとの高評価を得ることになった。

(分不相応な評価って、心苦しいな……)

「あの人もうまい!」なんていう子供の声に、そんなことを思う夏樹。

 正直、どれだけ練習してもランクBより上に行くことができなかったので、つまり、その程度の腕前なのだが、他のメンバーの影響だけで、凄腕プレイヤーだと思われていた。


 そんな隠れた素人を抱えた「寿々木塗装店」だったが、いくらか腕に自信のあるプレイヤーも参加していたとはいえ、そこはやはり店舗限定大会である━━全国クラスの強さを見せた初雪チームを上回る実力者など存在せず、予選の結果そのままに、なんの波乱もないままで、あっさり優勝まで駆け上がったのだった。


「や、やったー! ついに念願の栄冠が、我が手に……なんかもらえるんですか?」

 現金な初雪は、すぐさま店員に確認する。

 優勝商品はなんと、メンバーそれぞれにジンケンドーポチッチの本体と、お店のポイントが一万円分と、さらにオリジナルトロフィーが授与されるといった豪華なものだった。

 お店もかなりの気合いを入れてやっていたということが、終わってからようやくわかった。これがあったから、参加者も多かったのだろう。


「いやあ、しかし強かったね、わたしたち。仁科のおじいちゃんなんて、多分日本で一番か二番くらいのうまさだと思うよ」

 現地で解散したあと、帰路の途中で初雪が語った。

 二人とは連絡先の交換もしているらしく、ちょくちょく連絡を取り合う仲なのだとか。

 亀有くんが「エイチシステム、予約できなかったよ」という話をしていたが、仁科のおじいちゃんは「転売屋から買った」と言って、自慢していた。

 いくらで買ったのか訊いてみたら、なんと百万円だった。いくらなんでも、定価の十倍はひどすぎる。


 そんな彼らの、大会での結果や試合の様子がネット上にアップされると、あっという間にその情報は拡散した。

 ━━電気屋大会の優勝チームがヤバい。

 ━━全国大会の優勝チームより強いんじゃね?

 ━━女の子かわいい。

 などなど、全国大会決勝よりも反響が大きかったことで、ちょっとした事件になった。

 のちに、雑誌などでも取り上げられることになるのだが、なんと言っても極めつけは、全国大会優勝チームのメンバーが「いや、うちより強いかもしれないです、マジで」と発言したことだろう。

 なぜこれほどのチームが全国大会に出ないで電気屋の店舗大会に出ているのかという謎もあって、ネットは大いに盛り上がった。

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