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夏祭りだっておかしい

 闇谷町で最大の規模を誇る『岸川でゅいんでゅいん公園』に華やかな屋台が立ち並んだ。

 中学校のすぐ近くにあるその公園は、年に一度の夏祭り会場として使われており、名前の由来は、公園が作られる以前、元々その土地に住んでいた名物おじいさんの口癖なのだとか。


 予定された時刻よりも早く、大勢の、ほとんどすべての町民がわらわらと集まりはじめていた。

 その中には、初雪たち一行の姿も、もちろんあった。彼女がこのようなイベントに顔を出さないわけがない━━気の合う仲間を引き連れて、公園の入り口に姿を見せた。


「この雰囲気、集まる町民たち……祭り。なにはなくとも活気がある。そして、お兄ちゃんという財布がある」

「オレはいつからお前の財布になったんだよ」

 親からのお小遣いが入金されたばかりであるが、もちろん妹もそれを知っているので、財布の中身が狙われているのはわかっていた。

 自分だってお小遣いは貰っているはずだが、初雪の場合、購入予定の品物が多すぎるので、なにかと理由をつけては夏樹にお金を払わせる。

 特に連れだって出かける場合、最初からその目的で誘うなんてことも、よくやった。


「うわぁ、いろんなお店がありますねー。どれも魔界では見ませんので、新鮮ですー」

 梨理夢はアンヨちゃんの手を引いて歩きながら、右へ左へと忙しく顔を動かしていた。

「あ、向こうに射的屋があるぞ」

 春風がそれを見つけて、初雪に教える。

「おお、ほんとだ。射的といえば……わたし! なぜならば、銃の扱いに慣れているから」

 その言葉は冗談のようであるが、残念ながら冗談ではなく━━この歳にして、しかもこの国にいて、なぜか銃の扱いを経験している初雪は自信満々で向かっていく。

「お財布ちゃん、お金」と言うことも忘れなかったし、すでに兄ではなく財布であると、はっきり言われてしまったようなものなので、なんだかとても悲しい。

「おっちゃん、わたし射的やるよ!」

 お金を叩きつけるように置き、にやりとする初雪。

 だが、結果から言うと、お菓子の箱ひとつとして、倒せはしなかった。

 最後の一発なんかは、景品ではなく店のおじさんに命中したが、もちろんおじさんは景品ではないし、倒れもしていないから獲得はできない。

 本当に悔しかったのか、頭を抱えた初雪は「なんで!」と言って、こちらを睨んだ。

 いや、睨まれたってどうしようもないんだが。


「なんじゃ、初雪。銃が得意ではなかったのか?」

 かけられた声に振り向くと、やや低い位置にキララちゃんの顔があった。よく一緒にいるヤバ子ちゃんやしめり姫の姿はなく、今は一人だった。

「キララちゃん、来てたんだ」

 そう言った夏樹に顔を向けて「もちろん。こんな時こそパトローラーの出番だろう?」と、笑顔で答える。

 キララちゃん、パトローラーだったんだ。と、今まで知らなかった事実が伝えられる。町の平和を守っている、と聞いたことがあったような、なかったような。いずれにしろ、その強さを生かした活動をしている、ということなのだろう。

「裏社会の連中もいるからの、アーネストのボスも来ているみたいじゃし」

 と、示す方角には一際目立つ、コートの黒人。背が高いので、人混みですら関係なく、その所在がはっきりわかる。

(そういやアイツも出かけてたっけ……まさか同じ場所とは思わなかったな)

 確かに、セニョールは裏社会に存在する組織の最高権力と聞いてはいたが、すっかり忘れていたし、忘れていいものだと考えていた。

 それに、あのコートの中身が今も全裸である可能性を考えると、ちょっとハラハラする。家では服を着るようになったけれど、外出時の格好までは把握していない。

「こういうものは、ただやってもなかなか倒せるものじゃない。小さなお菓子くらいなら、まあ倒せないこともないが、あんな、戦隊ヒーローの合体ロボなんて、まず無理じゃろう?」

 確かに━━初雪もなんだかわからないけど、それを狙って撃ったが、弾を当てたところでなんの変化もなかった。コルクの弾で動かせるような代物ではない。

「じゃから━━銃と、弾に気を込めてだな」

 と、お代を払ってから、キララちゃんは銃を構えた。

「こうやるのじゃ━━」

 と、引き金を引くと━━

 ズゴバキガッシャメキャズドーンとかいって、景品どころではなく、屋台そのものが吹き飛ぶように崩落した。

 下敷きになったおじさんが「なに? なに?」と言っているのが聞こえたので、無事のようだ。

「ありゃ、やりすぎちゃった……てへっ☆」と、普段の口調とはまったく違う感じで、キララちゃんはぺろりと舌を出してみせた。が、そんなものでは相殺されないほどの状況である。

「ララちゃん……やりすぎやんか」

「すごーい、全部ゲットですね!」

 と梨理夢は喜んだが、もちろんそんなはずもなく。「ダメだ! ダメダメ! 全部倒れたけど倒れたってゆうか潰れたからダメー!」と、助け出された店のおじさんに怒られてしまった。

 ただ、不幸中の幸いで、屋台自体はごく簡易的なものであったので、すぐに建て直された━━のだが、商品のほとんどが傷物になってしまい、結局、不幸中の不幸となってしまった。

「ごめんちゃい」

 あの最強伝説キララちゃんが、まるで怒られる小学生みたいな姿を晒し、頭を下げつづけるのを眺めていたら、その近くで梨理夢がキョロキョロしているので夏樹がなにかと訊いてみる。

 すると、梨理夢が「アンヨちゃん、どこに行きましたか?」と言うので、全員で辺りを見回してみると、なんと隣の屋台の屋根の上に、アンヨちゃんの姿があった。

 どうにか降ろしてやってから、何があったか訊くと「さっきので、飛ばされたです」ということだった。

 いや、確かにすごい衝撃ではあったけど……。


 *****


「わたあめってさ、ズルんこだよね。中身なんて変わんないのに、こんなフリキュアの袋に入れたりしてさ━━買っちゃうじゃんか」

 怒っているのか喜んでいるのか、とにかく美味しそうにわたあめを舐めながら、初雪。

 買ってもらうために、そういう袋に入れていると思うんだけど。

 しかもちゃんと欲しくて買ってるんだから、文句言わずに食べればいいのに……なんか、テレビに向かって一から十まで文句を返すおっさんみたいなところがあるよな、初雪は。などと思いながら、特設ステージ前で、空いているスペースを探して歩く。

 このあと開催予定の、のど自慢大会を見るための場所取りだった。


「わたしとはっちゃんがエントリーしてますので、応援してください」

 そう言ったのは季瀬姫だった。

 夏樹は、えっ、と聞き返す。

「季瀬姫ちゃん、出るの? 初雪も?」

 まったく聞いていなかった。

 いつものことではあるが、兄には一切の情報を与えないというスタンスが、どうやら徹底されているらしい。

「まあねー。わたしはほら、歌手デヴューが決まってるわけだしさ、その練習がてら」

「そうそう、ユキちゃんがアイドルなんて、すっごい似合ってると、わたしは思うなぁ」

 梨理夢がキラキラした瞳で、初雪を見る。

「まあねー。わたしはほら、生まれつきアイドルみたいなわけだしさ、自然の成り行きというか、(ことわり)というか」

 そんな理があるなら、この世界はイカレていると思うが、自信があるのはいいことだ。多少は過剰なところもあるが、ないよりはマシだろう。

 初雪のアイドル歌手という進路を、仲間たちは応援してくれたらしく、夏樹としても、その気持ちはありがたかった。

 人によっては嫉妬の炎を燃やしそうな話だけに、素敵な仲間に囲まれた妹が羨ましくも思う。


 先に登場した季瀬姫の曲は、なんだか想定外の高速デジタルロックで、ちょっと彼女のイメージとは違うものだったので、違和感がすごい。けど、なかなか歌い慣れたもので、終わるころには違和感もまったくなくなっていた。

 へー、季瀬姫ってこういう曲を聴くのか━━と、新たな一面に感動すら覚える。

 そしてとうとう、我が家の━━いや、この町の問題児、初雪の登場である。


 まだ歌手デヴューもしていないし、町民にその情報は行っていないはずなのに━━まるでアイドルが登場したような大歓声が上がった。

 つまり、この町の中では、それほどの認知度があって、なおかつ大勢に愛されていることの証明であった。

 デヴューなどしていなくとも、初雪は、この町のアイドルなのだ。

 選曲は、フリキュアのエンディング曲だったけど……。

 それに、自由奔放な歌いかたは、けして悪くはないがうまいというわけでもなく、あれでほんとに歌手になんてなれるのか? と、兄は大いに疑問だった。

 いくら月夜野ふぐお太郎とて、あれを一流に仕上げるには、相当な苦労を必要とするのではないか……。

 まだ先のこととはいえ、不安を感じる夏樹だった。


 ちなみに、のど自慢大会の優勝者は初雪でも季瀬姫でもなく、見事な歌唱力で演歌の名曲を歌い上げた五歳の女の子だった。

余談であるが━━なにやら人だかりのできている屋台に近づいてみると、ネットで動画配信をしているという若い男性たちがくじ引き屋のくじを引きつづけていた。


当たりが出るまでやる、とのことで、すでに十万円分のくじを引いているらしい。なんでそんなにお金を使えるのか、使うのか夏樹には理解できなかったが、妹によると、その動画で大金が稼げる人たちで、だからそんな使い方ができるし、仕事としての企画でもある、ということだった。

なんにしても、夏樹には真似のできない話だ。


「おじさん、これほんともうシャレになんないですからね。当たり出なかったらマジで警察ありますんで」

さすがに不機嫌な様子で、若い男性が告げる。

そのうしろから初雪が「ねえねえ、わたしたちにも一回引かせてもらっていいかな、お兄さん?」と声をかける。

男性も、一般客を優先するという気持ちはあったようで「いいけど、当たり出ないよ」と笑って答えた。


「行ったれ、アンヨたん」

そう言ってアンヨちゃんにくじを引かせる初雪。

すると━━

「はい、当たりです!」

アンヨちゃんがめくった紙には『特賞』の文字。

「えっ! うそっ、マジで? ポチッチ?」

男性が信じられないものを見たように、目を大きく見開く。

さすがはぼくらのアンヨちゃん、運が違う。一発(五百円)でジンケンドーポチッチのゲットに成功した。


商品を渡す際に店のおやじが「あれ、これ、当たり入ってたっけ・・・」と呟いていたのが聞こえたような気がしたけれど、聞かなかったことにする。

動画を撮影していた男性たちも、これはこれで撮れ高になったようで、笑っていた。

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