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妹のトモダチが全員なんかおかしい  作者: 虹ケ原光輝


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探偵事務所がおかしい

 駅前商店街の裏道。路地裏。なんでもいいが、人通りの減る一角に、その建物はあった。

 カフェ『フィッシュオウル』━━どう見ても喫茶店であるし、それ以外には見えない。

「ここのマスターが探偵を?」

 そうなのかなと思い、言ってみたら初雪に笑われてしまう兄。

「そんな兼業、聞いたことないでしょ」

 確かにな。

 でも、世の中にはいるかも知れないじゃないか、と夏樹は思うが、多分いない。

「ほら、『名探偵湖南省』でもそうじゃない。探偵事務所の一階が、喫茶店っていう。元々はなんかの推理小説から来てるらしいけど、それはわかんないから湖南省くんのイメージだよね」

 そう言われて見てみれば、確かに建物は二階建てだったし、喫茶店は一階に店舗がある。

 にしても━━看板の類いもなにもない。

 湖南省くんの作中だと、窓ガラスだかにでかでかと「毛水沢探偵事務所」とか書いてあるのだが。

「ちなみにうちの生徒会長と同じ名前なんだよね、湖南省くんの探偵」

 その情報は別にいらなかったので、夏樹は無視して話を進める。

「でも、どこにも看板なんてないぞ? 本当にここの二階で合ってるのかよ?」

「ここに、ほれ」

 喫茶店の横に、二階へと通じる階段があって、その昇り口に小さい表札みたいなのが貼りつけてあった。


浄玻璃探偵事務所じょうはりたんていじむしょ


「これじゃ、誰も気づかないような」

 夏樹など、言われてもすぐには気づかなかったほどなので、よほど詳しく知っている人じゃないと、この上が探偵事務所だとはわからないだろう。ネットで調べられるのだろうが、それでも不安に思うはずだ。

「ここの所長、変わった人で商売っ気がないからだと思うよ。宣伝するつもりないもん」

「それは、変わってるというか、商売に向いていないのでは?」

 そんな探偵事務所へと向かう階段は狭くて、二人横並びでは歩けなかった。

 気づきにくい小さな表札以外に案内もなく、本当に行って大丈夫なのかという気持ちになる。一人では多分、引き返してしまうだろうと夏樹は感じていた。


 二階に扉は一つしかなく、その横にも「浄玻璃探偵事務所」の表札があったので、どうやら間違いなく存在しているようだ。

「今さらだけど、本当に入るのか?」

 気後れしまくっている夏樹は、妹のうしろに隠れるように立ちながら、確認する。

「まあまあ、ビビるのもわかるけど、わたしがいるから大丈夫だよ。本当、お兄ちゃんはわたしがいないとダメだなぁ」

 そんなことはないが、今に限ってはそんなこともあるので、言い返すことができない。


 初雪が呼び鈴を鳴らすと、ほとんど待たされることもなく、扉が開かれる。

 立っていたのは、透き通るような白い肌をした、ものすごい美人の女性だった。

 しかも髪の毛が銀色に輝いていて、瞳の色も青みがかっている。

(外国の人?)

 どう見ても日本人の血ではない要素しかない人だった。

 まずはじめに心配したのは、言葉が通じるのかという部分だったが、その心配がないことがすぐにわかった。

「まあ、いらっしゃい、初雪さん」と、その女性は完璧な日本語で対応してくれた。

「どうもです、遊びに来ました」

 初雪はそう言った。依頼ではなく、遊びに寄っただけだと。

 このあたりに、なにかカラクリがありそうだ。というか、うまいこと言って金を払わないつもりに違いない。

 初雪は、そういうことを平気でやる。

「どうぞ、お入りください」

 招かれた兄妹は、探偵事務所へと入った。


 部屋の奥━━デスクの向こうに座っている人物を見て、夏樹は再び衝撃を受ける。

 陽光を受けて輝く髪の色は、赤。

 やべぇ人なんじゃないかと思ったが、こちらの人物もまた女性で、やはり顔立ちの整った美人さんだった。

「所長ぉ、こんにちは〜」初雪が挨拶する。

 ということは、この女性が探偵事務所の所長ということだ。

 てっきり男性だという先入観があった夏樹は、そこにも驚いていた。この事務所は女性しか所属していないのだろうか━━そう思った矢先、別の部屋からお盆を持った若い男性が現れた。

 こちらは特にイケメンというわけでもなく、ごくごく普通の男性に見える。夏樹よりは歳上だろうが、それほど変わらない年齢に見えた。

「よかったら、コーヒーをどうぞ」

 言って、来客用のテーブルの上にカップを置いていった。すぐに、別の部屋へと戻ってしまう。


「やあ、また来たね初雪ちゃん」仕事用のデスクから、来客用のソファ━━夏樹たちの向かいに移った所長さんが、笑顔で言う。

 所長さんは近くで見ると、更に美人なのがよくわかった。女優なんかの仕事をしても良かったのではないだろうか━━どうして探偵なんて職業にしたのだろう。と、夏樹は不思議だった。


「なんかここ、っていうか所長さんといると落ち着くんですよね〜。癒し人間ですか?」

 意味のわからないことを言う初雪。

 そしてそれにまともに答える所長さん。

「そう、わたしは癒し人間なのだ。そして探偵であり魔術師であり異次元生物であり伝説のフリキュアでもあるのだよ!」

「やったぁー! 所長サイコー!」

 なんだ、この二人。

 気が合ってる……?

 そしてフリキュアなのかよ、この所長さん。

「ところでお隣は彼氏?」

 所長さんがフザケタことを言うので、慌てて否定する夏樹。

「違います、オレは、初雪の兄の夏樹といいます」

「うん、知ってる。よろしくね、お兄ちゃん」まるで初雪みたいな喋り方で(わざと?)そう言った所長に、少しだけ腹が立つ夏樹。

 なんだろう、未来の妹でも現れた気分だ。

「はい、一応、名刺」

 言って、夏樹は探偵の名刺をいただく。

『メルトダウンフリキュア』のキュアワンショットキルが印刷されたおかしい代物だった。

 著作権に問題がある気がする。

「ちなみに、フリキュア作ったのわたしなので、著作権に問題はありません」

 と、所長は言った。

「ええーっ!」夏樹は驚いて声を上げたが、初雪は知っていたようで黙っている。

「まあ、世界観とか作品ごとのフリキュアや設定を提案してるってだけで、実際に作品を制作しているわけではないけど」

「それでも、神ですよ!」と、初雪は言う。「まさに造物主! 創造神!」

 フリキュア命の初雪にとっては、確かにそうなのだろう。

 よく見るとこの事務所、ところどころにフリキュアグッズが散見される。

 所長さんのデスクにも、フリキュアのフィギュアが飾ってあるじゃないか。

 薄暗い室内に感じていた違和感の正体は、はっきり言ってそれらのフリキュアたちだった。


「さて、おそらくなにか聞きたいことがあって来たんじゃないかしら?」

 所長さん━━名刺によると、浄玻璃緋叉子(じょうはりひさこ)さんが、まるでわかっていたかのように訊いてきた。

「そうなんです、ちょっと初雪探偵団の捜索が失敗に終わったので、神に助けを求めて来ました」

「よろしい、言ってみたまえ」

「実はですね、ミミズちゃんちのルシファーちゃんが行方不明で━━」

 初雪は、兄に最初にしたのと同じ話し方で説明した。

 伝わるわけない。

 はずなのだけど?

「ミミズちゃんちのルシファーちゃんなら、多分三軒お隣の山田さんちのパトリシアちゃんの犬小屋の中に隠れていると思うよ」

 と、浄玻璃所長は予想した。いや、予想なのだろうか。ほとんど、確信があって断言したようなものじゃないだろうか。

 探偵というよりは、超能力者だ。

「なるほど、そんな盲点に!」

 なにも、一切疑問に思わないのだろう、初雪は信じきっている。

 まだ、いるかどうかもわからないのに。

 子供相手の、適当な話だっていう可能性もある。なにしろ、所長さんはルシファーちゃんの写真すら見ずに答えたのだから。


 で、その後の話━━その情報を持ち帰った初雪が依頼主のミミズちゃん(やはりまともな呼び名とは思えない)と一緒に、彼女の家の三軒隣を捜索したところ、その家の犬小屋の中に本当にルシファーちゃんがいたというのだから驚きだ。

 どうもその家のパトリシアちゃんとかいう犬と仲良く━━必要以上に仲良くなりすぎて、同棲みたいなことになっていたらしい。

 犬なのに。

 ともあれ事件は解決し、初雪の探偵としての(?)面目は保たれたというわけだ。


 それにしても、あの探偵事務所の所長は、なぜ言い当てることができたのか。

 謎は深まるばかりだ━━。

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