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日比野春風もおかしい

 日曜の朝っぱらから、初雪の友達が遊びにきていた。

 夏樹はまだ朝食も食べてはいないのだが━━妹とその友達の日比野春風(ひびのはるかぜ)ちゃんがリビングの大型テレビを占拠して、フリキュアを試聴している。

「すげー、ゴンタちゃん人間化したよ春ちゃん!」

「最近このパターン多いな、人間になるやつ」

 春風ちゃんは、初雪とは小学校からの親友で、よくうちにも遊びに来るから慣れてはいるのだが━━なんとなく、特異な性格の持ち主ではあった。

 端的に言うと、普通の女の子っぽくない。


「なんでわざわざクソみたいな人間になるかね。せっかく素敵な妖怪だったのに」

 言葉がキツイ。そして人間を毛嫌いしているという変人だ。

「ゴンタちゃんは妖怪じゃなくて妖精だよ春ちゃん」

 律儀に指摘する初雪。

 春風ちゃんはどうでもいいという表情だったが。

 放送終盤、フリキュア変身のシーンで初雪が立ち上がり、叫ぶ。

「愛しさと切なさとシリコンチップの神、キュアデスペレーション!」ポーズを決める。


 もう中三だし、受験生だと思うのだが、大丈夫なのか妹よ。

 妹思いの兄・夏樹は親代わりの心配が尽きない。

「いやあ、倒した倒した。今週のガムシャラ蟲はミヤマクワガタに転生したね!」

「人間よりはだいぶマシだな」

 そろそろエンディングテーマが流れる時間だ……また呼ばれるだろうか。呼ばれるんだろうな━━この二人が揃っていた時に呼ばれなかったためしはないし。

「さあエンディングダンスの時間だよお兄ちゃん! 早く来いっつーの。三人いないと揃わないんだから!」

 夏樹はやれやれと肩を落として、それでもちゃんと女子中学生二人の横に並び立つ。

 アニメのCGに合わせて躍り狂った。

 初回放送の時点で妹に叩き込まれているので、その動きは正確であり完璧に揃っていた。

 エンディングが終わった時点で黙したまま台所へ向かう。お礼も感想もなにもないのはいつものことだ。


「お兄ちゃん、今からわたしたち買い物行くけど、荷物持ちのために一緒に行こうよそうしようよ」

 読書家の夏樹は漫画を読むのをやめて部屋を出る。

 初雪たちの言う「買い物」は大抵アニメショップなのだが、興味はともかく妹たちのボディーガードがてら、ついて行くことはよくあった。

 どうせ暇だしな━━呟いて、財布をポケットに突っ込んだ。


「お兄ちゃんお腹空いた。すき屋いこうすき屋」

 とても女の子らしくない二人は、たとえ二人きりでもすき屋とか吉野屋なんかに平気で入る。別に悪いわけじゃないが、もっとスイーツなお店にも興味を持ってほしい気はする。

 ともあれお昼時なので、地下鉄に乗る前に、三人で食事をすることになった。

 おそらくは、夏樹のおごりで。


「お、お、お、お兄ちゃん!」

「なんだよ、あんまり大きな声だと迷惑になるだろ」

「そんな偽善者みたいなこと言ってる場合じゃないよ!」

 我が妹ながら、酷いことを言う。善悪というよりも、ただの常識的な忠告のつもりだったのだが。

 夏樹は嘆息する。

「見てこれ! 七百円以上のレシートでオリジナルのフリキュアどんぶりが当たるチャンスだって!」

 目を爛々と輝かせて、興奮を隠さない初雪。

 春風ちゃんは冷静にメニューを選んでいる。

「全員七百円以上のメニューで決まりね。これは絶対命令なので逆らったらお陀仏だから」

 ちょっと待て━━それだと並盛が頼めないじゃないか。しかも大盛でも届かない。セットメニューやサイドメニューの力を借りなければいけない。夏樹は諦めて財布の紐をゆるめようと、仕方なく決意した。


 結局、三人の昼食代は二千円を越えた━━しかも小賢しい初雪のアイディアで、三回分の応募を可能にするためにそれぞれ個別に注文して、一人ずつ会計を済ませるという作戦をとった。

 なので、これも初雪の提案で、なぜか夏樹の財布から初雪と春風ちゃんに一枚ずつの千円札が手渡された。

 そして、レジにて三枚の応募券をゲットすることに成功。

 応募券に書かれたシリアルナンバーをWebサイトから入力すると、その場で当たりハズレがわかるらしい。

 三人がそれぞれのスマホから挑戦した。

 夏樹はあっけなくハズレた。

 見ると、初雪が頭を抱えて地面に膝をついていた。

 店の前で、人通りがあるからやめてくれ。

「くわあああっ、ハ・ズ・レ!」

 そんなに欲しかったのか。なかなか立ち上がらない。

「おっ……わたしの当たったみたいだ」

 がばっと立ち上がり、春風ちゃんの腕に絡みつく初雪。瞳孔が開いたような目をして、彼女のスマホを覗き込む。

「ほんまや、ほんまに当たっとるで、春ちゃん━━」

 関西の人が聞いたら怒りそうな口調で、初雪が呟く。

「わたしはいらんから、初雪にくれてやろう」

「おおお、あなたはやはり女神さまぁ……わたしが愛した女神さまぁああああ」意味のわからないことをほざいて、初雪は春風ちゃんに抱きついたままその胸に顔をうずめた。


 ピコチンピコチンと、なにやら変な音がする。

 春風ちゃんのスマホかと思ったら、スマホではない謎のドラゴンレーダーみたいな代物を取り出した。

 コンパクトミラーのサイズだが、コンパクトミラーではなさそうだ。

「妖怪反応アリだと? こんな街中で、まさか!」

 またなんか、意味不明なことを言い出した。

「あ、それって妖怪レーダーだっけ?」初雪はご存知だったらしい。

 現状、夏樹だけがおいてけぼりというわけだ。

「そうなんだけど━━どこだ?」

 春風ちゃんが辺りを見回す。もちろんだけど、妖怪なんていやしない。

 不意に走り出した春風ちゃんが痩身の男性を呼び止めて、訊く。

「あなたは妖怪ですか?」

「……いえ、違います」

 まあ、そうだろう。

 かつてこれほど失礼な質問があっただろうか、というレベルの質問にも男性は怒らずに、しかし納得のいかない表情をしたまま去ってゆく。

 ━━本当に申し訳ありません、お兄さん。と、夏樹が心の中で謝罪する。

 これも失礼な話だが、確かに妖怪といえば妖怪みたいなお兄さんだったけれど、誰がどう見ても完全にヒューマンだ。

 女子中学生にバカにされたと、気分を害したことは間違いないだろう。


「あっ、反応が消えたぞ━━くそっ、逃したか」

「残念だったね春ちゃん。またの機会にがんばろうね」

 いったいあの子らはなにゴッコをして遊んでいるのだろう。

 せめて自分が巻き込まれていないことが救いか。

 夏樹はそう考えていた。

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