第六話〜救いの手、その意味〜
全てにおいて不自由のない生活を送っていた、この国の王女フランシスカは不自由のないことに不満を感じていた。
最高の食事を食べれば感動した。しかし、最高であるために次の感動はなかった。
最高のドレスを着れば喜んだ。しかし、最高への慣れのために喜びの対象が狭くなった。
最高は、至上であるとともに平坦さをもたらした。今、フランシスカには生活に対する活力がなく、無味乾燥な日々に絶望すらしていた。
なんて自分は不幸か、なぜこうも不幸か、日々の思考は負の連鎖を導いていた。
今日も、陰鬱な気分とともに窓辺で外界を眺めていたフランシスカは突然のその光景に言葉を失った。
もう今となっては唯一といっていいほどの楽しみ、美しきパーライトの木々のもたらす絶景もこの季節となると花は散り、まだ、地に花弁を残すことにより彩りはもたらしているものの、それらはフランシスカに悲しみしか与えなかった。
しかし、今、この瞬間には、花々は意思をもったかのように踊り、風が唄い、それに誘われるかのように鳥達が集まった。
王宮にて華やかな舞踏会に慣れているフランシスカにとってもその光景は幻想的で、心奪われた。
この情景はそれまでの平坦な心に探究心を与えた。そう、本当の感動や喜びは儚く、求めねば去り行く。手を自分で伸ばさねば届かない。その空間は奇異で助力は無い。
焦燥、渇望、欲望この美しい光景を前になんと浅ましいか。でもこれが人。私は今までなにをしてきたのか?最高を与えられながら何を見てきたか?何を活かしたか?
「待って!」
ひどく自分が愚かしかった。手を伸ばすしかできない自分。そんなものでは手に入らないことはわかっている。でもどうしろというのだ!どうしろと!
そのときだ…伸ばした手が掴まれた。まるでこの奇跡を見せた精霊が手を差し伸べてくれたようだった。
安全の籠にいるのは私。その外にいるのは彼。救われたのは私。手を離したくないのも私。
求めるのは私。彼は…
「君の名前は?」
ただ一言。私に奇跡を実感させるように囁いた。