第五話〜奇跡の在り方〜
友人リードの突然の訪問を受け、門番フランクはとにかく驚いていた。
なにしろ、ここは王宮だ。友人だからといきなり訪ねられても自分になにも権限はない。今、この時間に限っては、この身すら自由にはならない。
今自分は誇り高き門番なのだ。しかし、それくらいリードもよく知っているはずだ。事実、いままでこんなことはなかった。何をうかれているのか?普段を知るからこそフランクは訝った。
「どうした?ここは何人たりとも通すわけにはいかん。用件をのべよ。」
「頼む!今日だけでいい!この王宮の隅だけでもいい!見学をさせてもらえないだろうか!」
「???不可能だ?狂ったかリード!すぐに帰れ!いまなら罰なく見逃せる。」
「この王宮はここで一番美しい場所だろ?こいつに美しいものをみせてやりたいんだ。こいつは美しいということを知っている。きっと王宮の美しさは今日のためにあったんだ!」
「何をいっている?早く去れ!少年!ここは遊び場じゃない。」
興奮しすぎているのか、リードの発現は意味不明だった。ただ不思議なのは少年のほほには涙の跡が、しかしその顔には微笑みが、目には喜びや期待が映っていた。そのときだ、
風が…舞った。
いつもならなんてことのない風。しかし今日の風は奇跡を伴っていた。
風は今、真っ白なパーライトの木の花びらを伴い舞い上がった。
それは雪が天に帰っていくようで、心に安らぎを与えた。
鳥が雪に乗り、壮大なる世界に還ろうとしているようだった。
いま自然は奇跡の存在を示そうとしているのか。そんな風に感じた。
ふと目を落とすと、少年の美しい目には華麗なるその情景が映されていて、
あぁ、この奇跡は少年の映す世界から飛び出してきたのだな。と、理由もなくただ悟った。
数瞬であったと思う。その間、確かに感じ、想い、悟った存在は消えていた。