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《髪》……優しい眼差し

 葵衣あおいに手を引かれ、駐車場から百貨店に入っていく。


「ねぇ、観月みづきお姉ちゃん。待ち合わせしてるのよ。ほら、苺花いちかお姉ちゃん! 哲哉てつやお兄ちゃん! それにいちごちゃん」


 長身の青年と小柄な女性、そして男性は1才位だろうか、赤ちゃんを肩車している。

 二人が振り返り手を振る。


 近づいていった5人の中で、めぐみが爆弾を投下する。


「哲哉くん、苺花ちゃん。紹介するわね~! 祐次ゆうじのお嫁さんなの~!」

「だぁぁぁ! 母さん! 何勝手に紹介してるんだ!」

「可愛いでしょ? もう、初めての彼女なのよ。嬉しくって!」


 観月は、小柄といっても観月よりも頭一つ以上高い女性と、その夫だと思われる男性に頭を下げる。


「初めまして。大塚観月と申します。不知火しらぬいくん……祐次くんのクラスメイトです。よろしくお願い致します」

「初めまして、大角哲哉おおすみてつやです。こちらが妻の苺花、娘の苺です。苺はもう少しで1才です」

「初めまして。観月ちゃんって素敵な名前ね。どんな漢字ですか?」


 苺花の問いかけに、


「『観月祭かんげつさい』の観月です。難しい方の『観る』です」

「あぁ、素敵な名前! 私は『苺の花』で苺花です。だから、娘が苺なのよ」

「苺花さんですか! 苺の花って清楚で可愛らしいですよね。とても素敵です」

「ちゃー!」

「コラコラ。苺。お姉ちゃんだっこをせがまない」


哲哉が下ろす幼い子供ににっこり笑う。


「苺ちゃん。観月お姉ちゃんだよ?」

「みーたん? みーたん!」

「うわぁ、お姉ちゃんのこと呼んでくれるの?」


 きゃっきゃと喜ぶ苺に手を伸ばし、抱き取る。


「わぁ、可愛い」

「大丈夫か? 子供って結構重いぞ?」

「え? でも、し……祐次くん、去年……」


 ガーン!


とした顔で見上げる観月に、慌てて、


「違う~! み、観月は軽い! あれ位で俺もへばったりしない。じゃなくて、苺は葵衣の小さい頃程じゃないけど、ちょこまかして落ち着きがなくて、観月の腕が痛くなるって事だ」


と、会話についていけないというよりも、見てくれない観月に見て貰おうと、苺は手を伸ばしお下げ髪をぐいっと引っ張る。


「イタッ……」

「こらっ! 苺、やめなさい」


 慌てる夫婦に、大丈夫という風に首を振り微笑むと、髪の毛をほどく。


「ありがとう。慌てちゃったからちゃんと編めてなかったかな? 気になった? どう? 大丈夫かな?」

「みーたん!」

「うん。お姉ちゃんも苺ちゃんみたいに可愛くなった?」

「みーたん、かーいい!」

「本当? うれしいな」

「ほーら、苺。観月お姉ちゃんと行くぞ。兄ちゃんがだっこだ」


 祐次は苺を観月から抱き上げる。

 そうすると、観月はもう片方の髪もほどく。

 入学した頃から、観月の髪はきっちり二つに分けられお下げにしていたが、ほどくと、かなり長かった。

 細かく丁寧に編み込んでいたので、クルクルふわふわとパーマをあてたようになっていて、背を覆い、腰どころか太ももの辺りまで覆っている。


「まぁ! 可愛い! お人形さんみたいだわ!」


 喜ぶ愛に、苺花も、


「うわぁ……どこかのアニメのヒロインみたい!」

「お兄ちゃんと観月お姉ちゃん……若夫婦みたいよ。カメラチャンス!」


葵衣がスマホで撮影する。

 そしてポチポチと操作する。


「おい、こらっ! 葵衣。どこに拡散してるんだ!」

「え? ひめお姉ちゃんたちとお兄ちゃんと、観月お姉ちゃんと……」

「葵衣。お母さんとお父さんにもお願いね!」

「あ、私も良いなぁ~! ね? てっちゃん」

「最近は、祐次のことをパパって言うし、複雑だが……」


 哲哉の一言に、祐次は、


「哲哉兄ちゃん! まともになれ! ネットで拡散! 俺はいいけど、観月が可哀想だろ! うちの親族に、個人情報拡散!」

「可愛ければ、良いのよ~!」

「……って、愛さんもいってるし」

「母さんに負けるな~! と、父さん!」

「はぁ……祐次は本当に『兄ちゃん。兄ちゃん』で、大丈夫かと思ってたから良かった……」


と何故か安堵の呟きを漏らす寛爾かんじに、役に立たないと諦める。


「……ここで、大騒ぎもなんだから、哲哉兄ちゃん目的地まで行かない? 頼むから……」

「あ、そうだった。苺、おいで」

「やーん! にーたんとみーたんと!」

「……あぁ、やっぱり家族のふれあいが足りないのか……残業を減らさないと……」


 嘆く哲哉に、又もや諦めた祐次は、


「観月。苺が言ってるから、一緒に行こう。多分、前にいっていた子供服コーナーだと思う」

「あ、髪……」

「あんまり触るな。綺麗なんだし、もつれたら大変だ」

「枝毛だらけですよ」

「そうは見えないけどな。それなら、少し揃える位切ったらいい。確か、兄ちゃんの奥さんが5センチ位切ったら、髪にも良いって。そんなに長さも気にならないそうだぞ」


そっと頭をなで、ふと、髪を一筋つまむ。


「うん……日本髪が結える位、綺麗だと思う」

「えっ? そうですか?」


 頬を赤くする観月に気がつかず、頷く。


「綺麗綺麗。絶対似合う」

「あ、ありがとうございます。う、嘘でも、ほ、誉めて戴けて嬉しいです」

「いや、俺、嘘嫌いだし。じゃぁ、行こうか」


 肩を並べて歩く二人の後ろを、にやにやと5人はついて歩くのだった。




 ちなみに、少し離れたところで、


「あれ? あいつ、何してるんだろ? うわっ! 子供抱いて、長い髪の彼女口説いてる……」


彪流たけるである。

 今日は一人でCDを買いに行く途中だった。


「うわぁ、髪の毛をつまんで……口説いてる」


 スマホのカメラで数枚撮影し、面白半分で、ツイッターで拡散したのだった。

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