《髪》
土曜日に迎えに来た祐次たちに、夜勤になる柚月は、頭を下げた。
「おはようございます。そして初めまして、観月の叔母の大塚柚月と申します。いつも観月をありがとうございます」
車から出てきたのは、夫婦と何度か挨拶をした祐次に、観月よりも背の高い少女。
「お久しぶりです。おはようございます。柚月お姉さん」
「叔母さんでいいわよ、祐次くん」
「いえ、柚月お姉さん、絶対に若いので」
「初めまして。いつも祐次がお世話になっております。不知火寛爾と妻の愛、下の子の葵衣です」
夫婦と少女は丁寧に頭を下げる。
「いつも祐次くんに観月がお世話になっております。叔母の大塚柚月と申します。観月は気が弱い子で、心配していたのですが……祐次くんと仲良くなって、学校に行くのが楽しそうで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、逆にうちの息子がそそっかしいと言うか、ご迷惑をおかけしてないか……」
「そんなことは。逆にもう……」
「お母さん? 大きな声で……駄目でしょ? 柚月お姉さん。葵衣です。中学一年生です。よろしくお願いします」
少女はパッチリとした瞳をしているが父親に似ている。
祐次は母親に似ているらしい。
「あぁ、すみません。あ、お伝えしていなかったのですが、来週の土日ですがお休みですか?」
「あ、はい……実は。なので、本当は観月とお出掛けをと思っていたのですが……」
「じゃぁ、もしよろしければ、来週ご一緒に出掛けませんか? お祭りと言っても、メインは夜になるので、帰るのが遅くなると心配でしょうし、ご一緒だったら私の甥の家に泊めて貰えますし」
「えぇぇ! ご迷惑では?」
「それはありませんわぁ……祐也は本当に優しい子で、そんなこと気にしない子ですもの」
のほほーんと言ってのける愛に、祐次は、
「母さんは、兄ちゃんに少しは遠慮しろ! ほんっとに……」
「葵衣ちゃん!お兄ちゃんが!」
「ノータッチです。柚月お姉さん、観月お姉さんをお預かりします」
「あ、あの……」
思い出したように、ぽろっとこぼれる。
「あの、図図しいかと思われるでしょうが、もしできましたら……今日、観月を預かって頂けませんか? 明日、迎えに伺います。仕事の関係で、今日の晩は帰ってこられないので……本当は一緒にいてあげられたらと思うのですが……」
「大丈夫ですわ。明日、こちらにお送りしますね?」
「ご安心下さい」
愛と寛爾の声にホッとしたように、頭を下げる。
「ありがとうございます。よろしくお願い致します。観月。すぐに宿題と着替えを取りに行きましょう」
「は、はい!」
しばらく中に入った二人は、リュックサックを手に現れる。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
柚月に見送られ出ていったのだった。
運転席に愛、助手席に寛爾、後ろに5人は十分乗れるのだが、
「おい、葵衣! 何で、お前が大塚とくっついてるんだよ」
「良いじゃない。あ、観月お姉ちゃんって呼んで良いですか?」
可愛らしい葵衣の言葉に、頬を赤くし、
「はい。じゃぁ、葵衣ちゃんって呼んで良いですか?」
「えぇ! 嬉しい!」
観月の方が小さい為、実は、母同様剣道有段者の葵衣は抱き締めてしまう形になり、ぎゅうぎゅう締め付けられた形の観月があっぷあっぷしている。
「こらぁ! 大塚潰す気か、怪力乱神!」
「抱き締めてるんだもん。お兄ちゃんもやってみたいでしょ? でもしたら、セクハラで捕まるからね」
「葵衣!」
「コラコラ、やめなさい。祐次。行きは葵衣に譲って、帰りは並んで良いから、その程度で言わない」
寛爾はため息をつく。
「本当に、仲が良い兄弟だね……うちの子は」
「「それは、ないから」」
祐次と葵衣が声を揃える。
「葵衣よりも、穐斗がいい!」
「あきちゃん可愛いもんね!」
「あきちゃん?」
「あ、俺達の従兄の祐也兄ちゃんの息子。穐斗は男なんだけど、兄ちゃんの奥さんの蛍姉ちゃんにうり二つ。俺は母さんに似てて、祐也兄ちゃんもおじさんに似てるから、全く似てなくて、あれ? だった位」
「お姉ちゃん。この子があきちゃん。で、この美人なお姉さんが蛍ちゃんで、そのお隣が、蛍ちゃんのママの風遊叔母さん」
スマホの写真に唖然とする。
「……あの、姉妹じゃ……」
「ううん。お母さん、娘、孫」
「か、可愛い……です」
「でしょう? 久しぶりだから、今度会うのが楽しみ!」
「葵衣。そろそろ到着するから、はしゃがないのよ」
愛は一言告げるが、
「お母さん程じゃないわよ。ね? お兄ちゃん」
「母さん、大塚で遊ぶの禁止!」
「えぇぇぇ~! 何で? 苺花ちゃんたちの買い物が終わったら、着せ替えっこしたかったのに~!」
「……愛……葵衣を着せ替え人形にしようとして未使用の服があるのに、余計なものは買わない!」
「じゃぁ、お家に帰って遊びましょうか……ウフフ……」
嬉しそうに、突然急カーブ!に観月がバランスを崩すのを、慌てて祐次が抱き締める。
「母さん! 大塚がいるのに、暴走するなよ! 大丈夫か? 大塚」
「あ、ごめんなさーい!お母さん嬉しすぎて、おほほほ……」
と立体駐車場をハイスピードで登って、駐車すると、
「……愛? 帰ったら、特訓」
「えぇぇぇ! 寛ちゃん~!」
「可愛いお嬢さんを預かったばかりで、危険な目に遭わせてどうするの!帰りの運転は私がするよ」
寛爾は妻を叱りつけている間に、祐次は抱き下ろし、
「大丈夫か? 気分が悪くないか?」
「あ、大丈夫です」
「ごめんなさい。お母さん、暴走しちゃうの……」
「優しいお母さんです。羨ましいです」
ニコッと笑う観月に、ついふと祐次は頭を撫でる。
「不知火くん?」
「えーと、うん、髪の毛がちょっとグシャグシャになってたから……うん。綺麗になった」
「ありがとう」
「いや、いいよいいよ」
頬を赤くしている兄と観月と、お説教といいつつ今でもイチャイチャしている両親に、葵衣はため息をついた。
「もう……一人者は居心地悪いわ」
葵衣は小さい頃からおませである。