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《蛍狩り》……繋いだ絆

 夕方が近づくと日も陰り、下の道路が車の数が増えてくる。


 祐次ゆうじと下を覗き込んだ観月みづきは、ライトは見えないが、クラクションがよく聞こえ始めた下の様子に、


「ねぇ、祐次くん。蛍、車の多さで見えなくなったりしないかなぁ?」

「大丈夫だよ。戻ってきた皆でいつもの穴場に行くからさ。凄いぜ! もう、ぶわぁぁって!」

「虫、苦手だけど大丈夫かな?」

「見てるだけでも凄いから」


と話す二人に、祐也ゆうやが声をかける。


「二人とも、行くで。もう少ししたら日も落ちて、乱舞が始まるんや」


 戸締まりをして、車に手分けして乗った一行は、谷に下ると学校のある方向とは反対に向かう。

 次第に薄暗くなりつつある周囲に、


「ちょっとドキドキする……」

「ちょっと見て、下の川」


運転する祐也の声に窓に張り付く。

 一瞬だが何かがほんのりと灯った。


「わぁぁ! あれが蛍?」

「あぁ、これからや。もう少ししたら……ほら到着」


 祐次が先に降り、薄暗く足元が危うい為、観月をひょいっとおろす。


「蛍の光がよく見えるように、あえてほとんど光をつけてないんだって。注意しような?」

「蛍、見えませんね……」

「いや、ここからもう少し川に近づくんだ。それに……」

「あ、こっちから来たわ」


 別の車から降りてきた日向ひなたが、観月が背を向けていた方角を示す。

 振り返った観月は、


「えっ?……わぁぁ……星が降ってきた! 森から一杯!」

「蛍の雄は昼間は森におる。で、川におる雌に求愛する為に降りてくるんよ」

「わぁぁ……それに、空の本物の星も綺麗に見える! 凄い! 星が一杯降ってるみたい!」

「観月お姉ちゃん! こっちこっち!」


穐斗あきとが引っ張る。


「ほら、こっち、一杯見えるでしょ? お兄ちゃん‼捕まえて?」

「しょうがないなぁ」


 言いながら被っていた帽子をさっと振ると、帽子には小さな命の光が瞬く。


「小さい……でも、綺麗……」

「これ、源氏蛍だよ? お姉ちゃん。平家蛍の方が小さいの。ほら、あっちの小さい光が平家蛍、強い光が源氏蛍なんよ?」

「へぇー! 穐斗くん、物知りだね! お姉ちゃん知らなかった」

「えへへ。僕のお母さんの名前が蛍なのは、この蛍からつけられたんだって。でね? 穐斗は、伯父さんの名前。でも、僕のこと、お父さんもお母さんも、それに伯父さんも大好きだから喜んでるって言ってた」

「そうね。お姉ちゃんも穐斗くん大好きだよ?」


 母親似の顔が笑顔になる。


「うん、僕もお姉ちゃん大好き~! 穐斗、お姉ちゃんのお嫁さんになる!」

「こらこらこら! 穐斗~!」


 慌てて祐次が止める。


「穐斗、男は嫁になるんじゃない。お嫁さんを貰うの!」

「じゃぁ、お姉ちゃんをお嫁さんに……」

「駄目! 観月は兄ちゃんの彼女!」

「えぇぇ~!」


 穐斗は頬を膨らませる。


「お兄ちゃんずるい!」

「ずるくない。穐斗もほら、あかねがいるだろ?」

「うーん、あかねちゃん、おままごとのお友だちだもん。それにね? 風早かざはやお兄ちゃんのことが好きなんだって」

「あー! あきちゃん、ひどい! 内緒って言ったのに!」


 茜は嵯峨さがの幼馴染みの紫野むらさきのの長女で、風早は日向の長男である。

 歳は、風早が一つ上である。

 風早には二つ下に那岐なぎと言う弟がいるが、母親似の弟に比べ、顔立ちも性格も父親に似ている。


「何? 喧嘩はいかんで」


 近づいてきた風早は、茜と穐斗の頭を撫で、


「祐次兄ちゃん。三人で蛍見に行くよ。じゃぁね!」


と二人の手を引いて去っていく。

 その鮮やかな去り方に、


「風早くんて、大人ですね……9才なのに……」

「時々年齢間違うんだ、俺も……」


と呟いたが、すぐに二人は蛍を放し、手を繋いで景色を見つめる。

 その後ろでは、


「生きた星を見つけると、ホッとするんですよ。それに、実は、ここで蛍を見ていた時に、貴女のことを思い出して……一緒に見られたらと思っていたので……」

「そうなんですか? 嬉しいです……」


と手を繋いで、デレデレの嵯峨と柚月ゆづきを、


「嵯峨、性格丸なったなぁ……」

「昔はあんな感じだっただろう?」


と双子の兄弟が呟いたのだった。




 蛍の乱舞はほぼ二時間……それを堪能した家族は家路についたのだった。


 ちなみに、武田夫婦は母屋の客間を借り、休んだのだった。

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