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《蛍狩り》

 お墓参りを済ませると、嵯峨は麒一郎きいちろうの家に戻る。

 すると、晴海はるみと一組の夫婦が待っていた。


「じいちゃんに祐次ゆうじ観月みづきちゃん、お帰り。それに、嵯峨さがさんも柚月ゆづきさんもよう来たなぁ」

「ただいま~。晴海おばあちゃん。お客様ですか?」

「あぁ、祐也ゆうやの実家のお隣さんよ」

「あ、武田のじいちゃんとばあちゃん。こっちに来たんやなぁ」


 嵯峨と柚月と観月が上がると、祐次はニッコリと笑う。


「武田さん?」


 観月は問いかけると、祐次は答える。


「嵯峨兄ちゃんたちも詳しく聞いてないと思うんやけど、武田伊佐矢たけだいさや師匠と奥さんの亜沙子あさこばあちゃんです。柔道の師範で、俺や祐也ゆうや兄ちゃんたちを鍛えてくれたんだ。で、じいちゃんたちの孫が武田彪流たけだたける

「……!」

「ほ、本当に申し訳ありません!」


 こたつから正座し土下座する夫婦に、観月が、


「いえ、おじいさんとおばあさんのせいじゃありません。あの。私は大原観月です。お父さんとお母さんになります。よろしくお願い致します」

「そうそう。伊佐矢さん。おじいちゃんや嵯峨さんにもお菓子があるけんね? ちょっとのんびりしましょう」


晴海はお茶とお菓子を並べる。


「嵯峨も和菓子だけやなくて、クッキーやドーナツを作って、いつも何かしらお菓子はあるんよ。お祭りは夕方がピークやけんな、少しゆっくりしよや」

「ですが、本当に……ご迷惑ばかり……」


 涙ぐむ夫婦に微笑む。


「かまんよ。色々話を聞きたいし、あ、祐也や祐次に、一平とかなぁ」


 麒一郎はあははと笑う。


「祐也は無口でしたよ。と言うか、今の穏やかさはのうて、手負いの獣みたいでした……一平が『おらぁ! 祐也。師匠にちゃんと挨拶せんか!』とスッパーンと頭を殴って『見てみぃ、くれないひめも正座して、ちゃんと話を聞きよる。二人にできて、お前ができんはずはない!』言うて、正座から教えてました」

「でも、元々率先して動く子で、器用な子でしたわ。片言で『師匠の奥さん。お手伝い、する』って、よく買い物に着いてきてくれて……優しい子やなぁって思いました」


 二人は微笑む。


「一平は勉強せんのやいうて、せとかさんは愚痴を言ってましたが、しっかりした子で、紅はおきゃんでしたわ。媛は集中力のある子で……四人兄弟仲良くて……祐也は朔夜に似たんやなぁと」


 外で犬たちの吠える声が近づいてくる。

 引き戸が開き、子犬の手綱を引いた朔夜とせとかが入ってくる。


「麒一郎叔父さん、子犬たちは外につないどった方がよかろか?」

「いや、中の土間に一旦入れときや。最近外は物騒や」

「じゃぁ」


 入ってきた子犬に、観月は声をあげる。


「わぁ、日本犬の子犬……えっと……」

「四国犬の子なんよ。数も減っとるけんなぁ、でも大きなるで、あ、秋田犬程はないけどな、中型犬だし」

「わぁぁ……」


 近づいていった観月に、祐次が着いていき、


「伯父さん、しつけは? 噛み癖とか……」

「それはない。ブリーダーさんがしっかりしとる」

「じゃぁ」


 突っ掛けをひっかけ、土間に降りた祐次は子犬たちに近づき、臭いを嗅がせ、少し遊ばせると、


「お座り!」


と告げる。

 ちょこんと、お座りをする。


「偉いなぁ? 賢いなぁ?」


 頭を撫でて誉める。

 その様子に観月は、


「わんちゃん、可愛いですね。でも、四国犬って何か、毛並みが不思議……」

「ニホンオオカミとの混血とも言われているんだよ。それに猟犬として最適な筋肉と運動ができる犬だから、おすすめだと思ってね」

「凄い! お利口さんなんですね」

「観月は犬が好きなんですか?」

「はい、お父さん」


ニコッと笑う観月に、嵯峨は、


「じゃぁ、旅行から帰って、誕生日には犬を選びましょうか? どんな子が良いんですか?」

「えと、ミニチュアシュナウザーかベルジアン・グリフォンが良いです!」

「シュナウザーと言うと、確か眉毛のある……ベルジアン・グリフォンと言うのは……?」

「あぁ、そう言えば」


朔夜が子犬たちを撫でながら答える。


「ベルジアン・グリフォンのブリーダーさんが、私の病院をかかりつけにしているよ? 確か、8月頃に子供が生まれるはずだよ。でも、子供が少ないから、滅多に出回らないんだよ。観月ちゃん、よく知っているね?」

「えと、前にペットショップで……とっても可愛かったんです」

「独特の風貌なんだよね、私も好きだよ。賢いから」

「どんな姿なんですか? 朔夜さん」


 嵯峨の問いかけに、朔夜はクスクス笑い、


「体の毛並みは漆黒のトイプードルで、顔立ちがパグみたいな子なんだよ。元々中型犬を改良して小型犬にしてしまったから、子犬を生むのが難しい。子供は母体に負担になるくらい大きくなるけれど、未熟児で生まれるから。で、ベルギーと日本しかブリーダーさんがいないんだよ」

「パグ……に、トイプードル……イメージできません」

「この子だよ?」


朔夜はスマホを操作し、差し出す。

 かなりの不細工な犬かと思ったのだが、愛嬌のあるトイプードルと言う感じで少し鼻ぺちゃさんである。


「そんなに大きくないし、確かブリーダーさんが子犬の飼い主を探していたから聞いてみようか?」

「高いんじゃないですか?」


 観月の声に、


「うーん、そうだねぇ。ペットショップを通さないから。その代わりにちゃんと面倒見るなら、だね。連絡してみようか?」


朔夜は電話を掛ける。


「もしもし、阿部です。カレンちゃんの様子はどうですか? えぇ。それに、新しい飼い主は?……実は、私の知人の娘さんが、前にペットショップで見たって、飼いたいって言っているんですよ。もし、決まっていなければと思いまして……えぇ。この前のカレンちゃんの様子は悪くないですし、順調にいけば、7月になりますね。えぇ。そうですか、はい。今度の回診の時に、向こうの連絡先についてお伝えしますね? よろしくお願いします。では」


 切った朔夜は、


「まだ、決まっていなかったから、一応予約と言うか、お願いしておいたよ?」

「えぇぇ? 伯父さん。まだ嵯峨兄ちゃん悩んでそうなのに……」

「だから言っただろう? ベルジアン・グリフォンは、中型犬を無理に小型化させたから、一回の妊娠で一頭しか子犬が生めないの。しかも母体が小さいのに子犬が大きいから、必然的に手術で子供を取り出さないといけない。原産のベルギーでは母子ともに生存率が50%。日本でようやく70~80%に上がったんだよ。私でも毎回緊張する。子犬も母犬も無事でと……それだけ大事な命なんだ。貴重な子を大事にしてくれる人にと、私もブリーダーさんも祈ってる。だから、予約でいいからと急いだんだ」

「はぁ……生き物と言うのは本当に慈しむものですね。それに、観月だけでなく私も柚月も、散歩につれていったりしましょうか」


嵯峨は微笑む。


「あぁ、そう言えば、どこに住みましょうか? まだしばらくは行き来をするでしょうが、すみません……実は私の家は、観葉植物をベランダに並べて、うーん、リビングも植物と本棚……」

「あー! 俺、一回、嵯峨兄ちゃんの家に行ったら、3LDKだったけど、書斎と書類と、植物に侵食されて、ベッドにも書類積み上げてて、リビングのソファで寝てた!」

「祐次くん!」

「一応、スーツとかはマンションのコンシェルジュ? その人にクリーニング頼んでたみたい。料理は好きだけど忙しくて作っても冷蔵庫に放置……」

「良いんです! 家のことは! 引っ越します! もっと広い家に! 分譲なので、誰かに貸します!」


 嵯峨は必死に告げる。


「それに、仕事も減らします! 柚月や観月といる時間を作りますから!」

「と言うか、体を壊すようなことは止めて下さいね? 嵯峨さん」

「お父さん。病気になっちゃうよ?」


 瓜二つの婚約者と娘にうるうるとした瞳で見つめられた嵯峨は、


「二人の為にも、生活改善と新しい家をと思います! 約束しますね!」


と告げたのだった。

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