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《伏見》……天に祈る

 テントで食事をと思っていたものの、倉庫で走り回っていた祐次ゆうじに気がつき、4人で食べ始める。


「あっ! うどん、うどん! もろてくる!」


と、祐次は走っていき、うどんといなり寿司を持ってくる。


「はい、嵯峨さが兄ちゃん。柚月ゆづき姉さんに、観月みづきも」

「ありがとう。ここのは甘めですよね」

「そうそう。でも、優しい味や。どう?」

「美味しい……」


 柚月と観月は笑うと、嵯峨が、


「祐次くん。午後から用事はありますか?」

「あ、これからお客が増えるけん、家に帰っておこうかとか思っていたんだけど……兄ちゃん何処か行くの?」

「えと……挨拶に行こうと思って、麒一郎きいちろう伯父さんに案内して貰おうと。一緒に行くかな?」

「あ、邪魔じゃなかったら、お願いします。兄ちゃん」


祐次は食べ方は失礼ではないが、観月は知っているが、かなりよく食べる。

 それは柚月が驚く程である。


「よく食べるのねぇ。よく動いているからかしら」

「本当に、いつも思いますよ。それにまだまだ背も伸びるでしょう? 羨ましい」

「いやぁ、俺は嵯峨兄ちゃんの方が羨ましいよ。それに祐也ゆうや兄ちゃんみたいに強くて頭よかったらなぁって。でも、もっと勉強しようと思うんだけど、観月に頼っちゃって。でも、兄ちゃんたち、結婚するんでしょ? どこに住むの? 俺たちもどうなるのかなぁ……母さんは大丈夫だと思うけど」

「仕事がどうなるかですね。それに、祐次くんや観月の学校も……お祭りが終わってから考えましょう」

「……まぁ、観月。うどんよりわたあめ?」


 クスクスと柚月は笑う。

 娘がソワソワしているのが可愛らしいのである。


「気になっちゃったんだもん……でも、うどんはちゃんと食べる! 祐次くん、美味しいね?」

「だろ?」


 食べ終わった4人は、麒一郎と合流し、嵯峨が運転し走っていく。


「お父さん? お寺さんに行くの?」

「あぁ、今度行こうとは思っているんだけど、今日はもう少し奥に行くんだよ。何回か行くんだけど、お父さんにはどこから上がればいいのか覚えられなくて……伯父さんやおばさんに毎回案内して貰うんだ……」


 しばらく山道を登り、助手席の麒一郎が、


「ここよ」


と手前で示されると道をそれ、急な坂を上っていく。

 しばらく上っていくと、森の木々がきれ、広い空と谷が見える。

 山に沿って道路がはい、木造の祐也たちの家に良く似た家や、段段畑が反対の山に見える。


「綺麗!」

「もう少しです。あ、忘れてました」

「揃えとるわ。上に家があるけんな? 一回上でバックして戻って止めたらええわい」


 麒一郎の言葉に、嵯峨は登ると、方向転換をして戻ってくる。

 そして止めたのは……。


「ここは……?」

「土地を一部購入して、私の母と弟の墓を建てたんです」

「わしの親戚の墓の一画があいとってな? で、そこに建てんか? というたんや。ここは空も山も、綺麗に見えるやろ? 嵯峨のお母さんも、家にずっと遺骨をおいとったらいかん。休んでもろた方がええやろうて。でも、伏見ふしみがお墓ができてすぐにとは……思わんかったけどなぁ……」


言いながら後ろを開けて、しきみに線香、ペットボトルを出していく。


「掃除をしよか。そこにはほうきとかちり取りもあるわ」

「は、はい!」


 軍手や雑巾を持って、綺麗にしていく。

 観月は、大原と言う新しい苗字のお墓を見つめ、そして、右の石に彫られた名前に気がつく。


美園みその 享年45歳』

『伏見 享年27歳』


 とあった。


「私のおばあちゃんとおじさんですか?」

「そう。おばあちゃんは、私が20歳の時に。優しい人でした。おっとりとしていたと言うよりも、父や祖母が強い人間で、尽くして尽くして疲れてしまいました。私が東京の大学に進学した時に、夜逃げ同然に母と弟を連れて出ていきました。伏見は大学に通っていたのですが、病気が見つかって……入院しつつ勉強を続け……頑張っていました。生きていたらおばあちゃんは、観月を本当に喜んでいたでしょう。伏見も32歳ですね」

「じゃぁ、おばあちゃん、伏見叔父さん。初めまして。観月です。来られて嬉しいです」


 それぞれが一つ一つ丁寧に拭いていき、雑草が生えていたり、前に供えた樒やお菓子などをほうきで掃くと、持ってきていた新しい樒を供え、線香に火をつけた。

 そして手を合わせる。


「おじいちゃん。この掃除の後は?」

「燃やせばエエ。そこら辺に枯れ葉もあろが。で、燃やして、残しておいた水で消火するんや」

「気を付けよ~? 観月、煙たいけん」


 祐次は何度かその洗礼を受けているらしく、必死に風上である方角を示す。


「じゃぁつけますよ」


 嵯峨はつけるが、すぐに消えてしまう。


「兄ちゃん。生の枝からつけたら意味ないで? 枯れ葉やごみの新聞とかつけるんで」


 嵯峨から受け取ったライターで火をつける。


「ふわぁぁ……火が大きくなる」

「この程度なら大きならんわ。しばらく燃やして、綺麗にしたらええ。そう言えば嵯峨。ふわふわ風船持ってきとったんは?」

「あぁ、そうでした。すぐに空気は抜けるでしょうが……二人に贈りたくて……」


 車から出してきた風船を墓の横に取っ手の上に石を乗せて、フヨフヨと空中を揺れる姿を見る。


「京都に大原の墓はあるんです。でも、あえてこんな、穏やかな静かなところに眠らせてあげたいと思ったんです。それに、柚月と観月を紹介したくて……」

「じゃぁ、またお義母さんや伏見さんに挨拶に来ましょうね? もしかして、こちらで披露宴をしたいと言うのも……」

「母と伏見に祝って貰いたくて……」


 照れくさそうに微笑む嵯峨に、柚月は、


「本当ですね。あっ! 私の両親には、電話で一応伝えたのですが……」

「お祭りの帰りに挨拶に行こうと思います。式にも是非出席して戴きたいので……」

「お父さん! 式ってどこでするの?」

「下鴨神社ですよ。今月末です。醍醐だいごの伯父さんが神職なんですよ。で、私の親族としてサキや嵐山らんざんおいはんと櫻子さくらこさんたちを、柚月と観月はご両親たちにと。神前式ですので、小さい披露宴をして、ここで皆さんとお祝いをと思って……で、夏休みに家族旅行に行きたいのですが、観月、お父さんは一月、半分はライン川下りにロマンチック街道、ノイシュヴァンシュタイン城などを見に行ったり、イギリスの大英博物館とか……行きたいんですが、どうですか?」

「エェェ! お父さん! 本当に連れていってくれるんですか? わぁぁ! 行きたいです! 嬉しいです!」


観月は嬉しそうにはしゃぐ。


「でも、お父さん忙しいのに大丈夫ですか?」

「家族旅行の為だったら、何としても仕事を空けます。手は抜きませんよ」

「わぁぁ! お父さん大好き!」


 抱きついた観月にでれでれの嵯峨である。

 その横で手際よく水をかけつつ、


「ついでに手をあろて、後片付けして戻ろか。一回、家に戻って休憩したらええわい」


麒一郎の提案に4人はきちんと火を消したことを確認し、車に乗って帰っていったのだった。

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