《祭り》……愛おしい存在
飛行機から降り立った一行を出迎えたのは、醍醐と風遊。
多分、同行していないだろうとは思っていたが、観月がいないのを内心落胆する嵯峨である。
「嵯峨兄はん。そないに嫌そうな顔せんといてや……観月ちゃんは、本当は来たがっとったんを我慢させたんで?我慢おしや」
「いや、嫌そうではないけれど、会いたかったなぁと落胆した」
「言いよるがな」
「でも……なぁ。風遊さんと醍醐はかまへんのや。うん……」
「どこの親馬鹿や。あてがおるんがそないに嫌か? 一平やくれちゃんたちが帰るさかいに、おとうはんも待ちよるで」
標野は外を示す。
一団は色々と喋りながら進んでいくのだが、風遊は英語で、あるシンプルメイクの女性に話しかける。
『久しぶりね、ヴィヴィ? あぁ、お仕事は抜きにしたいのだけど、着いたら、ビックリするわよ?』
『あら、風遊? 新作作ったの? 確か写メで贈られて来たのは……』
『あぁ、あの子は嵯峨さんの娘さんにあげちゃったわ。そうすると、名前を『風月』って付けてくれたわ。風の月ですって』
『まぁ! 綺麗な名前ね?』
夫と腕を組んで、ヴィヴィは微笑む。
『でね? ヴィヴィ。観月ちゃん……嵯峨さんの娘さん、とても落ち込んでいたから気晴らしに、半縫製キットのベアを作ってみない? って誘ったら、初めてにしてはビックリする位、素敵なベアを作ったのよ』
撮っておいた写真を見せる。
『まぁ! キュート! プリティ! 素晴らしいわ!』
『でしょう? この子は『祐月』。祐次くんの祐に月ですって素敵でしょう?』
『まぁ! 綺麗な名前ね! でも、それだけが私に伝えたいんじゃないんでしょう?』
『そうなのよ。これは、本当に内緒にしておいてって、観月ちゃんに言われたから、ここでは言えないけど、ヴィヴィもビックリする程の素晴らしいものを、きっと魅せられるわ!』
『日向の新しい趣味の、ドールハウス?』
ヴィヴィの問いかけに、風遊はウフフと笑う。
『もっともっと凄いものよ。ヴィヴィが絶対にビックリするわ』
『教えてくれないなんてずるいわ』
『だって、伝えたらビックリできないでしょ? 本当に驚いて欲しいのよ。それに、ヴィヴィもしばらくいるでしょう? 本当に私だって言いたいのよ。でもね? 本気でビックリさせたいのよ』
そして嵯峨と照れくさそうに手を繋いだ、初々しい柚月に、
「柚月姉さんで良いかな? 先は、シートが離れていたから、よろしくお願いします。ウェインです。で、最愛の人、紅です」
「もう、やめてよ! ウェイン! あ、柚月さん。私は祐次と葵衣の従姉の紅です。媛の2才上です。よろしくお願いします」
「始めまして。ウェインさんと紅さんで良いですか? 大塚柚月と申します」
「同年代ですよね? 気楽に……」
「いえ、私は35なんです……おばさんですわ」
照れくさそうに頬に手をやる柚月に、紅は、
「えぇぇぇ! わ、私よりも7つ上……あり得ない! こんなに可愛いのに!」
「そ、そんな……紅さんの方が快活で朗らかで優しいです」
「めちゃくちゃ、可愛いわ……。嵯峨さん、素敵な奥さんですね!」
「そうなんです。娘の観月も可愛くて……早く会いたいです」
あの冷徹と言うか、厳しい印象のある嵯峨がデレている。
「でも、プレゼント、もっと選ぶべきだったでしょうか? あぁ、もっと髪飾りとか、ピアスは無理にしても、イヤリングも良いですよね……」
「いえ、嵯峨さん? 甘やかしてはダメですよと言いましたよね? 誕生日とか記念のお祝いの時に贈りましょう、ね?」
「ですが、私としては、観月が可愛いんです! 観月が欲しいなら、できうる限り買ってあげたいです!」
「……嵯峨が壊れとるなぁ……」
標野は呟き、紫野は、
「えぇんやないか?」
と呟いたのだった。
ブースの準備をして、他のテントのおじいちゃんおばあちゃんたちにも、祐也に連れられ挨拶をする。
「おはようございます!」
「おぉ、葵衣に祐次の彼女かな?」
「えらい可愛らしいなぁ」
「大塚観月です。年は、今度17才になります。よろしくお願いします!」
「あ、じいちゃんたち。観月ちゃん、お母さんが今度結婚するんや。姓が変わるんで。観月ちゃんも、じいちゃんばあちゃん呼んでかまんので? この地域のじいちゃんたちは、俺たちの家族なんよ」
祐也は頭を撫でる。
「じいちゃんばあちゃん、祐次も葵衣も観月ちゃんも午前中おるんや。午後はおらんのよ。明日も来るし、頼むわ」
「準備が終わったら、おいでぇや? 観月はわしらの孫や」
「美味しいもんもぎょうさんあるわ?」
「はい!」
頭を下げ、照れくさそうに微笑んだ観月は、
「後で来ますね? お手伝いもします!」
「あぁ、おいでぇや」
3人を連れて歩いた祐也は、
「はい、祐次。お前は言ってた通り、建物の中。頼むな?」
「じゃぁ、兄ちゃん。観月や葵衣と、一緒にいてくれよな?」
「あぁ、大丈夫だ」
別れ準備に走る。
葵衣と観月は着替えをするのだが、風遊のお店のお揃いのエプロンを着て、ヘッドドレスをつけて……可愛らしい格好である。
観月は眼鏡をかけているが、本当に似合っている。
「可愛い! 観月ちゃんは上品な色が似合うんやねぇ? でも、淡いピンクとかパステル調も素敵やわ。葵衣ちゃんはカントリー調の『赤毛のアン』風も良いかもしれんわ」
蛍は微笑む。
朝、観月は髪の毛をツインテールにして、三つ編みをしてぐるんっと巻き付け、雰囲気を変えた。
「多分、兄貴なら『チャイナドレスで戦うゲームのキャラだ‼』とか言いそうやなぁ……」
器用な祐也が整えた髪の毛のチェックをして苦笑する。
「に、兄ちゃん! 何で出来るん?」
様子を見に来ていた祐次は、兄の手で変わっていく観月に唖然とする。
「で、葵衣ちゃんは、二つに分けて三つ編みやなぁ」
蛍が普段はポニーテールの葵衣の髪を編み、リボンの代わりに風遊の店に置かれている飾りをつけて貰う。
「可愛なったわ」
「本当? 良かったぁ!」
観月は少し高い靴底の革靴を履いている。
それとだて眼鏡もあって、雰囲気も変わっている。
葵衣もキリッとした印象も大人しげになっている。
「お客さんが見に来ると思うわ。お母さんと蛍のテディベアは人気なんよ、な?」
「祐也のテディベアも隠れファンが多いんよ? それに、ミニチュアハウスも、売約済みにしとるんは、次に売る時にお客様の興味を引いておきたいからやもんね」
夫婦は微笑む。
すると、
「ママ~!」
「パパ~!」
二人の子供たちが走ってきたのだった。




