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《想いの結晶》

 嵯峨さがは電話をして、そして、実里みのりの車を借りて柚月ゆづきと出掛けていく。


「どちらに行かれるのです?」

「えっ? 幾つか決めておこうと思うのですが、ドレスとかは観月みづきちゃん……観月と3人で選びたいなと思いまして。でも最初に、貴方と観月に贈りたいので……」


と、連れていくのは高級宝石ブランドのお店である。


「……えっ?」

「えっと、婚約指輪を……それに、観月と私もお揃いで身に付けるものを……とか……えっと、駄目ですか?」

「あ、あの、観月は今年17になる子で、高級なものなんて……それに……」


 不自由ではないものの、ある程度やりくりしつつ生活していた柚月の目の前には、桁違いのものが並んでいる。


「柚月さん? 良いのよ。貰っときなさいな。どうせ、嵯峨は普段着とかダサすぎて、仕事着も選ぶのが面倒って言うもんだから、10年前からはヴィヴィさんに頼んでいるのよ? それに、ウェインくんのお母様が選んでくれているんだから」


 姿を見せたのはにしきである。


「あ、錦さん。……え? ヴィヴィさん?」

「あら? 知らなかったかしら? 祐次ゆうじ君の従兄の一平君の奥さんのヴィヴィアン・マーキュリーよ? ウェイン君は同じく、従姉の旦那さんのガウェイン・ルーサーウェイン」

「エェェ! だ、大ファンです! み、観月と二人で、『アーサー王伝説』と続編の『ランスロットの恋』『トリスタンの愛』も、観てます! ヴィヴィアン・マーキュリーさんが本当に綺麗で……ガウェイン・ルーサーウェインさんもかっこよくて!」


 目を見開く横で、嵯峨が、


「どうしよう……結婚式呼びたいけれど……」

「心狭っ! 嵯峨、結婚前から何言ってるのよ。今度帰国するでしょうが」

「錦! それを話すな! 空港大騒ぎだぞ!」

「ここはヴィヴィとウェイン君が専属モデルしているお店だもの。ここだったら私達に応接室を貸してくれるでしょ? デザインとか石とか選びながら話しましょ。ね? チーフ?」

「ようこそ、ご用意ができておりますわ。それに、Mrs.ヴィヴィアン、sirガウェインよりご連絡も戴いております」


洗練されたスタイルのチーフが奥を示す。


「柚月さん。行きましょう? 私も選びたいのよね」


と言いながら奥に向かうと扉が開かれ、シンプルそうでいて上品な応接室になっていた。


「こちらにどうぞ」


 錦の横に、そして反対側には嵯峨が座る。

 テーブルには幾つもの箱が並べられている。


「……ピジョンブラッド! こんな大きな……本当に、ルビーですか? スピネルではなくて?」

「スピネル……ですか?」

「嵯峨、知らないの? スピネルはルビーにそっくりな石だけれど、硬度が弱いのよ。ルビーとサファイアが同じ鉱石。含有物の違いで色が変わるの。で、ピジョンブラッド……『鳩の血』の色をルビー、その他をサファイアと言うの。でもサファイアでも、最も美しいのはこのブルーサファイア! 『矢車菊コーンフラワー』の青と言われて珍重されるのよ。サファイアは9月の誕生石。このゴールデンサファイアは11月、ルビーはあんたの誕生石よ」

「あ、観月の誕生日は9月で、私は11月の末です……」

「……じゃぁ! あの、婚約指輪。ゴールデンサファイアとこのダイヤモンドと二つ用意しましょうか?」


 嵯峨に示された石に驚愕する。

 どう見ても、一カラット以上の大きいもの!

 その上、二つ?


「……嵯峨、あんた馬鹿ね。最近の流行は、婚約指輪と結婚指輪を重ねづけがはやっているんだから! 婚約指輪だけでも上品で、結婚後に重ねて着けてお出掛けとか。大きいから良いってものじゃないのよ? 品良く! それにね? あたしが言うのもなんだけど、女心解ってないあんたが、観月ちゃんに何を贈るの? 何であたしが誕生石を言ったのか解る?」

「……うぅ。お菓子、絵はがき……七味唐がらし、京漬け物……」

「修学旅行か!」


 錦が突っこみ、柚月を見る。


「ねぇ? お金が……とか心配するよりも、こう考えてはどうかしら? 柚月さんとこの嵯峨は今度結婚するでしょう? で、観月ちゃんには新しいお父さんと、今までお母さん代りだった柚月さんが本当の家族になるでしょう? サファイアは色々な色がある。柚月さんの誕生石は鮮やかな黄色……柚子の色。観月ちゃんは9月で特に綺麗なブルーサファイア、ルビーと深紅だけ呼び方は変わっても、同じ鉱石。家族の象徴でしょ? 柚月さんの婚約指輪と一緒に、嵯峨のネクタイピン、観月ちゃんにはピアスとかじゃなくてペンダント。身につけたらどうかしら? それともダイヤモンドがいい?」


 錦の言葉に首を振る。


「い、いえ! ダイヤモンドよりも、素敵です! 観月もきっと喜びます!」

「漬け物とか御守考えてたでしょ? 嵯峨。父親なんだから、思春期の娘に漬け物止めなさいよ!」

「うぅ……九条ネギに聖護院大根、万願寺唐辛子……」

「京野菜数えてないで、デザイン選びなさいよ! 結婚指輪もここで決めるんでしょ!」


 錦にドつかれつつ選んで、差し出したカードに柚月は真っ青になる。

 ブラックカードである。

 世界が違うとしか思えない……。


 しかし、嵯峨は、


「あ、そうでした。今度手続きをしてカードを作っておきますね。観月ちゃんにも……」

「い、いえ! 観月はまだ使う年じゃありませんから!」

「家族カードで銀行口座のものですから……お小遣いとかいりますよ?」


どうしよう……と一瞬錦にすがろうとしたが、錦は笑いながら、


「嵯峨は使わないからジャンジャン使いなさいよ。ギャンブル以外なら大丈夫よ~。あ、そうだ。ちょうどここに来たんだから、嵯峨、スーツ新調するでしょ? 柚月さんもドレスとかバッグとか揃えましょう」

「エェェ! わ、私は、そんなに……」

「何言ってるのよ。ねぇねぇ、チーフ。さっき、私が見ていたバッグや財布とか一式に、ちょっと可愛らしいバッグがあったでしょう? あれをお願い。それに、足のサイズは何センチかしら?」

「えと、22.5です。観月は21です」


あれこれと揃えられ、今まで持ったことのないブランドのバッグを持ち、スーツに身を包む。


「……はぁぁ……よ、良かったです。7センチで……12センチのを履いたら、もう、時代劇でしていた吉原の花魁道中おいらんどうちゅうです……」

「でも、7センチでも背はそんなに高くはないけれど、雰囲気が変わったわ。それに似合ってるし」

「錦さんのように、出来る女性になれるでしょうか?」

「普段は低いパンプスで、時々嵯峨と出掛けたりする時は高めのにしたらいいと思うわ。でも、化粧品も選んで貰ったけれど、やっぱり母性の強い顔ね、優しい色だわ」

「でも、唇の色は鮮やかですよ」


 女性同士で笑う。


「じゃぁ、嵯峨がどんな顔をするかしら?」

「ビックリするでしょうか?」

「保証するわ」


 出ていった二人を迎えた嵯峨は、婚約者の柚月の姿に言葉を失う。

 元々童顔とは言え整った顔立ちだと思っていたが、服を変え、化粧を変えると、実年齢よりも若く美人になっていた。


「どう?柚月さん」

「……錦の前では言いたくないが……綺麗すぎて誰にも見せたくない……でも、素敵で……観月が見るときっと喜ぶだろうし……あぁ……複雑……」

「写真とって送ればいいじゃない」

「あ、そうか!」


 嵯峨は呆れる幼馴染にツーショットを撮って貰い、観月に送ったのだった。

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