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《手のひら》

 晴海はるみと戻ってきた祐次ゆうじは、足を引きずり両手には包帯を巻いていた。


「ど、どうしたんですか?」

「あ、えーと……」

「怪我、大怪我したんですか?」


 叔母が看護師であり、観月みづきは真っ青になる。


「あ、違う。慣れてなくて、まめがつぶれて、足の裏も水ぶくれで……いてて!」


 頭をかこうとして、情けない顔になる。


くわとか、鎌とかなたとか斧、コツがいるみたいで、兄ちゃんやじいちゃんたちは楽々扱うのに、駄目でさぁ……電気ノコギリも、楽かと思ったら振動で上手くいかんかって~」

「じいちゃんは持って60年以上や。追い付こう思うんがおかしいんぞ?」


 後ろから入ってきた麒一郎きいちろうが楽しげに笑うが、真顔と言うか複雑な顔になる。


祐也ゆうやは器用やったが、醍醐だいごは一番最後まで慣れんかったわ……。日向ひなたはそこそこそつなくできるがのぅ……」

「エェ? 醍醐兄ちゃんが?」


 驚く祐次に、


「醍醐の手は職人の手や。働きもんの手やけどなぁ、繊細なもんは作れても、土を耕して、木を伐ったりする手とは違う。何度か止めたんや。けどなぁ『ここにおるんや』言うてなぁ……今日の祐次みたいにまめがつぶれても、ようやったわ……」

「お父さん。言わんといてや……」


苦笑する醍醐の声。


「もう、10年前で?」

「そんだけ頑張ったんぞ、言うとんやろが」

「おい、醍醐。先入れや。俺は家の軒下に積んどくわ」


 日向が示す。


「やないと、祐也が又あれこれやるで? あいつは目ぇ離すと動き回って、俺らの仕事を全部やってしまうんや」

「それは困るなぁ……それに、子供らが帰ってきたら、おやつを作らないかんなぁ? いこわい」


 醍醐は日向と共に出ていく。


「祐次よ? 飯はどうするんぞ?」

「えっと、箸で……だぁぁ! いってぇぇ!」


 痛みで箸が持てないらしい。


「あっ! 私が!」

「いや、大丈夫」

「でも、痛そうなので……お好きなもの取ります!」


 観月が隣に座り、


「何がいいですか? ご飯とお汁と……」

「えーと……」


祐次は周囲を見回すが、麒一郎は黙々と食べ始め、女性陣は生暖かく見守ることに徹するらしい。


「何がいいですか?」

「え、えーと。じゃぁ、ご飯を……」

「はい、あーん」

「あ、うん」




 しばらくして戻ってきた祐也と醍醐、日向が見たのは、甲斐甲斐しく祐次に食べさせる観月の姿。


「何や、新婚夫婦みたいななぁ……かいらしいわ」

「お帰りなさい。ご飯用意するね?」


 台所に消えていくほたる風遊ふゆ

 ただす葵衣あおいとニヤニヤと笑っている。

 3人は三和土たたきから上がると、こたつに足をいれる。


「祐次。無理はするなよ?」

「これで解ったやろ? まぁ、たるんどる醍醐には真似させなな」

「ひな、あてを怠けもんみたいに言わんといてや」


 苦笑する醍醐たちが礼儀正しく食事を取り始めると、ふと思い出したように、


「そうやったわ。祐次、葵衣、観月ちゃん。今週末の祭りの準備があって集まるんやけど、3人も行くかな?」

「あっ! 私行きたい!」


葵衣は手をピョコピョコ振る。


「兄ちゃん。俺は……」

「悪いことしとらんのに、閉じ籠ってもしょうがなかろ? まぁ、テレビカメラとか来る日もあるわ、その日や時刻を避けて手伝えや。それに、観月ちゃんも田舎のやけど、お祭りと、この時期にしか見れんもんを見たらええんや」

「この時期……」

「あぁ、もう、始まっとらぁい。ポツンポツン見えよるし。でも、今週末が一番綺麗や。その日を待ちよりや」


 祐也の優しい声に、


「この時期の綺麗なもの……? 紫陽花あじさい?」

「ちがーう」

「えー? じゃぁ、何かな……」


うーん、うーん……。


考え込む観月に、祐次が楽しそうに見ている。


「今度見てみたらいい。本当に綺麗だから」

「うん! あ、お姉ちゃん……来られないかなぁ……」


 残念そうに呟く観月に、


「来年来ればいい」

「来てもいいかなぁ……? おじいちゃん、おばあちゃん。来年、お姉ちゃんと来てもか、かまんかなぁ?」


麒一郎と晴海を見ると、二人は何度も頷く。


「かまんかまん」

「観月ちゃんはうちの子や。柚月ちゃんもや。気にせんとおいでや」

「ありがとう! お姉ちゃん、きっと喜ぶと思います! あ、祐次くん。これ……」


 もじもじと後ろに置いていたテディベアを差し出す。


「これを作ったんだけど……祐次くんに……と思って……」

「えっ? 俺に?」

「うん」

「私は、お兄ちゃんは脳筋だからやめておけばって。柚月さんにって言ったけど、やっぱりお兄ちゃんにだって」


 妹の一言に、祐次はうっすら頬を赤くして、


「あ、ありがとう。大事にする」


と告げた。




「初夏なんやけど、祐次と観月ちゃんの間には春やなぁ」


と、醍醐は呟いたのだった。

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