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《発言》……兄と弟

 翌日、祐次ゆうじは、兄たちと共に山に入り、日当たりの悪い場所の枯れかけた木を伐採し、それを短くして下ろす作業の手伝いをする。


 観月みづき葵衣あおいと共に小学校に子供たちを送り出し、小さい子を隣の保育園に預けた風遊ふゆほたると共に、真新しい建物に入っていく。

 建物には、一階が産直市場と食事がとれる喫茶店と図書館。

 二階には、教室が開けられるような部屋が幾つかあった。

 一つはミシンなども完備され、一つは会議室、もう一つは調理室らしい。


「うわぁぁ……凄いです」

「今週末のお祭りは、小学校で行われるんやけど、ここも穴場なんよ」


 風遊は微笑む。


「あれ? テディベア……」

「うちのブランドベアなんよ。今週末には出資者である人が来るけんね~」

「『fuyu and vivi』……ヴィヴィ……って、もしかしてヴィヴィアン・マーキュリーさんですか?」

「あら、聞いとらんかったんやなぁ? 祐也ゆうやくんのお兄さんの一平くんの奥さんなんよ」

「えぇぇ! あ、祐次くんが『ヴィヴィ姉さんからだと思ったのに、何で兄ちゃんが出るんだよ!』って……」


 風遊はクスクス笑う。


「一平くんは祐也くんの二つ上で、ヴィヴィは一平くんと同じ年よ。で、くれないちゃんのことは聞いたかね?」

安部紅あべくれない選手と言うと、弓道の……」

「えぇ。祐也くんの二つ下で、ウェインくん……ガウェイン・ルーサーウェインの奥さんや。ほたると仲が良いんよ。ヴィヴィとも幼なじみで遊びに来るんよ」

「でも、出資って……」

「うちが、中学卒業してから留学してなぁ……ドイツにイングランドに。で、テディベアを独学で勉強しつつ国際免許もとって、ある俳優さんの秘書兼運転手として住み込みで働きよったんよ。で……」


 聞いた俳優の名前にめまいがする。

 観月も知っている、何度も有名な賞を得た世界的にも知れ渡っている俳優である。


「そこで、その人の友人の娘さんがウェインのお母さん。その繋がりもあって仲良うしてもろとるんよ」

「そうなんですか……」

「ウェインは今度イングランドの首相になるだろう、ガラハッド・アーサーウェイン卿の跡取り息子なのよ」

「え、えぇぇ! に、似てません!」

「ウェインはお母さんに似たのよ」


 クスクス笑う。


「ママ~? 葵衣あおいちゃんがテディベアを作りたいって。観月ちゃんも作る? 半分縫い終わって、ひっくり返して綿詰めをするんだけど」

「や、やりたいです!」


 蛍の声に観月は近づく。

 テディベアは、ピンクのものと金茶色があり、金茶色を選ぶ。

 そして風遊に手伝って貰いながら出来上がったベアは、初心者にしては中々だが、左側に首を傾け何かを聞いている雰囲気になる。


「首がコテンって……」

「表情がえぇわぁ。リボンをつけてあげないかんねぇ」

「えっと……グリーンのリボンにします」


 リボンをつけると、名札を渡される。


「それに作った日付と、名前をつけたらえぇと思うわ」

「えっ? えっと、祐月ゆうげつ……ゆ、祐次くんにあげたら変ですか?」

「……いいと思うわぁ。でも……」

「やっぱり変ですか?」


 しょげる観月に、横で文字通り格闘していて、出来上がったベアの耳のバランスがおかしくなり、瞳の高さが同じ位置にならなかった葵衣は、


「えぇぇ~? そんなに可愛いのに、お兄ちゃんにあげるの? あの脳筋だよ? 観月ちゃん! 祐也お兄ちゃんのように大らかで、頭もよくてかっこよくて強い、あれこれ全般万能じゃないよ?」


と実の兄をけなす。


「えっ? 優しくて強いですよ? それに、かっこいいです」

「えぇぇ! あれが?」

「あの……初めて会った時、クラス分けの名前が載っている看板の前で、人の波が倒れてきて、押し潰されそうになったんです。私」


 自分の作ったベアの頭を撫でながら、えへへと笑う観月はようやく136センチになった。

 去年より1センチ伸びたのだが、本当に華奢である。

 そんな華奢な観月が人の波に押し潰される……3人は青ざめる。


「そうしたら、祐次くんが軽々と私を引っ張り出してくれて『大丈夫か?』って言ってくれたんです。で、怪我がないかって心配してくれた上に、この身長なのでクラスが見えないし、人は増える一方だしと思っていたら『じゃぁ、このまま人の間を抜けても大変だと思うし、時間かかってクラス見られないと思うから、俺が大塚を抱き上げるから、見つけてくれるか? あ、スカートをみたりとかじゃないから! 普段の筋力トレーニングでだから、はいっ!』って、肩に乗せてくれたんです」

「えぇぇ! 肩車? それセクハラ~!」

「あ、左肩に乗せてくれたのです。で、クラスを見ると、同じクラスだったのです。それから、祐次くんが私の苦手な数学とかを教えてくれて……それに、人見知りの私に優しくしてくれたのです……」


 頬を赤くする少女。


「に、二年生になった時に、別のクラスだったらどうしようって思っていたら、同じクラスで……う、嬉しいなぁって……だ、だから、風遊さんに風月ふうげつを戴いたので、祐次くんに……あっ! 駄目でしょうか? 嫌がられるでしょうか……」


 モジモジとする観月に、葵衣は、


柚月ゆづきさんにあげたら?」

「あっ! そ、そうですね……」


小さくなった観月に風遊は、


「あら、えぇと思うけどねぇ? 祐次くんに贈ったらかまんかまん。柚月さんには又今度作ったらえぇわ?」


と微笑む。


「きっと喜ぶわ」

「そ、そうでしょうか?」

「あぁ、そろそろ、お昼や。ばあちゃんやスゥちゃんも待ちよるわ。帰ろかね」


と、4人は坂を上って帰っていく。

 すると、汗だくで泥だらけになって、おじいちゃんも含めて5人が帰ってくるのが見えた。


「お帰り」

「お、お帰りなさい」

「あぁ、ただいま」

「風遊? あてらは風呂に入るわ。先に食べとってや?」


 醍醐だいごの言葉に、祐也が祐次を担ぐと、


「全く。自分の体力過信するな。行くぞ」

「ごめん……兄ちゃんたち……」

「じゃぁ」

「じいちゃんも先に入りや。わと醍醐は、下ろした薪にする木を軒下に移しとこわい。雨はまだ降らんけど、もう少ししたら梅雨や」

「ほうやなぁ……小枝とか、枯れ葉とかも入れとかないかんなぁ……」


醍醐と日向ひなたは言いながら歩いていく。


「じゃぁ、葵衣ちゃんも観月ちゃんも入ろか。ご飯食べないかんねぇ」


 と蛍に呼ばれ、母屋に入っていくのだった。




 従兄に担がれつつ、何とか頭をあげた祐次は、


「……う~ん。滅茶苦茶情けない……俺」


観月が母屋に入っていくのを見送ったが、ぐったりとする。


「祐次よぅ。運動しとってもなぁ? 山での仕事と、体の使い方が違うんぞ? それにのぅ……無駄が多いわ」

「じいちゃん……コツ教えてや……俺、ひな兄ちゃんは兎も角、醍醐兄ちゃんより持てると思ってたのに、いかんかった……何で?」


 ぼやく祐次に、麒一郎きいちろうは、にやっと笑う。


「慣れよ慣れ。それに体がまだまだやのぅ」

「……兄ちゃんみたいに……なりたい……のに……」

「俺を真似せんで、寛爾かんじ父さんみたいになれや。それに、お前はお前や。無理することなかろが」


 祐也は、離れにある浴室の入り口に祐次を送り込むと、


「じいちゃんと祐次の着替えをもってこうわい。ちゃんと汗流すんぞ?」

「はーい……」


先に入った麒一郎を追いかけ、浴室に入るとお湯をかけている麒一郎の背中を見る。


「じいちゃんの背中は立派やなぁ……」

「ほら、汗流して入らんか」


 薪で沸かしたお湯の入った洗面器を祐次の頭を引き寄せ、ひっくり返す。

 お湯は丁度いい温度だが、


「いたぁぁ!」


祐次は悲鳴をあげる。


「どしたんぞ? 祐次」

「……手がっ! うっわぁぁ! 久しぶりにまめが潰れた! しみるー!」

「……しょうがないの~。じいちゃんが洗ってやるけん。先に入っとけ」

「足の裏も水ぶくれ……」

「我慢せい」


 綺麗に汗を拭った祐次だが、外で救急箱を持って待機していた晴海はるみが、


「慣れんのに、無理せんのよ。しばらく鍬とかも持たれんで?」


と孫に言い聞かせたのだった。

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