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《指》

 風遊ふゆは布団を敷き、


「これを着て休まんとねぇ」


と、親戚の子供たちが遊びに来た時の着替えを探すが、年齢にしては華奢な為、葵衣あおいの前に着ていたパジャマを差し出した。


「あ、ありがとうございます……」

「あ、ちょっと待って……」


 観月みづきを座らせると櫛をとり、毛先から丁寧にといていくと、一つにして、緩く三つ編みにして、ゴムでしばる。


「こうしたら、休みやすいわ。はい、横になって?」

「ありがとうございます……お休みなさい」

「お休みなさい。眠れるまで側におるよ?」


 声をかけると、瞳を潤ませる。


「お、お母さん……私は覚えてなくて、お姉ちゃんと一緒に住むようになって、熱を出すとこうやってしてくれて……」

「じゃぁ、観月ちゃんにとって、柚月ゆづきさんがお母さんやねぇ?」

「……はい。でも、お姉ちゃん、私の為に頑張って……申し訳なくて……」

「それは柚月さんが、観月ちゃんを愛しているからやわ?」


 布団をかけて、優しくポンポンと叩く。


「うちもなぁ?初婚やけど、ほたるがすでにいるシングルマザーやったんよ。イングランドに留学しとった時に子供ができて……生まれた子供を必死に連れ去って帰ってきたんよ。兄弟は恥さらしや言うて……でも、じいちゃんもばあちゃん、近所のおっちゃんたちが『ようもんてきた。お帰り』言うて……嬉しかった」

「……留学してたんですか?」

「あぁ、うちはテディベア作家なんよ。あぁ、この子……」


 引き寄せたのは、綺麗な桃色の矢がすりと紫の袴姿のベアである。


「昨日作ったんよ。観月ちゃんにあげるわ」

「えっ? で、でも……」

「ネットに出すつもりの子じゃなかったし、ヴィヴィに贈ってもと思っとったんよ。観月ちゃんの子にしてあげてな?」

「……あ、ありがとうございます。大事にします」


 テディベアを抱き締め微笑むと、風遊は嬉しそうに、


「あぁ、良かった。観月ちゃんがわろうてくれた。嬉しいわ。この子も嬉しかろ」

「えっ!」

「急に色んなことがあって、知らんとこで怖かったんやろ? 良かった。やっぱり可愛いわ。柚月さんがお母さんになりたいて言うんは当然やわ……安心しぃ? 祐次ゆうじくんもおるし、皆味方で家族や。大丈夫。お休みなさい」


観月はフニャッと表情が緩むと、呟き目を閉じた。




 しばらくして、襖が少し開き、


「風遊。大丈夫?」

「あぁ、だんはん。よう寝よる。泣きたかったんやろなぁ……知らんとこで怖かったんやろ……」

「おばさん……俺、代わるわ」


やって来た祐次を見て、


「隣に布団を敷くわ、お休みや。祐次くんも」

「えっ? 俺は大丈夫……」

「じゃないさかいに、大人しゅう寝んかな」


帽子と眼鏡をとった醍醐だいごは布団を敷くと、


「しばらくお寝や。夕飯には起こすわ」


と、無理矢理寝かせる。


「疲れたやろ、寝んかな」

「俺はそんなに……」

「青い顔して、疲れてます、言いよるで? 今は寝ることや。お休み」


 渋々といったように布団に入った祐次だが、しばらくモゾモゾしていたものの、寝息がし始めた。

 観月もだが、祐次もかなり参っていたらしい。

 もう、初夏に入ってはいるが、肌寒い時もある。

 暖かいか確認し二人はこたつのある部屋に戻ると、子供たちは麒一郎きいちろうたちと出掛けており、葵衣がうとうとと寝入っていた。

 おませで大人びてはいるが、今日の事は本当に葵衣にも負担だったらしい。


「毛布持ってこよか……」


と、そっとかけると、日向ひなたが持ってきていたノートパソコンを操作していた。

 ツイッターをチェックすると、祐次のありもしない情報が流されていた。

 祐也ゆうやは顔を歪ませる。


「俺の時よりももっと酷い……おばさん……めぐみ母さんが苦しんでないとええけど……」

寛爾かんじさんのことも、滅茶苦茶やな……冗談じゃないわ」

「どこに行かはったんや? 寛爾さんたちは」

「……賀茂かも優希ゆうきの所です。龍樹たつきもおるし、賢樹さかきおいはんならと、連絡したら、快く紫野むらさきの兄さんが空港に迎えに行く言うてくれたんで」


 祐也は紫野の弟である醍醐に説明する。


「で、シィ兄さんは『ここやおとうはんとこにも連絡して、『まつのお』全部取材NGにしたるわ~!』言うて生き生きしとったんで……」

「シィ兄はんは言うわ……でも、こっちにくるかなぁ」

「来るわ。多分、祐次のとこから漏れて、俺んとこに来るんやないですか? ウェインやヴィヴィにも伝えとかな……」


と言うと、祐也のスマホが鳴った。


「もしもし」

『あ、安部祐也あべゆうやさんですか? 従弟の不知火祐次しらぬいゆうじくんの取材ですが』

「どこの新聞社かな? テレビ? 雑誌かいな? 名前聞かせて貰えんやろか?」


 名乗った名前と会社名を口にだし、それを日向がパソコンのメモ機能に打ち込んだのを確認すると、


「その問題は顧問弁護士の大原さんに頼んどるんで、そっちに聞いてくれへんやろか? 従弟の祐次が被害者や。被害者の祐次のありもしない情報に躍らされるとは、あんたらは10年前と変わらんなぁ」


祐也は嘲笑する。


「最初にツイッターで祐次の情報を流した馬鹿には、取材申し込んだんか?」

『えっ! ……あの……』

「そっちを調べぇや! 調べれるやろが! ボケが! 写真に名前まで、個人情報を安易に流したんはその同級生やろが! 同級生に聞けや!」

『ですが、未成年で……』

「祐次も未成年やろが! こっちからはこれ以上言うことはない。大原さんに頼んどる。かけてこんといてや。迷惑や! 家に来るようなら訴えるで!」


と電話を切った。

 ため息をつくと、はっとしたように、


「じいちゃんと子供たち……特に穐斗あきとが!」


と飛び出していったのだった。

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