ケイコの正体
まさかケイコさんが未来から来た私だったとは……
もしかして、パン屋の竃がタイムマシンだったのかしら? そんなことを考えながら、私は早朝自転車を走らせた。
店に到着し、生地を丸めつつも、ケイコさん (私)のことを考える。
一体何があったらあんな言葉遣いになるのか。
恐らく、部活を辞めて、結局成績も上がらなかったんだろう。
そして、やさぐれてしまったに違いない。
「栗井さんよ、ちょっといいか?」
事務の部屋から顔だけだして、ケイコさんが手招きしてきた。
「行ってきていいよ」
枝豆さんの許可を貰い、厨房を離れる。
「昨日のメールの件。 私、地元がここなんだ」
ケイコさんは詳細の説明を始めた。
実は、ケイコさんは未来人などではなく、出身が私と同じ高校というだけだったのだ。
勉強に関しては、過去問をわざわざ取ってあったらしく、それを家から取ってきてくれるとのことだ。
「私、部活もあんたと一緒の吹奏楽部で、しかもヴァイオリン弾いてたんだよ」
だから、10年後の私、なんて言い方したのね。
「でも、タダじゃ過去問もヴァイオリンも教えてやらねーぜ? 世の中そんな甘くはねーから」
その為に働け、ということね。
こんなチャンスが滅多に無いことくらい、私にも分かる。
「何でもやります!」
「オーケー。 そしたら、早朝の手伝いともう一つ、10年前にこの街で流行った、伝説のメロンパンを復活させるのに協力して欲しい」
……え?
なんて?