パン作り
翌日の早朝、私は部活の朝練があると嘘をついて、クレイジーブレッドに向かった。
自転車で駅前まで向かい、駐輪場に止めて店の前までやって来た。
ドアをノックすると、眠気眼のケイコさんが現れた。
どうやらここに住み込みで働いているらしい。
「おはよ~。 中入って」
まだ真っ暗な店内を通過し、厨房に入ろうとすると、ストップ! と手で制された。
「ここからはこれ着て」
手渡されたのは、食品工場などで着るような真っ白い上着と、頭にかぶるキャップだ。
「あと、手洗いとアルコール消毒もね!」
傍らにあった洗面台で手洗い、消毒を済ませ、ようやく中に入ると、既に男性が一人、作業を始めていた。
「健、さっき話した栗井さんが来たからよ。 手伝ってもらえよ」
「えっ、ほんと!?」
振り向いたのは、丸っこい感じの、人当たりの良さそうな人だった。
「は、初めまして。 栗井です」
「枝豆健です。 えーと、今発酵させた生地を形成している所だから、とりあえず見ててよ」
枝豆さんは、ヘラで素早く生地を切り分け、手のひらで丸くしていく。
それを何個も作り、テーブルの上が丸い生地で埋め尽くされた。
「これを3つ合体させて、オーブンで焼くんだ。
仕上げにチョコペンで顔を描いて完成。 早朝は120個用意して、昼間と夕方も同じ数用意する。 その後は翌日の生地の準備」
この段取りを一人でやるのは中々大変らしい。
そこで、切り分け、形成、焼き、顔入れを分担して行うことで、作業を楽にしたいとのことだ。
「切り分けと焼きを僕がやるから、形成と顔入れを覚えて欲しいな」
あのブレブレの顔を描いてたのはこの人だったか。
枝豆さんが生地を切り分け、私はひたすらそれを丸めていく。
生地の大きさは均等だから、サイズがバラバラになることはない。
単調作業だが、結構面白い。
ある程度できたら、それを3つ繋げて、ペーパーのしいてあるトレーに乗せる。
そして、トレーの上がいっぱいになったら、暖めておいたオーブンに入れ、そこから20分程焼く。
その間も作業を続け、しばらくしたらパンが焼き上がった。