パン屋にて
クレイジーブレッドは営業時間が7時から20時のため、一旦家に帰り、テスト前だから友達の家に勉強に行くと嘘をついて、もう一度やって来た。
店に着くと、さっきのカウンターの女性が待っててくれた。
「お~、来たか。 入ってくれ」
こうやって見ると、スレンダーで結構美人の部類かも、と私は思った。
言葉遣いがアレだけど……
売り場の奥が事務スペースになっていて、更にその奥が厨房みたいだ。
椅子に座らされると、早速面接が始まった。
「やっぱりあれか? パン屋だと早朝働けるからとか、そんな理由?」
「あ、いえ…… 深い意味はないんです。 ただ何となくで」
しかし、指摘されて気が付いたが、学生の身である以上、休み以外では昼間は働けず、夜は成績を落とさない条件から、勉強にあてなければならない。
必然的に働けるのは早朝のみとなる。
「そっか。 こっちとしては週5で早朝の仕込みを手伝って欲しいんだよな。 最近オープンしたばっかなんだけどさ、予想以上にハードなんだわ」
話によると、オープンの7時に合わせるために、早朝4時から仕込みを開始するらしい。
パンの原価は150円で、それを200円で販売している。
テナント料、機材のリース代、原材料、今後の為の貯金を兼ねて、一日で300個を売らなければならないらしい。
「一ヶ月で必要経費が100万以上かかるんだわ。 うちの売りは国産の小麦粉を使ったパンだから、それが一番高い。 ここは譲れねーんだけどさ」
何やらお金の話が始まった。
これはそんな高い時給は払えないぞというフリかしら?
「結構カツカツなんですか?」
「早い話がな。 だから、時給500円でいいか?」
……やっっす!
目の前の女性は照れくさそうに、えへへ、とはにかんだ。
「やっぱ安い?」
「……それで、いいです」
とりあえず弦を張り直すお金さえ手に入ればいい。
楽器屋で3000円でやってもらえるから、最悪2日働いて辞めてもいい。
「よっしゃー! じゃ、明日からよろしくな。 私は塩辛ケイコ。 厨房は枝豆健ってやつがやってっからさ」
こうして、明日の早朝からパン屋で働くことになった。