複雑な家庭
なんでこんなに母親が反対してくるのかと言えば、原因は父親だ。
私の家では誰も父親に文句が言えない。
大手の企業に勤めていて、稼ぎはとても良い。
だから、母親に何かを言う権限なんてなく、いつも父の顔色を伺っている。
「部活? 成績が落ちたらどうするの!?」
最初はそう反対されたけど、成績を落とさないことを条件に、どうにか部活には入れた。
「弦を直すお金が欲しいなんて、絶対頼めないわ」
とりあえず明日はこのまま部活に出るしか無い。
授業が終わり、音楽室に向かった。
席について、いつものようにヴァイオリンを取り出すと、遥がわざとらしく弦のことを指摘してくる。
「それ、まだ直してないの!?」
「……」
ホントなら、弦を切ったのはお前だろ、と弁償させたい。
しかし、ここで逆らえば、私はハブだ。
「先生に言って借りてきなさいよ。 別に、やる気ないならいいけど」
「……」
ぐっ、と歯を食いしばり、私は先生からヴァイオリンを借りてきた。
今日は凌いだけど、いい加減このままではマズい。
「短期のバイトを探さなきゃ……」
そして、ふと昨日のことを思い出す。
「……あのパン屋、バイト募集してないかしら?」
早速、帰り道にクレイジーブレッドに向かった。
相変わらずの行列。
バイト募集の張り紙は見当たらないが、聞くだけ聞いてみようと、列に並んだ。
店内に入り、レジをしている女性に尋ねてみた。
「あのぉ、ここのお店って、バイト募集してないですか?」
「えっ、マジで!? んじゃさ、履歴書見せてよ」
「あ、履歴書ないんですけど……」
「……まぁいっか。 学校でバイト禁止とかないよな?」
そんな校則は無かったハズ、と答えると、後で面接するから営業終わってからまた来て、と言われた。