クレイジーブレッド
気づいたら、私は列に並んでいた。
所持金は300円。
どうせ弦を張り替えるお金もない。
5分程列に並んでいると、店内に入れた。
ところが……
「えっ、狭くない?」
部屋は6畳程度の広さしかなく、そこに棚が置かれているため、行き違えるスペースすらままならない。
「行列になるわけだわ……」
とりあえずパンを買おうと棚を覗き込んで、またしても絶句した。
「ね、ネズミパンて……」
シルエットはミッ〇ーマウスのような形で、そこにチョコペンで顔が描かれている。
しかし、まるで常時手が震えている人が書いた絵のように、ラインがブレまくっていた。
「これしか無いのかしら?」
これしか無い。
「騙された……」
ネズミパンを購入したはいいが、騙された感が拭えない。
ネズミパンが私のことを馬鹿にしたかのような目で見てくる。
「……食ってやるっ!」
私はヤケになってネズミパンにかじりついた。
「……えっ?」
美味しい……
美味しいじゃない!
モチモチした食感、弾力がハンパではない。
気づいたら、私はそのパンを一瞬で平らげていた。
家に帰ると、部屋に戻ってヴァイオリンを手に取る。
そこで、弦が3本しかないことを思い出した。
「あ、しまった……」
また最悪なテンションに逆戻りだ。
パンのお陰で少しは持ち直したのに……
更に、母親が部屋に入ってきた。
「あなた、ヴァイオリンはうるさいからやめてって言ってるわよね?」
ああ、ウザ……