カツサンド
この後、遥がカラオケに行きたいと言い出したので、近くのカ〇館に向かった。
「西〇カナ、歌いま~す!」
遥が上機嫌で歌い始めた横で、私は気になってさっきの話を聞いた。
「あの、さっきの男の人って……」
「ああ、調理学校時代のライバルだよ。 木村シンゴってんだ」
毎年冬に行われるパンのコンクールで、ケイコさんはまだ一度も優勝したことがなく、原因は木村さんがいるかららしい。
「あいつ、インドに3年間修業に行ってて、超本格的なカレーパンを作れんだ。 しかも、スパイスを現地調達してくる程のこだわりっぷり。 あれに対抗するには、メニューの意外性と、素材にも力を入れなきゃならねぇ」
一体、どんなレシピを用意したのだろう?
「ケイコさんは、今年は何で対抗するんですか?」
「……カツサンドだ」
カツサンド?
あんまり意外性は無いような気がしたが、驚いたのはその後だった。
「使うのはイノシシの肉だ。 豚肉よりずっと上等な味がするんだけど…… 仕留めてからすぐ血抜きをやらなきゃマズくなっちまうらしい。 だから、生け捕りにして業者の所に持って行く」
……えっ!?
い、生け捕りって……
「イノシシは西日本に生息してんだ。 四国とか、九州。 雪が多い所にはいないんだってよ」
「ちょ、待って下さい! ケイコさんが捕まえに行くんですか?」
「ああ、トラック借りてな。 ユメと遥も来るか?」
いや……
近い内吹奏楽のコンクールもあるし、かなり危険な匂いがする。
断ろうとした時、遥が叫んだ。
「私、姉さんに一生ついてきます!」
「遥、よく言った!」
嘘でしょ……




