序章
「この、クソッタレ!」
私が勢い良く小石を蹴ると、目の前に止めてあった車に命中した。
ガン、と音がし、ヤンキー風の男が車から降りてきた。
や、ヤバい……
この後、小一時間説教され、私は涙目で家まで帰る羽目になった。
なぜ、こんなに荒れていたのかと言えば、私はある種のイジメにあっているからだ。
私の名前は栗井夢。
吹奏学部に入っている女子高生なんだけど、担当しているヴァイオリンがあまり上手いとは言えず、イジメの標的にされていたのだ。
今日、ロッカーにしまってあったヴァイオリンを取り出すと、違和感に気づいた。
「あれっ、弦が……」
4本あるハズの弦が3本しかない。
すると、後ろから声が聞こえた。
「栗井さんって、楽器の手入れも出来ないんだ」
彼女は、ヴァイオリングループのボス的存在である、金成遥だ。
「あなたがやったの……?」
「……気をきかせてあげたのよ。 あなた、不器用だから」
怒りがこみ上げてきた。
ふざけんな! と胸ぐらを掴みたい衝動にに駆られたが、何とか踏みとどまる。
悔しくて、部活中はずっと頭の中で遥を殴りつけていた。
「はぁー……」
あの出来事が中々頭から離れない。
ほんと、ふざけてる。
弦を直すお金もないのに……
最悪な気分で帰り道を歩いていると、普段見かけない行列を見かけた。
「何かしら?」
その行列を辿っていくと、その先にあったのはオープンしたばかりのパン屋であった。
ちなみに、店の名前は「クレイジーブレッド」
「そんなに美味しいのかしら……」