第九話:死霊人間
水晶で形作られたスクリーンに夜道を一人の人間の男が映し出される。
櫻「現在、人界での瘴気量がかつて我々の経験のないレベルにあるのは
皆も知っているとは思います。」
極「ああ、だが今のとこ人界では、世界大戦レベルの戦争も起きてない
不思議なことにな。」
櫻「確かに戦争は起きていません。ですが戦争のほうがまだよかったかも
しれません。」
極「どういうことだ。」
スクリーンに映る人間を見ている威火炉守が口をひらく。
威「しかし、この人間は随分と業がが深いね、不倫に横領、すき放題自分の
欲望のまま振舞っているみたいだ。」
魔族の威火炉守の目にはその男の魂が黒ずんで見えていた。
そんな業の深い男のほうに何かが飛んでくる。
牙「何か飛んできたぞ…これは死霊化した人間の魂か、まあ悪事を働く人間
は取り付かれやすいからな。
別に変わった点はない様だが。」
斬「おいっ、更に凄まじい量の死霊が男めがけて飛んできてるぞっ!!」
飛んできた夥しい数の死霊は男の体の穴という穴から侵入していき男が
もがき苦しみ始める。
極「こんな量の死霊が一人の人間に憑依するなんて聞いたことがない
確かに異常な事態だ。」
極竜の言葉に漸王が口を挟む。
漸「憑依?そんな生易しいものじゃありませんよ…」
漸王のスキャン能力は他の伝説級魔族を上回る、そんな漸王が目にしたものは。
漸「死霊共が男の魂を食らって更に死霊同士が食い合っている…これはっ!!」
櫻「流石、漸王、気づきましたかこれは憑依なんかではありません…強烈な瘴気
が術式の役割をし超自然的に起きている蟲毒なのです。」
もがき苦しんでいた人間が何事もなかったかのように立ち上がる、だが一瞬、
男の目が黒くなった。
櫻「しかも最後まで勝ち残った死霊はその人間の体を使い人間社会に潜伏し自らの
欲望のまま,つき動きこの人間社会を食い物にしています。
しかも厄介なことに政界などにも潜伏している可能性があることです。」
威「早く駆除しないと、櫻、これは特例で上級魔族を人界に送って処理する
必要が。」
櫻「もう既に行ったわ、でも無理だったのよ。」
漸「普通の人間と区別がつかないんですね。」
櫻「ええ、神通力の反応が人間社会に紛れている時は人間としての反応しか
ありません。
それともう一つ駆除できなかった理由はこちらを見ていただけたらイヤ
でも判ります。」
新しい映像が映し出される。
そこには魔人型の上級魔族と中年男性がにらみ合っていた。
威「あれっ、確かこの子、全魔界剣豪杯で優勝した双剣使いの…」
牙「武蔵か、この子魔界統制局に就職したのか。」
武蔵「人の皮を被った化け物が我が双剣の錆びとなれ。」
それを聞いた中年男性が笑い出す。
中「くっくっくっ、人間や死霊は食ったが魔族は、初めてだぜ。」
武蔵「ほざけぇっ、!!」
武蔵は一瞬で間合いを詰め中年男の顔面に蹴りを放つが中年男は体をそらせ
かわす。
体をそらせて不安定な体勢になった所に右手の剣で切りかかるが切りかかって
きた手を掴み引っ張って自身の体を武蔵の後ろに回り込ませた。
武蔵「くっ、我の速さについてくるとはっ!!」
中「はぁ、もう飽きたお前、食っていい?」
武蔵「我を舐めるなぁーーーーっ!!」
中年男に向かって俊足で飛び込み首を左右から両断、中年男の背後に通りぬけた
はずだった。
だが中年男の首は健在で中年男の口には武蔵の両腕が咥えられていた。
武蔵「ぐあぁぁぁっ!!」
中年男はそのまま武蔵の腕を音を立てながらたいらげた。
中「魔族の味もたいしたことないな」
そういいながら中年男は去っていった。
そこで映像は終わっていた。
極「櫻、イヤでも判った、上級魔族が本体で挑んでも勝てないなら我らしか倒せる
者がいないというわけだな、」
櫻「はい、今現在差し迫った状況にあります、先生の救出と死霊人間の討伐、
手を貸してもらえますか。」
斬「野暮なこといいなさん、櫻嬢ちゃん、俺達はキリシエルに櫻嬢ちゃんを助けて
やってくれって頼まれてるんだ。
手を貸すに決まってるだろ。」
極「それに奴は俺達にとっても大切な親友だ、手を貸さない理由なんてあるわけ
ないだろ。」
五魔全員がうなずく。
櫻「皆さんっ、ありがとう。」
感極まり涙を流す櫻。
漸「しかし、我々が人界に行くとして本体のままでは人界に間違いなく影響
でますよ、かといって相当影響が出ないよう力を絞った分身体ではあの
死霊人間の討伐やキリシエルの捜索は無理があります。」
威「確かにっ、一体どうすれば…」
皆が悩み始める中、櫻が不敵な笑みを浮かべた。
櫻「我に秘策ありよ。」