第四十九話:機械仕掛けの影騎士 前編
東京のアスファルトに覆われた地面を七月の強烈な日差しで熱した
フライパンのよになっていた。
だが、そんな灼熱でも溢れかえった人々は時間に追われ、欲望に駆り
立てられ、仕事に追われながら忙しく道を行き交う。
そんな、東京の秋葉原で漸王の分身体は、マニアックな電子部品を
取り扱ってる古びた店で陳列してある商品を眺めながら感動していた。
漸王:分身「人間の世界は呪術機構の呪術機械と違った独自の発展を
遂げた機械というのは最早、芸術ですね。
可能ならずっとこのアキバにいたいところですが契約者
が見つからないのでは離れるしかありませんね。」
漸王の分身体は店の外に出ると、歯車で構成された円盤型になり
ビルのそびえる中をゆっくりと浮遊しながら移動する。
漸王:分身「しかし極竜も斬蛾も運がいい、あんな短時間で契約者を
見つけるとは。
私も案外早く契約者を見つけられるのではと思っていまし
たがうまくいかないものですね。
こうなったら、櫻への嫌がらせも兼ねて、美形とか
イケメンとか無視して契約者をみつけますか。
もし、櫻が文句言うなら、
{イケメンの契約者じゃないですか…心が}とかいって誤魔
化しましょう。」
漸王の分身体は、名残惜しそうに高層ビル郡の中をゆったりと飛ぶ、
そして私立中学の上空を通過しようとしたその時だった。
強烈な負の波動がその私立中学から一瞬、反応が出たのを漸王の分身体
が気づいた。
漸王:分身「私が東京での契約者探しを諦めたタイミングでこの反応を
感知するとは、しかもこの反応は善良な精神で押さえ込ん
で制御しているものではありませんね。
これはなかなか良い候補が見つかるかもしれません。」
漸王の分身体は私立中学に降下していく。
そして、学校内部に入り込み、食堂、体育館、運動場、教室など
学校内部を探索していく。
漸王:分身「流石、御曹司などが通う有名私立中学といったところですね、
潤沢な寄付金により最新の設備、高水準の教育を受けられる
環境となっていますが、随分と醜い差別もあるみたいですね。」
食堂で他愛のない会話をしながら昼食を取っている男子生徒三人に、
五人の態度の大きい男子生徒が絡んできた。
態度のでかい男子1「おい、そこは俺達の席だろっ、さっさとどけよっ!!」
男子生徒1「俺の席って…学食の席に誰の席なんて関係ないじゃないかっ!!」
態度のでかい男子2「ぷぷっ、マジで言ってるのかよお前。」
男子生徒2「何がおかしいんだよっ!!」
態度のでかい男子1「ここの設備は俺達選ばれし特権階級の寄付で
賄われているっ、つまり寄付した者が権利を
主張することは当然の権利だ。」
態度のでかい男子2「だが、おめぇらみたいなお情けでこの学園に
在籍している貧乏人はどうだぁーっ、寄付も
してないのに権利の主張とは、これだから
醜い貧乏人はっ!!」
男子学生3「そんな無茶苦茶なっ!!」
態度のでかい男子1「言いたいことがあるなら多額の寄付してから
言えよっ、まあ出来たらの話だがな、恨む
なら貧乏な親を恨むんだな。」
態度のでかい男子五人「ひゃーはぁはぁはぁっ!!」
そんな理不尽が行われているにも関わらず、助けようともせず回りの
学生はクスクス笑い、陰口をたたきその光景を眺めている。
そして態度のでかい男子が大爆笑していた、その時だった、食堂に
一人の、細身の身体に面長の整った顔立ちにお洒落な長方形のメガネ
をかけた知的な印象のさらさらの髪を短く整えた美形男子が現れた。
それに気づいた生徒達がざわめき始める。
生徒1「なんてことだっ、あいつら終わったな。」
生徒2「ああ、どんな不条理も許さない、高潔の副生徒会長っ、
西園寺 響っ!!
非暴力を掲げているにも関わらず、口先だけで殆どの問題を
解決する学園最強の男っ!!」
女子生徒「きゃーっ、響さまーっ!!」
響の存在に女子生徒達は黄色い声援を上げ、男子生徒達は
ざわめき始める。
そんな響を眺め、漸王の分身体は興奮していた。
漸王:分身(心)「何なんだこの少年はっ、負の波動が包み隠されず
放出状態だが,それを別の負の波動で相殺しているっ!!
善良な波動は一般人とほぼ変わりないが、負を負で
相殺し制御することで善良性を維持しているとは
これは面白い子を見つけました!!」
響は、絡まれている男子生徒のもとに行き、態度のでかい男子達の間に
割ってはいる。
響「彼らにこのような醜い物言いはやめて頂こうか、非常に不愉快だ。」
響が態度のでかい男子五人を睨みつけると男子五人は響の眼光に、つい
後ずさりする。
態度のでかい男子1「くっ、…響っ!!、…なんだっ、文句あるのかよっ、
俺は寄付金も払ってない貧乏人には設備を使う
権利はねぇって言ってるだけだろうがっ!!」
態度のでかい男子2「そっ、そうなんだって、だからこいつ等貧乏人が
調子乗らないよう矯正してやってるだけだっての。」
響「なるほど、彼らは寄付金を払ってないから設備を使う資格がないと、
それが君達の言い分か。」
態度のでかい男子2「あ、ああそうなんだよっ、俺達はこいつ等に
道理を教えてやってただけ。」
響「少し黙らないか…君はっ!!」
響は凄むと、態度のでかい男子は怯える。
態度のでかい男子2「ひぃっ!!」
響「君らの寄付金を払ってない人が使う権利はないというのは
一理ある。」
男子生徒「えっ!!」
響のその発言に男子生徒達はびっくりした。
態度のでかい男子1「だ、だろ、さすが副会長、話がわかる
じゃないか。」
響「だが、そうなると君らは彼らの分の寄付金も払わないと
いけないな。」
態度のでかい男子1「ちょ、待てよっ、何でそんな話になんだよっ!!」
響は態度のでかい男子達に見ながら笑う。
響「何故なら、君達の学業成績の悪さを、彼ら特待生がカバーして
くれてるんだから当然でしょ。」
態度のでかい男子生徒達「なっ!!」
響「君らみたいないい家柄に生まれたこと以外とりえがない頭の機能が
終わっている君達の変わりに、この学園の学業の平均点を上げてく
れてるんですから君達のことをカバーしてくれてる謝礼として当然
でしょう。」
態度のでかい男子1「響ッ!!俺達を馬鹿にするのも大概にっ…」
響の口元が三日月のようにつり上がり口からさらなる暴力的な
言葉を吐き出す。
響「私に怒りを向けるのは筋違いでしょ、恨むのなら…あなた達を
こんなポンコツに生んだ親を恨むのが君達のさっき言っていた
道理、でしょ。」
圧倒的な屈辱を与えられて怒りで態度のでかい男子1が拳を握りしめ、
響を殴りつけようと動こうとした瞬間に響の口から出た言葉は心を締め
上げる。
響「別に暴力で解決しても構いませんよ、もっとも君達のような知能の
低い動物レベルの解決方なんてそのくらいしかないでしょうから。」
態度がでかい男子1「くっ、…響ぃぃっ!!」
態度のでかい男子1は苦虫を噛み潰したかのような顔で怒りで震え
ながら拳を押さえる。
響「君達が彼らを馬鹿にしていい道理などない、これに懲りたら
このような醜い行いはやめることですよ。」
態度のでかい男子達は多くの生徒の前で侮辱され、さらし者状態になり
心が折れその場をとぼとぼと去っていった。
その後、響に男子生徒達が駆け寄り、礼を言う。
男子生徒1「響副会長っ!!助けていただきありがとうございました。」
男子生徒達「したっ!!」
響「私が気に喰わなかったからだけですからそんなお礼を言われる
筋合いなんてありませんよ。
ところで、聞きたいことがあるのですが。」
男子生徒1「は、はいなんですか?」
響「今日の日替わり定食って何でしたっけ?」
男子生徒1「確か鯖の味噌煮定食だったと。」
響「そうですか、豚のしょうが焼き定食ではなかったですか。
どうも。」
響は食堂のカウンターでカツ丼を頼み、食堂の席で食事を始めた。
その光景を見ながら他の生徒達はこそこそ話す。
生徒1「普段は温厚なのに不条理なことが目の前で起きると、その
不条理を起こした奴の精神を破壊しにくるっ!!
敵に回したくないよな本当。」
生徒2「同感。」
女子生徒1「私も響様に罵倒されたいなー!!」
女子生徒2「あんなイケメンの響さんに罵倒かぁ、その方面じゃない
けどされたいかも。」
漸王の分身体は食事する響を見ながら思う。
漸王:分身「確かに善良ですが…口悪い子ですねー、…ですが物怖じせず、
暴力の気配がした瞬間に行動を縛る言動を放つ狡猾さ、
なかなかですね。
気に入りました彼と契約を進める準備に入りましょう。」
こうして、漸王の分身体はこの口の悪い、善良サディスト知的イケメン
との契約の準備に取り掛かるのであった。