第五話:魔法少女だって地道な努力は必要だよ。後編
人々が寝静まる時間、舞とエレメントドラゴンは、都市上空に巨大な魔界との
門と化した瘴気の渦を十キロ先のビル屋上から見据えていた。
だが舞は、人の姿のままだった。
舞「私も瘴気の浄化を始めていろんな瘴気の渦見てきたけど…なんなのあの
大きさ…」
エ「ボクもここまで巨大なやつがあるとはこの目で見るまで思ってなかったよ、
多分都市部は人間の欲望が生み出されるからより巨大化したんだろうね。」
エ(心)「しかし、マジででかすぎるっ、恐らく人界の瘴気量は、第三次世界大戦
が起きるなんてレベルすら超えてやがるっ!!こりゃ早いとこ長老達に志
願龍を急いでもらわねぇーと。」
舞「あの、なんでまだ変化したらダメなの?」
エ「変化すると、上級魔族にボクらの存在が気づかれちゃうからね、奇襲するには
都合が悪いから、それとまず上級魔族と戦う前に片付けないといけなさそうな
んだ。」
そう言うと舞の頭にエレメントドラゴンが乗っかる、すると舞の目にエレメントド
ラゴンが見ているものが映る。
そこには、瘴気の渦を守る夥しい数の下級魔族の姿が映っていた。
舞「確か、守ってるのは三体の上級魔族だけって聞いてたけど…」
エ「そのはずだったんだけど今日はなぜか凄い数の下級魔族がいるんだ。」
不安そうな顔する舞。
そんな舞を見てエレメントドラゴンは、気楽に言った。
エ「大丈夫だよ、舞ちゃん、そのための奇襲なんだから、舞ちゃんは全力を
出し切ってくれればいいから。」
舞「でもあの数だよっ?」
エ「心配しないで舞ちゃん…今の時点で上級魔族がボクたちに気づいてないこ
とでもう下級魔族は殲滅したも同然だから。」
舞「えっ?」
巨大な瘴気の渦の周りを下級魔族が飛び交いながら不足の事態が起こらないよう
警戒している。
その様子を、瘴気の渦の中心に近い所に、黒光りした頑強そうな装甲に覆われ
頭部はゾウムシみたいな魔虫タイプの上級魔族、剛雷が浮遊していた。
剛「人界に運び込む物が物だから、下級魔族に見張らせているが…別に強力な
神通力反応もないようだし杞憂だったか。」
剛雷のもとに翼竜のような姿をした赤黒い上級魔族、闇空と燻し銀の鱗で全身覆
われた半漁人のような姿の上級魔族、暴魚が瘴気の渦の中心から現れた。
闇「どうよ、剛雷、そっちの首尾はっ?」
剛「順調だ今の所異常はない。」
暴「ほらみろ、ビビリ過ぎなんだよっ、剛雷っ、最近、闇門(瘴気の渦のこと)
守ってた上級魔族が失踪したぐれーでよぉー。」
闇「まあいいじぁねえか、下級魔族を警護に就けても俺らの取り分が減るわけ
じゃねえし全部必要経費でおとせるんだから。」
剛「それで、もう運びこめそうか?」
闇「ああ、魔界統制局に感づかれた様子もねえ、今回は楽な仕事だった…」
その時だった、剛雷、闇空、暴魚の脳裏に電撃走ったのとほぼ同時に火球が
剛雷達の真横をかすめそして爆発した。
暴魚は、自身と、とっさに剛雷と闇空を水属性多重球体型水壁防御呪文、
重水球で包み、難を逃れたが下級魔族達は爆風に呑まれて塵と化した。
暴「剛雷てめぇーッ!!、異常なかったんじゃねぇのかよっ!!」
剛「そのはずだっ!!、しかし一瞬、神通力の反応があったきりで今は何も
反応がないっ…恐らく認識阻害型呪術かなにかで姿をくらましてる
可能性がある。」
闇「いや、その可能性はねぇよ。」
暴「じゃあ、何だって言うんだよっ!!」
闇「さあな、だがどんな認識阻害型呪術でも起動させるにゃ神通力が必要だ
微弱な反応があるはずだが感じ取れるのは町の人間とか動物の神通力ぐ
れえだ。」
剛「だったら、人間の中に紛れている可能性は、ないのか?」
闇「いや、微弱な反応といっても人間や動物ほど弱くはない、紛れていたら
すぐにおめぇらでも気づくさ。
まあ、今いえる事は、得体の知れない奴に狙われてるってだけだ。」
暴「けっ、薄気味悪い話だぜ…まあ、あちらさんも攻撃する時は、神通力の
反応があるみてぇだからまったく反応できないわけじゃねぇ…なあ
そろそろ防御呪文解除していいか維持するの結構疲れるんだよこれ」
剛「そうだな、だが解除する前に互いに背中合わせになろう。
古典的だが神通力の反応をまともに感知できない今なら最善だろ。」
闇「ああ、妥当な判断だな。」
そして、互いに背中合わせになって、防御呪術を解除した。
剛雷達は視力を強化して視認した。
剛「何か、見つかったか?」
暴「けっ、あんな派手なもんかましておきながら、手がかり一つねぇ」
闇「はっ!!」
突然、闇空が声を上げた。
剛「どうしたっ、何かみつけたのかっ!!」
闇「あっ、すまねぇ、上空に神通力の反応があったんだがよぉー、
この微弱さは、鳥だな…」
暴「紛らわしいわっ!!」
剛「気を引き締めろ。」
闇「わりぃ、わりぃ。」
などと言っていた瞬間、闇空の目の前に頭から落ちてきた変化してない
舞と目が合った。
闇「なっ、人間っ、」
舞「エレメント・チェンジ」
闇空と目が合った瞬間に、モード・フレイムに瞬時に変化し剣が召喚され
落下しながら闇空を切りつけた。
闇「ぎぃにぃぃぃぃーーーーー」
闇空は断末魔をあげながら舞と共に落下していきビルの屋上に舞は闇空を
剣で叩き付けた。
闇空は、翼と左半身を両断されビル屋上に鮮血を撒き散らして転がっていた。
闇「がっ、あっ、…そうい…から、くり…かっ!!」
その様子を十キロ先からエレメントドラゴンが眺めていた。
エ「狙い通りだな、俺達、神龍や魔族は神通力を感知して相手の位置を割り出す
が、人間の神通力はあまりにも微弱すぎて人間か動物かも区別がつかねぇ、
しかも感知した所で人間が襲い掛かって来るなんて思いもしないからな。」
剛「最初の攻撃以降、人間の状態に戻っていたから我々の神通力の感知に反応
しなかったのかまさかそんな方法があるとは…だが人間の状態でどうやっ
て上空に…」
暴「なもん、どうだっていいじゃねぇか、目の前に現れたならもう姿はかくせなぇ
…まあ、あのガキ火属性型だろ、だったら俺が有利に決まってるじゃねぇか…
先、いかさてもらうぜッ!!」
暴魚がビル屋上の舞に向かって飛翔する。
剛「馬鹿がっ、先走りやがって。」
暴魚の鋭い爪が舞を切り裂こうと襲い掛かるが舞は剣でいなして暴魚を鎖骨辺り
から一刀両断しようとするがバックステップでかわされた。
暴「人間の分際でやるじゃなぇか…だが、こいつはどうかな?」
暴魚の口が三日月の如くつり上がり、暴魚の周りに水で出来た球体が五つ浮遊し
だした。
次の瞬間、水で出来た球体からレーザーの如く水流が舞にむかって放たれるが飛び
上がり避ける。
先ほどまで舞の背後にあったビル屋上の金属製の手すりが見事に切断されていた。
暴「ぎぁははっ、スプラッタパーティーのはじまりだぜっ!!」
球体から舞めがけて水流が放たれる。
放たれた水流を避けながら何とか暴魚の懐に入り込もうとする舞だったが球体に
迎撃されて入り込めない。
暴「無駄だっ!!、俺の自動防衛呪術機構に穴なんざねぇよ。」
舞「くっ!!」
舞は、ビル屋上から離脱しようとするが球体に阻止される。
暴「させねぇよっ!!また人間の状態に戻られたら追跡が面倒だからここで死んどけ
メス餓鬼っ!!」
更なる猛攻に舞は、火炎旋風を自身の周りに展開してレーザー光線の如く迫り来る
水流を自身に到達する前に蒸発させようとするが火炎旋風を貫通して舞の右肩をか
すめ、血が流れる。
暴「下級魔族の水属性呪術なら、てめぇの火属性呪術でかき消せただろうが俺は
上級魔族だっ、水属性と相性の悪い火属性じゃ話しにならねーんだよっ!!」
圧倒的優位の暴魚に舞は手も足も出ずに苦しい戦いを強いられていた。
だが舞は、苦しそうな表情とは裏腹に口元に笑みを浮かべていた。
舞「確かに、不利な戦いで正直しんどい、でも…こんな逆境で勝ってこそ魔法少女
ってものでしょ!!」
舞は、持っていた剣を暴魚に向かって投擲したのと同時に、暴魚に向かって
疾走する。
暴魚は、自身に回転しながら飛んできた剣を打ち落とそう球体から水流を発射
しようとした瞬間、舞が「バースト」と小声で囁くと剣が爆発した。
暴魚は、とっさに水属性型防御呪術、重水壁で自身の目の前に五層構造の水
の壁が展開され爆風を防いだ。
だが舞は、その隙に暴魚の目の前に迫る。
暴「馬鹿がっ!!、いくら小細工しようが火属性型のてめぇには、勝ち目なんざ
ねぇんだよっ!!」
水壁が展開されてる状態から暴魚の周りを浮遊している球体が水流を放ち水壁
を貫通して舞に着弾する。
その光景を遠距離から見ているエレメントドラゴンは何の心配もしていな
かった。
エ「まあ、火属性なら舞ちゃんの詰みだっただろうがな。」
水流が着弾して暴魚は、殺ったと思った。
だが水流は舞の体を貫通することなく舞は健在だった、そしてそのまま暴魚
の水壁ごとローキックでぶち破り、そのまま暴魚の左太ももを打ち抜き、打ち
抜いた勢いで、左太ももを打ち抜かれてバランスを崩した暴魚の顔面に舞の尾
っぽが炸裂した。
暴「ぎじじじじじっ!!」
暴魚そのまま左横にバウンドしながら叩き飛ばされビル屋上の金属製の手すり
に叩きつけられ手すりが鈍い音をたてて、へし曲がった。
暴「がっ、ぐっ…馬鹿なッ…火属性型の奴がっ、俺のっ、重水壁を蹴り破りや
がった…しかも、水流が直撃してなぜっ、生きてやがるっ!!」
暴魚は何とか立ち上がり、空中に無数の水球と黒球を展開して舞を迎撃準備
をする。
だが舞はかまわず突撃する。
暴「どんな手品かしらねぇがこれで終わりだぁぁぁーーーーっ!!」
突撃してくる舞に水球と黒球から水流と黒いレーザー光線のようなものが
一斉に照射され舞を襲う舞の体の鱗が水流と黒いレーザーで吹き飛んでいく。
そして吹き飛んだ鱗の下から黒光りした鱗が顔をのぞかせながら舞は、暴魚
の目の前まで到達し、暴魚の頭部を後頭部から両手で掴み顔面に膝蹴りを
放った。
暴魚は、顔面から鮮血を噴出しながらその場に崩れ去った。
暴魚を倒し立ち尽くす舞のモード・フレイムの形態の時のまだはがれてない
鱗が崩れ去り、少し身長と、胸と尻のサイズが縮んだ、あどけなさの残る
顔つきの、不完全タイプのモード・カオスになっていた。
舞(心)「エレ君の指示で相手に悟られないようモード・チェンジしたけどホント
どれだけ相手の情報を握るかってここまで大切なんだって実感するね。
今回、奇襲とだまし討ちみたいな戦いしかしてないけど…こんなので
後一魔、なんとかなるのかなぁ?」
などと舞が思っていると背後から黒雷の槍が放たれ、舞はとっさに尾っぽで迎撃、
消滅させた。
そして背後から黒雷を放った剛雷が現れた。
剛「この複合属性呪術の剛黒雷槍を無力化できるとなるとやはり混沌型か!!」
舞(心)「早速ばれちゃったーっ!!どうしよー…いやっ少しでも私も相手の情報を
引きでして何か手立てを考えなきゃっ!!」
舞「あのっ、質問いいですかっ!!」
剛「これから殺しあう相手に、質問か、面白い嬢ちゃんだ…いいだろう何を
聞きたい?」
舞「さっきの鰯人間みたいな魔族と私が戦っているときどうして私を攻撃しな
かったんですか?」
剛「ぷっ、鰯人間て、嬢ちゃんなかなか酷いこというねぇー、まあ、あのような
勢いだけの馬鹿が嫌いだからと言うのもあるが加勢に入ったとしてもあの馬鹿
、俺ごと攻撃しかねないからだ。
俺も嬢ちゃんに聞きたいことがあるがいいかい?」
舞「わっ、私が不利にならないことなら。」
剛「大丈夫、そういうことを聞きたいわけじゃない、先ほど上空から降ってきて
こちらの魔族の一魔を切りつけたが上空を飛行していたなら今の変化した
状態じゃなければ飛行は無理だ。
だが変化しているのであれば神通力の強さから気づけたはずっ、いったい
どうやって」
舞「あっ、それは、火球を放ったときに私自身も足元で火炎爆射してその爆発の
勢いで飛んでいってあとはスカイダイビングの要領で落下しながら」
剛「まて、だとすると嬢ちゃんは自分を打ち上げた瞬間に人間体に戻ったのか…
人体にどれだけの負担がかかると思ってるんだ…どうせ嬢ちゃんのパートナ
ーがやらせたんだろ、そいつ絶対イカれてるぞ」
舞「うん、私もそう思う。」
剛「さて、おしゃべりはここまでだ、嬢ちゃんに恨みはないがこれも仕事だ
ここで死んでもらおう。」
一瞬で剛雷の殺意で場の空気が凍りつき、剛雷の甲殻が無属性神通力で強化
されていく。
舞も自身の体に無属性神通力を流し込み肉体の隅々まで強化する。
そして、剛雷と舞は互いに睨み合い構え、互いの出方をうかがった。
そんな中、最初に動いたのは剛雷だった、剛雷の電柱ぐらいの太さのある四本の
腕が四方八方から打撃ねらいの攻撃が降り注ぐ中、舞は器用に四本の豪腕を受け
流してゆく。
舞は、受け流すと同時に小柄な体を活かして剛雷の懐に踏み込もうとするが
ミドルキックで阻止される。
剛「そう簡単には、懐にもぐりこませんッ!!」
舞「くっ!!」
舞は、懐にもぐりこむと見せかけて背後に回り込み魔術杖を出し、
魔術杖の先端を槍のように使い背中につき立てたが硬く強化され
た甲殻には歯が立たなかった。
剛「その程度の攻撃じゃ傷一つつかんっ!!」
背後にいた舞に回し蹴りを浴びせ、舞は、後方に飛ぶことで蹴りの威力を
減少させたが体中の骨がきしみ舞の体に激痛が走る。
舞「ひぎっ!!」
更に剛雷の猛攻が舞の体力を削っていく中、舞は決断しょうとしていた。
舞(心)「このままじゃ負けちゃう…まだ練習でも成功したことないけど
…やらずに後悔するよりやって後悔するほうがまだましよっ!!
エレ君から教えてもらった技、今こそ成功させてみせるっ!!」
舞は、頭上から襲い来る真ん中の右腕を受け流し真ん中の左腕に攻撃を
返した。
剛雷は、上の右腕で舞を攻撃しようとしたが舞の頭上に舞が受け流した
中の右腕が邪魔で攻撃に移れない。
その隙に剛雷の懐に飛び込み、剛雷の分厚い甲殻に覆われた腹部に掌を
密着させ足から骨盤、掌に運動エネルギーを伝達して剛雷の体内に送り込む。
舞「はぁぁぁーーーーっ!!」
剛(心)「この嬢ちゃんの技、まさかアイツのっ!!」
舞「いっけぇーーーーーー!!」
剛雷の肉体内部を衝撃が走りぬけ内部が破壊されて剛雷の口から吐血し
その場に崩れ去った。
舞「零式ドラゴン・アーツ:竜浸激波」
こうして舞の今回の殺し合いの幕は閉じたのだった。