第十三話:闘争の王、緑焔の影騎士 後編
変化した体を陸道はまじまじと見ている。
極:分身「どうだ、変化してみた感想は。」
陸「最高だ、今まで感じたことのない力が体の奥底から湧き上がってくる。」
極竜の分身体は、変化した陸道の姿を見て疑問に思った。
極:分身(心)「おかしいな、彼との同調率は完璧なんだが何故中学生の肉体の
ままなんだ?本来なら成熟したベストな状態の肉体に変化する
はずなんだが。」
そんな極竜の分身体の疑問をよそに陸道は拳で突きや手刀、蹴り、肘打ちなど
繰り出し肉体性能を検証していく。
陸「元の肉体どおりに動くな、武器とかも出せるのか?」
極:分身「可能だ、その時々に合った武器が呼び出せるようになっている、
とりあえず試しに何か呼び出してみたらどうだ?」
陸「ああ、そうしてみる。来いっ!!」
陸道が来いっ!!と叫ぶと陸道の手に日本刀に似た、刃先が緑色の黒い
鞘付きの剣が出てきた。
陸「いいね、日本刀の形の剣の方が俺にとって使いやすい、しかも
鞘まであるから」
凄まじい神速で鞘から刀を抜き見事な居合い抜きを決める。
陸「居合い抜きもできる。もしかして俺が使いこなせる武器ならなんでも
呼び出せるのか。」
極:分身「恐らく本人の力量に比例していると思うがこちらも詳しくは判らん。」
陸「そうか、なら呼び出せるだけ呼び出してみるかっ!!」
そうして陸道は武器を呼び出した。呼び出せた武器は鎖鎌、十文字槍、クナイ、
小太刀、キャノン砲などが出てきた。
極:分身「鎖鎌って、そんなマイナーな武器まで使えるのか、というか剣や日本刀
ならギリギリ一般の人間は使えるが君はどこでそんなもの使えるようになった?」
陸「俺は、闘争に対して貪欲でね、裏ルートを使って表舞台には出回らない
古流武術の書物や文献を仕入れ独学で研究の結果、自身の肉体でそれら
を再現できるようになったのさ。」
極:分身「あはは、君ぶっ飛びすぎだろ、年相応に普通のスポーツで
爽やかな汗でも流せばいいだろうに。」
陸「そんなので、満たされるなら俺も苦労しないよ。それよりやっぱり今から
死霊人間を狩に行きたいんだが。」
極:分身「どうしたんだ?今日は性能確認だけじゃなかったのか?」
陸「そのつもりだったが、いろんな武器扱ってたら無性に試し切りしたくて
うずうずしてきてね。」
残虐な笑顔になる陸道を呆れ顔で極竜の分身体は眺めていた。
極:分身「このキラーマシンがっ!!君が一般生活送れてるのが
不思議でならんよ。」
陸「流石の俺でも人を殺めたことはないよ、俺自身、狂ってるのは判ってる
だからこそ自身を御しやすい。」
極:分身「自身で自身を理解しているから制御できるか、とても中学生の口から
出る言葉ではないな。」
午前二時、変化状態の陸道と極竜の分身体は、人々は寝静まってる時間にも
かかわらずにぎやかな繁華街上空で待機していた。
陸「ここにその、死霊人間がいるのか?」
極:分身「我々の密偵の話ではここに頻繁に出没すると聞いている。」
陸「あんた、魔族なんだろ、そういうの気配とかで察知できないのか?」
極:分身「相手が神族や魔族なら察知できるが奴らは普段、人間と変わらない
状態でいるから神通力の反応が弱く普通の人間と区別がつかないた
め現在、一体しか出現場所が特定出来ていない。」
陸「なるほど、探し出すのも一苦労だな。」
その時だった、雑居ビルから中年の男が出てきた。
極:分身「出てきたぞっ、奴だっ!!」
陸道は、その中年男を見るが疑問に思った。
陸「おい、普通の人間と区別がつかないと言ったよな?」
極:分身「ああ、だから人ごみに紛れ込まれると厄介…」
陸「俺には…明らかに違って見えてるんだが。」
極:分身「何だって!!」
極竜の分身体は陸道と視覚共有を行う、すると普通の人間に見え方に変化はない
が中年男だけは体の周りに灰色の煙が漂っていた。
極:分身(心)「契約した人間にこのような作用が出るとは嬉しい誤算だこれなら
今後、死霊人間を効率よく探せる。」
陸「このまま、後を追うか?」
極:分身「ああ、そうしよう。」
そして陸道と極竜の分身体は中年男の後をつけた。
しばらくすると人気のない公園に行き着いた。
そして中年男が口を開く。
中「そろそろ姿を見せたらどうなんだ魔族と…あと一体変なのがいやがるな。」
極:分身「やはり気づいていたか、貴様ら死霊人間はこちらを感知できる
ようだな。」
そういうと極竜の分身体と陸道が上空から舞い降りた。
中「今までに感じたことのない波動だな…魔竜はともかくてめぇは何者だ!!」
陸「緑焔の影騎士とでも名乗っておこう。」
中「けっ、魔竜とつるんで正義の騎士気取りかっ!」
陸「俺はこれまで自分を善などと思ったことはない,俺は所詮、自身の闘争本能
を満たすために戦う人でなしさ。
だから俺の欲望を満たすために切り刻まれろ死霊人間!!」
中「けっ、馬鹿がっ、上級魔族ですら俺を倒せねぇんだ調子こいてんじゃ
ねぇーぞっ!!」
中年男が陸道に向かって一瞬で間合いを詰め陸道の喉下に貫手を放つ。
陸「いいぜっ、最高に滾ってきたっ!!」
陸道は放たれた貫手を手の甲で軌道をずらし中年男の眉間に向かって鉤爪の
付いた手で突きにいくが、首をかしげかわすと体を捻りまわし蹴りを陸道の胴
に向けて放つ。
だが陸道はその蹴りを右肘と右膝で挟みそのまま潰しにかかるが中年男は足首を
捻り陸道の拘束から逃れ後ろに跳び距離をとった。
中「言うだけのことはあるじゃねぇか。」
陸「よく言う、まだ本領発揮してもないだろ、俺を喰いたければ本気
で来いっ!!」
中「いいぜっ、てめぇは俺の本気でぶち殺して喰ってやるよっ!!」
中年男の姿が変貌して体から苦悶した人間の顔が現れ皮膚はどろどろに溶けた
ものが固まったような感じになり右手には指でなく巨大な刃が生え、左手は爪
のかわりに肉を抉り取る刃物が生えてきた。
極:分身(心)「まだこんな形態を隠していたのかっ、なんとおぞましく、禍々
しい姿、しかも神通力のレベルが我ら伝説級魔族と同等のレベル
になっている。
もし我々が本体で降りていてもこの化け物に勝てるかどうか微妙
なとこだ。
これは危険すぎる彼を退避させないとっ!!」
極:分身「君っ、逃げるんだっ奴は我々の想定していたレベルを超えているこの
ままだと死…」
陸「俺に指図するなっ!!これは俺が喉から手が出るほど求めていた状況だ誰にも
邪魔はさせないっ、そして手出し無用だっ!!」
極:分身「くっ、どうなっても知らんぞっ!!」
中「キシャーッ!!」
中年男は奇声をあげながら陸道にジグザグに疾走しながら四方八方から襲いかかる。
陸道も刀型の剣を呼び出し応戦するが中年男の猛攻を受け止めるたびに陸道の足元
の地面が抉れる。
あまりの猛攻に攻撃を受け止めきれずに陸道のわき腹が抉られ体中に深くはないが
切り傷が付く
極:分身「あぁ、言わんこっちゃない、奴の強さは圧倒的だ、いくら契約して
我の力を使えるようになっても…あれ、そういえば緑焔で全体攻撃
とか出来るのになんでわざわざ斬り合いしてるんだ?」
極竜の分身体は陸道の表情を見る。すると圧倒的に押されている状況なのに狂気に
満ちた笑みを浮かべていた。
極:分身(心)「彼の考えが判ったぞ、彼はあくまで自身の力だけで戦う
つもりかっ!変化して成熟した肉体に変化しなかったの
も肉体強化以外の要素を極力受け入れたくなかったからかっ!!
こんな命がかかった状態で縛りプレイとかアホだろっ、
これじゃ確実に彼死んだ…」
極竜の分身体がそう思った時、今まで防戦一方の陸道が声を上げて笑い出した。
陸「クックッあぁ~、最高に今滾ってるぜ、今まで俺に傷つけれる奴なんて
いなかった久々に身近に死を感じられたぜ。
感謝するぜ死霊人間、今最高に満たされてるよ、お礼に今度は俺が満たして
やるよっ!!」
中「わけわかんねぇーことぬかしてんじゃねぇぞ、俺に一撃加えることも出来ない
てめぇは俺に切刻まれて喰われる道しかねぇーんだよっ!!」
中年男が陸道の背後から右手の巨大な刃で一刀両断しようと襲いかる。
陸「死霊人間、確かにお前は俺より力、速度、機動力も上だ、だが動きが大雑把過
ぎるんだよっ、阿呆がっ!!」
陸道は背後から振り下ろされる巨大な刃を振り向かずに刀で軌道をずらし、
振り向きざまに中年男の顔面に上段回し蹴りを放ち中年男は顔面から地面
に叩きつけられた。
中「がっ!!」
陸「何寝てんだ、俺をもっと楽しませろッ!!」
陸道は地面にたたきつけられた中年男の目に左手の鉤爪の付いた人差し指と中指で
突き刺し指を曲げ眼窩に引っ掛け、陸道は疾走し中年男を引きずる
中「ぐっがぁぁぁーーー!!」
陸「あははははっ、おら、飛べよっ!!」
陸道は引きずっていた中年男の眼窩に指を引っ掛けたまま空中に投げた。
陸道は空中に投げた中年男を右手に持った刀で連続斬りし、落ちてきた所を
蹴り上げ永遠と繰り返す。
中「グッアァ…やっ、めぇテェ…」
陸「おいおい随分自分勝手なこと言うじゃないか、散々善良な人間を食い物にして
きたくせによぉー、舐めたこと言ってんじゃねぇっ!!」
空中に浮いていた中年男をかかと落としで地面に叩きつける。
中年男は涙を流しながら陸道に許しを請う、中年男の傷はもう再生しているが最早
陸道に挑む精神は残っていなかった。
陸「最後に選ばせてやる。お前の同類の情報を吐いて一瞬で滅ぼされるか、
俺の快楽に付き合って切刻まれるか、さあ選べ。」
中「わっ、判った、喋るから切り刻むのはやめてくれっ!!」
陸「では話してもらおうか。」
中「おっ、俺のような存在は単体で行動するから他の奴らのことはよく判らないん
だっ!!」
陸「そうか、吐く情報もないか、じゃ用済みだな。」
陸道は刀で中年男を一刀両断した。中年男は緑焔に包まれながら灰になった。
そんな陸道をドン引きしながら極竜の分身体は眺めていた。
極:分身(心)「確かに善良な部分もあるし、義理や人情に厚い部分もある…
だが残虐性がやば過ぎだろっ、肉体強化だけで死霊人間を
滅殺したのは頼もしいが笑いながら切刻む姿は最早ただの
サイコ野郎だし…本当どう表現したらいいかわからん子だな。」
死霊人間を始末し終わった陸道が極竜の分身体のもとに来る。
陸「残念ながら有力な情報は引き出せなかったよ。」
極:分身「別に構わんよ、それで満足できたか。」
陸「ああ、久々に満たされたよ、それで?そちらのとある人物の救出の方は
どうする?」
極:分身「えっ、そのことについて考えてくれてたのか、結構真面目なんだな。」
陸「まあ、給料まで貰う訳だしその分、仕事しないとな。」
極:分身(心)「こういう、一面を見ると一瞬ほっとするよな。」
そして極竜の分身体と陸道は帰路につく、すると雨が降ってきた。
雨の中、歩いていると路地の方から鳴き声が聞こえてきた。
陸道が路地を覗くと一匹の白黒の子猫がダンボールに入っていた。
極:分身(心)「やばい、子猫よ逃げるんだっ、こんなサイコ野郎が動物を
見つけたら試し斬りに使いかねんっ!!」
陸道の手が子猫に伸びる、極竜の分身体が終わったと思ったら、陸道は優しく子猫
を抱きかかえ
愛おしそうな表情で子猫に語りかける。
陸「よく一人でがんばったな、俺のとこに来るか?」
子猫はにゃーと鳴く
陸「じゃあ、今日から俺のとこの子だな。」
そう言って陸道は、服の懐に子猫を入れて優しく抱きかかえる。
その光景を見ていた極竜の分身体が口を開く。
極:分身「君、極端すぎるだろ。」
こうして陸道の影騎士としての初めての戦闘は幕を閉じたのであった。