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第九十九話:重蔵の刺激的な真夏の夜 後編

人が寝静まる夏の夜、稲穂丘町の港近くの工場地帯の倉庫群の

倉庫の一つに明かりが漏れる。


そして倉庫内は、原始的な暴力と言う名の刺激を求めた

人間達の熱気に溢れる。


そんな、倉庫の中の控え室では、暴力を身に纏った姿と

言っていいほど屈強で引き締まった黒光りする荒々しく

も芸術的な肉体から湯気を立ち上らせながらセネガル

最強の男、ブトゥが立っていた。


黒服1「ミスターブトゥ、お時間です。」


ブトゥは黒服の方を向く。


ブトゥ「そうか、ようやくか…おい、奴には俺が出る

条件は伝わっているだろうな?」



その頃、陸道と響は東山の部屋でソファーに座り

東山と話していた。


東山「そう、ブトゥが今回、試合にノーギャラで出て

くれてんだよ。」


陸道「ほぉー、その対価は俺との試合か?」


東山「ああ、どうも前にお前さんと戦って敗北してから

お前さんにご執心でな、後でブトゥと試合し

   てやってくれない?」


陸道「まあ、別にいいぞ、だが俺からも条件がある。」



その頃、控え室でブトゥと黒服が話していた所に、

黒服のスマホが鳴り出す。


東山からの連絡ですぐさま出る。


黒服1「ボス、どうされましたか?…はい、分かりました。

    ミスターブトゥ、九上院様から電話です。」


ブトゥは黒服からスマホを受け取る。


ブトゥ「お前、この野郎っ!!、勝手に引退しやがって。」


陸道「悪いな、ここでは刺激が感じれなくなっちまった

んでね。」


ブトゥ「お前はそうだろうが俺はお前に勝ち逃げされた

ままじゃ納得できるかってのっ!!

    この試合が終わったら戦ってもらうぞ。」


陸道「いいよ、だがこれから戦う奴に勝てればの話だ、

勝てなければ俺との試合はなしだ。」


ブトゥ「上等だコラっ!!すぐしとめてお前に再戦だっ、

首を洗って待ってやがれっ!!」


ブトゥが通話を終了した。


陸道も東山にスマホを返す。


陸道「よし、これでブトゥも本気で久山を潰しに行くだろう。」


響「なあ、煽って大丈夫ですか?」


陸道「いや、これで余計に久山の生存率は下がったよ、だが

そうじゃないと駄目なんだよ。

   人間が強くなるためには何が必要か?筋力か?

   それとも技術か?否、確かにそれも必要だが

   それだけでは本当の強さには到達出来ない。

   だったら、その先に到達するには何が必要か?

   簡単な話だ生物って奴は極限まで追い込まれ、

   生死の狭間に触れることで、生存本能が刺激

   され新たな機能が覚醒する。」


響「そんな漫画みたいな理屈が人間にも当てはまると

  いうのかあなたはっ!!

  というか何ですかその新たな機能って?」


そこに東山が会話に入る。


東山「奈川っ、普通は信じられないだろうがコイツはマジで

   自身を生死の狭間に追いやってその度に最早、

   人間とは呼べない能力を身に着けて来た。

   だからコイツが言うならマジなんだろ。」


響「でも、久山がその段階に到達できなかったら

  どうするんですかっ!!」


陸道が笑う。


陸道「何っ、ただ死ぬだけさ、遅かれ早かれ人間は死ぬ、

   ここで覚醒しなければその程度だった、ただ

   それだけだ。」




重蔵は金網に覆われたリングで次の対戦相手を待っていた。


重蔵(心)「陸道の奴、三対一なんて聞いてないぞっ!!

      どうやら俺を本気で追い込もうって腹だな…

      次の試合が恐怖でしかないぞあの野郎。」


重蔵が不安に思っていた時、金網を駆け上がり、重蔵の前に

黒光りした、強靭な肉体のブトゥが舞い降りた。


重蔵(心)「おいおいっ、コイツはマジでヤバイ奴だ、

      目の前いるだけで相当なプレッシャーが俺に

      襲いかかるっ!!

      しかしデカイな、身長は二メーターはあるぞっ、

      …いや、身長が高い分機動力は下がる可能性も

      ある、とりあえず動き回って様子をっ!!」


重蔵がそう思った時だった、試合開始の合図も無いまま

ブトゥは重蔵に襲いかかる。


重蔵も瞬時に、襲いかかったブトゥの背面に回りこむが、

ブトゥは即座に重蔵の方に体を向ける。


重蔵「くっ!!」


重蔵(心)「デカイ図体なのになんて機動力だッ!!

      肉体の性能が違いすぎるっ!!」

      


ブトゥは両腕を軽く上げ、前に突き出すように構える。


重蔵(心)「なんだこの構え、今までに見た事無い構えだ

      …だが手は拳を握りこんでないということ

      は関節を極めたり、投げ主体の戦闘スタイル

      なのか?

      まあ、どちらにしても肩の動き、手元、口の

      動きで攻撃の予兆をつかめれば問題ないはずっ!!」


重蔵はブトゥの動きを注意深く、観察しながらいつでも

正拳突きを放てるように構える。


そんな光景を陸道は眺めながら笑う。


陸道「どうやら、筋肉の動きから攻撃の予兆を見て対応

   しようってところか、だがそれでは駄目なん

   だよ。」


重蔵はブトゥの肩が動くのを察知して避けようとするが、

ブトゥの手が重蔵のこめかみを掠る。


重蔵(心)「なっ、動きを察知出来ていたのに

      避け切れなかったっ…だとっ!!」


重蔵はブトゥに向って正拳突きを放つがブトゥはまるで

クロールをするかのような腕の回し方で左手で重蔵の

拳を上から叩き付け、その反動で、重蔵の首元に手を伸ばす。


重蔵(心)「くっ、掴みにかかる気かっ!!」


左手でブトゥの延びてきた腕を身体を右に捻りながら

左手で弾こうとするが瞬時に、首もとを掴もうとしていた

手の平が握りこまれ重蔵の顔の側面を打ち抜く。


重蔵は大きく、横に飛ばされ、着地する、重蔵の口から

血が流れる。



陸道「本当に強い奴の攻撃を筋肉の動きで予測しても

   反応速度で上回れるから意味が無いんだよ。

   まあ、重蔵も瞬時に横に自分で飛んで威力を

   殺したのは見事だがな。」


響「掴みから瞬時に打撃にっ、何なんですかあの動きはっ!!」


陸道「奴の動きはセネガル相撲がベースになっている、

   セネガル相撲は拳で相手の顔面殴るのもアリ

   だから、掴みの動きで打撃に変わったりする

   から対応が難しいだろうな。」



ブトゥの猛攻は続くき重蔵の身体に拳が頭上から降り注ぐ。


重蔵も何とか捌くが、鎖骨にブトゥの拳が入り、重蔵に鎖骨の

砕ける音が体に響く。


重蔵が苦悶の表情を浮かべて、動きが少し鈍くなった所に、

ブトゥは重蔵の頭上から孤を描くように拳が重蔵の左胸を抉る。


重蔵の肋骨が三本へし折れ、重蔵の体を激痛が襲うが重蔵は

それでも後方に跳んでブトゥと距離をとるが、背後に金網が

当たり、これ以上は下がれない。


ブトゥがジリジリと間合いを詰める。


ブトゥ「見事だ、俺の攻撃をここまで耐え抜いた奴は久しぶりだ、

    だがお前は奴ほどじゃない。

    アレは最早、人の形をした別の生物、お前はスポーツマン

    に毛が生えたくらいでしかない。

    それでは俺には勝てない、そんなお前に何故、奴がここ

    まで買っているかは知らないがそろそろ終われ。」


ブトゥが重蔵に止めを刺そうと間合いを詰めるのを陸道は眺める。


陸道「さあ、ここからがお前の本当の勝負だ、お前の執念を

   見せてみろっ!!」



ブトゥが重蔵のこめかみに向って右拳を振りぬく、だが重蔵には

ゆっくその拳が向ってきているように見えていた。


重蔵(心)「何だこれ…ゆっくりに見えるな…でも、ゆっくりに

      見えたところで自分の動きが速くなったわけじゃ

      ないから意味ないな。

      この角度で振りぬかれたら死ぬだろうな。

      あーあ、短い人生だった。」


重蔵は死を覚悟する。


そんな、重蔵の頭の中に映像が流れる、その映像には重蔵の父が

失踪して家を荒らされた時の記憶や父の捜索を打ち切られた時の

無念な記憶、重蔵を心配させないよう隠れて泣く母の姿など

が重蔵の頭を駆け巡る。


重蔵(心)「俺やお袋から親父を奪った奴がのうのうと生きている…

      それなのに俺は復讐も出来ないままここで終わるのか?

      ふざけんなっ、俺は終われねぇ、俺とお袋から親父を

      奪ったやつらから全てを奪いつくすまで俺は死なんっ!!」


重蔵が極限状態でそう強く思った時だった、脳に電流が流れるような

感覚が貫いた。


ブトゥはこれでしとめたと確信していた。


だが、ブトゥの拳は重蔵によって手の平で軌道を変えられ空を薙ぐ、

それに驚いたブトゥだったがかまわず重蔵の顔面に右足で前蹴りを

放つ。


だが重蔵は速くもないない動きでブトゥの前蹴りを回避する。


ブトゥは重蔵に激しい猛攻を浴びせるが重蔵は全て紙一重で避ける、

だが避けるどころかブトゥの懐まで避けながら進み、正拳突きを

鳩尾に放ってきた。


ブトゥの鳩尾に重蔵の拳がめり込み、ブトゥの顔を歪ませる。


ブトゥ(心)「どういうことだっ!!さっきまで攻撃すらかわし

       きれなかったというのに…それどころか俺に

       一撃浴びせやがった…一体何が起きているっ!!」



それを見ていた陸道は、不敵に笑う。


陸道「どうやら、次の段階に到達したようだな。」


響「これが、あなたのいっていた、覚醒…ですか?」


陸道「ああ、まだ初期の段階だけどな、恐らく今の久山は相手の

   動きがゆっくり見えているのと相手の攻撃を筋肉動きを

   見て反応するのとは別の原理で先読みしている状態だな。」


響「別の原理?」


陸道「ああ、まあこれに関しては情報が少ないんだが、俺の場合は

   相手の打撃の軌道や銃弾の軌道が光の軌跡みたいに空中に

   浮かんで見えたりしてるが、まあ似たような状態だろ。」


響「最早オカルトですね。」


陸道「まあな、だが身に着ければ戦闘においてこれほど心強い物は

   ないっ!!

   そして、今の久山もそれを身をもって体感してるだろう。」



重蔵はブトゥの掴み、打撃など紙一重で避けながらブトゥの懐に

潜りこもうとする。


重蔵(心)「すげぇなこれ、相手の動作もゆっくりに見えるし、

      相手の攻撃前に攻撃の軌道が来る所になんか電撃

      みたいのが走って見えるし…これが陸道の見ている

      世界っ!!」


ブトゥも懐に入られまいと素早く避けるが重蔵は懐に入り込むと

見せかけ横にそれ、ブトゥの太股の側面を腰を捻り、右拳で上斜

めから打ち抜いた。


ブトゥ「ぐっ、が…」


ブトゥの右足が痙攣し動きが止まる、その隙に乗じて重蔵は

ブトゥの背後を取り、腰を掴もうとするがブトゥも後ろ蹴りを

放ちそれを阻止する。


重蔵(心)「くっ、やっぱり浅いかっ、まあ鎖骨も肋骨も

      逝っちまってるから拳に力を乗せきらないか

      …あともう体力がもたんっ!!

      …一撃で決めないともう後が無い。

      こうなったら一か八か勝負に出るか。」


重蔵がブトゥに向って疾走する。


そして、また懐に潜りこむ動きから横にそれ左足を狙う

体勢に入る。


だがブトゥもその動きに対応し左足を守るため左手で

ガードしていた。


ブトゥ(心)「見事だが、同じ手が二度も通用はッ!!」


だが、重蔵は左足の太股に攻撃しなかった。


ブトゥ(心)「なっ、狙いは足じゃないだとっ!!

       だったら、何が狙いっ…」


ブトゥが左足に意識を向けていた状態から前を向く、

ブトゥの顔面に重蔵の縦型の胴まわし蹴りで放たれ

た踵が打ち込まれた。


ブトゥ(心)「これが狙いだったかっ!!…足狙うと思わせて、

       足に意識を向けさせた間に、捨て身の

       大技を叩きこむっ、…完敗だっ!!」


ブトゥはリングに沈み、ふらつきながら重蔵が立ち上がった。


重蔵「はぁ、はぁっ」


そして重蔵は拳を頭上に突き上げ、客席から歓声が沸きあがった。


こうして、重蔵の真夜中の刺激的な残虐ファイトは終わりを迎えた。






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