第九十六話:テロリストホイホイ
朝日が昇らない早朝、サニアは家族と共に畑仕事を手伝っていた。
畑仕事が終盤に差し掛かった頃、サニアの父がサニアに声をかけた。
サニア:父「サニアっ、お前はもういいから学校に行く準備をしなさい。」
サニア「あっ、そうだったしばらく行ってなかったから忘れてたっ!!
じゃあ、私は行くね。」
学校がテロリストに襲撃され今まで休校だったがようやく、新しい教師が
派遣されることになってまた学校が始まることになったのだった。
サニアは、家に戻り、祖母が用意してくれた朝食を食べ、兄弟兼用の
子供部屋で教科書などをカバンにつめて登校準備に取り掛かる。
そんなサニアの姿をヴェノムと刃刺亞が眺めていた。
ヴェ「ようやくサニアの待ち望んだ学校が再開されるか、サニアの奴
活き活きしてるぜ。」
刃刺亞「それにエレさんから学んだことをどのくらい自分に身に付いたか
きっと試したいんだと思うよ。」
ヴェ「まあ、きっと本人も予想だにしないくらい身についてるだろうがな。」
登校準備が出来たサニアはヴェノムと刃刺亞に声をかける。
サニア「それじゃ行ってくるね。」
ヴェ「しかし、変化すりゃ学校まで長い距離歩かないでいいのに
どうしてだ?」
サニア「私としてはあまりあの力に頼らないようにして肉体の強化を
しようと思ってるからよ。
だって今の魔法少女のメンバーの中じゃ毒の広域散布以外の
戦闘能力はどう見ても私が最弱だから鍛錬につながりそうな
ことはやってかないと。」
刃刺亞「戦闘に勉学、しかも家に手伝いもしながらも怠ることなく
こなすとは、本当にサニアは努力家だ感心するよ。」
サニア「自分に出来ることは一通りやっておきたいだけよ。」
そう言ってサニアは家を出て、学校までの長い道のりを歩いてゆく。
学校まだ行く途中、サニアは同級生の男子、でサニアの近所に
住んでいるヌールと遭う。
ヌール「久しぶりだねサニア、最近君のとこに行ってもいなかったけど
何処に行ってたんだ?
君の親御さんに聞いても知らなかったし。」
サニア「ほら、学校が休校になって勉強を教えてくれるとこがなかったから
知り合いに頼んで勉強を教えてくれる人を見つけてもらって、
その人のとこで勉強してたからね。」
ヌール「そんな親切な人がいるんだっ!!…まさかっ!!なんかへんな要求
されたりとかっ!!」
サニア「大丈夫、そんなことないからそれに日本人だから。」
サニア(心)「本当はドラゴンに習っているけど…まあ舞は日本人だし
エレさんも現在、日本在住だからあながち嘘じゃないよね。」
ヌール「ああ、日本人なら危険性は低い…いや、日本人はロリコンが多いと
聞くからやっぱ危険…いや、最近は草食系男子とかいって奥手だから
安全か。」
サニア「やけに日本に詳しいわね。」
ヌール「当たり前だろっ!!あのキャプテン・マジェッドを生み出した国だぞっ!!
(※キャプテン翼のこと)リスペクトしないわけがないっ!!」
サニア「リスペクトしてる割には酷い言い様な気がするけど、なるほどね。
私はピタパンマンのほうが可愛らしくていいけど。
(※アンパンマンのこと。)」
ヌール「あぁ、いつか行ってみたいよ日本っ!!」
サニア(心)「私は週一で行ってるけどね。」
そんな話をしながら、二人は歩いていく。
ヌール「でも、あれだよな学校が再開したのは嬉しいけど、また過激派の
テロ組織が襲撃に来るんじゃないかと思うと心配だよな。」
サニア「もう二度とそんなことは起こらないだろうけど。」
ヌール「えっ?」
サニア「いや、なんでもないわ。」
木々のない岩や乾燥した土肌の山岳地帯を歩いてサニアとヌールは
学校に着いた。
そしてサニアは教室で女子同士で久々の再会で話が盛り上がる。
話が盛り上がっている所にブロンドの髪をポニーテルにした白人の
女教師が入ってきた。
女教師「はい、みんなっ席について。」
サニア達は席に着く。
女教師は黒板に自分の名前を白いチョークで書く。
女教師「今日からあなた達に勉強を教えることになった、シンディーよっ!!
これからよろしくねっ!!」
サニア(心)「海外からのボランティアで来てくれたのかな、
でもよくこんな治安の悪いとこに来てくれたなぁー、
まあ私達は勉強が出来て助かるけど。」
シンディー「それじぁ、早速なんだけど、みんなの学力のレベルがどれぐらいか
知りたいからテストをするわね。」
いきなりのことで生徒達がどよめく。
生徒1「えっ、明日とかじゃなくて今からですかっ!!」
シンディー「そうよっ、何も対策してない状態でどのくらいのレベルなのか
知りたいからね。」
女子生徒1「どうしよう…最近、ちゃんと勉強出来てないから不安だぁーっ!!」
皆が動揺している中サニアは喜んでいた。
サニア(心)「これは、好都合ねっ、エレ先生に教わったことが身についてるか、
そしてどこまで出来るようになったのかようやく試せる。」
テストの用紙が配られ、シンディーが、スタートと言い全員、問題を解き始める。
皆がまだ習っていない問題などがあって苦戦している中、サニアは苦もなく
余裕で解いていく。
サニア(心)「流石、エレ先生ねっ!!分からないとこがまったくないわっ!!
これなら全問正解出来そうっ!!」
サニアがそう思った時、サニアの脳裏に呪文が浮かぶ。
サニア(心)「また引っかかったみたいね。」
サニアの脳裏に呪文が浮かぶ数分前、サニア達が住む集落や学校に向って
険しい岩だらけの山道を進む、オープントラックの荷台に機関銃で武装
された車両四台にその後方に輸送用のトラックの姿があった。
その輸送用のトラックの助手席にこの集団の指導者、ムサドがふんぞり
返っていた。
ムサド(心)「どうやら学校のほうは再開してガキ共が集まってるとは
好都合、少年兵の補充が出来そうだ。
しかし、前にあそこを襲った連中全員が何か判らない
化け物に襲われ、精神が発狂状態になったとかいうが
恐らく自分達で用意した毒ガスの管理をミスって精神が
やられただけだろっ、
その隙にガキ共が逃げただけの話、まあ競争相手がいなく
なって俺としては最高だけどな。
まあ、滅んだお前らの代わりに俺がガキ共を有効利用して
やるからお前らは安心して発狂しとけよ。」
ムサドがそんなことを考えていた時だった、急に先頭を走っていた車が
蛇行し岩に乗り上げ停まった。
後方を走っていた車両もこの事態に停止する。
ムサド「おい、どうしたんだいきなり…」
次の瞬間、蛇行し、停止した先頭の車両の運転席と助手席のドアが
勢いよく開き、叫び声をあげながら男二人が口から泡吹きながら
車外に飛び出し、倒れ失神した。
倒れた二人に後方にいる車から男達が駆け寄るが近づいた瞬間、
悲鳴を上げもがき苦しみ始め先頭を走っていた男二人と同様に
口から泡を吹いて失神した。
ムサド「何なんだっ!!何なんだこれっ!!」
ムサドの隣の運転手が怯え始める。
運転手「祟りだっ!!あの学校の生徒が助かったのは神の意志
だったんだっ!!」
ムサド「そんな馬鹿なことがあるわけ…」
運転手「だったらどう説明するんだっ!!
きっとこの先は聖域か何かあって荒らそうとする者に
天罰が下ってるんだっ!!」
ムサドは苦々しい表情をして、決断を下した。
ムサド「くっ、糞がっ、撤収だっ!!」
こうしてムサド達は去っていった。
ムサド達が去っていった頃、サニアは問題を解きながら考えていた。
サニア(心)「設置型の呪術精神侵食型呪毒を山岳地帯の二十キロ圏内に
円状に仕込んでて良かったわ。
マイの家の冷蔵庫の横にはみ出てたゴキブリホイ○イを
見てこの罠を思いついたけど効果覿面ね。
正直、学校始まったら、見回りとかどうしようと思った
けどこれならその必要もないし、しかも発動時に標的の
魂魄から出ている神通力を使って発動するから私が常に
神通力を流す必要もない。
私のテロリストホイホイっ!!思った以上に有能ね。
しかも命までは奪わない安全設計だし人権に配慮している
ところがとてもいいけど、人間の技術じゃないから自分達
の生活を護ることに関してのみ使用許可が下りてないとこ
がもどかしいとこよね。」
ムサドが去った後、ヴェノムと刃刺亞が置き去りにされた失神した
男達のもとに現れる。
ヴェノム「うわっ、失禁してるよこいつら、まあ屑には
お似合いの結末だな。」
刃刺亞「屑のあんたがそれ言う?」
ヴェノム「しかし、サニアも随分エグイ罠を仕掛けるっ、こんなの
くらったら精神が壊れちまう。」
刃刺亞「まあ、悪人だけに反応するようにしているからいいだろ。」
ヴェノム「まあ、こいつらに更正する機会を与えてもどうせまた
略奪とか繰り返すだけだしな、さて、こいつらどうしようか?」
刃刺亞「この前みたいに町の信号機に吊るすのは?」
ヴェノム「うーん、何か飽きたなそれ、吊るした後、解毒して正気に
戻った時の顔がマジでおもろかったけどもっと斬新なこと
に挑戦したいよな。」
刃刺亞「流石、ヴェノム、裏社会の魔族、神族がドン引きする屑だな。」
ヴェノム「なんか、こう、そうだなー、地域にあったサプライズをしたい
んだよなー…そうだっ!!
いいこと思いついたぜっ!!腕がなるぜぇーまったく、
くっくっ!!」
ヴェノムの顔が歪み歪な笑みを浮かべる。
刃刺亞(心)「少し丸くなったとエレさんに言われたが全然だよっ、
コイツどちらにしろヤバイよっ!!
コイツ絶対に人界に派遣しちゃ駄目だろっ!!」
そして、午後、十五時、テストの順位が廊下に張り出され、
生徒達が集まっていた。
サニアもテストの結果を見て微笑む。
サニア(心)「よし、一位だっ!!、いつもはあと一歩のとこで一位に
なれないことが多かったけどエレ先生がそんな部分を
補う教え方してくれた御蔭ね。」
満足しているサニアのとこにヌールが来る。
ヌール「いやー今回は負けたよ、おめでとうサニア。」
サニア「ありがとう。」
ヌール「でも、次は負けないからな。」
サニア「ええ、私も負けるつもりはないよ。」
ヌールとサニアは互いに微笑んだ。
サニアがテストで一位になった頃、ヴェノムと刃刺亞は
ラクダの牧場にいた。
そして、柵にサニアのテロリストホイホイに引っかかった失神している
テロリストの男達が両手と首を縄で固定されズボンを下ろされケツを
突き出す形でセットされている。
刃刺亞「お前の指示どうり運んできたがラクダの牧場で何するんだ?」
ヴェノム「まあ見てろって。」
ヴェノムは固定されている男達の解毒をすると同時に、何か違う呪術を施す。
それが済むとヴェノムは雄のラクダのとこに飛んで行き呪術を施すと
雄ラクダは興奮状態になる。
そして拘束されていた男達の意識が回復して混乱し始める。
そんな混乱している男達の背後に興奮した雄ラクダが突っ込んできて
男達の恐怖と激痛に満ちた叫び声がこだました。
その光景を見ていた刃視亞はその場で吐く。
刃視亞「おえっ!!おまっ、お前なにしやがった!!」
ヴェノム「簡単なことだ、男連中に魅惑的な雌ラクダに見える幻術をかけて
更に雌ラクダのフェロモンを発する呪術を施しただけさ。
あと、雄ラクダは発情期の状態になるよう呪術をスパイスとしてな。」
刃刺亞「えげつなっ!!ここまでするかよ、人権侵害にもほどがあるぞっ!!」
ヴェノム「魔界の地獄でも似たようなやつがあるじゃねぇか、大差ないって。
それにだ、散々こいつら人権侵害してきたんだ自分達がされて
文句の言える立場じゃねえよな。」
刃刺亞「確かにそれは一理ある…だが、何、動画とってんだよっ!!」
ヴェノムはスフィアフォンで地獄絵図と化したその光景を撮っていた。
ヴェノム「ああ、これか、テロの撲滅のためさ、見せしめってのが
一番手っ取り早いだろ?」
刃視亞「おい、こんなの流すつもりかよっ!!」
ヴェノム「流すつもりって?もうリアルタイムで流してるよ。
ただいま絶賛拡散だよ。」
刃視亞「お前の倫理観、紙切れだなマジで。」
そして、学校が終わったサニアが帰宅して、子供部屋に居る
ヴェノムと刃刺亞に声をかける。
サニア「ねえ、私のテロリストホイホイに引っかかった人達は?」
ヴェノム「ああ、それなら罪を償える所に放り込んだよ。」
刃刺亞(心)「物は言い様だな。」
サニア「そう、ありがとうね、ヴェノム、刃刺亞、本当は神通力での
人界での介入は好ましくはないのに無理言って。」
ヴェノム「いいんだよサニア、魔法少女の特権は使っとくべきだって。
それに、もっと仕掛けてテロの撲滅したいのを我慢して
くれてるんだから。
でも小規模と言ってもサニアの努力は報われはじめてるよ。」
ヴェノムがスフィアフォンの映像をみせるとそこには過激派組織から
次々と脱退のニュースが流れていた。
そして脱退した元兵士のインタビュー映像が流れる。
元兵士「あれは、神の怒りだっ!!しかもあんな地獄を味あわされる
くらいなら抜けたら粛清と言われても抜けるさ」
ヴェノム「サニア、君の行動は小さな物かも知れない…でも君が
行動したからこの結果が生まれたんだ君はよくやったんだ。」
サニア「ありがとうね、ヴェノム、刃刺亞、私を支えてくれて。」
ヴェノム「君は正しいと思うことをすればいいんだよ。
ケツは俺が持つから。」
そんなサニアとヴェノムの微笑ましい会話聞きながら刃刺亞は思う。
刃刺亞(心)「ヴェノムの野郎、本当にサニアには聖人の如き対応するよな
…しかし、あのニュース…自分のえげつない辱めをテロリスト
にやったことを知られないように編集したの見せてやがる…
まあ、知らぬが仏ってやつで…いいのか、これ?」
少々、釈然としない刃刺亞だった。