第四十八話 レッツショッピングⅣ
これにてこの章はおわ~り~です。
明日は、ご要望にあった人物紹介を投稿します。
店内に入ると、テラスの席を取った。
ちょうど長テーブルが開いていたのでそこにかけることにした。
それぞれ思い思いに注文を済ませると、会話を続ける。
「それで、ロズウェルさんっていったい何者なの?」
「確かに気になるよね。私たちが知っていることと言えば…」
「『メルリア最強の剣士』『女神アリアに仕える者』『五英雄の1人』…くらいだね~」
「アリアちゃん。他に何か知らない?」
真樹にそう問われ、アリアはしばし思考を巡らせる。
「魔法以外なら大抵なんでもこなせるイケメンで、女性からの人気がめちゃくちゃ高い。でも恋愛事には興味なさそうで、仕事人間って感じだな。趣味とかも知らないし……そう考えると、私もロズウェルの事詳しく知らないのかもしれない」
「いつも一緒にいるのに?」
「ああ。ていうか、いることが当たり前で、そんなに意識してなかったからな……」
アリアのその言葉に、皆が食いついてくる。
「いることが当たり前ということはつまり、いなくてはならない存在と言うことかなぁ~?それはつまりそういうことかなぁ~?」
アリシラのからかい口調の言葉と皆の興味津々な瞳に若干呆れ顔で答える。
「皆が思っているような感情ではないぞ?私としては、恋愛感情よりも兄への家族愛のようなものだ」
アリアがそう言うと、皆あからさまにがっかりしたような顔をする。
その態度に、アリアは若干額に青筋を浮かべる。
「ほう。それじゃあ皆はどうなんだ?なにかそういう浮いた話の一つもないのか?特に、異世界女子三人組よ」
「え?!わ、わた、私たちは、別に」
「ええ。そうね。特には」
「アタシも特にないかな~」
三者三様の答え。
だが、その中でも明らかに動揺しているのが一名。
美結は普段通りに応え、真樹は真相を悟られないようにポーカーフェイスで応えた。つまり、明らかに狼狽して見せたのは奈々子だ。
アリアはニヤリと人の悪い笑みを浮かべると、ずずいっとテーブル越しに顔を寄せる。
「その反応は誰か意中の相手か、もしくは気になっている人がいるのでは~?」
「うわぁ、アリアちゃん悪人面~」
アリシラの茶々入れを無視してずずいっとさらに詰め寄る。
「さあ、どうなの?」
「う、ううぇぇぇぇっ」
詰め寄られおろおろとしながら両サイドにいる美結と真樹に助けを求めるが、二人も興味津々のようで、助けてくれる気配はない。
「うぅ~~~~~っ」
「お待たせしました」
奈々子がどう答えたものかの悩んでいると、注文した料理が届く。
料理が来たことで話題が中断されて、ほっと一安心する奈々子。だが、そう甘くはなかった。
料理を食べ始めてすぐにアリアが先ほどの質問の続きをする。
「それで、奈々子が好きな、もしくは気になる男は誰なんだ?」
「んぐうっ!?」
もう終わったと思っていた奈々子は、アリアの不意打ち気味の質問に食べ物をのどに詰まらせる。
慌てて真樹が水を差しだす。
「んっくんっく………ぷはぁ」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ…」
アリアが心配そうにそう問いかけるのに、美結と真樹は「誰のせいだ」と心中で軽くツッコミを入れる。
そんな二人に目もくれずに、アリアはじーっと奈々子を見つめる。
「う、あ、ううぅ…」
アリアの視線に軽く呻き声を上げながらおどおどする奈々子。だが、皆の好奇の視線に耐えかねたのか、観念したようにぼそりと呟く。
「…………………イ、イルセントさん……」
「おお~~~~!」
「確かに、イルセントさんイケメンですものね」
「で、でも!ちょっと気になるな~ってだけだよ?!好きとか、まだそういうのはよくわからなくて…」
「まあしかし、奈々子は良い目をしていると思うぞ。なあ?」
アリアが目線を向けて同意を求めたのはイルと長く旅を共にしているユーリだ。
ユーリもこくりと頷いて同意を示す。
「イルセントはとても誠実な方です。お付き合いをしたならば浮気など不誠実なことはしないと思います」
ユーリの言葉に、イルを知る面々は何度も頷き同意を示す。
「だけどイルくんかなり奥手よね?」
「奥手と言うか、女性が苦手なだけだな」
「今では当初よりだいぶましになりましたが」
「確かに。パーティーで女性と普通に会話をしているところを見たときは我が目を疑いました」
「まあ、会話ぐらいしかできないがな」
そう言いながら、旅の途中女性に詰め寄られて酷く狼狽して見せたイルを思い出す。あの時は顔を真っ赤にして涙目でロズウェルに助けを求めていた。ロズウェルも、そんな友人を不憫に思ったのかすぐさま助けに行ったが、ロズウェルもイケメンなのですぐさま餌食になった。
今度はロズウェルが困ったような辟易したような顔でシスタに助けを求めた。それに追従するようにイルの涙目がシスタに向けられる。
シスタは苦笑しながらも二人のところに向かった。シスタもイケメンなのだが、さすがにそういう輩のあしらい方を理解しているのか餌食になることは無かった。
そんなひと幕を思い出しながらアリアは言葉を紡ぐ。
「接触とかはダメだな。あと、距離が近すぎてもダメ。適度な距離でノータッチが基本だな」
それを聞き、美結も真樹も苦笑いを浮かべる。
「甲斐性が無いというか、ヘタレというか……」
「ひ、人見知りなんだね」
ざっくりと言う真樹とは反対に美結はフォローを入れる。
「まあ、慣れれば触れられても大丈夫なようだがな」
「浮気の心配はいりませんね」
「誠実とか以前に度胸が無いか」
「ある意味安心よね~」
「と言うわけで、安心して付き合えるぞ」
「だ、だから!まだ付き合うとかそういうのじゃないってばぁ~!」
羞恥から顔を真っ赤にしてそう言う奈々子。
そんな様子の奈々子に、少しからかい過ぎたと反省するアリアは話題を変える。
「それじゃあ、付き合う云々は置いておいて、どういうところが気になったんだ?」
「え、えっと……」
「顔か?」
「か、顔も…その…タイプと言うか、どストライクと言うか…」
タイプで止めておけばいいのにどストライクと言うあたり奈々子もガールズトークの空気に飲まれているのだろう。
「性格?」
「性格も、もちろん…優しそうだし…誠実そうだし…」
「ふむ…じゃあ、結局どういうところに惹かれたんだ?」
このまま質問に答えてもらってもいいのだがそれでは一向に話が進まないと考え、直球で行くことにした。
「えっと…それは…」
アリアの質問に口ごもる奈々子。
その姿は好きになった理由を話すのが照れくさいというのもあるだろうが、他にも何かあるような気がした。
言ってもいいのかどうか迷っているようなそぶりを見せ続ける奈々子。
そこに、アリシラが純粋な疑問を口にする。
「でも、奈々子ちゃんとイルくんって全然と言っていいほど接点無いわよね?」
「言われてみればそうですね」
「と言うか、昨日が初対面では?」
「と言うことは、昨日のパーティーの最中に何かあったってこと?」
「あ、もしかしたら」
「ん、何か思い当たるのか?」
「うん。思い当たると言うか思いついたという方が正しいけど」
「とにかく言ってみそ」
「うん。よく物語とかであるじゃない?パーティー会場でぶつかってドレスに飲み物かけるとか、慣れないヒールでころんじゃったところを抱きかかえられるとか。そういうことかなって」
美結の言ったことに皆が納得して頷くと、真意を聞こうと奈々子を見やる。
皆の視線にまたもや耐えきれなくなったのか、白状する奈々子。
「実は、パーティーで出てきたケーキを取ろうとしたとき最後の一個だったんだけど、イルセントさんもそのケーキが食べたかったらしくて。でも、女性だからって笑顔で譲ってもらったの」
「ふむ、さすがイルだな。実に紳士だ」
「でも、それだけじゃ理由として弱くない?」
「えっと、続きがあってね?」
「ほほう」
「ケーキを譲ってもらったあと、ちらりとイルセントさんの顔を見たらすごくがっかりしたような顔をしてて、それがなんだか可愛くって…」
「庇護欲をかきたてられたのね。イルくん策士ね」
アリシラの茶々入れに、アリアは呆れ顔で言う。
「おい、イルの誠実さどこに行った」
「冗談よ、冗談」
アリアのツッコミに微笑みで返すアリシラ。
「確かに、そういう可愛らしい反応されるときゅんと来るわよね」
「そうだね~。自分も食べたかったものを我慢してしゅんっと落ち込んだ表情されるときゅんと来るよね~」
「そんなに楽しみだったのねイルセントは」
「えっと、まだ続きがあるんだけど…」
「まだあるのか」
「うん。えっと、なんだか可哀想に思えちゃって、半分こしましょうって言ったら満面の笑みでお礼言われて」
「その笑顔にハートを射抜かれたと」
確かに、奈々子の理由を聞けば納得である。
「さすがイルくん。策士ね」
「だから、イルの誠実さどこに行った」
アリシラのボケにまたもやツッコミを入れるアリア。
「イルは女性を手玉に取るような男じゃないぞ」
「知ってるわよ~。そんな甲斐性も度胸もないわよあの子は」
「逆に手玉に取られるタイプだ」
「そう。ころっと転がっていくタイプ」
「気付いた時には結構な額を貢がされてて」
「借金まで抱え込まされて……」
「最後は良いように捨てられ……」
二人でそこまで言うと、急に表情を曇らせる。
「やばい。冗談で言ってみたがあまり否定できそうにない…」
「そうね…少し、いやかなり心配になってきたわ…」
深刻そうな顔をする二人に周囲は苦笑する。
「さすがに、イルセントもそこまで馬鹿ではないかと」
「ユーリ!何を甘いことを!イルの愚直なまでの素直さをお前も知っているだろう!」
「そうよ!あの子は素直過ぎてこっちが心配になってくるほどなのよ!?」
「悪い虫がつく前に私たちが対処せねば……!」
「ええ。近づくメス豚は排除しなくちゃ……」
瞳からハイライトが失われている二人にユールが冷静にかつ呆れたように言う。
「完全に親バカですね」
「まあ、それだけ愛されてるってことじゃないか?」
「そうですね」
「わ、わたし殺されちゃうの?!」
「だ、大丈夫だよ奈々子ちゃん!殺されないよ!……………多分」
「ふええぇっ!?」
二人の目があまりにも本気だったので確信を持って言えなかった美結。
「ん?」
「どうしたのアリアちゃん?」
急にアリアが正気を取り戻すと、懐中時計を取り出す。
アリアは口の前で人差し指を立てて静かにするように合図をすると懐中時計に話しかけた。
「どうした?」
『アリア様。休暇中に申し訳ありません』
アリアが話しかけると懐中時計から声が返ってくる。
そのことに異世界組三人は驚愕するが、アリアに静かにしているように言われたので何とか声は出さずに済んだ。
アリアが持っているのは懐中時計ではあるが、それと同時に遠距離通話を可能にした魔道具でもあった。
感応石を受信側と送信側に一つずつ使っているため通話が可能。もちろん、それ以外にも通話できる理由はあるのだが、それは、今ははぶいておこう。
距離も限定的で誰とでも通話ができるわけではないが、遠距離通話ができる優れものだ。
「前置きは良い。要件を言え」
仕事モードに入ったアリアが気の張った声でロズウェルに言う。
兵で知らせを出す、もしくはアリアが返ってきてから知らせるでは遅いと判断したロズウェルがわざわざ魔道具まで使って報告をしているのだ。十中八九良いことではないだろう。
『失礼しました。それでは、単刀直入に申し上げます』
謝罪の言葉さえも煩わしく感じたアリアは少しだけ眉間にしわを寄せる。
だが、次のロズウェルの一言で更に眉間の皺が濃くなった。
『魔王軍が攻めてきたとのことです』
それを聞いた瞬間アリアは声を張り上げる。
「アリシラァッ!!」
「分かってるわ!!」
アリアの怒号にも似た声に、アリシラも険しい表情で返事を返すとすぐに魔法を唱える。
「《範囲転移》」
そう唱え終わるとその場にいた七人の姿が掻き消える。
テーブルの上には七人が食事をした後と、七人が頼んだ料理分に少し色のついたお代が置いてあった。
 




