第四十二話 レッツ挨拶!!
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アリアが最初にあいさつ回りに向かったのは、先に話した魔工都市の一件でメルリアに来た双子のところであった。
「よっす、お二人さん。元気だった~?」
「あ、アリアさま!お久しぶり~!」
「アリア様、お久しぶりです」
二人はアリアを見ると、それぞれ挨拶をする。
二人は、メルリアに来てからと言うもの工房に籠りきりで開発をしていた。“蜘蛛”フォールに負けたのがよほど悔しかったのだろう。
聞けば、フォールは友の仇だそうだ。確かに、それを倒せなかったとあれば悔いも残ろう。
だが、アリアとしては、復讐を遂げられずに悔しい思いをしたその後悔に憑りつかれ、人を殺す道具を作るよりも、誰かの手助けになるような道具を作ってほしかった。
その旨を、一度ロズウェルと共に伝えに行ったことがある。
二人は――と言うよりハンナは――最初、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、段々とアリアの言わんとしていることを理解してきたのか、その顔からは険しさが取れて行った。
そうして、二人は一度、頭を冷やすために魔道具開発を止めた。開発を止めた二人は、街を見て回ったりした。それは、二人を連れ出してくれる友人を亡くしてから、初めての休日だった。
だが、それも長くは続かなかった。
二人は筋金入りの魔工技師であったのだ。魔工技師として、魔道具を作っていなくては生きていて面白くない。魔道具を開発していたい。その欲望が二人にはあった。
二人は、休暇を満喫した後、魔道具開発を再開した。ただ、二人は以前のように殺伐とした空気の中で魔道具を造ろうとはしなかった。
友を亡くす前の、何も考えずに、二人の知識欲と研究欲を満たすためだけに魔道具開発に没頭していたあの頃のように、開発をした。
そのおかげかは知らないが、二人の研究は以前よりより一層捗った。復讐に憑りつかれるより、自分たちが好きで研究をする方がやはり精神的に取り組みやすいのだろう。
ともあれ、二人の憑き物は取れた。もう、心配することは無かった。今も、二人の表情は柔らかい。ちゃんと今を楽しんでいるようだ。
「二人とも元気そうでなによりだよ」
二人の顔を見て満足げにうなずくアリア。
「アリア様もお元気そうでなによりです」
「アリアさまはまた一層可愛くなったね~!」
「そうか?ハンナも、女に磨きがかかったんじゃないか?」
「え、そうかな?」
「うん。これでロズウェルも振り向いてくれるかもな」
「な、ななななななな何言ってるんですかぁん!?ろ、ろろろろロズウェルになんて、きょ、きょきょきょ興味ないわよ!!」
言葉を噛みまくりながら否定をするハンナ。こういう反応を求めて、あんな風にからかってみたものの、本当にそう返されるとハンナの純情を弄んだみたいで悪い気がする。
ハンナの予想以上のテンパり具合に罪悪感を覚えつつも、アリアは続ける。
「興味ない?本当に?」
「ほ、ほほほほんとうよ!」
「本当に本当?」
「うっ…………なくもない……かも…しれない、けど……」
アリアの純粋に見せた瞳に見つめられ、少しだけ白状するハンナ。
トロラは、アリアの目の奥に、悪戯心を見て取れたので、それに騙されているハンナを苦笑いで見つめる。
「そうか、興味あるのか」
「ちょっとだけ!ちょっとだけよ?!」
「ハンナ、いいことを教えてやる」
「な、なに?」
「少しでも異性が気になったら、それは恋の始まりなんだ」
「こ、ここここここ恋いぃ!?」
「なんてな。私も恋なんてしたことないからわかんない」
顔を真っ赤にして、今にも倒れそうなほど沸騰しているハンナをこれ以上からかうのはさすがに気が引けたので、ここらでからかうのを止める。
「知ったかぶりだったの!?」
「ははは、まあね~」
「あ……」
「あ?」
「アリアさまなんてもうしらなぁ~い!!」
涙目でそんな可愛らしい叫び声を上げながら走り去るハンナ。
それを気まずげな眼で見送りながらアリアは呟く。
「ああ~やりすぎた?」
「ですね」
「………今度、甘いものでも持って行くわ」
「姉さんにはそう伝えておきます」
「頼んだ」
「はい。それではアリア様、僕は姉さんのフォローに行ってきます」
「悪いなトロラ」
「ええ。あ、貸し一つで」
「うっ。了解」
アリアの返事を聞くと、トロラは満足げに微笑むとハンナの後を追う。アリアは、トロラの背中を見送ると、次の人のところへと向かった。
(ハンナにはちゃんと謝っとくか)
久しぶりに会えたことで調子に乗ってしまった自分を諫めつつ歩き始める。
次に向かったのは、アリシラのところだ。
アリシラは、一つのテーブルの前を陣取って料理を頬張っていた。アリアは声をかけるか一瞬迷ったが、アリシラと目が合ってしまったので、ここで声をかけないと失礼だと思い声をかけた。
「おひさしぶり、アリシラ」
「おふぃふぁふぃぶい(お久しぶり)!ふぁりあふゃん(アリアちゃん)!」
「飲み込んでからにしてくれ」
アリアがそういうと、アリシラは数回咀嚼を繰り返したのち、口の中に入っていたものを飲み込んだ。
「いやぁ~アリアちゃんお久しぶり!元気にしてた?」
「ああ。おかげさまでな」
「うんうん。アリアちゃんが元気で、お姉さんはうれしいなぁ~!」
「私も、アリシラが元気そうで安心したよ」
二人はにこやかにあいさつを交わす。
「そいでそいで。旅行の方はどうだった?この世界来てから初めての旅行だって言ってたけど、楽しんでこれたかな?」
「ああ、クルフトもいい国だった。久しぶりにツバキにも会えたし、楽しかった」
アリアは、クルフトにお役目で行ったわけではない。ここ最近目立った事件も起きていないためフーバーの提案もあり、慰安旅行に行ってきたのだ。
場所として選んだのは、ツバキの母国。何代目勇者とも知れぬ、イガラシ・ソウジロウが愛した国、クルフトだ。
クルフトを選んだ理由としては、温泉があり、旅館があり、何より日本のように刺身が出ると聞いたので、クルフトを選んだのだ。
アリシラは、アリアの返事を聞くと、我がことのように嬉しそうに頬を綻ばせる。
「そうかいそうかい。楽しんでこれたのならよかったよ」
「ああ。楽しかった!あっ、今度はアリシラも行かないか?」
「ん?あ~、アタシは~ほら、ちょっと事情があるから無理かな~」
アリシラが言葉を濁すようにそう言うと、アリアも思い当たる節があるのか、悪いことをしてしまったような顔をする。
「ごめん。そこまで気が回らなかった」
「ううん、いいんだよ。アタシは誘ってもらえただけで嬉しいから」
「うん。そうだ。代わりと言っては何だが、今度美味しいものでも食べに行こう!」
「おお!それは魅力的な提案だね!それっじゃ、ぜひお供させてもらおうかな?」
「ああ、私も楽しみにしているぞ!それじゃあ、私は他にもあいさつ回りに行かなくちゃいけないから、ここで」
「ほいほい。まったね~」
アリシラはフォークを持った手をひらひらと振って見送る。
アリシラに見送られながら、アリアは次のところへ向かった。
次に挨拶に向かったのは騎士団の六人組のところであった。
「楽しんでるか~?」
「これは、アリア様。ええ、楽しんでますよ」
騎士団の六人組と言うのも、騎士団長のセルゲイ・ラドクロフト。副団長のエリナ・シールズ。後の四人は、セリア大森林の件で一緒に行動した、シフォン、イーナ、ラテ、キリナだ。
アリアの挨拶に返事をしたのは、セルゲイだ。
「お、おお、おひしゃしぶりです!アリアひゃまっ!」
「エリナ、かみっかみだな」
エリナの返事を聞き、くすりと可愛らしく微笑むアリア。それをうけ、噛みまくりで羞恥に赤く染まった顔が、さらに赤くなる。
「アリアちゃん、本当に久しぶりやな~」
「また綺麗になったんじゃないの~?」
「肌もちもち。髪サラサラ」
「さぞモテることだろうな!」
四人の褒め言葉に、アリアは照れて顔を赤くする。
「皆も、綺麗になったな。エリナも、大人っぽくなったな。セルゲイは………」
「無理に絞り出さなくてもいいですよ……」
「いや、待て。あと少しなんだ」
「そうですか……」
うんうん唸って言葉を探すアリアに、若干寂しそうな顔を見せるセルゲイ。
「セルゲイは、むさ苦しいな!!」
「それは褒めてるんですか?!」
「ふふっ、冗談だ。セルゲイは、また屈強になったな」
「それはどうも」
さっきの冗談があったからか、微妙そうな顔をする。
「それにしても…」
アリアは、今いるメンツを見渡すと、最後にまたセルゲイを見やる。
「セルゲイ、両手に花どころか、抱えきれないほどの花だな」
そう、ここにはセルゲイ以外の男はいない。その他のメンツは皆、美女・美少女と言っても差し支えないほどの女性だけだ。
セルゲイも今頃そのことに気付いたのか、少しだけ狼狽して見せる。
「そういえば、そうですな。騎士団のメンツなので、気づきませんでした。少々まずいか」
ここにいるメンツは、セルゲイを除き皆未婚者だ。セルゲイが既婚者だと、この場にいるほとんどの者は知っているが、これだけの美女・美少女と一緒にいれば、変なやっかみを受けるかもしれない。
その可能性に、アリアもすぐに思い当たるが、あっけからんとしている。
「まあ、大丈夫だろう。皆が騎士団所属ってわかってると思うし。それに、セルゲイが既婚者だって周知の事実もあるんだし」
「それも…そうですね」
「うん。ところで、皆は浮いた話とかないの?」
既婚者と言うワードで、アリアは皆にボーイフレンドがいるのかどうか気になり訊いてみることにした。
皆もう二十を超えている。この世界の結婚適齢期は前の世界よりも早い。そろそろ、皆結婚してもいいころだ。
「はっ。浮いた話なんて一つもねーですよ」
アリアの問いかけに、やさぐれ気味に答えたのはラテであった。
とりあえず気になったから訊いてみた話題であったが、どうやらアリアは地雷を踏んでしまったらしい。
「ワタシの周りじゃ最近そういう話多いんですけどね。それもこれも砂糖味のゲロが出てきそうなほど甘い話ばっかりでね。歯が浮くようなゲロ甘い話をしている輩は刃を浮かして脅してやりましたよ。あ、もちろん訓練で、ですよ?さすがに私情でそこまでしませんよ。ていうか、結婚して幸せの絶頂とか言ってますけど、それを職場にまで運んでくるのは適齢期逃しているワタシへの当てつけなんですかね?それに―――」
滾々と話し続けるラテ。
ラテの闇に触れたようでいたたまれない気持ちになりつつも、どうすればいいのか分からず戸惑う。
「はぁ~い、ラテ。こないなところで下品なこと言うたらあかんよ?」
暴走するラテを、イーナが後ろから口を塞ぎつつ羽交い絞めにする。
「アリアちゃん、この子はうちらが戻しとくから、ほかんとこ周ってきてええで?久しぶりに会うんに、あいさつ回りでもしてたんやろ?」
「え、う、うん。じゃあ、任せた」
イーナの助け舟にありがたく乗らせてもらい、アリアはその場を離脱する。
(今後この話題は避けよう……)
心でそう誓いながら、アリアは次のところへと向かった。
 




