第四十一話 そうして、現在
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「――――と、ここまでが“蜘蛛”事件のあらましだな~。って、もう夕方かぁ」
魔工都市の事件まで話すと、窓の外はオレンジ色に染まっていた。話すことに夢中で、外の時間のことなど気にも留めていなかった。
窓から差し込む夕日が、室内に少しだけオレンジ色がさしていた。
「もうすぐ夕飯時だなぁ。よし、今日の話はここまでにするか」
「ええ~~~?もっと話してよ幸助~!幸助の話もっと聞きたい~!」
アリアと久しぶりに会えたためか、甘えるようにアリアの話をねだる美結。
そんな美結の様子に、アリアは安心すると同時に、苦笑する。
「幸助、じゃなくてアリアな。暇ができたらまた話してやるよ。それに、勢いで話したが、私がこうなった経緯は分かっただろう?なら、それで十分じゃないか。私も話さなければならないところまでは話せたしな」
アリアは話し疲れて乾いたのどを、話の途中でメイドさんが持ってきてくれた紅茶を飲み、喉を湿らす。
アリアが紅茶を飲み終わった後、亜澄奈々子が口を開く。
「わたしも、アリアちゃんの話聞きたい!」
「そんな聞きがいのあるものでもないぞ?」
「いやいや、まだ謎が残されてるから気になるのだけど」
瀬能真樹も、奈々子に賛同する声を上げる。
「そうだな、オレも気になることがいくつかある」
フーバーも賛同する。
見渡してみれば他の者も三人と同じ用であった。
「分かったよ。ちゃんと話すよ。時間が空けばだけど」
「うん、お願~い!」
嬉しそうに顔を綻ばせる美結。その顔を見て、アリアも自然と顔が綻ぶ。
「アリア、これはすぐに答えられると思う質問なんだが、今いいか?」
「ん、ああいいぞ」
「なんで、オレにお前が勇者の一員だったということを黙っていたんだ?」
少しだけ視線を鋭くさせてアリアに問いかける。その視線を受け、アリアは後ろめたい気持ちになる。
「あ、いや、それは……」
「それは私が口止めを提案いたしたからです」
アリアの言葉を遮りロズウェルが言葉を挟む。
フーバーがアリアの隣に座るロズウェルに目を向ける。
「どういうことだ?」
フーバーの口調が幾分かきつくなる。その場にいるアリアを含めた全員に緊張が走る。だが、さすがと言うべきか、ロズウェルと妻のサティアだけはいつもの態度を保っていた。
アリアも、フーバーの怒りは理解できた。
フーバーはこの国の王だ。そのフーバーに、アリアがイレギュラーな女神であるという重要なことを話していなかったのだ。普通であれば、国のトップに離さなければならない事案だ。それを話していなかったとなれば、フーバーが怒りをあらわにするのも理解できた。
だが、アリアもわざと話さなかったわけではない。
「アリア様が、イレギュラーな、それも純粋な女神でないと言うことを、女神信仰のあるこの国で話すのは、余計な混乱を招くと考えました。それに、国王陛下に大戦の話をするにあたり、このことを話されては信じてもらえない可能性があると判断しました。アリア様が純粋な女神だと思っている間は、アリア様のお言葉を無条件ではないにしろ信じてもらえると思いました。それに、事態を円滑に進めるためには、そうした方がよろしいと判断しました」
「………」
ロズウェルの説明を聞き、フーバーは一層目を鋭くする。
「オレは、この国の王だ。ロズウェルには報告の義務があると思うが?」
「失礼ながら私が、いえ、私たちが仕えているのは、“メルリア”ではなく“女神アリア”です。報告の義務はないかと」
ロズウェルが冷たい声でそう告げると、二人の間に鋭く冷たい空気が流れる。
室内に気まずい雰囲気が流れる。
それを払拭するために、アリアが言葉を挟む。
「ロズウェルがそう提案しただけで、結果的に決めたのは私だ。すまなかったな、フーバー」
アリアが、ぺこりと頭を下げる。
その姿を見ると、フーバーは一つ溜息を吐く。
「ああ、分かったよ。オレも、あのタイミングでそれを言われたらどうするべきか考えあぐねていただろうからな」
「私も、言葉が過ぎました。申し訳ありません」
アリアが頭を下げたので、ロズウェルが頭を下げないわけにはいかない。
「いいさ。オレも悪かったな」
二人が謝りあったことで室内の空気が少しだけ和らぐ。
「勇者諸君も悪かったな。空気を悪くしてしまって」
「い、いえ!滅相もありません!」
自分たちにも謝罪の言葉が来るとは思っていなかったのか、慌てる勇者達。そんな中、代表して荘司が答える。
アリアは、流れを断つために元の話を再開する。
「それで、他に訊きたいことはあるか?」
「あ、ああ!一つ俺からいいか?」
流れを断とうとしたことを察したのか、荘司がすぐさま答える。
「ん、ど~ぞど~ぞ」
「崎三……じゃなくて。アリア…ちゃん?」
「あー。好きなように呼んでいいぞ。アリアでも、アリアちゃんでも、アリア様でもな~んでも」
「あ、んじゃあ、アリアちゃ…」
荘司がちゃん付けで呼ぼうとしたとき、ロズウェルの視線が鋭くなる。
「お待ちください。アリア様を“ちゃん”付けで呼ぶなど、私が許しません。男子限定で」
「なぜだ?」
ロズウェルの言葉に、荘司ではなくアリアが疑問を投げかける。
「私が呼んでいないからです」
「………」
ロズウェルの一言で空気が固まる。
「ロズウェル、冗談はもっとわかりやすく言え」
「…分かりづらかったでしょうか?」
「分かりづらい。ロズウェルなら本心で言いかねないからな」
「本心半分冗談半分です」
「なおのこと分かりづらいじゃないか」
「はいは~い!じゃあ女子はアリアちゃんでいいんですか?!」
ロズウェルの言ったことが冗談だと分かったからか、美結がロズウェルに質問する。
「ええ、女性の皆さんはそうお呼びしてもかまいません」
「じゃあ、男子はどう呼べば?!」
男子の代わりに、美結がまたもや質問する。
美結の質問に、ロズウェルは頤に手を当てて考える。
「…………」
「…………」
ロズウェルが言葉を発さないことで、室内に再び静寂が訪れる。
やがて、静寂を破って言葉を発したのは考え込んでいたロズウェルではなく、少しだけ呆れたような顔をしたアリアだった。
「ロズウェル」
「はい」
「大した落ちが思いつかないなら、無理しなくていいぞ」
「すみません。落ちどころが見つかりませんでした」
ロズウェルがそういうと、皆が椅子をがたりと鳴らしながらがっくりと言った感じで脱力する。皆、その顔には苦笑を浮かべている。
ロズウェルなりにさっきの空気を払拭したくて冗談を言おうとしていたのだが、的は外したが、目論見通りにはいっただろう。
アリアも、ロズウェルの生真面目な性格を知っているからか、ロズウェルの考えていることが分かっているのか苦笑をしながらも言葉を返す。
「で、結局どう呼ばれればいいんだ?」
「大した落ちも思いつかなかったので、なんでも」
「じゃあ、なんでもいいか」
結局、どう呼んでもいいということに落ち着いて、荘司が質問の続きをする。
「えっと、俺が訊きたかったのはアリアちゃんが最初にあった女神様に聞かされた大戦が、アリアちゃんがこの世界に来てから二年後、だったよね?」
「ああ」
「でも、俺たちが聞いた大戦があった年は二年前。つまり、アリアちゃんがこの世界に来てから四年後ってことになるよね?」
荘司の言いたいことが分かったのか、皆が騒然とする。
「このずれが生じたのは、どういうこと?」
「それは…」
荘司の質問にアリアが真剣な顔になる。
「それは?」
荘司たちが緊張からか、つばを飲み込む。
「私にもようわからん!」
アリアの返答に、皆は本日二度目の脱力感に襲われる。
「正直、私にはわからないんだよね~。ある程度こうじゃないかなとは予想がつくけどさ」
アリアの返答に、苦笑しながら訊き返す。
「その、予想と言うのでいいから聞かせてくれないかな?」
「まあいいけど、その前にだ」
アリアがそういうと、くうう~と可愛らしく腹の虫が主張をする。
「夕飯にしよう」
○ ○ ○
アリア達は場所を変え、大きな食堂に来ていた。
食堂にあるテーブルや椅子はどこかに運び出されており、代わりに大きな丸テーブルがいくつか置いてあり、その上に料理が綺麗に並ばれていた。
夕食は、立食のビュッフェ形式となっており、いつもは無い飾りが施されていることで、さながらパーティーのようであった。
皆も、華美でないドレスを着こんでおり、さながらと言うより普通にパーティーであった。
かく言うアリアも華美ではないにしろドレスアップしている。
白色の長手袋と、肩を出した膝より少しだけ上の裾のドレスを着ている。髪はいつも気分と服装で変えているが、今は赤色のリボンでくくったツインテールにしている。
髪型と格好からか、幼い外見のアリスが、更に幼く見える。
だが、似合っていないわけではなく、とてもアリアにとてもはまっていた。
「うむ、おいしいなぁ~相変わらず」
アリアは、手には小皿を持っておりその上の料理をおいしそうに食べていた。
「おいしいですか、アリア様?」
「ん?ああ、スティか」
おいしそうに食べているアリアに声をかけたのは、イルの妹のステリアだった。
半年ほどメルリアを離れていたアリアだったが、久しぶりに見たスティは前よりも更に女として磨きがかかっており、とても魅力的な女性になっていた。六年前も可愛らしかったが、今は綺麗と言った方がしっくりくるだろう。
スティは、アリアに笑顔で挨拶をする。その笑顔も、大人びてきたが、スティの可愛らしさが覗いていた。
「はい!お久しぶりですね!それと、ドレス似合ってますよ」
「うん、久しぶり~。スティも、ドレス似合ってるぞ」
「旅中、兄はどうでした?」
「うん?頑張ってくれたぞ。それに、すごい勢いで成長しているから、シスタもロズウェルも頼もしいと言っていたぞ」
「そうですか。それならよかったです」
にこやかに笑うスティに、アリアも微笑みで返す。
「スティはどうだ?」
「ええ、元気でやってます。剣の腕は、全然伸びませんが」
アリアの質問にスティは苦笑しながら返す。
「そうか。でも、イルの妹なんだ。スティも、剣の腕も伸びるさ。それに、イルの場合、コーチがロズウェルだからな」
「それは…伸びないとやっていけないですよね」
ロズウェルの相手をするにあたり、あの時のイルでは相手役には不足であった。だが、その不足をイルは良しとしなかった。イルは、努力してロズウェルに追いつこうとした。
そうして、イルは今の実力ロズウェルの相手役が務まるほどに成長した。
「私も、成長はしたが、うかうかしていたらイルにすぐ抜かれそうだ」
「アリア様にそこまで言わせるなんて…兄は立派に成長したのですね」
アリアの言葉に感慨深げにそうもらすスティ。アリアは、その言葉に苦笑で返す。
「なんだか、スティの方が年上みたいだな」
「兄は、割と抜けてますから。私がしっかりしていないと、って思っていたので」
「そういえば、イルは女性が苦手だったな。今は大分緩和されたけど」
「女ったらしにでもなったんですか?」
「いや、会話ができる程度にはなった」
「そこは、あまり成長していないんですね。なんだか安心しました」
「それは聞き捨てならないなスティ」
アリアとスティの会話に、いつの間に近くまで来たのか、イルが割り込んでくる。
イルも、六年前に比べ、端整な顔立ちになっており、大人らしさが出てきていた。
「久しぶりね、イル」
「久しぶり。元気にしてた?」
「うん、元気だったよ。それより、聞き捨てならないっていうのは?」
「あ、そういえば。会話すらまともにできずに赤面していた俺が、普通に話せるようになっただけでかなり成長したと思うけど?」
「普通に話せるまでに六年。あと何年経てば女の子と付き合えるのかしらね?」
「うぐっ!?」
図星を突かれ、呻き声を上げるイル。
アリアは、それを微笑ましげな顔で見る。それに気づいた二人は、少しだけ顔を赤くしながら咳払いをする。
「さて、そう言えば久しぶりに見る顔もちらほらあることだし、私はあいさつ回りにでも行ってくるよ。それに、二人で話したいこともあるだろうしな」
アリアは、悪戯っ子な笑みを浮かべると、二人から離れる。
二人から、言い訳の声が聞こえなかったのは、単に二人が本当に話したいことがあるからだろう。
イルも、しばらくメルリアを離れクルフトにアリアといたわけだから、メルリアに残している家族や友人のことも聞きたいだろう。
それに、あいさつ回りをしたいと思っていたのもまた事実だ。色々、世話になった人もこのパーティーに参加しているようだからだ。
久しぶりに見る顔ぶれもあり、話すのが楽しみである。
「皆元気にしていたかな~」




