第四十話 激闘の朝Ⅹ
これで、第四章の本編は終わりです。
次は現代サイドと、それに伴った小話を書いていこうかなと思います。
あ、人物紹介も書いていきます。
毎度、感想、評価、ブックマークなどありがとうございます。大変はげみになっております。
全てが終わり、ユーリを除く一同が集まった。皆、切り傷などかすり傷など、体のあちこちに傷がある。数分しか戦ってないツバキにすら切り傷がいくつかある。だが、それ以上に戦っているロズウェルには傷一つついておらず、それが少しこの中で異様であった。
あまりにも小奇麗なロズウェルの格好を、アリアはツバキに背負われながらまじまじと眺め、呆れ半分感心半分に呟く。
「ロズウェル傷一つ付いてないのか……」
アリアの呟きに、ロズウェルは自身の服を見まわした後アリアに向き直る。
「ええ、そのようですね。なかなか厄介な敵でしたが、傷一つ付かずに済みました」
あっけからんと言い放つロズウェルに、皆は呆れたような、半ば諦めたような目で見つめた。
「そういえば、一人致命傷を負ってもここまで来た奴がいるんだけど。誰か討ち漏らした?」
思い出したようにシスタが言い、上半身と下半身が分かたれたアラクネラを見やる。その視線につられ皆がそちらを見る。
「申し訳ありません。どうやら、私のようです」
アラクネラを見やると、すぐさま頭を下げるロズウェル。
それを見て、シスタが少しだけ驚いたような顔をするが、驚いたのはシスタだけではなかったようで、アリア達も驚いたように目を見開いている。
「ロズウェルくんが?」
「ええ。生死の確認せずに移動してしまったので…申し訳ありません」
「うん、まあ、みんな無事だったんだし良しとしようか。ロズウェルくんなら、二度と同じ失敗は繰り返さないと思うしね」
「ありがとうございます」
「ロズウェルでも失敗することがあるんだなぁ」
アリアは感慨深げに言う。
「私も人間ですので、失敗します。つい先日も、失敗しましたし」
「へぇ~。因みにどんな失敗を?」
シスタが訊くと、ロズウェルはいつもの涼しげな顔を歪め、珍しく悔しそうな顔をする。
珍しく表情を変えたロズウェルに、珍しいものを見たと皆が同じ感想を抱く。
そんななか、心底悔しそうな声でロズウェルは言った。
「アリア様の服装のチョイスを間違えました。痛恨の失敗です」
「…」
ロズウェルの心底どうでもいい失敗に、期待していた分裏切られた気分になり、誰もが言葉を失う。
だが、そんな皆には気付かずに、ロズウェルは失敗談を滾々(こんこん)と語る。
「あの日の天気であれば、もう少し涼しい格好をさせました。色合いだって、あの服であればピンクよりも薄い青の方が似合ってました。髪飾りも、もっと違うものを用意できたはずですのに。それに―――――」
「分かった!!もう分かったから!!」
これ以上語らせると長引きそうなので、無理矢理止めるアリア。
「そうですか。アリア様。次からは最高の服装を選択いたします」
「う、うん。よろしく…」
アリアは、ロズウェルがいつの日のことを言っているのかわからないが、自分の服装に相当気を使ってくれていることは分かった。
日頃から自分のことで苦悩してくれていることに感謝をしつつも、話題を逸らす。
「ところで、あの二人はどうするんだ?」
アリアが言う二人とは、もちろんダフとメリアのことだ。
二人は討伐するべき“蜘蛛”だが、二人に戦意はもう無い。そのため、アリアは元よりもうあの二人と戦う気は無い。
どうする、と言うのも、この後の処遇についてだ。
その点を、ロズウェルも分かっているのだろう。警戒は一応してはいるが、軍刀を抜く気配がないので戦う気がないのは明白であった。
ただ、二人の処遇に関しては、ロズウェルも知っているわけではないようで、シスタに視線を向けた。
シスタは心得たとばかりに軽く微笑むと、アリアに説明する。
「この場合、マシナリアで一度身柄を預かり、メルリアから迎えをよこしてメルリアに連れていくみたいだよ」
「ほ~ん」
シスタの説明に気の抜けた返事をするアリア。
「とりあえずは、殺されないってことね」
「そうだね」
「尋問されるかもしれないでござるがな」
「それは仕方のないことだろう。あの二人はそうされるだけのことはしてるんだからな」
アリアが言えたことではないが、メリアの年で尋問にかけられるのはかわいそうではあるが、それは仕方のないことだ。そうされる理由が、メリアにはあるのだから。
「あ、それは大丈夫だと思うよ?」
「え?」
「尋問されないってことでござるか?」
驚き声を上げる二人。
「いいや、尋問する必要もないってこと」
「うん?」
「はて?」
シスタの物言いに、そろって首をかしげる二人。
おんぶしているのとされている二人が、そろって同じ方向に首をかしげるのは、二人とも美少女と言うことだけあってか、可愛らしかった。
シスタはその二人の様子にクスリと笑みをこぼしながらも続ける。因みにロズウェルは、首をかしげるアリアを微笑ましげに見ている。
「口を閉ざすだけの理由も無いと思うんだよね」
「それは、どういう意味でござる?」
「あいつ、僕に色々喋ったからね~。多分、訊かれれば普通に答えると思うよ?」
「その根拠は?」
「……あいつ、根は悪いようには見えないしね。それに…」
シスタはそこで言葉を止めると、ダフを見る。ダフも、シスタの視線に気づいたのかシスタを見る。その眼には諦観が込められていた。それが、何に対する諦めなのかはシスタには分からない。アラクネラに裏切られたことによる仲間――同族――への諦めなのか、負けたことによる未来への諦めなのか。
考えれば、あっているかどうかは分からないが予想はできる。
だが、ダフの目には諦観以上に安堵が込められていた。諦観以上に込められた安堵を、シスタは諦観の念よりも予想がしやすかった。
「それにあいつは、今安堵してる」
「安堵…ですか?」
「うん、安堵」
ダフが安堵している理由は、おそらくこれ以上人を殺さなくていいことにだ。自分も、メリアも。
「これでもう、二人が人を殺す理由も無くなったわけだしね」
「そういうことですか」
ロズウェルも、何か感じ入るものがあったのか、納得したように頷く。
「さて!それじゃあ、アウェリア王に報告しに行こうか」
「りょうか~い!」
シスタの言葉に、アリアがおんぶされながらびしっと手を上げる。他の者も賛同を示す。
「それでは、あの二人は?」
「捕縛魔法で縛って連れて行こうか」
「そうですね」
「よし、それじゃあ私がやろう」
アリアはそう言うと、ツバキの背中から降りようとする。すると――――
「ダメでござるぅッ!!降りちゃだめでござるぅッ!!」
ツバキが慌てたように声を上げ、降りようとするアリアを体の前に回し正面から抱きしめる。
「ぐえっ!?ちょっ、なにするんだツバキ!」
強く抱きしめられ苦しく、逃れるためにジタバタするアリア。
「ダメでござる!」
「だからなんで!?」
「可愛いアリア殿と、もっと密着していたいからでござる!!」
「欲望丸出しだなおい!!」
だらしのない笑顔でアリアに頬擦りするツバキ。
苦笑しながら周りの者はそれを見る。ただ、ロズウェルだけはその相貌を崩すことなくそれを見る。そして、おもむろに二人に近づくと抱きしめられているアリアの脇から左腕を回し、右腕に軍刀を持ってツバキに突きつける。
「ツバキ様。そこまで、です」
「ひいぃぃぃぃぃッ!?」
青ざめた顔でアリアを手放すツバキ。手放されたアリアを、ロズウェルは腕に座らせるようにして抱きかかえると、軍刀を鞘に納める。
「まったく……あなたと言う人は」
「ありがと、ロズウェ―――」
「私だってすりすりしたことないんですよ?先にやるなんて図々しいにもほどがあります」
「お前も欲望丸出しだな!?」
助けられたことにお礼を言おうとした気持ちが失せていく。
一つ、聞かせるための溜息を吐く。
「まあ、とりあえず捕縛しとこうか」
アリアはそう言うと捕縛魔法をかける。
「《捕縛》」
アリアが魔法を発動すると、二人のいる地面が少しだけ陥没し、その分が二人へと伸びていき、二人を縛り上げる。
二人は、抵抗した様子もなく簡単に捕縛される。元より、逃げる気はなかったのだから、簡単に捕縛されても当たり前と言うものだ。それに、ダフは意識があるがメリアは未だ気絶している。一応、話をする前にアリアが治癒魔法をかけたのだが、アラクネラが噛みついた際に流し込まれた毒が効いているのか、今のところ起きる気配はない。
「あんまりきつく縛ってないけど、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。配慮に感謝する」
「いえいえ」
軽く返すアリア。
「んじゃあ、行くか」
アリア一行は、ダフを連れて王城に向かった。
○ ○ ○
王城に着くと、執務室にすでにアウェリアがいた。
車いすに座っているのは相変わらずだが、その身には傷一つ付いていなかった。そばに仕えるレキアも傷一つないようであった。
二人の無事を喜びながら、軽くあいさつを交わす。
「無事みたいだなアウェリア」
「ええ、おかげさまでね」
「ご無事なようで、何よりです」
「お怪我がないようで安心いたしました」
「うん、ありがとう」
アリアに続き、シスタとロズウェルも挨拶をする。
なお、この場にはアリア、ロズウェル、シスタの三人しか来ていない。
イルとユーリ、ハンナとトロラは病室で安静にしている。特にユーリは、重症にもかかわらずろくに治癒魔法もかけていないので、安静にしていなければいけなかった。
イルとハンナとトロラは、傷自体は塞がっているものの、疲労がたまっているので休ませてある。
ツバキは、食堂でご飯を食べている。なんだか、ものすごい疲労と空腹に襲われているらしく、もの凄い勢いでがっついている。
テーブルマナーもへったくれもないが、アウェリアが許してくれたので良しとしよう。
アリアは、他の者のことを考えつつも、アウェリアの後ろに控えるレキアにも声をかける。
「レキアも無事でよかったな」
「ありがとうございます。アリア様にそのようにお声がけいただけるとは、光栄の極みにございます」
「大げさだな~レキアは~」
レキアの反応が面白かったのか、アリアは快活に笑う。
「さて、挨拶も済んだし、報告するな~」
「ええ、お願いします」
そうして、報告会のようなものが始まり、ことの顛末と状況報告がされる。
暫くして報告会も終わり、今回の事件はようやく終結となった。




