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第二話 崎三幸助の終わり

本日はもう一本

 転移の光が空間を包み込む。眩いほどの光はやがて収まり視界がクリアになる。


 先ほどまで大勢の人がいた空間には今は二人しかいない。


 この空間の主である女神と、女神によってここに留まった幸助だ。


『良かったのですか?』


 気づかうような女神の問いに幸助は面倒臭そうに答える。


「それは、さっきも言っただろ。同じ事を何回も聞くなよ」


『それは、失礼しました』


「それより、質問したいのはこっちだ」


『何でしょう?』


「なんで俺がここにいる?」


 幸助の質問は至極真っ当なものだ。だが、その言葉の持つ意味は他の者とは違った。


「俺は消滅するはず(・・・・・・)だった。なのになんでここにいる?」


『私があなたを気に入ったからです』


「どういう意味だ?」


『言葉通りの意味です』


「はぐらかすなよ。なんであんたが気に入ったからってここにいるんだよ」


『…ふふっ、それでは、説明しましょうか』


 女神は不適に笑うと語り出した。


 遡ること数分前。加護を付与するのが幸助の番まで回ってきたときのことだ。


 幸助は声を潜めて女神に話しかける。


「おい、女神」


『はい、何でしょう?』


「美結には、加護を二つ受け入れられる器はあるか?」


 幸助の問いに女神は若干怪訝な顔をする。勿論、周りの人に気づかれない程度だ。


『…ありますが、それが?』


「なら、俺の加護を美結に渡せ」


『…よろしいのですか?私の加護が無ければあなたは世界に受け入れられずに消滅しますよ?』


「それでも構わない。これが、最善なんだ」


 女神は幸助の揺るぎない決心を感じ取ると承諾する。


『…分かりました。彼女にあなたの加護を譲渡します』


「すまない、恩に着る」


『ただし、カモフラージュの為に一連の動作だけは行います』


 そう言うと女神は幸助の頭に手をかざす。


 珍しい。女神の率直な意見はそれだった。


 この空間に来た者で、加護を自分に多く渡せと言う者は飽きるほど見てきた。だが、幸助のように自分の身を犠牲にしてまで他人に加護を与えようとする者はいなかった。いや、もしかしたらそう思う者がいたのかもしれない。ただ、思うだけで最後まで踏ん切りがつかずに転移する。と言う者だったのかもしれない。


 どちらにせよ、これまで加護を他人に譲渡するような人間はいなかった。なので、女神は幸助に興味があった。


 なぜ、加護を譲渡したのか。なぜ、彼女なのか。


 そして、一番は彼の目だ。彼の目には狂気が渦巻いていた。その狂気の正体を知りたかった。


 気になりだしたら好奇心は止められなかった。何百年も昔から加護の付与を行っているが、此処まで女神を引きつけたものはなかった。


 そのためここに残した。自分の好奇心を満たすために。


『とまあ、これが理由です』


「つまりはあれか…おまえの気まぐれの結果ってわけか」


『有り体に言えばそうですね』


「そんじゃあ、俺が美結の生死に執着する理由を話せばいいわけか?」


『はい、そうですね……怒らないのですね』


「あ?」


『怒らないのですね、と言ったんです』


「どうせ死ぬんだ。それが、遅いか早いかだろ。結果が変わらないなら途中が多少変わっても問題ねーよ」


 どこか投げやりな態度で言うと、幸助は自分の過去と共に美結に執着する理由を話した。


 女神は話を聞くと慈愛の眼差しを向けてきた。


『なる程…そんなことが…それなりに凄絶な過去ですね…』


「それなりにか…」


『ええ、それなりにです。もっと酷い過去を持つ者とも出会いましたのでね』


「そうかい。まあ、何でも良いけどな。て言うか、最後の絶望に染まらないようにって美結にたいしてだけだろ?」


『ええ、そうですよ』


「一個人にだけ言葉を送るのは、女神的にどうよ?」


『構いませんよ。だいたいの人に当てはまる言葉ですし』


 しれっと答える女神に幸助は「そうかい」とだけ答える。


 幸助の美結に対する執着は愛情故にだ。女神は、愛情と言う物を知らない。これまで様々な愛情を見たことがあるが、彼の狂気を孕んだ愛情により興味を引かれたのだろう。勿論、その愛情を向けられたら相手も興味の対象だ。


 やがて女神は口を開く。


『私は、あなたの行く末を見てみたい…』


「行く末も何も、ここで終わり。ジ・エンドだ」


『いいえ、そうはなりません。あなたには、メルリアに行ってもらいます』


 女神のその台詞に幸助は目を見開いた。


「どうやって」


『加護はもうありません。ですが、手はあります』


 女神は幸助に近づき頭に手をかざす。


『あなたの体はここでお終いです。ですが、魂だけはメルリアに送れます』


「魂だけ送っても器が無いだろ?どうやって」


『器なら有ります。メルリアには数百年に一度神が湖より生まれます』


「どういう原理だよ…」


『ファンタジーに原理は無粋ですよ?』


「存在がファンタジーの奴が言うんじゃねえよ!」


 つい突っ込んでしまった幸助に女神は笑う。


『話を戻しますが。あなたは、その神を器にしてメルリアに行ってもらいます』


「ちょっと待て。いいのかよそんなことしちまって?」


『いいんです。私、神ですから』


 えっへんと胸を張る女神。


「キャラ崩れてんぞ…」


『あら失礼』


 おほんと一回咳払いする。


『送り込む事に関しては問題ありません。神が生まれるのは不定期なので送り込んでも問題無いのです。神を送り込むのも私の気分次第なのです』


「雑だなおい」


『いつもは、それなりの危機が迫る前に送り込んだりしていましたの。あなたを送り込むのは、勇者達を送った六年前に送り込みます。六年前から二年後。つまり四年前にも危機は訪れます。その時はメルリアの人々で何とか出来ましたが、数多くの犠牲が出ました。あなたにはそれを最小限にしていただきたい、という理由もありますね』


「責任重大だじゃねえか…」


『その時、それまであなたの身の回りのお世話をしてくれた人も死にます』


 急な爆弾発言に驚きつつも聞く。


「…そいつは、誰なんだ?」


『ロズウェル・アドリエと言うものです』


「ロズウェル・アドリエ…」


 思わずその名前を呟く。


『さて、時間切れのようですね。それでは、器を変えます』


「え、ちょ、いきな…り…」


 段々と意識が遠のいていく。遠のいていく意識の中女神が言う。


『それでは、お願いしますよ。後、あなたの今後には大変期待しています。きちんと暇つぶ…今生を謳歌して下さいね?』


 あいつ、今暇つぶしって言い掛けたぞ…。


「暇、つぶし…言うんじゃ……ね…………………」


 何とかそれだけ言うと、幸助の意識は完全に落ちた。


 最後に口から出た声がやたら高かったのに違和感を覚えたが、落ちた意識では考えることは出来なかった。


『行ってらっしゃ~い』


 落ちた意識の中で、その声だけははっきり聞こえたのがなんだか腹立たしかった。   

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