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第十九話 激突

先日、PV数が五十万、ブックマーク数が千を超えました。これも読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。

 怒りで沸騰した頭で、アリアはロズウェルに命ずる。


「やれ、ロズウェル!!」


「畏まりました」


 アリアの命が下ると、ロズウェルは腰に下げた軍刀を抜き去り、颯爽と駆け出す。


 黒衣はロズウェルが軍刀を抜いたのを見て戦闘体制に入る。だが、戦闘体制に入ったものの黒衣は得物を構える気配はない。なにか策でもあるのかと勘ぐっている内にロズウェルが攻撃圏内に黒衣を捉える。


 ロズウェルが目にも留まらぬ速さで軍刀を振りかぶる。それに対して黒衣は素早く両腕を交差させて、軍刀の軌道にかざす。


 刹那、ガキィィンとけたたましい金属音が鳴り響く。


 鳴り響く金属音に、袖の下に篭手でも仕込んでいるのかと考えている内にも、ロズウェルは驚愕することもなく、怒濤の連撃を繰り出す。それを黒衣は紙一重のタイミングで腕を潜り込ませる。


 けたたましい金属音が鳴り響く中、アリアは気付く。ロズウェルと黒衣が被害者から離れていくことに。多分、わざとそうしてくれているのだろう。


 ロズウェルの意図を汲み取ったアリアはすぐさま仰向けに倒れている被害者の元へと駆け寄る。


「おい、大丈夫か!?」


 声をかけながら脈と呼吸を確認する。だが、遅かったようだ。被害者からは呼吸音も脈も感じ取れない。つまり、死んでいる。その事実を認識すると思わず悪態をつく。


「クソッ!」 

 

 アリアは《停滞の箱》から白い布を取り出すと被害者の上に優しくかける。


 それが終わると、すぐに気持ちを切り替え、黒衣と戦っているロズウェルの方に意識を向ける。


 だが、そこで驚愕する。   


 ロズウェルが押されていたから、とかでは無い。ロズウェルは余裕を持って黒衣と戦っている。むしろ余裕が無いのは黒衣の方だ。それだけであれば、驚愕なんてしようもない。だが、それだけではなかった。


 ロズウェルは自身を黒衣の攻撃から身を守るために剣を振るう。そのつど、ガキン、ガキンと金属音が鳴る。だがおかしなことに、ロズウェルと黒衣の距離は一定以上縮まっていないのだ。それなのにロズウェルが剣を振るうたびに金属音が鳴る。


 そうしてアリアも気付く。黒衣が一体何者なのかを。


「ロズウェル!生け捕りにしろ!そいつには訊かなきゃいけないことがある!」


「畏まりました」


「くっ!」


 ロズウェルの返事を聞き、黒衣が焦りを見せる。


 それもそうであろう。自身を追いつめているこの男はまだ本気ではないのだ。その男が命令をされイエスと答える。つまりは主の命令を遂行するという意味だ。その主の命令は生け捕り。この男は主の命令を遂行できるほどの技量を持っている。つまり自分は捕まる。それが分かったから焦ったのだ。   


 黒衣は腕を振るい何かを飛ばす。


 その何かは路地裏にさす少ない夕日を反射してオレンジ色に細く輝く。


 アリアはそれを見て確信する。黒衣の正体を。


 黒衣が飛ばしたその何かの正体はワイヤーだった。何かでコーティングされているのか、光を反射しづらいようにはできているようだが、それでもアリアの目には捉えることができた。


 自分は気付くことができたが、ロズウェルには見えないのでは?と、一瞬考えたが、今まで黒衣の攻撃を弾いていたのでその心配は杞憂であった。


 現に、ロズウェルは今も剣で見づらいワイヤーを弾いている。 


 黒衣は余裕綽々のロズウェルに更に焦りを覚えたのか、攻撃の手数を増やす。


 袖から伸びるワイヤーの数は、二十本はくだらないだろう。


 二十のワイヤーは縦横無尽に駆け巡りロズウェルに迫る。アリアであれば魔法を使って凌いだであろう。流石に、この数のワイヤーを剣裁きだけで凌げるほど、アリアの剣の腕前は上達していない。 

 

 だが、それをロズウェルは軍刀一本で凌ぎきる。


 弾き、かわして、受け流して他のワイヤーにぶつける。流れるような動きですべてを捌ききると、ロズウェルは駆け出す。


 黒衣は慌ててワイヤーを引き戻すが遅い。


 ワイヤーを引き戻し始めた頃には、ロズウェルはすでに黒衣の懐に入っている。


「申し訳ございませんが、少し眠っていてください」


 そう囁くと、ロズウェルは黒衣の腹に拳をねじ込む。


「がはっ!?」


 口と鼻から血を吐きその場に崩れ落ちる黒衣。


「死んでないよな?」


 そう訊きながら、アリアは無詠唱で捕縛の魔法を放つ。今回は《停滞の箱》からロープを取り出して行う。街の地面を凸凹にするわけにはいかないからだ。


 とは言っても、ロズウェルの黒衣との戦闘で壁や地面がそれなりに抉れているのだが、まあ、それは仕方なしということにしてもらおう。


「死んではいませんよ」


「そ、ならいいけど。ロズウェルそいつおフードとって」


「畏まりました」

 

 ロズウェルはアリアの命令通り、黒衣のフードを取る。


 フードがとれると、中からは少しウェーブのかかった綺麗な金髪が出てきた。


「女…?」


 女、というよりは少女と言った方がしっくりくるであろう。黒衣のフードの中にあったのは、綺麗な金髪と整った顔の少女だった。


「こんな少女が…なんで…」


「理由は分かりませんが。彼女の正体だけは分かりましたね」


「…ああ。なんだか少し釈然としないがな…」


 なぜよりにもよってこんな年端もいかない少女が殺人を犯し、その上で殺した相手を食らっていたのか。その理由は、彼女が起きたら訊いてみよう。


「とりあえず、"蜘蛛"の内の一人。捕獲だな」 



 ○ ○ ○



 "蜘蛛"の内の一人を捕獲したアリア達は、その後近くの兵士を呼び護送用の馬車に少女を運び込み、牢屋まで連れて行かせた。


 その作業を終えると、アリア達は当初の予定通り一度王城に戻ろうとしたのだが、シスタに一応このことを報告せねばならないと思い魔工姉弟のところに戻ることにした。


「と言うわけで一度戻ってきた」


「はあ…着いて早々ですか…」


 ちょっと休みたかったとため息を吐くシスタ。その、ちょっと休みたかったは、多分馬車での移動のことで無いのだろうことは、後ろのやけにツヤツヤしているハンナを見れば想像にかたくなかった。 

 

 おそらく調整のためとか言いながら、シスタの体をベタベタ触りまくったんだろう。呆れ顔のトロラを見るに当たりだろう。


 まあ、そんなことは今はいいのだ。


「残りの"蜘蛛"は七人。どれも今日の奴と同じ位の力量と考えれば私とロズウェル、それにシスタは一対一で対峙すればどうにかなるとは思うんだが…」


「おそらくそう甘くはない、と?」


「ああ。奴が他よりも強いにしろ弱いにしろ、多分奴より上がいる」


 それに、イルとユーリが一対一になったときに勝てるかどうか分からないのだ。敵の戦力が明確でない今、正直、どう配置すれば良いか分からない。


「とりあえず、イルはこっちに置いていく。ひとりより、二人の方が対処がしやすいだろうから」


「分かったよ」


「イル。そう言うことだ。流石に、シスタ一人じゃハンナとトロラを守りながら戦えない。だから、頼んだぞ」


「了解しました!」 


「ちょおっと待ったぁ!!」


 イルの返事に被せてハンナが声を上げる。


「なんだか、わたし達が守られる前提になっていますが、わたし達ちゃんと戦えますよ?」


「へ?そうなの?」 


 それは驚きだ。魔工技師であるため、職人技しか磨いていないのかと思っていた。


「因みにどれくらい戦える?」


「二人とも、冒険者ランクCはあります」


「それは、結構凄いな…」


 素直に称賛をするアリアに、ロズウェルは冷静に言う。


「ですが、"蜘蛛"はランクAをも余裕で倒します。厳しいことを言うようですが、お二人では相手にはならないかと」


 ロズウェルの言うことはもっともだ。


 ランクCはそれなりに熟練された冒険者に与えられるランクだ。だが、それなりにであるため、熟練しきった者には勝てるわけもない。


 だが、意外とプライドが高かったハンナはむっとしたように返す。


「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃない」


「結果は見えています。お二人では勝てません」


「やる前から無理だと決めつけないでちょうだい」


「ではあなたは、小虫がキマイラに勝てると思いますか?」


「私が小虫だって言いたいわけ!?」


「物の例えです」


「それでも馬鹿にしてるのには変わらないじゃない!」


 ヒートアップしていく二人に、アリアとトロラが割って入る。


「落ち着けロズウェル。言いすぎだ」


「姉さんも落ち着いてください。ロズウェルさんの言うことは間違ってません。僕らでは"蜘蛛"には勝てない」


「あんたまで!?弱気になってどうすんのよ!!」


「弱気になっている訳じゃありません。事実を冷静に受け止めているだけです。姉さん。落ち着いて現実を見てくださーーー」


 トロラが最後まで言い終わる前にハンナはトロラの胸ぐらを思い切り掴み引き寄せる。


「冷静になっていられないわよ!!ヘナとシャウバーが殺されてんのよ!?あんたこそ、ちょっと冷静が過ぎるんじゃないの!?あんたは何とも思ってないわけ!?」


「思ってないわけ無いじゃないですか!!幼なじみが殺されて、憤らないほど僕も大人じゃない!!でも、冷静に自分のできることを考えて行動しないと、痛い目を見るのは僕らだ!!」


「痛い目見るのが怖くて足踏みなんてしてられないわよ!!」


「落ち着け二人とも!」


 今度は止めに入ったはずのトロラが言い争いをし始め、アリアはややあってから止めに入る。  


「今は喧嘩なんかしてる場合じゃない。仲間割れして足下をすくわれるのは二人だけじゃないんだ」


 そう言うと、ハンナはトロラの服を離した。


「ごめん…」


 それだけ言うと、ハンナは部屋から出ていった。


 あとに残された者は若干気まずい雰囲気になりつつも、そのまま話しを再開することにした。


「それで、差し支えなかったら教えてくれないか?ヘナとシャウバーって言う奴のことを」


「…はい…」


 弱々しく返事をすると、トロラはぽつりぽつりと話し始めた。


「ヘナとシャウバーは、僕とハンナの幼なじみでした。小さい頃はよく遊んでいました。年が上がるに連れて連れ合う頻度は下がりましたが、それでも暇を見つけては買い物にも出かけたりしました。冒険者と魔工技師で立場は違えど、僕らは仕事についても語らいました」


 ひどく懐かしそうに語るトロラは微笑んでいた。だが、その微笑みの中には確かな悲しみが含まれていた。


「でも、一月くらい前です。二人が仕事先で亡くなったと聞きました」


「それが…」


「はい。"蜘蛛"です…」


 なる程。これで合点がいった。ハンナの異常すぎるハイペースでの魔工義手の仕上げにも、あの憤りようにも。


「…姉さんは二人の仇を取りたいと言っていました。だから無茶してまでシスタさんの魔工義手を作ったんです」


「魔工義手が作り終わっていれば、そこでもうハンナの仕事は終わり。そうすれば、自由に動けるからか?」


「はい」


「…言いたいことは分かるがな。私はあまりにも切羽詰まったとき以外はお前達を戦わせるつもりはないな」


 口ではそうは言うが、切羽詰まったときなんて起こるはずがないと思っている。なにせこの場にはロズウェルがいるのだ。それだけでこちらの勝ちは揺るがないと思っている。それだけ、アリアはロズウェルに信頼を置いている。


「それにだ。二人は優秀な魔工技師。メルリアにちゃんと連れて帰らなくちゃならない。ここで死なれても困る。私は、メルリアに来るのはお前達二人がいい」


「アリア様…」


「そう言うことだ。ちゃんとハンナを見ておけ。私達は城に戻る」


「はい」


「それじゃ、シスタ、イル。頼んだぞ」


「分かったよ」


「了解です」


 二人の返事を聞くと、城に帰る三人は工房を後にした。


 帰りの馬車の中、アリアは視線を窓の外に向けながら、少しだけ落ち込んでいる様子のロズウェルに訊く。


「…なんであんなにストレートに言ったんだ?」


「…昔の、自分を見ているようでしたので」


「そうか…」


 そう返事をすると、アリアは黙る。


 沈黙に耐えられなかったのか、少ししてロズウェルが口を開く。


「……深くは、お聞きにならないのですね」 


「大体は予想がつく。昔のお前も、何かに憤っては無茶をした、と言うところだろ?」


「…お察しの通りです」


「自分を見てるようでイヤになったか?」


「そうですね。過去の愚かな私を見ているようで、少し…」


 ロズウェルの言葉に、表情にこそ出さないが、アリアは驚いていた。普段、大人っぽいロズウェルが今日は感情的であったこと。それに、昔のロズウェルにも多感な時期があったということにだ。


 まあ、子供なんだから多感であるのは当たり前だと思うのだが、どうもそれを想像できない。


 ともあれ、漸くロズウェルの年相応なところが見られたなと思えた。


「まあ、なんだ。ロズウェルがなんでむきになってたのかは分かった。それで、私から言えることは一つだけだ」


「なんですか?」


「年相応で安心したよ」


 ロズウェルは一瞬面食らったような顔をするが、すぐにその顔に微笑をたたえた。


「それは私の台詞です」


「私は知っての通り見た目より精神年齢が上だからな」


 見た目幼女でも中身はロズウェルよりも年上の十七歳だ。それを、ロズウェルも思い出したのだろう。少しだけむっとしたような顔をする。


「…なんだか卑怯ですね」


「まあそう言うな」


 ロズウェルの言葉に、アリアは楽しげに笑った。

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