第十八話 エンカウント
すみません。感想で教えていただいたのですが、重大なミスがありました。
長くは書きませんが、ユーリが酷い奴になってしまっています。
詳しくは活動報告にてご確認ください。
代替え案を考えていますので、しばらく今日みたいに投稿が遅れる可能性があります。何卒ご容赦ください。
トロラの口が疲れたのか、やがてゆっくりとしたものになる。
トロラが愚痴を言っている間も、ハンナは反応しなかった。隣で悪口言われているようなものなのに反応を示さないとは、それはそれですごいことだと思う。と、なんだかよく分からない賞賛をしてしまう。
実際のところは、彼女は完全に自分の世界に入っていて気付いていないだけなのだと思うが、それにしても強固な世界観を築いているんだなと思う。
普通、人間というのは良いことでも悪いことでも、自分に該当するような言葉が聞こえてくればそちらに反応を示してしまうのだ。だが、彼女にはそれが全くないのだ。それだけシスタに夢中になっている証拠なのだろう。
確かに、シスタは優しいし、上品だし、強いし、貴族だし、何よりイケメンだ。モテない要素は無いと言えるだろう。
だが、それにしても夢中になりすぎだとは思うのだが、まあ、彼女にとってそれくらいシスタが魅力的だということなのだろう。
「あっ、すみません。僕ばかり話してしまって…」
「いいや、気にすることないさ。存外、おもしろい話が聞けたしな」
言葉通り、二人の(主にトロラの苦労話)はとても喜劇のようで面白かった。
「それなら、よいのですが」
「まあ、それはそうと。顔合わせも終わった事だし、そろそろ私達も帰るかな」
「そうですか?あっ、確かに、もうこんな時間ですね…」
トロラはぶっ通しで話していたから気付かなかったのかもしれないが、もうかれこれ五時間は経っているのだ。
もう秋に入り始めたので日が落ちるのが早い。そろそろ帰らないと暗くて危ないのだ。
「それじゃあ行こうか」
「あっ、ちょいとお待ちを!」
腰を浮かしかけたときに、ハンナが我に返り慌てて止めてくる。
「なに?」
「いえ。シスタさんは残ってくれると助かります!」
ハンナの言葉にシスタがピクリと反応を示す。
「あっ!勘違いしないでくださいね?仕事のことで用事があるからですよ?あ、でも、個人的にも止まってくれた方が……でゅふ、でゅふふふふふふふふふふ」
仕事のことと言いながら、最後は途端に私欲をみせだらしない顔になる。
「し、仕事のことと言うと、魔工義手のことなのかな?」
「ええ、はい!」
「ていうと、採寸とかするのか?」
「え?いいえ。後微調整だけです」
「へ?」
今なんと言ったのだろう彼女は。後は微調整だけ?
「い、いやいや。まだ採寸もしてないじゃないか。それに、シスタの魔力の質とかも見てないだろう?」
通常、人の魔力には質と言うものがあり、それは一人一人微妙に変わってくる。だが、微妙に変わってはいるが数種のカテゴリーに分けることの出来るくらい微妙な違いだ。
魔工義手などの魔道具は、使い手のカテゴライズされている魔力によってどの部品が良いか、どの魔石が良いかなどを決めたりする。そのため、採寸はしかり、魔力の性質を考慮して作ったりせねばならない。
まあ、簡単に言うと、採寸だけ出来ていても使う本人がいなくては作れないのだ。
だから、アリア達の疑問ももっともだと言える。
「いいえ、それらの情報はもう既に貰ってますよ?」
「は?いつ?」
「一ヶ月と少し前に」
というと、アリア達のマシナリア行きが決まったくらいであろうか。
それだと、やはり知っているのはおかしい。手紙を送ったにしろ、その手紙が着くのはアリア達と同じか、少し早いかの頃合いになるはずだ。そして、その日数を逆算して、手紙を送ったと考えても、その頃にはまだシスタの左腕は健在だ。よって手紙を出す理由がない。
「どうやって知ったんだ?」
「国王様から直々に手紙が来ました」
「フーバーから?」
「いいえ。アウェリア様です」
「?」
そう言われると、更に謎が深まる。フーバーから送られてくるならまだ分かるが、なぜアウェリアから手紙が届くのだろうか?
頭の上にハテナマークをたくさん浮かばせていると、後ろからロズウェルが耳打ちをしてくる。
「アリア様。おそらく、遠話の魔道具を使ったのではないでしょうか?」
「ああ!そっかそっか!それがあったんだっけな!」
そうであった。"蜘蛛"の被害とかを知らせるためにも使ったのだが、しばらく見ない内にすっかり忘れていた。
「なるほど。それで知っていたのか。だったら出来ているのも納得だな」
「いえ。納得しないでくださいアリア様」
「へ?なんで?」
ロズウェルの言っていることがよく分からない。謎が解けたのだから納得しても良いはずだ。
アリアの不思議そうな顔を見て、ロズウェルは言う。
「普通ですと、魔工義手を作るのにはおよそ半年ほどかかります。それを、彼女は一ヶ月ちょっとで作ったのです。その作製速度は異常です」
「え、マジで!?」
「マジです。もう、気合い入れてこの一ヶ月間まともに寝てませんよわたし達」
言われてみると、化粧で分かりにくいがハンナの目の下にはくっきりと隈がある。
「僕は適度に寝てましたけどね」
「なにぃ!?貴様わたしが何日も徹夜したってぇのに自分だけぐーすか寝てたのかゴラァ!!」
「僕は何日も徹夜するほど体力ないです。姉さんが体力バカだから出来ることですよ」
「バカとはなんだバカとは!わたしは魔工学校で成績トップだったんだぞ?万年二位の貴様にバカ呼ばわりされる筋合いないね!」
「それとこれとは関係ないでしょうが!!」
「大ありですぅ~!バカじゃ無いための証明ですから~!」
「ふ、ふん!良いですよ別に!万年二位だろうが、僕は友達も多くて女子にもそれなりにモテてましたから!姉さんみたいに友達も少なくて男子のみならず女子からも敬遠されませんでしたし~!」
「それ言わんでよぉ!!あん時の黒歴史思い出させんなよぉ!!」
「『ふふふっ。わたしの友達は魔道具と工具だけだよぉ』」
「え、何その裏声。気持ち悪いんですけど…」
「姉さんの真似ですよこんちくしょう!!」
またまた始まった姉弟の寸劇にアリアや他の面々は苦笑するほか無い。
「なんでもいいが、二人ともそんなに無理しなくてもよかったんだぞ?」
「いえいえ、そういうわけには行きませんよぉ。それに無理したのはわたしだけです」
「そうですね。体力バカの姉さんだけです」
「まだ言うか!」
「まあまあ落ち着け」
どうどうと宥めるアリア。
「で、なんで無理したの?」
「だって、"蜘蛛"を倒すために必要なんですよね?だったら急拵えでも作っておいた方がいいじゃないですか」
「そうですね。隻腕じゃ心許ないと思いましたので」
「なるほど」
「二人とも、ありがとう。君達の心遣いに感謝するよ」
「い、いえいえ~それほどでもぉ~」
シスタに感謝されると、途端にくねくねと奇妙に体を揺らすハンナ。
そんなハンナを無視して、トロラは言う。
「ですので、明日からでも使えるように微調整をしておきたいんです。もちろん、無理にではないです」
「いや、そう言われれば残らない訳にもいかないよ」
「ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ」
と言う感じで、話はまとまった。
シスタはそのままふ二人の工房に残ることとなり、アリア達は今日は二人の場を後にして、王城へと帰還することにした。
帰りの馬車の中、なんだかんだ言って疲れたのか皆、少しだけぐったりしていた。だが、ロズウェルだけは平気なのか姿勢良く座っていた。
少しだけ窓を開け秋の涼しい風を馬車の中に入れる。
疲れからか、馬車の中では会話はなく、静かに時間が過ぎていった。
王城までの距離の中ほどに来たところで風に混じってアリアの鼻をある臭いがかすめる。
「止めろ!!」
その臭いの正体に瞬時に気付いたアリアは、反射的に声を荒げて言った。
突然のことにイルとユーリは面食らっていたが、ロズウェルだけは違った。いつもの目つきから一変、猛禽類のような鋭い眼孔に変わる。
馬車の窓が開いていたからか、それともアリアの声が予想以上に大きかったからかは知らないが、馬車はすぐに止まった。
完全に止まりきる前にはドアを開け外にでるアリア。
「ロズウェル、おまえも来い」
「畏まりました」
「な、何かございましたでしょうか?」
「それは後で話す。お前は馬車を止めて置いてくれ」
「わ、分かりました」
降りてきたアリアに、御者が慌てた様子で尋ねてくるが、それを後回しにする。
「二人は残って馬車の護衛を頼む」
「分かりました」
「お任せください」
二人も、アリアが何を危惧して降りたのかを理解して意識を戦闘へと切り替える。
二人の返事を背中に聞きながら早足でその場から離れる。
「アリア様。この臭いは…」
「ああ、間違い無い」
ロズウェルも臭いに気付いて訊いてくる。それをアリアは確信を持って返す。
魔工都市の鉄と機械油に混じって香ってくるこの不愉快な鉄の臭い(・・・・)にはイヤなほど覚えがあった。
普通の人間ではまず嗅ぎ分けられないであろうその臭いを、二人は確かに嗅ぎつけた。
「血の臭いだ!」
アリアは血の臭いのする方に迷うことなく進んでいく。
道は、進んでいけば進んでいくほど暗く人通りの少ない路地裏に向かっていく。だんだんと血の臭いが強くなっていきアリアは早足をやめ走る。
そうして辿り着いたところには倒れている人物と、その倒れている人物の前でうずくまる人物がいた。
「おい、なにが……っ!?」
最初は、倒れている人物の知り合いが、心配そうにしているのかと思った。だが、ある音を聞いてそれは違うのだと分かった。
ぐちっ、ぶちっ。
何かを引きちぎるようなそんな音。
「な、にを……」
目の前の人物がやっていることを理解すると恐怖で声が勝手に詰まる。
「アリア様お下がりください」
ロズウェルがアリアの前に出る。だが、そんなことも気にならないほど、アリアの思考は、その者の行動に支配されていた。
ここは日本じゃない。魔法があって、魔物がいて、獣人も魔人もいる。およそ日本の平和な日常とはかけ離れている危険が多い場所。それは分かっている。だが、それでも、まさかこんなことがあるとは思ってもいなかった。
「答えろ……」
それは余りにも非常識だった。非日常だった。非現実的だった。
「お前は……」
非日常のこの世界でも、その者のやっていることはあまりにも普通じゃなかった。
「お前は!!」
ここで、漸くその者が行動を止めてアリア達を振り返る。
恐怖の後に感じた確かな怒りをアリアは声にして相手にぶつけた。
「お前はいったい何をしているんだ!!」
振り返った者は綺麗な金髪を揺らしてにたりと笑う。それだけであれば見とれていただろう。なにせ彼女は美しいほど顔が整っていたのだから。
だが、見とれると言うよりも、目の離せないと言った方がしっくりくるような。そんな特徴が彼女にはあった。
アリアは彼女の顔を見て、またも声を荒げる。
「お前は!」
彼女の今ある特徴。それは、彼女の口の周りにあった。
「人を喰ったのか!?」
彼女の口の周りは真っ赤に染まっていた。




