第十五話 マシナリア国王
マシナリアの街道を馬車を走らせるアリア一行は、街の風景を堪能しながらも王城へと向かっていた。
しばらく馬車を進めると、王城に到着した。
門番にフーバーからもらった書状を見せ中に入れてもらう、というところでツバキは御者台から飛び降りたのが窓から見えた。
どうしたのだろうかと思っていると、ツバキはぺこりとアリアに頭を下げた。
アリアは窓を開けてどうしたのか訊ねた。
「どうしたんだ?急に頭なんか下げて?」
「拙者、誠に勝手ではござるが、ここで失礼させてもらうでござるよ」
「え?もう?」
「はい。拙者も商売をしなければいけないでござるからな。あまりのんびりもしていられないでござるよ」
「そうか。それなら仕方ないな」
アリアはそう言うと、《停滞の箱》を開きツバキの大荷物を取り出す。旅の間中、アリアが預かっていたのだ。
ツバキは荷物を受け取ると、またもやぺこりと頭を下げた。
「アリア様達には、拙者本当にお世話になったでござる。ありがとうでござる」
「こっちもツバキと一緒に旅ができて楽しかったぞ。また機会があれば一緒に旅をしよう」
アリアの誘いに、ツバキは喜色満面の笑みを浮かべる。
「もちろんでござる!拙者、また一緒に旅がしたいでござる!」
「じゃあ決まりだな。次の機会にまた会おう」
「了解でござる!」
ツバキがそう言い終わると、止まっていた馬車がゆっくりと門を通過し王城の中に入っていく。
「お達者で~!それと、このご恩は、いずれ帰すでござるよ~~~!!」
手をぶんぶん振りながら馬車を見送るツバキに、アリアも手を振り替えす。二人が手を振っている間に次第に門が閉まっていった。
二人は門が完全に閉まるまで手を振り合っていた。
馬車を城の前で止め、御者をしていたユーリ含めて全員が降りると、馬車は城の者がどこかへ持って行く。おそらく、馬を馬小屋に、馬車を車庫に置きに行ったのだろう。
それを見届けることなくアリア達は城の外で待っていた案内人に着いていく。
城の中は、メルリアほど良い調度品などがあるわけでもなかったが、それでも一般家庭などにはないであろう、高価な物がいくつもあった。流石は王城といったところだ。
アリアは行儀悪いと分かってはいても、キョロキョロと辺りを見回す。
「魔工都市とは聞いていたが、王城に魔道具があるわけでもないんだな」
「はい。少しばかりのギミックなどはありますが、魔道具等は見えるところには置いてません」
アリアの言葉に、案内人の若い男性が答える。
「え、ギミックとかあるの?」
案内人が言ったギミックという言葉に、すぐにからくり屋敷を連想した。そこからアリアの連想はかなり飛躍していった。アリアはキラキラと目を輝かせると最終的に連想したことを聞いてみた。
「変形!変形とかする?!」
「いえ。残念ですが変形はしませんね」
「…そうか…」
変形をしないと言われショボーンとするアリア。やはり、元男の子なので変形物には反応してしまうのだ。
向こうでも、ロボットアニメとかも結構好きだったので、ここが魔工都市と聞いてそれを現実で見られると思ったのだがどうやらそれは叶わないらしい。
「変形しないのか…」
見てみたかった。
変形し、合体とかもするロボットを。モードチェンジをする屋敷を。
しょぼくれるて肩を落とすアリアを見かねたロズウェルが口を開く。
「アリア様。そう落ち込まないでください。無いのであれば作ればいいのです」
アリアはハッとする。
そうだ。ロズウェルの言うとおりだ。無いのであれば作ってしまえばいいのだ。
しかも、この仕事が終われば、腕利き魔工技師がメルリアに来てくれる。それならば、シスタの魔工義手を作った後に作ってもらえばいいのだ。
それが分かると、アリアは落とした肩を上げキラキラした目に戻り意気揚々とした歩きになる。
「そうだな!なければ作ればいいんだ!むふ、むふふふふ」
楽しみだなーと笑うアリア。
「よぉうし!そうと決まれば、すぐにこの仕事を終わらせよ~う!」
「そういたしましょう」
アリアのテンションとやる気が上がったころで、丁度、王の執務室に到着した。
案内人が扉をノックする。
『誰だ?』
「レキアでございます。陛下。アリア様をお連れいたしました」
『そうか。お通ししろ』
「畏まりました」
レキアと言った案内人の男は、そう言うと扉を丁寧に開け綺麗に一礼をする。
「どうぞお入り下さい」
「ん、ありがと」
アリアはお礼を言うと執務室に入っていく。執務室に入ると、違和感を覚える。執務室には、フーバーの執務室と同じ長テーブルとソファーがあるのだが、普通はあるはずの上座の一人掛けのソファーが無いのだ。
その事に多少なりとも違和感を覚えるが、アリアは気にすることもなく歩を進める。
アリアの後に皆が続き、レキアが扉を閉めると、執務机の前に座る壮年の男が挨拶をする。
「ようこそおいで下さいました。あ、どうぞお座り下さい」
王に促され、アリアは数人掛けのソファーに腰を下ろす。
ただ、他の者は立ったまま壁際にいる。身分の差を理解しての行動なのだろう。王はその様子に朗らかな笑みを浮かべると手を伸ばしソファーを差す。
「どうぞ、皆様もお座り下さい。皆様は国賓扱いになっていますので、気遣いは無用です」
「そうですか。それでは失礼しますね」
王の申し出に、イルとユーリは戸惑ったような顔をしているが、シスタは軽い調子でアリアの隣に腰を下ろした。普通なら二人の反応が正しいのだろうが、フーバーと友人であるシスタはそこらへんの感覚が麻痺しているのだろうか?
気負わず自然に座るその胆力には思わず拍手を送りたくなる。アリアが逆の立場ならば、シスタみたいなことは出来ないだろう。
ちなみに、ロズウェルはといえば、王が申し出るとアリアの後ろに付いた。
今度は王の方が戸惑ったような顔を浮かべたが、ロズウェルはすぐさま説明を入れる。
「私は、アリア様の執事ですので、アリア様と同席するなど恐れ多くてできません。どうか、後ろに立つことをご容赦下さい」
ロズウェルはいつアリアの執事になったのだろうか?この間までは従者と言っていたのに。謎である。
まあ、従者も執事も、付き従うという意味ではそう差違の無いものだ。呼称が少し変わっただけだし気にとめることもないだろう。
アリアのそんな考えをよそに、王もロズウェルの言っていることに納得したのかにっこりと微笑む。
「そうですか。そういうことであればむしろこちらが悪いことを言ってしまいましたね。申し訳ない」
「いえ。滅相もございません」
「さて。そちらのお二方も、どうぞお席に着いて下さい。先ほども言いましたが、あなた方は国賓扱いですので、私を気にする必要はありませんよ」
「そうだぞ二人とも。いつまでもそこにいては話が始まらない」
アリアと王にそう言われ、漸くソファーに腰を下ろす二人。だが、傍目に見ても分かるが、二人はがちがちに緊張している。よもや、同じ席に着くとは思っていなかったのだろう。
その気持ちも分からないでもないのだが、それだといつまで経っても話が進まないのだ。なので二人には座るように言ったのだ。
ただ、元々三人掛けくらいの大きさのソファーなので、アリアが小さいとはいえ四人座るには幅が足りない。
そう分かるやいなや、アリアはユーリを自分の座っていたところに座らせて、アリアはユーリの膝の上に座る。
「悪いが、幅が足りないからこれで勘弁してくれ」
アリアのその様子に、王は咎めることもなく、逆に微笑ましいものを見るように微笑む。
「いいえ、構いませんよ。私こそ申し訳ない限りです」
王のその言葉にアリアは首を傾げる。王はそんなアリアの様子を気にすることなく、口を開く。
「さて、それじゃあ、始めましょうか。っと、その前に」
王はそう言うと、座っている丁度腰あたりでなにやら手を動かしている。すると、王が座ったまま移動する。それで、アリアは上座に無い一人掛けのソファーの理由、先ほどの王の言葉の意味が分かった。
執務机から全容を表した王は、案の定車椅子であった。王が、車椅子だったから、上座にソファーが無かったのだ。
王は対面に座ろうと移動するが、アリアの対面には一人掛けのソファーが二つ置いてある。なので王はその位置には行けないのだ。
その事にいち早く気づいたロズウェルはアリアの後ろから離れると、ソファーを持ち上げ、空いている上座に置く。
「ありがとう。気を使わせてしまったね」
「いいえ。お気になさらず」
「って言うか、こちらとしては上座でもかまわないぞ?」
「そうもいかないよ。女神様相手にそんな不敬ははたらけないからね」
そんな話をしている内にロズウェルはアリアの後ろに戻る。
ロズウェルが戻ったのを確認すると、王は話を始めた。
「さて、早速ですが依頼内容の確認といかせていただきたい…ところですが、私としたことが自己紹介もまだでした」
「そう言えばそうだな」
「ええ、それでは私から自己紹介をさせていただきますね」
王はそう言うと軽く身だしなみを整える。
「私は、第十二代目マシナリア国王、アウェリア・クルス・ルーリラです。以後、お見知りおきを」
ファミリーネームに「マシナリア」と付くのかとも思っていたが、どうやらそうではないらしい。
王ーーーーアウェリアの自己紹介にそのような感想を抱きつつも、アリアも自己紹介を始める。
「それじゃあ今度は私が。私は、まあ、既に知っていると思うがアリア・シークレットだ。今代の女神をしている。よろしく」
「よろしくお願いしますアリア様」
アウェリアは丁寧に頭を下げる。
「それでは、次は僕が。僕はメルリア王国のシスタ・タロスト子爵です。一応将軍もしております」
「そうですか。メルリアの将軍であるなら心強いです」
「わ、私は、イルセント・セラーと申します!メルリア王国の騎士団に所属しております!」
「私は、ユーリ・クラフィと申します!私も、メルリア王国の騎士団に所属しております!」
「今回の依頼に同行していらっしゃるなんて…お若いのにお二人ともお強いのですね。頼りにしていますよ」
「「あ、ありがとうございます!」」
がちがちに緊張している二人は、アウェリアに褒められてもやはり緊張気味であった。
「さて、自己紹介も済んだことだし話を始めようか」
「そうですね。…まずは、今回の討伐対象。通称"蜘蛛"と呼ばれる者達についてお話しいたしましょう。といっても、こちらも詳しいことは分からないので、情報としてはそちらとあまり変わらないと思います」
「そうだな。聞く限りによると、"蜘蛛"は戦った相手を軒並み皆殺しにしていると聞いた。それであれば、目撃証言が少ないのも仕方のないことだ。だから、少しでも多く情報がほしいから、この情報交換は無駄じゃないさ」
「ええ、分かっております。……それで、"蜘蛛"ですが。彼らは、総勢八人の集団だと聞いています。それと武器ですが、彼らが何を使っているのか、正直分からないのです。綺麗に切断されていることから、切断に優れた武器を使っているのは想像できるのですが……」
「剣、とかじゃないのか?」
「いいえ、違うそうです。目撃者が言うには、"蜘蛛"の一人が手をおもむろに振るったら数瞬後には相手が切られていたらしいんです」
「…見えない武器?」
そうであるならば厄介極まりない。
アリアもロズウェルも胴体視力も視力も良いので、細かかったり小さかったりすればその目に捉えることが出来る。だが、それが見えないのであれば話は別だ。見えないのであれば、いくら視力が良かろうが意味がないのだから。
対処法をどうするべきか難しい顔で考えているアリアに、アウェリアは言う。
「それと、これお目撃者からの情報なのですが。"蜘蛛"が手を振るった後、"蜘蛛"と対象の間でなにかが光ったらしいのです」
「光った?」
「ええ。何が光ったのかは分かりませんが。確かに光るものを見たそうなのです」
何かが光った。その光った何かが、"蜘蛛"の見えない攻撃の攻略の鍵になるであろう事は想像が付いた。
だが、その光る何かがどんな物なのか分からない以上、それ以上の予想のしようがない。
「その光ったタイミングは?」
「確か…手を振る、光る、切り裂かれる…だったと思います」
「そうか…」
手を振った後に光る。それは魔法なのかそれとも何か別の物なのか。今の情報量では分からない点が多い。
「あの、アリア様」
「ん?なんだ?」
アリアが考えていると、横に座っているイルが声をかけてくる。
「俺、その攻撃に少しだけ予想が付きました」
「ほ、本当か!?」
イルの言葉に思わず顔をずいっと近付けてしまうアリア。
そんなアリアに、イルは体を仰け反らせながら言う。
「え、ええ。この間の一件のときに戦った相手が使っていた武器の特徴と合致してるんです」
この間の一件。それだけでは、アウェリアはイルが何を言いっているのか分からないであろう。
だが、この間の一件。その一事だけでここにいるアウェリアを除く全員は理解していた。
セリア大森林での戦いのことだろう。
その話題が出たことで、幾分か場の空気が重くなったが、アリアは構わずイルに続きを促す。
「…それで、その見当をつけた武器っていうのは?」
「は、はい。あの、見づらくて、光に反射して、遠距離から攻撃できると言う条件に仮定するのでしたら…恐らく、ワイヤーだと思います」




