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第十四話 到着

毎度、評価やブックマークなどありがとうございます。とても嬉しいです。



 あれからまた更に二十日が経過した。


 なんやかんやありながらも順調に馬車は街道を走り、今日中にでもマシナリアに到着する予定だ。


 道中ではクルフト王国での事をツバキから聞いたりした。どうやら、クルフト王国は、和風建築になっているらしく、温泉も旅館も寺もあるらしい。


 ただ、寺は宗教的な意味は成しておらず、こちらの風習にもあるらしい元旦の時に除夜の鐘を叩くためや、初詣、縁日などでよく利用されているようだった。


 宗教的な意味を成していないのは、勇者であったイガラシ・ソウジロウが宗教の出来た理由などを知らなかったからであろう。それならば、なぜお寺などを造ったのかと聞かれれば、大方お祭り騒ぎが好きだったからなのだろう。ツバキの説明では、ソウジロウはお祭りごとなどの皆が楽しめるイベントを提案しては実行していたらしいのだ。どうやら、花火大会もあるようだ。花火は結構好きなので、機会があれば見に行きたいものだ。


 昔ではお寺の鐘は「不定時法」という役目も担っていたのだが、それも多分無いだろう。


 「不定時法」とは、一日を昼と夜に分けて、それでいてその時間を六等分して、寺の鐘を鳴らすことによって時間を伝える方法のことだ。昔の人はこれで時間の感覚を掴んでいたらしい。


 それぞれの時間帯を十二支の干支に分けて子の刻、牛の刻なんて言っていたらしい。因みに一刻=二時間だ。


 鐘で時間を知らせる際は、鐘を鳴らす前に、三回鐘をついて今から時間を知らせるよと言う合図を送り、その後時刻の数だけ鐘を鳴らすのだ。


 まあ、結局何が言いたいのかと言えばだ。その「不定時法」が無いだろうと言うのも、わざわざそんな面倒な事をしないでも、この世界には既に時計があるのだ。いくら和風建築といえども、時計を使わないという不便なことはしないだろう。


 話が大分逸れたが、ツバキの言うところによれば、クルフト王国には温泉もあるらしい。温泉があるならば是非浸かりたい。アリアの屋敷のお風呂も大きな岩で囲まれていて露天風呂と言った見た目ではあるものの、残念ながらお風呂があるのは屋内だ。それに、屋外であったとしても、外には洋風な風景が広がっているので、アンバランスな感じになってしまう。


 そんなこともあり、露天風呂なんかにも浸かりたい。聞けば、旅館にあるそうなので是非行ってみたい。


 まあ、そんな感じでクルフト王国に思いを馳せながらも、アリアの向かう先は魔工都市マシナリア。思いを馳せるクルフト王国とは百八十度違う趣の都市なのであろうことは都市名の前についた俗称でよくわかる。


 アリアのイメージでは機械的な煙突が立ち並び、所々からゴウンゴウンと機械の稼働音が聞こえてくると言った感じだ。大気とかも煙で曇っているのかもしれない。


 そう思うと、なんだか行くのがイヤになってきたりもするが、仕事だから仕方ない。それに、これ以上"蜘蛛"をのたまわらせるわけにはいかない。


 そう言えば、移動途中故に、メルリアやマシナリアとの連絡はとれないのだが、何事か起こっているのだろうか?こういう時連絡が取れないというのはやはり不便だ。


 何事もなければそれで良いのだが、何かあっては事だ。  


 1ヶ月と言う長い移動期間を費やしているのだ。その間に何か動きがあってもおかしくない。


「む~~」


 マシナリアがもうすぐだと言うことで色々な焦りを抱くアリア。


「どうかしましたか、アリア様?」


「いんや、なんでもない」


 気遣わしげに声をかけてくるイルになんでもないと首を振る。


 そうそう。イルが御者をやっていないので、ロズウェルが御者をしているのかと思ったのだが、ロズウェルも馬車の中にいる。シスタは片腕ではやりづらかろうと、この旅では御者をやらせてはいない。


 では、今は誰がやっているのかというと、答えは簡単だ。今御者をしているのはユーリだ。


 今まで、御者をしてこなかったユーリだが、つい先日ロズウェルとイルに指南してもらい御者が出来るようになったのだ。


 そのため、今はユーリに御者をして貰っている。ツバキも馬車の中にいないので、ユーリの隣にでも座っているのだろう。


「ロズウェル。後どれくらいかかりそうだ?」


「もうすぐです。後一時間もかからないでしょう」


「そうか」


「心配ですか?」


「なにが?」


「移動中にマシナリアで何かよくないことが起きているのではと、危惧しているのでは?」


 ズバリと考え事を的中されるが、さして驚くことはない。


「ま~ね。だって連絡手段無いし」


「それならばご心配には及びませんよ。マシナリアでは今のところ何も起こっていません」


「何でそんなはっきりと答えられるんだ?」  


「これが熱を発していませんので」


 ロズウェルはそう言うと徐に懐から、藍色の宝石を取り出す。


 アリアは怪訝な表情を見せる。


「なにそれ?」


「感応石でございます。これと対になる石に魔力を込めると、もう一方の石が発熱するのです。込める魔力量によって距離や熱量が変わります。感応石は他にも種類がございまして。発光するもの。放電するもの。振動するもの。他にも沢山あります」


「へ~」


 それは凄い。色々調整すれば便利な道具として使えるんじゃないか?


「これらは、魔道具などにも使われております」


 どうやら使われてるらしい。


 まあそれはそうだろう。こんな便利なものを利用しようと思わないものはいないだろう。


「そして、魔力に指向性を持たせることで熱量と距離を調整することも出来ます」


「そんで、つまるところそれを要約すると、その感応石は通信用としてロズウェルが持たされて、それが発熱していないから、マシナリアではなにも起こってないと?」 


「そうです」


 ロズウェルのその返答を聞くと、アリアはふてくされたように頬を膨らませる。


「それ先に言ってよぉ…」


「すみません。私としたことが失念しておりました」 

 

 ロズウェルは謝罪をすると、深々と頭を下げる。


「……はぁ…まあいいや。何も無かったんならそれに越したことはない」


 アリアはそう言うとふかふかのソファーに身を投げる。


 ボフンと心地の良い感触を背中に受けながら、アリアは窓の外に覗く青空を眺める。


 時期的に言えばもうすぐ秋だ。今が九月の終盤なので、もうそろそろ十月だ。 


 そう言えば、季節も月で分けているので、この風習も過去の勇者がもたらしたものなのかもしれない。と言うか、その可能性の方が高いだろう。


 そんな、暇つぶし的な考えをしながら、アリアは時間を潰した。


 その後、どれくらいたっただろうか。


 青空を眺めているうちに、眠気が襲ってきた頃、御者台に通じる窓がコンコンとノックされる。


「アリア様ァ!マシナリアが見えてきたでござるよ!」


 優しいノックの音の後、騒がしいツバキの声が聞こえてくる。恐らく、ノックだけはユーリがしたが、堪えきれずにツバキが声をかけたと言ったところだろう。


「よっこいせ」


 年寄り臭い声とともにアリアはソファーから起き上がる。男三人が微妙な顔をしていたが知ったことではない。


 御者台に通じる窓から進行方向を見ると、目の前に王都ヘルメーンのような、高い壁が見えた。ただ、ヘルメーンよりかは若干壁が低い。


 それと、壁の上から幾本もの煙の柱が見える。おおよそアリアの予想通りの光景だったが、予想よりも煙の数は少ない。


 そんな光景を眺めながらも、馬車はマシナリアへと近付いていく。


 段々と壁が大きく視界を占領するようになり、遂にマシナリアの検問所へと到着した。


「アリア様は一応中へ」


「ほ~い」


 ユーリの言われたとおり、アリアは窓を閉めて馬車の中に引っ込む。


 ぴょんと軽く跳びソファーに座る。


「ようやく着いたな~」


「そうですね。一ヶ月はやはり長かったです」


「だよな~。もうしばらく馬車はいいかな~」


 そんなことを話していると、なにやら外から騒がしい声が聞こえてくる。


 顔を引っ込めてまだ数分も経っていないのに、なぜか騒がしい。何かあったのだろうか?    


 馬車の壁に耳を当て外の音を拾おうとがんばる。


「ねえ、あの中にアリア様がいらっしゃるみたいよ!」


「ほんとうに?!助かったわ~。これでもう"蜘蛛"に怯えなくても良いのね~」


「え?アリア様が来たの?!」


「お、おい!早く皆に知らせてこい!」


「お顔を拝顔出来ないかしら~?」


「見れたらラッキーだよな~」


 他にもちらほらと同じ様な内容が聞こえてくる。検問所に着いただけでかなりの騒ぎになっているようだ。


 窓から覗いてどれくらいの人が集まってきてしまったのか見てみたかったりもするのだが、ロズウェルとイルが検問所に着く前にカーテンを閉めてしまっているので、それもかなわない。


 見ようと思えば見れるが、カーテンを閉めたと言うことはそれは好ましくないのだろう。


 そう思い、ロズウェルを見てみるが、ロズウェルはやれやれと言った表情をしている。


 どうしたのだろうかと思うアリアの視線に気付いたのか、ロズウェルは苦笑混じりに説明してくる。


「アリア様がいると分かれば、騒ぎになると思って窓を閉めたのですが…それも意味がなかったようですね」


 どうやら、騒ぎにならないように閉めただけのようだった。


「じゃあ、外見てみても良い?」


「ええ。その方が、住民達も喜びます」


 ロズウェルの許可もでたところで、アリアはカーテンに隙間を作りちらりと覗く。


 すると、目に飛び込んできたのは、人、人、人。沢山の人だった。


「いっぱいいるな~」


「それだけ、皆がアリア様の到着を心待ちにしていたのですよ」


「なんか照れるな~」


 元一般人のアリアとしては、こういう事には未だ慣れていないので、照れてしまう。


「ていうか、検問所をまだ過ぎてなかったんだな」


 もうすでに数分は経っているのですでに通れていても良いはずだ。普段は何分かかるか知らないが、こちらはフーバー直筆のサイン付きの書状も持ってきているのだ。それならばすぐに通れても良いはずだ。


 なのに通れていないという事は、検問所の方でトラブルがあったのでは無く、ただ単に人が多すぎて通れないといったところだろう。見たところかなりの人でひしめき合っているのだから。   


「どうするロズウェル。全然前に進めそうにないぞ」


「どうしましょうか」


「いっそアリア様が姿を見せてみては?」


「逆にその場に引っ付きそうだね~」


「それじゃあ強行突破するか?」


「それは印象が悪くなりそうです」


「ドMな人にはご褒美かもね~」


「いや、流石に死ぬほどの怪我を負って喜ぶ人はいないんじゃないですか?」


「う~むむむ」


 特に良い案も思い付かずに唸るアリア。


「どうして説得という選択肢がないんでござろうか…」


 そんな様子を、御者台の窓から覗き見ていたツバキが呆れた様子でそう呟いた。


「アリア様が前に出て、一度引いてくれと言えば引いてくれると思うでござるよ?」


「私もそう思います」


「一目見てもう満足って人が帰ってくれるかもしれないでござる」


「そんな安っぽいアイドルみたいなのヤだなぁ…」


「およ?あいどるとはなんでござろう?」


「なんでもない。こっちの話だ」          


 どうやらアイドルは浸透してないらしい。


 って、そんなことはどうでも良いのだ。


「んじゃまあ、とりあえず出てみますか」


「よろしいのですか?」


「どうせまた姿を見せることになるんだから減るもんじゃないだろ」


 なんだかスピーチとかやらされそうだ。


 魔工都市だから、拡声器とかマイクとかあってもおかしくは無さそうだ。むしろあって当然と言った感じもする。


「なあロズウェル。皆の前で話すわけだが、猫かぶった方が良いかな?」


「いいえ。ありのままのアリア様のままでかまわないかと」


「ちなみに、猫かぶったアリア様っていうのはどんな感じなの?」


「うん。主に三パターンくらいあるけど…まあ、今はいいでしょ。とりあえず退いてもらわにゃあ進めないから」


「お待ちください」


 そう言うとアリアは馬車の扉に手をかけるが、ロズウェルに止められる。  


 ロズウェルの方を向くと、ロズウェルはこちらに手を伸ばして、服や髪など身だしなみを整える。


「これで大丈夫です」


「ん、ありがと」


 ロズウェルにお礼を言い、アリアは今度こそ馬車から降りる。


 アリアが馬車から降りると、周囲にざわめきが起こる。


「おほん」


 アリアがこれからしゃべるために一度咳払いをすると、周りの者もこれからアリアが何かをしゃべると察したのか、次第に口を閉ざしていく。


 群衆の大半が口を閉ざしたところで、今度はアリアが口を開く。


「えっと…そうだ。まずはお礼を言わせて欲しい。皆、私のために集まってくれてありがとう。歓迎してくれているようで嬉しいよ。……でも、このままだと、私達は馬車が通れなくて王城に迎えないんだ。また皆の前に顔を見せる機会もあるだろうから、今は道を開けてはくれないか?」


 アリアの言葉が終わると、群衆は賛同の声を上げて次々にその場を離れていく。


 その様子をあらかた見送ると、アリアも馬車の中に入っていく。馬車に入る際、ロズウェルが後ろに立っていたことに多少驚いたが、それを表に出さずにすまし顔で馬車に乗り込んだ。


 馬車に乗り込むと御者台の窓からユーリに馬車を出すように言う。 


「それじゃあ、馬車を出してくれ」


「了解しました」


「出発でござる~」


 こうして、アリア一行は魔工都市マシナリアに到着した。


 到着して、ふと思う。


(ツバキはいつまで着いてくるんだろうか?)


 ご機嫌に鼻歌を歌いながら御者台に座るツバキを見ると、そうそう離れる気はないのかなと思うアリアだった。 

よろしければ「Lv.0でニューゲーム」と「勇者は勇者を見限りました」も見てください。

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[気になる点] 誤字報告機能がないのでこちらで書かせてもらいます。 15ブロック目 「そう思うと、なんだか行くのがイヤになってきたりもするが、仕事だから仕方ない。それに、これ以上"蜘蛛"をのたまわらせ…
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