表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/114

第十三話 一緒に行くか

「それは本当に奇遇だな」


 素直にその偶然を驚き、そう言うと、ツバキは嬉しそうな顔のまま言う。


「そうでござろうそうでござろう!…それで、つかぬ事お聞きするでござるが…」


「ん?」


「その旅について行ってもいいでござるか?」


「ん~~~それは私の一存じゃ決めかねるな~」


 なにせこの旅は、アリアだけで行ってるわけではないのだ。同行者もいるので、アリアだけで勝手に決めて良いことではないと思ったのだ。だが、


「私はアリア様に一任します」


「右に同じくかな」


「私も、アリア様の判断に任せます」


「俺もです」


 皆はアリアに任せると言っている。


 それならば、アリアの答えは簡単だ。


「おし、分かった。それじゃあ、一緒に行こうか」


 アリアの返事に、ツバキはパアッと顔を明るくする。


「ありがとうでござる!」


 こうして、案外あっさりとツバキの同行が決まった。





 ツバキの同行が決まり、アリア達は昼食をするために出した物をもろもろしまうと、すぐにその場を出発した。


 馬車はこれまで通り街道を進み、マシナリアへと向かっていく。


 今回の御者はイルで、馬車の中にはイル以外のメンバーがいる。


「いやあ、ふかふかでござるな~」


 馬車の中。アリアの特等席であるふかふかソファーを占領しているツバキは、幸せそうに頬を緩めてクッションに顔をうずめて寝転がっている。


「む~」


 その様子を特等席をとられたアリアは面白く無さそうな顔で見る。 

  

 そんなアリアとは裏腹に、ユーリは幸せそうな顔をしていた。


 ツバキがアリアの特等席を占領していることで、アリアの座るところが無くなった。アリアの特等席はアリアが寝転がれるくらいのスペースがある。そのスペースは馬車の片側を丸々占領しているので、必然的にもう片方のスペースで残りの三人が座るしかない。


 最初は、アリアもそんなに贅沢は出来ないと、皆と一緒に座ろうと思ったのだが、皆は馬車の長旅には慣れているからとアリアが使うことを許容してくれた。そのため、今まではアリアがそのスペースを占領していたわけなのだ。


 それが、今ではツバキがその場所を気に入ってしまい占領している状況だ。


 馬車に入ってすぐ、ツバキはそのスペースに興味を示し、座りたいと言ったのだ。アリアも一緒に座るくらいならば構わないと思っていたのでそれを了承した。だが、次にツバキは寝転がりたいと言った。その思いもアリアはよく理解しているので許可をしたのだが、いつまでたってもツバキは寝転がるのをやめようとしない。


 片側を大きく使用するスペースをツバキが占領しているため、アリア達は片側に座るしかない。しかも、今までも三人座ってちょうどよかったスペースに、小さいとは言えアリアが入れば窮屈になってしまう。


 そのとき、ユーリが嬉しそうな笑顔で提案したのが、アリアを自分の膝の上に座らせるという事だった。


 重いのではないかと危惧したのだがユーリは平気だと言いはるので、アリアは今ユーリの膝の上で大人しく座っているのだ。


 最初はそれでもよかったのだが、段々とだらしなく頬を緩めているツバキを見て思った。私も寝たい、と。


 お昼を食べ終わり、馬車の心地よい揺れに体を揺らされ、ユーリの柔らかな太ももの上にいると自然と眠くなる。


 このまま寝てしまってもいいのだが、それではユーリに負担がかかってしまう。そのため、アリアは辛うじて眠気を堪えて起きているのだ。


 そのため、眠いアリアの目の前でツバキが悠々と寝転がっているので、今は機嫌が悪いのだ。

  

 そんなアリアもユーリの琴線に触れるのか、こちらもだらしなく頬を緩めてアリアを優しく抱き留めている。


「ふかふかでござる。ふかふかでござる」


「む~」


「ふかふ、か…」


「む?」


「くーーー」


「………寝やがった…」


 寝息を立てクッションに顔をうずめるツバキを、アリアは憎々しげに見る。


「おのれ…私の特等席で眠るとは…」


「まあまあ、いいじゃないアリア様。ツバキさんも相当疲れてるようだったんだしさ」


 シスタにそう窘められ、アリアはむうっと口をつぐむ。


 アリア自身気がついてはいた。


 ツバキは元気いっぱいに振る舞ってはいたが、それが空元気であったことを。長旅で商品も売れず、お金もなくろくな宿にも泊まれないし、食事もろくにとっていない。


 そんな状況であれば、精神的にも肉体的に疲弊していくのは当然のことだ。


「…分かってるよ。ただ、私も眠いんだ」


 この体になってからたびたび思うのだが、どうやら、アリアの意志と反して言動が思考が体に引っ張られることが多い。我慢できることも我慢できず、食事の好み、趣味なども以前とは所々が違っている。


 正確に言えば、小さい頃の好みなどに戻っていると言った方が正しいだろう。


 そのためか、前であれば我慢のきいた眠気も、今は我慢が出来そうにないのだ。


「ダメだ…眠い…」


 そう呟くと、アリアはうつらうつらと頭を上下に揺らす。


「アリア様。このまま寝てしまってもかまいませんよ?」


 妙に嬉々とした声音でそう告げるユーリ。


「いや、そんなわけにもいかない。このまま寝てしまっては、ユーリに負担がかかってしまう…」


「負担だなんて思いませんよ。むしろご褒美です」


「…なんともまあ安いご褒美だな…」


 眠気のせいで薄れ行く意識の中では、特に気の利いた言葉なども言えず、ありきたりな言葉が出てくる。


 どうしようかな。寝ようかな。と思っているとき、ふと、ロズウェルならどうにかしてくれるのではと、よく分からない考えが浮かび上がったので、ロズウェルの方を見やる。


 ロズウェルはユーリを羨ましげに見つめているだけであった。


(ダメだこりゃ…)


 諦観を持ってアリアは意識を手放そうとする。が、


「むにゃ……およ…アリア様も眠そうでござるな…」


 少しだけ意識が覚醒したツバキがそう言ってきた。


「…眠いよ。そりゃあ眠いよ…お腹一杯だもん…眠くなるよ……」


「ふむ…それならば、拙者と一緒に寝るでござるよ…」


 ツバキはそう言うとズリズリと体をずらしてアリアが入れそうなスペースを作る。


「ほれほれ~」


 ポンポンと空いたスペースを軽くたたくツバキ。


「…むぅ…分かった…」


 アリアはユーリの膝から降りるとツバキの前の空いたスペースに寝転がるの。相変わらずのふかふか具合にアリアはすぐに眠たくなる。


「うむ。ふかふか…」


 意識を手放そうと思ったとき、急に後ろから抱きしめられる。


「ちょうどいい抱き心地でござるよ~」


 そう言うとツバキは更に抱き寄せる。


 出会ったときから思っていたことではあるが、ツバキは胸が大きい。そのため、強く抱きしめられると、アリアの寝ている場所的に後頭部にツバキの胸が押し当てられる。


「うん。ユーリよりも柔らかい…」


「ひゃっ!?」


 アリアの呟きにユーリが変な声を上げる。


 薄目を開けてユーリを見れば、ユーリは涙目になりながら自分の胸とツバキの胸を見比べていた。


(頑張れ…いずれ成長するさ…)


 自分のことはさて置き、ユーリを応援すると、アリアは瞼を閉じた。



 ○ ○ ○



 場所は変わり、魔大陸ーーー


 魔王城の廊下を血色の赤髪を揺らしながら悠々と歩く者がいた。その後ろを古式奥ゆかしいメイド服に身を包んだ、無表情を貫いた少女が付き従う。


 赤髪を揺らす者は、バラドラム・ドローガー。それに付き従うのは、バラドラムの従者であるシューである。


 バラドラムはいつものようになにを考えているのか読めない笑顔を貼り付けながら廊下を歩く。


 今回、魔王城に訪れたのは魔王への計画の進行具合と、今後の予定の確認のためだ。


 本来であれば、手紙だけでもいいのだが、特にやることもないので気まぐれに魔王城に足を運んだのである。


 今は、魔王への報告も確認も済ませ、自身の屋敷に変えるところだ。


「む。バラドラムじゃないカ」


 廊下の角で鉢合わせになった一人の少女がバラドラムに声をかける。


 バラドラムはあらぁと声を漏らす。


「エルリじゃないの。あなたも魔王様に報告?」


「まあ、そんなものダ。そう言うお前も計画の報告カ?」


「ええ。おおむね順調だと言うことを報告しに来たのよ」


「そうカ」


 エルリも報告が終わったのであれば、これから帰るところなのだろう。バラドラムはそう思い歩を出口へと進める。その隣をエルリが並ぶ。


 バラドラムの隣にエルリが並んだことで、シューが少しだけムッとしたような雰囲気を出すが、バラドラムがシューに小さく微笑むことでそれを制する。


「そう言えばお前。魔工義手の方はどうしタ?」


「そちらもおおむね順調ね。ウチは腕のいい子が多いから」


「ふん、それは良かったナ……そう言えば。お前、また"蜘蛛"を放ってるそうだナ?」


「あらぁ?どうして知ってるのかしら?」


「向こうに忍ばせてる奴らからの報告ダ。探るまでもなく耳に入ったらしいゾ。ちゃんと手綱くらい握っておけヨ」


 探るまでもなく耳に入ったと言うことは、向こうではかなり噂になってしまっているに違いない。


 その事を軽く面倒だと思うも、これからの計画に別段支障はきたさないので放置をすることに決める。


「別に、彼女達なら大丈夫でしょう?噂になったとしてもどうにかできるわ」


 そう言う風に育てたもの、と付け加えるバラドラム。それに、面白くないと顔を歪ませながらエルリは噛みつく。


「そういうことを言ってるんじゃなイ!向こうでボク達が活動しにくくなるだろうガ!」


「……確かに、それはそうかもしれないわね…」


 エルリの物言いに頷くバラドラム。


 バラドラムが放った"蜘蛛"に限らず、バラドラムの部下には、総じてある特徴があった。それがバレてしまえば、同族の立場がより危険になる。


「お前は、お前らが半端者だと自覚した方がイイ。お前が守りたい者も、お前の采配次第で生きづらくなるんだゾ?」


「耳が痛いわね」


「…それにダ。報告だと、女神も動いてル」


 女神という単語に、ピクリと反応を示すバラドラム。


「そう…でも、あの子達が今の女神に後れをとるとは思わないわ」


「女神の剣も一緒ダ。あのときとは違ウ」


「あらぁ…」


「早く"蜘蛛"を回収したほうがいい。悪いことになる前にナ」


「…あなた。今日は随分親切なのね。なんだか気味が悪いわ」


「気味が悪いとは失敬ナ!!」


 バラドラムの物言いにカチンときたのか声を荒げるエルリ。


 そんなエルリの反応を見てバラドラムはコロコロと笑う。


「くっ!腹の立つ奴だナ!」


「それは褒め言葉よ~」


「……ふん。まあいいサ」


 エルリはそう言うと早足に歩いていってしまうが、途中でおもむろに立ち止まると振り返る。


 エルリが止まったことで、バラドラムも何となく立ち止まる。


「ボクは、お前が嫌いダ。だけど、お前の目的は嫌いじゃナイ。だから忠告もするし、苦言も呈したりスル………お前の目的は、応援してル」


 それだけ言うと、エルリはバラドラムの返事も待たずに踵を返してしまう。


 バラドラムはというと。エルリの思わぬ言葉に、驚きを隠せないでいた。だが、数秒も経つとエルリの言葉がストンと胸に入ってきた。


「ふふっ」


 バラドラムは自然と笑顔になる。それは張り付けた笑顔ではなく、本心からのものであった。


「…エルリ子魔殿は良い人だったのですね。普段の言動からは予想もつきませんでした」


「ふふっ。シュー、あれはツンデレなのよ」


「誰がツンデレダ!!」


 バラドラムの言葉聞こえていたのか、エルリは振り返りながらそう声を荒げた。そのことが可笑しかったのか、バラドラムはまたコロコロと笑った。


「さて…"蜘蛛"はどうしようかしらね…」


「…回収しますか?」


「…いいえ。放っておきましょうか」


「よろしいのですか?」


「ええ。あの子達には好きにやらせるわ。止めてもアラクネラはきかないからね」


 そうは言うが、懸念材料があるので本当であれば回収したいのだ。だが、良くも悪くも一癖も二癖もある者達ばかりだ。バラドラムが言ってきかない可能性があるし、伝令に頼んでも無視する可能性が高い。


「結局、あの子達には、手綱なんてあって無いようなものなのよね~」


「…バラドラム様がきちんと躾をしていればこんな面倒にはなりませんでした」


「耳が痛いわね~」


 実際、そうなのだろう。


 今回、"蜘蛛"を放ったのはバラドラムの意志ではない。彼らが勝手に動いたことなのだ。放ったと言うよりは勝手に出て行ったと言った方が正しい。


「それでも、可愛い我が子ですもの。少しの勝手くらい許すわ」


「…それで、彼らが命を落としても?」


「それは仕方のない事よ。我を通して死ぬのであればあの子達も満足でしょうね」


「そう言うものですか?」


「そういうものなのよ」


 だが、それは結局"蜘蛛"の連中が満足するだけであって、懸念することの何一つ解決にはつながっていない。


 バラドラムは結局どう対処するべきなのか考えあぐねていた。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ