第五話 再会
今回長いです
その後、しばらく休んだら休憩も終わりを告げたので美結を起こした。
まだ少し眠そうな顔をしていたが眠る前よりも顔色が幾分か良くなっているので一安心だ。
「ありがとうね真樹ちゃん」
「いいのよこれくらい。もっと頼ってもいいくらいよ?」
「そう言うわけにもいかないよ~今まで一杯お世話になってるんだから!」
「フフッ、それじゃあ、おあいこってことで」
「うん!」
皆がいる休憩場へ行くと丁度良いタイミングだったらしく皆の準備が整う所だった。
いくら、足並みを揃えないと言っても皆より早く行くと言うことであって遅く行くと言う意味ではない。それに、遅くいくとなると反感を買いそうだったので間に合って良かったと心の中で密かに安堵する真樹。勿論顔には出さない。
すると、戻ってきた真樹を見つけた計が駆け寄ってきた。
「お帰り。どお、よく眠れた?」
「うん、バッチリ!…って芹沢君よく知ってるね?あたしが寝てたの」
「女の子二人だけじゃ心配だったから様子を見に行ったんだよ」
そう言うと真樹にちらっと視線を移す。どうやら、さっきの騒動の事を隠すためにわざわざ怪しくならないように言いに来てくれたらしい。
目で感謝を示すと真樹も話に加わる。
「そうなのよ。茂みをかき分けてくるから魔物かと思っちゃった」
「うわっ、もしかして攻撃される寸前だった?あっぶな~命拾いしたよ」
「フフッ、真樹ちゃん容赦ないからね~。良かったね芹沢君!」
「本当だよ。次からは声を出しながら進もうかな…」
「それはまあ、なんとも間抜けね」
三人で楽しく歓談をしていると準備が整ったらしくエリナが声をかけていた。
「それじゃあ、行こうか。あ、くれぐれも無茶だけはしないようにね?」
「大丈夫よ、それは散々美結ちゃんに言い含めたから」
「うん、問題無し!無茶しない程度にハイスピードでやるよ!」
「それなら安心だ」
三人が隊列に加わると進み始める。
しばらく森の中を進み出会った魔物と戦っていった。森の中核辺りの魔物は美結一人でも何とかなったが最奥部辺りになっていくとさすがの美結でも少々厳しい状況になった。
この森のカーストで最上位に君臨する、言わばこの森の主に遭遇したのだ。
主の風貌は、巨大な猪の頭からこれまた大きな蟷螂の上半身が出ており、背中には蜂の羽が生えていた。
王国の図鑑でも見たことのない魔物だったので場が騒然とするが、エリナが副団長らしいリーダーシップを発揮しその場をすぐさま取り持つ。
「あれは《複合獣》だ!恐らくはあれがこの森の主だ!皆、各々武器を構えろ!美結、あれは流石の君でも一人では無理だ!ここは皆で連携をしつつ迎撃しろ!」
「分かってます!」
美結も、あれを一人でどうこう出来るなどと自惚れてはいない。だから今回は皆と協力して倒そうと考えていたためエリナの指示を待っていたのだ。
エリナもその事を何となく察していたが他の皆にも美結はスタンドプレーをしないと早い段階で分からせて連携に加えさせるためにあえて言葉にしたのだ。流石は若くても王国騎士団副団長と言ったところだ。
「さあ、主を倒して今夜は祝杯を上げよう!」
「おおっ!」
「未成年なんで遠慮しときます!」
「バッカ!この国では十五歳が成人だろ!」
「何!?本当か?おっしゃあ!酒が飲めるぞ!」
祝杯と聞いて豪華な料理を想像した者達がやる気を漲らせていく。
接近戦で戦えるメンバーが前衛に行き、魔法主体と遠距離武器のメンバーが後衛へ行き各々配置についた。この陣営を組むのに勇者の半数だけで組んでいる。
それ以外の残りのメンバーは周りを警戒しつつ雑魚を寄せ付けないようにするためにこの場から少し離れたところでこの場を囲むように待機している。
因みに護衛の騎士団のメンバーは本当にヤバくなったとき以外手を出す気は無いので今回も見ているだけだ。
陣営が整ったのを確認しエリナが号令を発する。
「かかれ!!」
エリナの号令とともに美結が動く。美結の一つ目の加護《全力解放》を発動して地面を駆ける。
《全力解放》とは、自身の身体能力を身体が許容できる範囲で上昇させる加護だ。元々美結は運動が得意でしかも美結自身に眠るポテンシャルも相まってその力は絶大なものとなった。
騎士団のメンバーでさえ目で追うのがやっとのスピードで地を駆け、複合獣に肉迫する美結。
(まずは機動力を奪う。そうすればデカいだけのただの的!)
即座に考えをまとめると美結は複合獣の脚を狙い横凪に剣を振るう。普通のクレイジーボアならばこれで良かったかもしれないが、相手は複合獣。しかも、この森の主だ。そう簡単にはいかなかった。
ギイィン!!
肉を斬ったはずなのにそんな鉄同士がぶつかり合ったような音が鳴る。
「かったあぁっ!?なんて固いのこいつ!」
自身が斬りつけたのは複合獣のすね。そこを見ると猪の割には長い毛に埋もれて分かりづらかったが甲殻のような物に覆われていた。
「弁慶の泣きどころはどの世界でも痛いって事だね!」
「美結ちゃん下がって!」
真樹の声を聞き瞬時に後ろに下がると同時に五つの火の玉が複合獣のすねに飛来する。
「ブモオォォォォォッ!?」
爆炎が収まると複合獣のすねを守っていた甲殻はドロドロに溶けていた。
「真樹ちゃんナイス!!」
そう言うなり美結は駆ける。
「今度はちゃんともらうよ!」
すねに肉薄し先程よりもより鋭い斬撃を放つ。すると、先程は弾かれたが今度は拍子抜けするほどあっさり斬れた。
「ブモオォォォォォォゥゴォォォォ!!」
足が切断されたことにより苦痛の悲鳴を上げる複合獣。
この間、複合獣が何の抵抗も出来なかったのはいくつか理由がある。
まず一つは美結のスピードに追い付けなかったこと。美結のスピードと真樹の美結に合わせた流れるような連携により抵抗出来なかったのだ。まさに「あっ」という間である。
次に他の勇者の援護射撃だ。美結の攻撃は弾けたのでそちらに気を配らずに援護射撃の方に注意を払って対応したのだ。そのため、美結と真樹の動向は既に眼中になかったのだ。
最後これは戦いにおいて最もしてはいけないものだった。自身の甲殻は誰も壊すことが出来ない。だから、こんな小娘の攻撃など取るに足らんと思っていた。
そう、油断していたのだ。この森で最強の自分が小娘一人の攻撃でどうこうなるわけがない。実際、美結の攻撃を防ぐことは出来たし、美結一人では複合獣の固い甲殻を破る事は出来なかった。
だが、美結は一人ではなかった。それが、複合獣の脚を失う原因だった。
「ギイィィィィイイィィィッ!!」
脚を切断された怒りにより上の蟷螂が美結にその鋭い鎌を振り下ろす。
「おおっと!」
美結はそれを危なげなく回避する。
蟷螂が怒りにより鎌を振り下ろしたことにより胴体の猪がバランスを崩しかける。あの巨体を支えるのは前脚一本無いだけで大分難しくなる。美結のその読みは当たっていた。
だが、完全に機動力を奪うにはもう一本斬る必要がある。そう考えるが早いか美結は真樹に視線を送った。
真樹も複合獣の動きを見て理解したのか、心得たと頷く。
「《火炎球》」
真樹は加護を使い術名だけを言う。以前、詠唱と共に放ったら一発でクレーターが出来るほどの威力になってしまったため術名だけを言ったのだ。
先ほどと同じく五発の炎弾が宙を舞い複合獣の残りの前脚に被弾する。五体満足ならば避けられたかもしれないが今の複合獣にこれを避けることは不可能だった。
「ブモオォォォォォッ!?」
爆炎が収まるタイミングを見計らい美結が斬りかかる。
「はあぁっ!」
そして、先程同様にあっさりと切断される。
エリナがそれを確認すると号令を発する。
「脚は奪ったが奴はまだ攻撃は出来る!充分注意しつつ攻撃の手を緩めるな!!」
エリナの号令を聞くと美結は後方へ下がり様子を見ることにした。
美結はこの後の戦闘で一度も手を出さなかった。それでも、勇者一行が複合獣に勝ったのは言うまでもないだろう。
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セリア大森林の主を倒して王城に帰還した勇者一行は自分達が寝泊まりしている寄宿舎に向かう最中にある人物に出会った。
「あら皆さん、帰ってきていたのですね。お帰りなさい、ご無事で何よりです」
「クレア殿下、只今戻りました」
そう、メルリア王国の姫君クレア・メルリアだ。
クレアは秋の稲穂のような金の髪に碧い双眸の美しい女性だ。一四歳と美結達よりも幼いが王国の教育の賜物か、年齢より大人っぽく見える。今着ているドレスと相まって精巧なフランス人形のようだ。
だが、ふとしたときの表情や反応が年相応でとても可愛らしいという一面を持つため男女ともに人気がある。
膝を突き頭を下げる一行にクレアは不満げに言う。
「んもう!公の場でなければ普通に接して欲しいってあれほど言ったじゃないですか」
クレアの言葉に荘司が苦笑して答える。
「すまない。だが、こうして慣れておかないと公の場で恥をさらしてしまうかもしれないからね」
謝りつつ、立ち上がり普通に話し始める荘司にクレアは微笑む。他の皆も荘司に倣い立ち上がる。
「まあ、仕方ないのは分かってますけど…あっ!そうでした!皆さん森の主の討伐おめでとうございます!エリナから話は聞きましたよ。特にミユさん、ご活躍だったそうですね?」
「あれぐらいは余裕だよクレアちゃん。それより、主に一人で勝てるほどの実力が無いって分かったのがちょっと悔しいかな…」
「まあ、それは当たり前ですわ。ミユさんはまだ駆け出しなんですから、何でも一人で、なんて出来っこありませんわ」
「分かってるよ。だから早く強くなりたいの!主ぐらい一人で倒せるくらいに!」
「頑張って下さい。応援してますわ!」
「ありがとうクレアちゃん!」
そんな話をしているとクレアは「あっ」と声を上げる。
「急に失礼しましたわ。…皆さん、今日は主の討伐の祝杯をあげると共に会っていただきたい人がいますの」
「会っていただきたい人?クレア、それは誰なんだい?」
「はい、二年前の大戦の英雄のお二人ですわ」
二年前の大戦。美結も話だけならば聞いたことがある。二年前メルリアを襲った魔王軍との戦いのことだ。
詳しくは省くが、大戦はメルリアの勝利で幕を閉じた。その時活躍した人達の事を《メルリアの英雄》と呼んでいる。
英雄は五人いる。その中の二人が会いたいと言っているのだ。
英雄は基本多忙なので各国に手助けに行ったりしていてなかなか会うことは叶わない。そのため、英雄に会えると言うことはかなり稀な事である。
その事をここにいる全員が理解しているのでかなり唖然としている。
「…何故会いたいと?」
「それはご本人からお聞きになるのが一番でしょう。私も詳しくは存じ上げておりませんの」
「そうですか…」
「それでは着替えの後広間にお集まり下さい。服装にうるさい方々では無いのですが、正装でお願いしますね。それでは」
クレアは最後にそれだけ言うと去っていった。
美結達は疑問を抱きながらも寄宿舎に戻って着替えるのであった。
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王国から貸し与えられたドレスに身を包み広間に行くと、そこは大勢の人で溢れかえっていた。どうやら、もうすでに始まっているみたいだ。
広間には、騎士団のメンバーから貴族、クラスメイトもいた。よく見るとエリナやセルゲイもいた。
クラスメイトの大半はこういうフォーマルな場所に慣れていないので緊張している様が遠目からでも分かった。
かく言う美結もこういう場に慣れているわけでもないので緊張してしまう。
例外的に何名かこの場に馴染んでいるものもいたが片手で数えられるくらいだ。
「美結ちゃん」
不意に声をかけられ見るとそこには肩口から袖がカットされた黒のドレスに身を包み長めの手袋をつけた真樹がいた。
長い黒髪はアップにして纏められており堂々と見えるうなじがとても扇情的だった。真樹の元々持っている大人っぽさと黒のドレスが相まって、とても艶やかで色っぽかった。
周りを見ると男性は真樹を見て頬を赤らめている。
真樹は何も言わない美結に不安そうな顔をすると言った。
「やっぱり似合ってないかしら?さっきから色んな人に見られるのだけれど…」
美結はその言葉で我に返り慌てて訂正をする。
「そ、そんな事無いよ!似合ってる!凄い似合ってる!」
「本当?」
「うん、もちのろんだよ!」
「フフッ。美結ちゃん、もちのろんは古いと思うわ」
「え!?本当!?」
そんな調子で話しているといい具合に緊張もほぐれた。
「やあ」
楽しく歓談していると声をかけられた。
「あ、芹沢君」
「どうも瀬能さん。ドレス似合ってるよ」
「ありがとう。そっちもタキシード似合ってるわ」
「え?そう…かな?」
真樹の言葉に疑問系で答える計。真樹は実際に似合っていると思ったから言っただけで他意は無かったのだが計は首を傾げていた。
「どうにも似合ってないように感じるんだけど…なんか、子供が背伸びをして大人の服を着たって感じでさ…」
計は少し童顔なのでこういう礼服は自分には似合っていないと思っていたらしい。
だが、本人が気にする程計は童顔では無いので真樹は言った。
「大丈夫よ。年相応だわ」
「そうだよ、似合ってるよ芹沢君!」
「…そうかな~?」
「自信をお持ち下さいセリザワさん」
「姫様!?」
いつの間にか三人の後ろにはクレアがいた。驚き振り返る三人。
「その服は、その道を極めた職人の方がセリザワさんに似合うものであると確信して仕立てた服です。ですから、自信を持ってください」
「そうなんですか…それじゃあ自信を持たないと職人さん達に失礼ですね」
「はい、ですから胸を張って下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
「フフッ、良いのですよ」
クレアは可憐に微笑むと言った。
「そろそろ、英雄様方が来る頃ですわね」
「そうなんですか?何だか緊張してきました…」
「大丈夫ですよ。英雄様はお優しい方ですので」
すると、広間の一角が急に騒然とし始めた。何事かと見やるとそこには、白の着流しに身を包んだ銀髪に紅い目をした少女と、黒を基調とした燕尾服に身を包んだ青年が歩いていた。
この場に似合わない白い着流しに身を包んだ少女は肩に少女が片手に持つには明らかに重いであろう儀礼剣を担いでいた。青年はその後ろをただ黙って歩いている。
少女がある人物の目の前まで行くと止まった。そのある人物とは
「久し振りだなフーバー。お前に頼まれていた儀礼剣持ってきたぞ」
フーバー・メルリア。メルリア王国の国王であった。
国王相手にタメ口で話しているのに誰も突っ込まない。宰相もニコニコしている。
「おう、わざわざすまないなアリア!」
「別にいいさ、ほんのついでだ。それより用ってなんだよ?」
「そうだな、ちょっと壇上に上がってくれ」
「ん?お~う」
そう言うと三人は壇上に上がっていく。
壇上に上がるとフーバーは拡声出来る魔法道具の前まで行った。
『え~お集まりの諸君。諸君の大半は知っていると思うが、今日初めて会うであろう者もいると思う。そんな諸君等のために紹介しておこう』
そう言うと、少女を自分の隣に来させる。
『このクソ生意気な小娘が二年前の英雄の一人、アリア・シークレットだ』
「なっ!?」
「うそっ!」
「えっ!?」
フーバーの紹介に会場が、主に美結達勇者が騒然とする。
それもそうだろう。少女はどう見ても小学校高学年くらい。もう少し高く見積もっても十四であるクレアより確実に年下だ。俄には信じられないだろう。
隣のクレアを見るとニコニコして頷いている。どうやら、冗談ではないらしい。
『あ~まあ、諸君等の疑問も分かる。こんな小娘が英雄だと言われても何の冗談かと思うだろう。しかしーー』
『さっきから小娘小娘うるさいぞ髭もじゃ』
『誰が髭もじゃか!!綺麗に整っておるだろうが!ワイルドであろう!!』
『うるさい!冗談は髭だけにしろ!お前はワイルドじゃない!むさ苦しいだけだ!見ろ、サティアも頷いてるじゃないか!』
アリアが指差すそこにはメルリア王国王女サティア・メルリアがいた。サティアはにこやかに微笑みながらうんうん頷いていた。
『サティア!さっき格好いいって言ってたじゃないか!?』
『お世辞も分からんのかこの髭もじゃは』
『お世辞じゃないもん!俺格好いいもん!』
『もんをつけるな気色悪い!』
段々と漫才となり始めた国王の英雄を紹介するスピーチに会場は暖かな笑いに包まれる。
このままではスピーチにならないと悟ったのか燕尾服の青年がアリアを止めた。
『アリア様、そのくらいに』
『そうだな』
『ぐうぅ~納得いかないが仕方ない…ここは大人である俺が折れるとしよう…』
『俺が折れるとか、詰まらない親父ギャグを言うな』
『ギャグではない!』
フーバーの突っ込みに会場がどっと湧く。
それを若干苦笑いで見つつ真樹はクレアに問いかける。
「いいんですか、あんなんで…」
「はい、お父様もあれで喜んでいらっしゃいますので…」
「いや、そうじゃなくて…この場であれは良いのかってことなんだけど…」
クレアの的外れな返答に思わず言葉を崩してしまう真樹。
「はい、ここにいるのはそう言うのをよしとする人達だけなので。それにあの人は特別ですので」
「そうなんだ…」
クレアと話している内に二人の漫才は終わったのか、次は後ろの青年の紹介に写移った。
『うぉほんっ!騒がしくなって申し訳ない。次は、王国最強の剣士であり大戦の英雄、ロズウェル・アドリエだ!』
フーバーの紹介に会場の騎士達が歓声を上げる。
『ご紹介に預かりました。私アリア様の執事をしております、ロズウェル・アドリエと申します。以後、お見知りおきを』
ロズウェルの自己紹介に会場が更に湧き上がる。
『さて、紹介も終わった。諸君、最高の料理を楽しんでくれ!』
フーバーの締めの挨拶によりスピーチは終了となった。
壇上から降りたアリアの元にクレアが向かう。
「お三方にも紹介致しますので着いてきて下さい」
クレアにそう言われ美結達も着いていく。
「アリア、お久しぶり」
クレアに声をかけられアリアが振り向く。
「おおっ、クレア。久し振りだな。元気…に…」
笑顔でクレアに挨拶をしていたアリアが急に驚愕に目を見開く。目線の先は
「え?何?」
桐野美結だ。
見開いた目をクレアに向け、アリアはクレアの肩を掴むとぶんぶん振りながら言った。
「クレア!どうして勇者がいるんだ!!どうして私にそれを教えなかったんだぁー!!教えてくれるって約束したのにぃー!!」
「あ、アリア!揺らさないで下さい!目が回りますわぁああぁぁぁ~」
「アリア様それくらいに」
ロズウェルがアリアを羽交い締めにしてやっとアリアは止まった。
フラフラしているクレアを真樹が支える。
アリアは深呼吸をして落ち着くと、美結に視線を向けた。
「ロズウェル、もう大丈夫だ」
「かしこまりました」
ロズウェルから解放されるとアリアは美結の目の前まで行く。
「え~っと、なんだ……久し振り、美結…」
その瞬間美結は雷に撃たれたような衝撃を受けた。
アリアの姿が、自分の知っている人とダブって見える。
姿や形、声が変わろうとも、この美結を見る優しい目で、纏う雰囲気で美結はアリアが誰なのかを理解した。
会いたかった。ずっと。ずっと。ずっと。
目に涙を溜めるも頑張って笑顔を作る。この世界に来てからこれ以上ないほどの笑顔を作ると美結は言った。
「久し振り!会いたかった!幸助っ!!」
そう言うと美結はアリアに抱きついた。
目を見開く真樹や計達。
だが、そんな事はお構いなしにアリアは言った。
「待たせて悪かったな、美結。もう、大丈夫だ」
次から二章です!
やっと主人公登場です!
次回は多分短くなりますがご容赦を!