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第十一話 行き倒れの理由 

そう言えば、先日40万PVを突破いたしました。


毎度この作品を見てくださってる読者や方々、誠にありがとうございます!


これからも頑張っていきたいと思います!


それと、感想でのご指摘や、ブックマーク、評価などありがとうございます!


大変励みになっております!

「んで、ツバキはなんであんな所で行き倒れてたんだ?さっき旅をしているとか言ってたよな?」


 アリアはユーリの顔をベタベタと触っているツバキにそう問いかけた。


「おお、そうでござった!拙者、旅をしていたのでござるよ!」


「その旅っていうのはお前の格好と、そのバカみたいな大荷物となんか関係あるのか?」


 アリアはツバキの服装と、ツバキの大荷物を順に指差して言う。


 そう、ツバキの格好は王都で、いや、王国の中でも見たことがなかった。まだ若いユーリやイルなんかも先ほどからツバキの格好を疑問に思っている。だが、アリアにはその疑問はない。なにせアリアは見たことがあるのだから。ここに来るずっと前に。


「ツバキが着てるの、着流しだよな?」


「おお!ご存知でござったか!」


 アリアの言ったとおり、ツバキが着ているのは着流しだ。アリアは向こうにいるときに何度か着流しを見たことがあった。だから、着流しに驚くことはなかった。ロズウェルもシスタも見たことがあったのか、驚くような仕草は見せていない。


 アリアがツバキをお昼ご飯に誘ったのも、彼女が着流しを着ているからであった。なぜ着ているのか、どこで売っているのか。それが気になったのだ。


「いや~この格好に気付くとは。アリア様はお目が高いでござるな~」


 そう言いながら、ツバキは大荷物の結び目をほどく。と言うか、大きすぎて分からなかったが、どうやら大荷物を包んでいたのは風呂敷のようだ。


「じゃじゃ~んでござる~!」


 完全に風呂敷の結び目をほどき終わると、ツバキは嬉々として荷物を披露した。


「お、おお~!」


 風呂敷の中を見て、アリアは思わず歓声を上げる。


 だが、それは仕方のないことだろう。風呂敷の中身はアリアのよく知ったものが沢山入っていたのだから。


「これは拙者の商品でござる!」


「これは浴衣!甚平じんべい!かんざしにくしに足袋に下駄!」


「おお!アリア様、これらもご存知でござったか!」


「ああ!それにこれは刀じゃないか!太刀に手裏剣にクナイに長槍って何でこんなに入ってるんだ!?」


 多い多いとは思ったが、これほど入ってるとは流石に思わなかった。ていうか長槍はどう考えても入らないだろう。長槍は見ただけで三メートルはあるのだ。


「むっふっふ~。驚くことも無理ないでござる。この風呂敷は収納の魔法具でござるからな!」


 なるほど、それならばかなり物が入るのも分かる。あれだろう。ロズウェルが前使っていたポーチのようなものだろう。あのポーチも多分魔法具なのだろうから。   


「て言うか、アリア様よくご存じですね」


 そんな感じで、アリアが納得しているとイルが感心したようにアリアに言う。見れば、ユーリもイルと同じような具合であった。


「そうですね。私もアリア様がこれほど知っているとは思いませんでした」


「そうだね~僕らは結構見たことあるけど、一度も見たこと無いアリア様が全部言い当てるなんてね~」


「ああ。故郷に同じ物があったからな~」


 実物は無いが、本やテレビでよく見たことがある。それに、着物であれば美結が夏祭りによく着ていたので見慣れている。


「え?故郷?それって天界のこと?」


「ん?いや、日本じゃ、分かんないか。俗に言う異世界だな」


「へ~異世界か~」


 そこまで会話を続けていると、シスタもアリアの言っていることの異常性に気付いたのか段々と笑顔を真顔に変えていくと、今度は珍しく驚いたように声をあげた。


「「「「い、異世界っ!?」」」」


 どうやら驚いたのはシスタだけでないようで、事情を知ったロズウェル以外も驚きの声を上げた。


「うわっ、びっくりした。いきなり大きな声出すなよな~」


 だがアリアはそんなことは気にもとめずに、ツバキの広げた荷物をいろいろと物色し始める。


「いや、いやいやいや!それどういう事アリア様!?全くもって聞いてないよそんな話は!」


「そ、そうですよアリア様!アリア様は天界からおいでなさったんじゃないんですか?」


「わ、私もそう聞き及びました!」


「そうでござる!異世界から来たなどと言う話なんて聞いたこと無いでござるよ!?クルフト王国でも天界から来たと言い伝えられているでござるよ!」


 四者四様に騒ぐ四人の言葉を軽く受け流すアリア。


「だって言ってないし。聞かれてないし」


「え、いや、でも言っておいてくれた方がこちらとしては有り難いんだけど…」


「じゃあ後で言うから。今はちょっと待っててよ」


 アリアは、ツバキの荷物を物色するのに忙しいのか、シスタの焦った声にも軽く返す。


 シスタも後で話すと言われてしまうと、無理には聞けない。他の者もそうなのか口を噤むしかない。


「…ロズウェルくんはこのこと知ってたのかい?」


 仕方なしと言ったように先ほど驚きを見せなかったロズウェルに訊ねるシスタ。それにロズウェルも軽く返す。


「ええ。アリア様より聞き及んでおりました」


 その事実に、シスタははあと溜め息を吐く。


「ロズウェルくん。そんな大事なことはもっと早く報告してくれないと…これは結構一大事だよ?天界から来ていたと思われていた女神様が、実は異世界人だったなんて…」


 確かに、シスタの言うとおりだろう。皆の既知の事実として昔から語り継がれてきた女神の出生が、実は間違いであったのだ。それは早くに報告して対策を立てねばいけないことだ。


 だが、ロズウェルも話さなかったのではなく、話せなかったのだ。その一番の理由としては、今代のアリアがイレギュラーな存在であったというのがある。


「いえ、女神様の伝承は間違いではないのです」


「え?でも、アリア様は異世界人だって…」


 ロズウェルの言葉に、困惑したようにそう言う。    


「その話もアリア様の興味が満たされればお話しいたします。それまでお待ちください」


 アリアだけではなく、ロズウェルにまで話すから待っていてくれと言われれば、これ以上聞くこともできない。


「そうだね。まあ、話すのであればいいかな」


 そう言ってシスタは椅子の背もたれに体を預ける。


 時間はたっぷりあるのだし、急ぐ必要も無いのだ。なれば、アリアが話すまで待っていればいい。


 イルとユーリもシスタの意見に従い、浮きかけていた腰をおろす。その三人の態度に、ロズウェルは頭を下げる。


「ありがとうございます」


 そう言うとロズウェルは顔を上げツバキの方を見た。


「それと、ツバキ様」


「およ?なんでござろう?」


「この話は他言無用でお願いします」


 ロズウェルは、ここまで聞かれたのであればこれ以上聞かれないようにするのではなく、聞かれたことを他人に話さないことをお願いした方が良いと考えたのだ。


 ツバキはロズウェルのお願いに、良い笑顔で答える。


「それは良いでござるよ。ただ、その代わりと言っては何でござるが拙者の商品をいくつか買っていって欲しいでござるよ」


 その代わりと言われたとき、無理難題をふっかけられるのかとも思ったが、予想と反してツバキの要求は簡単なものであった事に、少なからず安堵する。


「それくらいであればお安いご用でございます」


「むっふっふ~言質はとったでござるよ~?」


 ツバキが怪しい笑顔を浮かべる。その笑顔を見たとき、ロズウェルははやまったかと思ったが、自身の主の姿を見てその考えを改める。


「ふっふふ~ん♪」


 ご機嫌に鼻歌を歌いながら、着物を広げて見比べているアリア。


 彼女は、気に入った物があると脇によけている。そのよけた所にはすでに多くの着物などが積み上げられていた。 


 その様子に、ロズウェルは笑みをこぼしながらツバキに言う。


「どうやら、ツバキ様のそのお願いはあまり意味がなかったみたいですね」


 ツバキもロズウェルの言葉に微笑んで答える。


「そうでござるな~いやはや、これならばもっと考えるべきでござったよ~」


 アリアが興味津々に商品を見比べているのが嬉しいのだろう。とても嬉しそうな顔をしている。


 だが、ロズウェルはその表情の奥にあるものを見抜いた。


「ツバキ様…ありがとうございます」


「んん?なんでござるか~?」


「アリア様が買うことを見越して、条件を提示してくださったことです」


 ロズウェルの言葉に、ツバキはふふっと笑みをこぼす。


「さ~?なんのことでござるかな~?」


 ツバキはとぼけたように頭の後ろで手を組む。その仕草に、ロズウェルもふっと笑みをこぼす。


「ツバキ様も、損な性格をしていますね」


「ふっふ~商人としてはそうでござるが、人としてはこうでいいと思ってるでござるよ」


 ツバキが、ロズウェルのお願いに簡単な条件のみを付けたのは、お願いを無償で受け入れる事で相手が裏があるのではと警戒することを避けるために。簡単な条件を提示することで、相手にお願いを聞いてくれたことと、条件が簡単なことに安心感を与えることが目的であった。


 これは、相手に警戒させないためと、相手を安心させることが目的だ。ツバキは商売をしに旅をしているだけなので、相手の足元を見て無理難題をふっかけることなどする意味はないのだ。


 ツバキのモットーは「清く正しい商売を」だ。それに、商売自体が好きなのだ。商売でもないのに得た大金んぞには興味はないのだ。


 そのこともあり、相手を恐縮させないためにもアリアの様子を知らなかったですませようと思ったのだが、どうやらロズウェルには見抜かれていたらしい。


 だが、それでも下手な演技を続けるツバキ。


「さ~て、何を買ってもらうでござるかな~?」


 ロズウェルもツバキの言葉に笑顔で答える。


「そうですね。高くて良い物を買わせていただきますよ。幸い、お金は山ほどありますから」


 その言葉の通り、アリア一行はこんなにいらないと言うほどフーバーから旅の資金をもらっている。本来であればシスタの魔工義手を買うお金なのだが、"蜘蛛"の討伐依頼の報償にそれも含まれているので、使い道が無くなったのだ。 


 それならば国のために使おうと言ったのだが、前回の騒動での報償金を払っていないと言ってアリアに押し付けたのだ。アリアは、国のために戦うのが使命なので報償金などいらないと言ったのだが、フーバーは決して引かなかった。フーバーとしても、前回のことは自分の采配ミスだと思っているらしく、そのせめてもの償いのようなものなのだろう。


 ロズウェルにそう言われ、アリアもいらないと突き返すことはできなくなった。ただ、その代わり、そのお金の何割かを死んでいった騎士の家族に寄付をした。今回の軍資金はその余ったお金なのだが、それでも多すぎるくらいに残っていたのだ。


「ほほう!それは嬉しいでござるな~。なにぶん、ここに来るまでに行く町行く町ぜ~んぶ拙者を遠くから眺めるだけで一つも買ってくれなかったでござるからな!」


 なははと笑いながらそう言うツバキ。


 今のツバキの格好は、この国では見かけない着流しだ。それに、商品が売れなかったと言うことは、お金を稼げていない。お金を稼げていないと言うことは、宿も取れなかったという事だ。結果、手持ちの賃金を節約するために野宿するしかないのだ。そのため、ツバキの格好はお世辞にも綺麗とは言えないものだった。それが更に客足低下のもとになり、お金を稼げなくなる。お金を稼げないと言うことは節約のため~と、以下悪循環のループである。


 せめて、自身が着ている服装を変えれば幾らか売れたであろうが、その服を買うお金もツバキにはなかったのだろう。


「つまり、行き倒れていた理由は、お金がなくて食べ物を買えなかったからでございますか?」  


「そうでござる!いや~、それゆえに、拙者は大助かりでござるよ~」


「いえ、こちらも、アリア様の退屈しのぎになりましたので助かりました」


「そう言ってくれると嬉しいでござるな~」


 たははと笑いながら頭を掻くツバキ。


「拙者、このご恩は忘れないでござるよ。クルフトに足を運んでくださった際には、いろいろと便宜をはからせてもらうでござる。ゆえに、遊びに来てくれると、拙者嬉しいでござる!」


「ええ。それでは、よろしくお願いします。我々も、アリア様がこちらに慣れた頃に、クルフト王国には足を運ぼうと思っていましたので、ツバキ様が便宜をはかってくださるとなると、とても安心できます」


「およ?ロズウェル殿は疑わないのでござるな。拙者、そんな小汚い格好の奴がなにを言っている、と笑われるかと思ったでござるが」


「そんなことはいたしませんよ。それに、ツバキ様がどう言ったお方かはあの商品を見れば分かります」


「ほほう…さすがはロズウェル殿。鋭いお目をお持ちのようでござるな~」


「いえいえ、それほどでは」


「またまたご謙遜を~」


 楽しげに会話をする二人。


 ロズウェルが商品を見ただけでツバキのおおよその立場を見抜いたのは、その鋭い観察眼と、幼い頃より培った目利きによってだった。


 ツバキの持っている商品はどれも高値で売られるほどの一級品だ。それを、作ったにしろ、ツバキがそれを売るだけの商人にしろ、そんな一級品を持つのはそれほどの実力が見合わなければできることではない。


 作ったのならば、職人としての腕を、売るために取り寄せたのであれば、商人としての信頼と腕を持っているのは間違いないのだ。


 そして、それほどの腕を持つ者は国としても貴重な存在。そんな者が、国の中でそれなりの地位をもっていないわけがないのだ。


 それゆえ、ロズウェルはツバキが言った言葉を笑うこともなく信じたのだ。まあ、人としてできているロズウェルは、ツバキが冗談でそれを言ったとしても笑うことはしなかっただろう。


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