第九話 出発
感想やブックマーク等ありがとうございます!
ミスをご指摘していただいたり、面白いといった感想を貰えて私はとっても嬉しいです!
さて、今回のお話ですが、最近重たい話が続いたなと思いましたので少しだけギャグ要素を入れてみました。
お気に召したのならば幸いです!
アリアは銀色に光り輝く剣を手に取る。その剣は、肉厚な刀身を持った見た目にそぐわず、重たい剣であったが、それ以上の重さをアリアは感じ取った。それは、剣の重みではなく、何か別の重みのようであった。
「それは、初代アリアが使っていた剣だ」
「え?」
「銀の刀身はアリアの銀の髪、鍔についた緋色の魔石はアリアの右目を使って作られている」
「え!?」
フーバーの説明に、思わず剣を取りこぼしそうになる。皆も、少なからず驚愕の色を露わにしている。
「こ、この剣。初代アリアの体の一部から出来てるってことか!?」
「ああ、そうなる」
アリアは驚きを隠せないまま自身が右手に持った剣を眺める。
確かに、刀身はアリアの髪のように滑らかで美しい輝きを放っており、鍔についた緋色の魔石はアリアの目のような覚悟と信念の籠もった色を宿している。いや、覚悟や信念意外にも、多くの感情がその魔石からは感じ取れた。しかも、その感情の全てが今のアリアを上回っており、初代アリアの生きてきた歴史の重さをイヤでも感じ取ることが出来た。
そして、気付く。先ほど持ったとき感じた剣以外の重みは、初代アリアの後世に残るほどの強い思いだったのだと。時を経ても消えることのないその思いが、何なのかはアリアには分からない。それでも、初代アリアのこの思いは誰かのために向けられたものだというのが伝わってくる。その誰かは分からないが、その思いは情熱的でありけれど、なんだか悲しくなるような思いであった。
「この剣から、なんだか、悲しみを感じる」
「…そうか。お前がそう感じるのも、あながち間違いではないのだ」
「どういうことだ?」
「…いや、この話しは後にしよう。それよりも、もうそろそろ出発した方がいいんじゃないか?」
そう言われれば、出発しようとしたところをフーバーに引き留められていたのだと思い出す。
「ん、分かった。それじゃあ後で聞かせてくれればいい」
アリアはそう言いながら剣を木箱の中に戻そうとしたが、それをフーバーに止められた。
「ああ、戻さなくていい。それは代々アリアに受け継がれていたものだ。だからお前が持っていて構わない」
「そうなのか?それなら、もっと早く持ってきてくれてもよかったんじゃないか?」
アリアが王都に来てから、もう四ヶ月も経っている。その間に準備ができなかったのだろうか?
アリアの疑問に、フーバーはあっけからんと答える。
「すまん、忘れてた」
思わずずっこけそうになるアリア。他の面々も苦笑いだ。
「忘れてたって…お前なぁ…」
「仕方あるまい。アリアが王都に来てから何かと忙しかったのだからな」
「む、確かに…」
そう言われれば、アリアが来てから、王都での騒動が本格化してきたのだ。そうなれば、その対処に追われるのは必須で、アリアにばかり意識を割いているわけにもいかないだろう。
「まぁいいか。よし、それじゃあこれは持って行くぞ?」
アリアはそう言うと《停滞の箱》に剣をしまい込む。
「そう言えば、この剣の名前ってあるのか?」
「ん?あ~、少なくとも俺は知らんな~。呼ぶとき不便だから《女神の大剣》って呼んでたりはするけど、それも正式名称ってわけでもないしな~」
「そうか…む~」
名前があるのならそれで呼びたいのだが、分からないなら仕方がない。そう思っていたアリアだが、思わぬところから答えが返ってくる。
「アリア様。その大剣は《憂愁の大剣》と呼ばれております」
「ん?なんだ、知っていたのか?」
「ええ。祖父の日記と、私の家系の"初代"が残した文献にもそう書いておりました」
「ふ~ん、そうなんだ~。《憂愁の大剣》か…」
そう呟くと、地面に入り口を開いた《停滞の箱》に刀身の半分ほどを入れた状態の剣を撫でる。
彼女、初代アリアがどういった心境でそう銘打ったのかは、アリアには分からない。ただ、その名前に、悲しい印象しか受けなかったのは決して名前だけのせいではないのだろうと思う。だが、その印象が、一体何から来ているのか、その答えはアリアの中では見つからなかった。
アリアは《憂愁の大剣》を完全に《停滞の箱》の中にしまう。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
「おう、気をつけてな」
フーバーに見送られながらアリアは馬車へと乗り込む。その後をぞろぞろと皆も乗り込み、最後に御者を勤めるイルが御者台に乗り込んだ。
「それでは、行って参ります」
「イルセントも気をつけてな。決して無茶はするなよ?ユーリにもそのことをきちんと言い含めておいてくれ」
「心得ております」
最後にそれだけ言うと、イルは馬車を静かに動かす。
フーバーに見送られながら、一行は魔工都市・マシナリアへと出発していった。
○ ○ ○
出発して数時間が経過した馬車の中。アリアは馬車の高級なソファーにぐでんと寝ころびお昼寝タイム。ロズウェルはシスタとユーリと旅の指針の再確認をしていた。
「このルートで行くと、大した魔物にも出くわさないと思うけど、一応念のために夜には野営をしておこうか」
「ええ、その方がいいでしょう。防壁の無い都市の外に来たのですから、万が一は常に考えておかなくてはいけませんしね」
「そうですね。野営の歩哨はどうします?」
「アリア様を抜いた四人でやれば良いと思うよ?なんだかんだ言ってもアリア様はまだ子供なわけだし、歩哨の途中で寝ちゃうと思う」
「確かにそうですね」
シスタの苦笑いを浮かべながらの言葉に、ロズウェルが同意する。ユーリも、セリア大森林の調査の時に、お昼ご飯を食べた後のアリアがすごく眠たげにしていたことを覚えているので、こちらも肯定の意を表す。
「そうですね。セリア大森林のときにもーーー」
ーーークウゥゥゥゥ~~~~~。
「ぁ…………………」
言葉の途中でお腹が鳴ってしまったユーリは小さな呟きを残すと、顔を真っ赤にして俯いてしまう。なまじ真面目な顔で意見を出していただけあって、その恥ずかしさは倍増だろう。
そんなユーリの恥ずかしさを理解している二人は、何も言わずに聞かなかったことにしようとする。だが、
「い、今のはな、ななななんの音でしょうねぇ?は、ははは、ははははははっ」
二人の紳士的な配慮にも気づかず、焦ったユーリは空々しく知らない不利を始めてしまう。
ユーリの目は完全に泳いでおり、無理矢理張り付けた笑みも不自然に口角が上がっているので、動揺しているのがバレバレであった。
ともあれ、問いかけられては無視をするわけにもいかないので、ロズウェルとシスタはお互いがどう切り出してもいいように頭の中に即座に無数の言葉を用意する。そして、一瞬の目配せをしてお互いに意志疎通をする。
ーーーーどうしましょう?
ーーーー今回は僕が切り出そう。
ーーーーでは、お願いします。
二人は意志疎通を終わらせると、予定通りシスタから切り出そうとする。が、
「さぁ、なんのーーー」
「も、ももももしかしてお腹の音ですかねぇ!?は、はは。誰かお腹でも空いたんでしょうか?」
ユーリの自爆とも呼べる発言に流石のシスタも固まってしまう。
汗をだらだらかきながら言葉を並べるユーリに、シスタはどうしようか?とロズウェルを見るも、ロズウェルはもうすでに諦めてしまっているのかアリアの頭を優しく撫でていた。
フォローする事を放棄したロズウェルに、シスタは焦りながらアイコンタクトを送る。
ーーーーロズウェルくん!一人では無理だ!助けて!
ーーーーシスタ殿、頑張ってください。応援してます。
ーーーー応援だけじゃなくて援護もして欲しいな!
ーーーー私はもう匙を投げさせていただきました。
ーーーーそう言わずに何とか!見てて可哀想になってくるよ!
シスタにそう言われ、ロズウェルはユーリを見る。つられて、シスタもユーリを見る。
ユーリは、二人の意識が自分に向いていなかったことにも気付かずに、一人目を泳がせながら顔を真っ赤にして身振り手振りを使い言葉を紡いでいた。今もまともな文面になっていない言葉を紡いでいる。
恐らくあれだ。自分をフォローしようとしたら失敗して焦ってまたフォローしようとしたらまた失敗してを連鎖的に繰り返しているのだ。
喋る度にどつぼに嵌まっていくのだ。
ロズウェルはシスタに目線を戻すと小さく首を振る。
ーーーー無理でございます。
ーーーー頑張って!もっと頑張って!
ーーーーいえ、無理です。ユーリさんはもうどつぼにはまっています。それどころか底無し沼にはまっているようにも思えます。
ーーーー大丈夫だよ!きっと君なら彼女を底無し沼から引きずり出せるよ!
ーーーーそうしますと、もれなく羞恥という特典も彼女にぶら下がって付いてくると思うのですが。
ーーーー傷が深くなるよりマシさ!
シスタの視線だけの言葉に、ロズウェルは小さく嘆息する。
ーーーーやるだけやってみます。
ーーーーその意気だよ!
シスタからエールを送られロズウェルはまたもや嘆息しながらも、ユーリに声をかけるべく口を開こうとする。だが、
「ユーリうるさい!」
ペラペラと話しているユーリにお昼寝を邪魔されたアリアが不機嫌丸出しに起き上がりそう言い放った。
それで、ユーリの言葉もピタリと止んだ。そのことに、少なからず安堵をする二人であったが、アリアの言葉はそれだけでは終わらなかった。
「別に良いじゃないか、腹の虫が鳴ったくらい!誰でもお腹が空けば鳴るんだぞ!生理現象なんだぞ!」
アリアの言葉を聞き、ロズウェルとシスタは「あ~あ、言っちゃった」と言った顔を、ユーリは顔を見る見るうちに赤くしていく。まさか寝ているアリアに聞かれているとは思わなかったのだ。
それに、弁明していたところで真実をズバッと言われ、それだけでなくロズウェルとシスタの表情を見て二人が知っていて知らないふりをしていたことにも今更ながらに気づいたのだ。
「んむ。まぁ、もうお昼時だしな。よし、ユーリも腹を空かせていることだし、開けた場所に馬車でも止めてお昼にしようか」
「はうっ!!」
とどめと言わんばかりにそう言い放ったアリアは、御者台に続く窓を意気揚々と開けイルに開けた場所に止まるように話している。
ロズウェルとシスタはいたたまれない気持ちでユーリを見ている。
当のユーリはと言うと、先程のアリアの言葉を聞くと、机の上にでこを押し付けて呻いている。
「うぅぅぅぅぅぅっ…………」
机にでこを押し付けていても分かるほど、顔を真っ赤にしているユーリに、どう言葉をかければいいのか考えていると、ユーリはか細い声で言った。
「お二人も、聞こえてましたか?」
ユーリのその言葉に二人は顔を見合わせて意志疎通をする。
ーーーーこれは正直に言った方がいいのでしょうか?
ーーーー分からない。さっきのはフォローすべきだとは分かったんだけど。この反応の対処法は知らない。
ーーーー…お互い、女性と付き合った経験はありませんからね。
ーーーーむっ。僕はあるよ。一度だけだけどね。
ーーーーそれは初耳です。
ーーーー誰にも言ったこと無いからね。
ーーーーではお任せします。
ーーーー逃がさないよロズウェルくん!彼女は「お二人」と言ったんだ。ともあれ、ここは正直に話した方がいいと思うんだ。彼女もおおよそ気が付いているだろうからね。さあ、同時に答えようじゃないか!
「お二人とも?」
何にも喋らない二人を不審に思ったのか、顔はテーブルに押し付けたままでユーリが再度問うてくる。
それにロズウェルは小さく嘆息しつつも、覚悟を決めた。
「はい、バッチリと聞こえておりました」
「僕は聞こえなかったよ?」
気持ちよいほどの掌返しにロズウェルは驚愕の視線を向ける。
当のシスタはイタズラが成功した子供のような顔をしていた。
「ううっ、ロズウェルさん。気付いてたならフォローしてくださいよぉ…」
「え?い、いや、そのですね?」
珍しく狼狽したような姿勢を見せるロズウェルを楽しそうに眺めるシスタ。
狼狽しながらも、ユーリをどうにか慰めるロズウェル。ロズウェルに慰められながらも顔を上げずにロズウェルの言葉に返事を返すユーリ。そんな二人の後ろでどこでお昼ご飯を食べるか、イルと楽しそうに相談しているロズウェルを渦中へと誘った張本人のアリア。中のことなど知りもせずにアリアと楽しそうに昼食をとる場所を相談しているイル。
それらの光景を面白そうに眺めているが、出発初日でこの騒ぎように、体力持つかなと若干不安に思うシスタであった。
そんなのんきな不安を抱いているシスタと、自身を渦中へと誘ったアリアにはそれぞれ後で小言を言おうと思ったロズウェルだった。




